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菰釣山
峯川 正行

山行日 2008年12月6日~7日
メンバー (L)峯川、道祖土、前野、石川、森田(純)

 まずは、見えない素晴らしき何かを差し伸べてくれた西丹沢に感謝をしなければいけない。
 西丹沢・・・。私は以前、それほど気にすることもなく、「丹沢の西」というイメージしかなかったのです。昨年の4月にアッコさんや成田さんと旧東海自然歩道を巡った時に西丹沢の怪しい魅惑の香りを感じ取りました。たぶんあの山域には何かがあるのでは・・・。
 この山域は入るべき時期があります。丹沢といえばヒルですが、この西丹沢での一番怖いものは小さな傭兵であるマダニなのです。感染症というヒルより恐ろしい顛末がまっているので、活動が鈍い冬季しか西丹沢の藪には潜れません。ひとまず、西丹沢初心者ということで、かつては核となっていた地蔵平を始点にしなければ、この山域に申し訳ないと思い、ルートを思案致しました。
 6日の土曜日は素晴らしい快晴。新松田で皆さんを待つ時間もわくわくしてしまいます。いつものごとく、8時12分発の御殿場線に乗り、谷峨に降りると、またいつもの中川ハイヤーさんのジャンボタクシーが待機しております。いろいろと情報を聴いているうちにあっという間に細川橋です。運賃は4430円であり、バスでちんたら来るのとほぼ変わらない料金です。タクシーだとバスより30分早くスタートできます。でもこの30分が最終的には大事な時間となりました。
 細川橋からまずは植林帯を抜けて二本杉峠に向かいます。通常ならば浅瀬ゲートから林道2時間歩行の方が楽でいいのですが、それではなんとも味気ないので、かつての生活路である二本杉峠の道筋を選びました。本日は避難小屋泊ですが、「満席」の可能性もあるので、一応3人用テントを前野さんに持参して頂き、他にもツェルトも持参です。1時間ほどして二本杉峠で見慣れたベンチが見えました。4月のミツマタ山行以来です。しばし息を整えて、ここから少し気を引き締めていきます。武田軍が北条征伐の際に通ったといわれ、また地蔵平の人々も生活路として使用したサカセ古道で地蔵平に向かいます。水平路の宿命で現在は沢沿いで崩壊が進み廃道状態です。二本杉峠から少し先に行ったところが旧二本杉峠で、サカセ古道への指導標も小さくありましたが、丸木でとおせんぼしていました。3月に偵察に来ていたのでだいたいの状況はわかっていましたが、今年の大雨でまた崩壊が進んだかもしれません。厭らしい沢沿いの崩壊箇所は3ヶ所あり、最初の部分は細い丸太が二本危なげにかけてあり、その丸太とホールドをうまく使えば問題なく上がれますが、何せ荷物が少し重いので、よっこらしょ状態でした。一応、お助け紐も出してみんなで頑張って乗っ越します。他の2ヶ所はザレているので、高巻くか一旦下がって登り返すという手段で問題なく通れます。それ以外は道型になっているので普通に歩けます。
サカセ古道の崩壊部分を慎重に進む  高度はそれほど落としませんが、左側からは大又沢の沢音が聞こえ始め、もうすぐ地蔵平が近いことがわかります。予定していた時間より少し時間がかかりましたが11時半前に地蔵平に降り立ちました。私は2回目ですが、林道入口左側の植林帯の中に、慰霊碑があるのには気づきませんでした。前野さんのご指摘でわかったのですが、大正9年の大雨と関東大震災による山津波(ビャク)によりこの地蔵平の大又集落は全滅したそうです。それでも復興をし、昭和初期まで営みがあったのです。地蔵堂にも男子ですが安産祈願のお参りをしてきました。いつも綺麗に手入れがされています。カエルの帽子が可愛らしいです!
