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マレーシア・ボルネオ・キナバル山
アルプス別所

山行日 2008年9月25日~30日
メンバー (L)別所、(別所(由))

 "菊水の辛口"を沖縄、壷屋焼きの土焼器でぐびーぐびーとやりながら本記を打ちはじめました。バックには1970年代のLPレコード"Vienna Waltzes Best 10"が廻っていて、時々同じところの繰り返し再生を気にしつつ、ほろ酔い加減でいい気持ちです。
 この2ヶ月間、仕事なしで、米子沢、丹沢の小川谷、キナバル山、鑓温泉-清水平-祖母谷温泉の縦走とやり、箱根美術館めぐりと同窓会、そして小田原湯元カントリークラブのゴルフコンペにも参加して過ごしました。
 これが私の思い浮かべていた"黄金の黄昏"なのかなと問うてみると、「おまえがそう思うならそうでしょう」と自分自身に返って来ました。
 10月19日に定年退職記念で家族から贈られた最新版プロトレックの"高度計測メモリー"をどう使えばよいのかという課題はあるものの、「仕事上の問題を頭の隅に抱えつつ寝に就く日常と、それを考えなくて良い今」は"ストレス"が違うと実感する今日この頃であります。
 今回の山行はツアーに組み込まれている登山ということで、先ずリーダーをしなくて良く、又ツアーに伴う重要事項への対応策も妻にまかせて"おまかせ遊山"で臨むことになりました。

9月25日(木)
 成田発マレーシア航空MH81便13時30分発に乗ると、その日の20時にはコタキナバル市内の食堂でマレーシア食を試していました。まあまあ、ビールを飲んだのは私のみ(回教徒はお酒をあまり飲まない・生中一杯300円)食後直ぐキナバル公園(標高1585m)内の宿舎に向かいワゴン車で2時間の登りに入りました。その間に知ったこととして、

 着いた宿舎は高原レゾート・キナバル公園内にあるコテージで、内部は広く清潔であった。

9月26日(金)
 朝7時の迎えを得て、ビュッフェ・スタイルの朝食をとる。そこで今日のランチ(チーズとハムのサンドイッチ、鶏の唐揚、ゆで卵、りんごと水←プラスチックの薄いペットボトル)を受け取る。
 キナバル公園の登山受付事務所(パーク・ヘッドクオーター<PHQ>)にて登山登録(入山料、登山許可料、保険料で約3,500円)をして、山岳ガイドの紹介を受ける。

朝食中のツアーガイドのマットさん(左)とガイド仲間山岳ガイドのマリオさんから今日の行程の説明を受ける

 背は低いがガッチリとした40代の男性である。彼に当方の山荷物の一部11キロを持ってもらう。(1人5キロまでの荷揚げはツアー契約内、それを超すと1キロ・420円/日の追加が掛かる)
 登山口までバスに乗りゲート前の案内版で今日の行程の説明を受ける。本日は6.5kmの距離を標高1563m地点から1410mの高低差で上る。日本アルプスで言えば、高瀬ダムから烏帽子岳に到る"ブナ立尾根"や"富士山五合目から山頂"と同じぐらいで結構きつい登りである。
 登山開始して直ぐ下りがあり、最低部では滝が落ちていた。下りはここだけで、あとは尾根をひたすら登って行くだけであった。ここの登山道はよく整備(使用)されていて、登山靴を水平に置くステップが多く登り易い、又ごみは無く、その代わりと言っては変だが花が多い。途中シャワーに遭い雨具を着けたが、間に合わずいいかげん濡れてしまった。ガイドさんに花の種類と名前を教えてもらう。例えば生姜、コーヒー、石楠花、ラン等の種類を言い次に名前を告げられるが、名は頭の右から左に抜けてゆき、同じ花も直ぐ思い出せなくなるのであるが、同じ種属の花がぜんぜん違った形状と色合いをしているのには驚かされた。
 熱帯密林の登山道は鳥や虫、蛙の鳴き声が聞けて、サルオガセ、蔦、苔類と下草で濃い緑と湿気の漂う環境である。

キナバルエンシス生姜の仲間ウツボカズラ

 そんな道をガイドさんは非常にゆっくりしたペースで登って行く、また約1時間毎に現れるシェルターで休息を取るが、休む時間は我々のペースに合わせてくれる。

低木帯の道ジャングルの中で休憩

 今日のわがパーテーは7時間でラバンラタ小屋に到着した。(通常は5時間のコース)
 小屋ではビュフェスタイルの夕食を食べ、7時にグラグラ揺れる2段ベッドで寝に入った。と言うのは明日の出発は深夜の2時だからである。同じ日本の旅行社のツアーで宮崎県の山岳会の女性3名と同室であった。部屋には8時から12時まで暖房(デロンギ社の油熱式)が入るが毛布1枚では寒い、羽毛服とシュラフカバーは必要と思う。