 春のような陽気の中、地蔵平の荒野でお昼休憩です。城ヶ尾峠への取付の徒渉点の河原で1人2リットルの水を採取しました。5人で10リットル上げれば明日の行動水も含めて問題ない計算です。地蔵平の奥に人影があり、禁漁時期なので釣り師ではないと思っていたのですが、お話しすると初めてここに訪れたようで、双眼鏡を持っていたのでバードウォッチングでしょうか。
静かに佇む地蔵堂  今日、私らが歩くルートを話すと少し驚いていましたが、優しい方でこんな静かな山域が気に入ったのではと。かつて浅瀬からここまで森林軌道が延び、貯木場であり、また集落もあった地蔵平。パンを齧りながら昔の光景を思い浮かべてしまいました。でも以前の地蔵平と少し違います。広場の端に、ビニールシートが四畳半程敷かれ、横に消火器が置かれ、ススも刈り払いがされ何かここで爆薬をつかった特撮でもするのではと思ってしまいました。私の年齢では宇宙刑事ギャバンの戦闘シーンをこの地蔵平にあてはめてしまいます。
かつて人々が謳歌した地蔵平  ここからが藪漕ぎなので目を突かれないようにビニール製ゴーグル(ビバホームにて購入)を首からかけ、林道に向かいます。取付場所までしばらく林道を歩きますが、この道はかつての生活路としてあった織戸峠方面に向かいます。今年の冬にでも偵察もかねて林道を最後まで歩いてみたいです。30分ほど歩き、林道分岐場所が菰釣山南東尾根(ミキリ尾根)の取付です。入口はそれっぽいのですが、かなりの斜面の法面部分を無理やり取り付きます。少し頑張れば落ち着いた植林帯の登りとなり、しばらく歩くと823m点となります。ここで方向を北西に変えます。右側が植林、左側は自然林でブナも目に入り始めます。その先は少しずつススタケが煩くなってきますのでゴーグルを装着するのは当然なのですが、例のマダニを気にしなければなりません。少しでも藪漕ぎをした後はすぐに服のチェックに入ります。特に私がトップを歩いていたのでマダニがかなり付いてきました。最初はかなり大きくて本当にマダニなのか疑問に思うほどでした。見つける度に猫ピンでさようなら~します。よーく動きをみると鈍いのでやはり寒い時がいいのでしょうか。
これが恐るべし小さな傭兵マダニ?!  そんなマダニのことばかり考えていると1000m圏の尾根が分かれるところにあっという間に到着です。とてもブナが綺麗な所なのでしばし休憩です。ここから東方面に伸びている尾根でも地蔵平にはたどり着けそうです。
 藪はここまではそれほど密ではなかったので、この先もこんなものかなあと思っていたのですが、侮るなかれです。しっかり藪が被ってマダニ宝庫のエリアでした。また倒木が多く、乗り越えるのにかなり手間がかかります。
マダニさえいなければ楽しい藪こぎ・・・  それでもブナの大木がわれわれを出迎えているような感じでとても気持ちがよかったです。天気も無風快晴でこれまた最高。西丹沢にはまだこんなにブナ様がいるのですね!塔ノ岳付近も昔はこんなにブナがあったのでしょうか。菰釣山が近づいてくると東側の肩に小屋らしき姿が見えます。あともう少し頑張れば快適な小屋に着きます。菰釣山までは忠実に尾根をたどれば問題ないのですが、山頂近くでトラバースの道があったのでそちらに進み、早く尾根に戻ればよかったのですが、獣道に導かれそのまま猛烈な藪に突入してしまいました。戻るのも面白くないので藪漕ぎの練習というとで無理やり突っ込んでいきました。数十分格闘して尾根筋に戻りましたが、皆さんすみませんでした。
ブナ達が優しく出迎えてくれます  でも会津の藪はもっと凄いはずです。かなり日が落ちてきましたが、登り始めて3時間で一般ルートの甲相国境稜線飛び出ました。すぐに菰釣山山頂です。まさしく菰釣山へのダイレクトな尾根でした。この山頂は富士山が綺麗なのですが、残念ながら逆光で見えずじまい。道祖土さんは年賀状に富士山を撮りたいとのことだったのですが、これでは駄目です!それでも、石川さんのビールをみんなで飲みまわし最高の味でした。富士山はまた明日に取っておきましょう!まもなく日が暮れそうで、やはり細川橋までタクシーで30分稼いでよかったのでした。
 そこからまた東方面に下り、菰釣山の肩にある避難小屋になだれ込みました。先客が2名いらっしゃいましたが、念のための持参したテントは外に張らずに済みそうでした。それにしても新しい快適な小屋です!水場がないのは玉に瑕ですが、それほど人が訪れない要因にもなっていいかもしれません。
 この小屋で一番気に入ったのは扉のスムーズさです。素晴らしい樹脂のコロを使っているようで指一本で動き、自動で閉まるのです!なぜ閉まるのか暫く検証していたのですがわかりませんでした。小屋ではまずは持参した網でサラミやウィンナーやかわはぎなどを焼いておつまみタイムです。これがあるから泊まり山行はいいですね。白米が炊きあがる頃には外はすっかり真っ暗になってしまいました。
快適な小屋で楽しく宴会です!  翌日は4時半起床6時発です。最近このパターンが多いです。今日も天気は素晴らしいようです。昨日下った道を登り返していきますが、朝焼けの富士山がどれほど綺麗なのかが楽しみで足取りも軽いです。山頂では昨日の分もお釣りがくるほど素晴らしい富士山が待っておりました。道祖土さんが珍しくカメラで写真を撮っています。朝焼けに当たる富士山は年賀状にぴったりではないですか!道祖土さんはどうも年賀状用の富士山を撮影するためにこの山行に参加したのでは?