9月27日(土)
 深夜の1時に起きて支度を始めると、妻が今日のアタックには行かないと言った。睡眠不足と疲れ(2週間前に数十年ぶりの米子沢で体力を消耗し復活してない状態だった)を考慮して断念し、私と山岳ガイドの2名で臨む事にした。軽く食事をし、3時30分気温8℃の暗闇にヘッドランプを点けて登り始める。今日は3.2kmで823mの高低差の往復である。
 なぜ深夜に登り始めるか聞いたところ、「頂上に明け方到着することになり、通常その頃は天気が良く、日の出とともに大観望が得られる可能性高いと」との事だった。又スケジュール的に見ると、登頂してその日にコタキナバル市内に戻ることが出来るのである。(富士山を途中一泊で麓まで往復するようなものである)真っ暗な道をヘッドランプ頼りに登り始めてしばらくすると2、3のパーテーが下って来た。高山病等で登山を断念したのだとガイド同士の情報交換により教えてもらった。ロープを頼ってゴボウで登る箇所から岩場が始まり森林限界を超えた様子だ(風がなく周囲は闇夜で様子が分らなかったが、森の中を登っていない感じである)。1時間ほど登るとゲート(サヤサヤ小屋3,668m)が現れ、登山登録カードを持っているかのチェックを受けた。そこからは径5cmのクレモナ・ロープが山頂まで2.0kmに渡って岩面にボルト付けされていて、トレイルルートとしての案内役を果たしている。山全体が岩なので、風雨、霧そして夜にルートを示す物として、環境も考慮して、ペンキではなくロープを張る方法が採用されたのであろう。そして0.5km毎には立派な道標が立っている。3927mの標識に着いたときは、富士山より高いところに居ることを意識した。途中から傾斜が緩くなり手を着かないで登るが足元は岩盤である。ヘッドランプでロープの先を追うと、一列の光がかなり先まで続いていて、皆黙々と登っている様子である。岩盤は頂上まで続いて傾斜が再び急になると頂上はすぐそこであった。
 6時45分4095m夜明けの山頂に立った。最後の100mは頭がボーとしてきた感じであったが、今は嬉しさでどっかに飛んで行ってしまったようだ。

岩が積み重なった頂上でサウスピークを手下に
標高3,927m地点ロープがトレイル

 混み合う山頂で日の出を迎えた後、その場を離れた。視界が利き始めたのと下り坂なので、明るい気持ちになって岩畳をくだる。
 小屋近くになって、下降を終えてザイルを回収している3名のパーテーに遭った。我がガイドに聞くと、ロッククライミングコースを取ったお客と現地ガイドとのこと1日約10,000円でガイドしてくれるらしい。ゆっくり岩の感触を惜しむように下って、9時に妻の待つラバンラタ小屋に着いた。本日はこの小屋に滞在なので昼寝をしたりして休息を取った。今日もシャワー的な雨が降り、小屋の窓から見る岩斜面の山腹には幾条もの滝が現れ、新鮮な驚きであった。当日山頂を目指したのは50人以上になるが、半数以上が欧米系、30%位がアジア系であとはアフリカ、アラブ系であったと思う。欧米系ではイギリス人が多いとのこと。

2泊した山小屋とキナバル山頂方面 9月28日(日)
 山岳ガイドとツアーガイドに挟まれて一昨日登った道を下る。今日の天気は曇りで山頂方面は何も見えず、足元のウツボカズラやランの花を見ながら下った。途中からマシラウ・トレールに入り、10時過ぎに東屋でサンドイッチとから揚げとりんごの朝食を食べた。

ウツボカズラの大群落ラン

コテージからキナバル山に続く稜線を仰ぐ  この頃になると山も見え始め、キナバル山に続く尾根が岩稜で連なっているのが見えた。その尾根のルートは1週間かかるとの話であった。
 山岳ガイドは風邪を引いて具合が悪そうだ。 昨日寒さ対策としてビニールを防寒服の下に着込んだのだが、汗をかき、そこで脱がなかったので、それで冷えたのが原因らしい。
 到着点近くなって、今日頂上往復してきたアメリカ人に追い抜かれた。頂上では一応景色が見えたと安堵した様子だった。しかしガイドが英語を話さないので、花とか歴史とかの説明が無いことに、首を傾げて不満そうだった。15:40 マシラウ登山口のゲートをくぐる、本山行の終わりである遅い昼食を取り、登頂証明書を受領し登山ガイドと別れた。そのとき私の登山靴をガイドに渡した。(穴の開いた運動靴を履いていたのと、サイズが合いそうだったので)後で聞くと、ガイドは靴がドイツのローバー社製ということも知っていて、とても喜んでいたとのことである。今晩の泊りは、マシラウ・ネーチャー・リゾート内にある別荘風のコテージでホテル仕様になっており満足のゆくものであった。

9月29日(月)
 第二次大戦中、日本軍が開発した、ポーリン温泉に入り、世界一大きい花"ラフレシア"を見て、現地の村料理を食べ、夜中の便で帰国の途に着いた。
 以上、この原稿を書き終わったのが12月初旬で、佐世保にて仕事をしています。はたして"黄金の黄昏"の状態にいるのか、よう解かりません。中断しているとも思えるし、時々仕事をしていることが"黄金の黄昏"を充実させているとも言えます。
 まあそんなに煮詰めないでやっては行くのですけど。今後どんな山行をいつ(何歳)までできるのかと思うこの頃です。

1人30RM(約900円)でラフレシアに案内してもらう

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