 菰釣山という山名はなんとも印象に残る名前なのですが、由来は色々あるようで、茣蓙のようなものである菰を甲相国境稜線の目印としてこの山頂に釣ったというものがあり、私的に気に入りました。かつて武田軍と北条軍がこの西丹沢を舞台に国取合戦をした際の名残なのでしょうか。これについては来年2月の山行予定の椿丸界隈の山神様における国境稜線紛争において記載できればと思っております。
菰釣山にて記念撮影  今日は甲相国境稜線のまったりハイクです。でも、目的がなく歩くのはつまらないので、別のルートや水ノ木側に下降するルートがないか最後尾でキョロキョロしておりました。
 ブナの丸には道志側から立派な道が付いていました。エアリアをみるとその先には前ノ岳という前野さんが絶対に登らなければならない山がありますが、赤線などは引かれていません。どんなルートか楽しみだったのですが、家に帰って4年前くらいの丹沢エアリアを見てみると、そのルートは赤線でした!問題なく歩けるようです。この稜線で気づいたことは送電線が多いということ。原発事故があった新潟県柏崎刈羽原発に繋がっている西群馬幹線と佐久間東幹線2本があるのですが、鉄塔巡視路が非常に立派な道でそちらに導かれてしまいそうな場面もありました。でも、この巡視路をうまく使えば水ノ木側へ下降できるルートにつながることが出来るようです。それにしても、先週、飯塚さんの山行で登った御正体山がどっしりとして存在感があります。このルートは山岳信仰の対象になる山が、富士山とこの御正体山と2つあり、なんとも御利益があるようなコースに思えます。
 石保土山には三角点もあり展望もいいので富士山を見ながらゆっくり休憩です。しばらく進むと水ノ木分岐で椅子があり、朽ちた東海自然歩道の全体図の看板がありました。昔は表示の文字はすべて彫って塗っていて、なんとも手が込んでいます。朽ちた看板の左に水ノ木分岐として指導標がありました。ここが西丸、東丸の分岐となります。近いうちにこのルートで水ノ木に降りてみたいです。また、東丸への尾根通しのルートの他に、金山沢の源頭部に降り立てる古道もあるようです。
役割を終えた東海自然歩道の案内図  分岐を右に進み一気に下降すると山伏峠分岐でその先にはあの御正体山があります。山伏峠には廃墟のホテルがあるはずです。以前、通りすがりの際に奥の体育館をのぞいたのですが怖かったです!  その先には鎖場がありますが気にすることもなく高指山を目指します。そして富士岬平ではなんとも素晴らしい景色が待っておりました。雪が被った富士と山中湖と真っ青な空に圧倒されました。もちろん皆さんと記念撮影です。
最高の富士山展望場所(富士岬平にて)  その先のバラシマ峠は面白い名前であり、水ノ木方面に薄く道がついているので、家に帰ってから調べてみると、ここも水ノ木に至る古道(バラシマ林道)のようで、かなり荒廃しているようです。高指山も富士山が綺麗に見えます。ここから平野にも下れるのですが、切通峠にどうしても行きたかったです。切通峠はたいした看板などもなく、静かな佇まいでした。世附側の水ノ木に向かうルートを確認するべく1人ですたすた進んでみたのですが、しばらくトラバースする感じで林道につながっているようです。かつて平野の人々も馬に炭や木材を乗せて歩いたのでしょう。蛇足ですが、駄賃というのは、馬で炭や木材を運んで得た輸送料金のことで、「お駄賃ちょうだい」というにはかなりの重労働をしなくてはいけないのです。それにしても、この切通峠付近はとても落ち着いたルートで気持ちがいいのですが、このエリアを境に山容が全く違うのです。山中湖側はだらーっとしていて、西丹沢側(世附側)は複雑な山容です。推測ですが、この付近まで富士山の噴火の溶岩が迫り、それが稜線になり、世附側はそのままであったのではと。かつて平野と水ノ木を行き来した人々もそんな地形の変化について考えたのでしょうか。
 平野への下降はあっけないものでした!数分でテニスコートが見えてきました。切通峠とはよくいった名前ですが、人が行き来するためにまさか、山を切り通しにしたのではというくらい、すぐに登れてしまいます。
 平野から今日見飽きた富士山をじっくり眺めながら石割の湯に向けて歩きますが、最短距離でうまく向かうことができました。石割の湯(700円)では帰りのバスを気にしながらでゆっくりできなかったのですが、皆さんと祝杯をあげました。
 平野からのバスでは山中湖をみている内に車中の人になってしまいました。富士吉田駅から先週に引き続き富士急に乗りますが、やはり運賃が高いですね!
 今回は西丹沢への挨拶代わりという感じの山行となりましたが、西丹沢の魅力をさらに感じてしまったような気がします。この山域には明らかにまだ見えていない素晴らしいものがあると思います。冬のシーズンはしばしこのエリアに出没するかもしれません。

〈コースタイム〉
12月6日 快晴 谷峨(08:26) → 細川橋(08:50) → 二本杉峠(10:00~10) → 地蔵平(11:30~12:10) → 菰釣山南東尾根取付(12:40) → 823m点(13:05) → 1000m圏(13:45~55) → 甲相国境稜線(15:30) → 菰釣山(15:40~50) → 避難小屋(16:10)
12月7日 快晴 避難小屋(06:10) → 菰釣山(06:35~45) → ブナノ丸(07:05) → 油沢ノ頭(07:30) → 樅ノ木沢の頭(07:53) → 西沢ノ頭(08:15) → 石保土山(08:40~09:00) → 水ノ木分岐(09:15) → 山伏峠分岐(09:30) → 富士岬平(10:10~20) → バラシマ峠(10:25) → 高指山(10:30) → 切通峠(11:10~20) → 石割の湯(12:00~13:10) → 平野バス停(13:30)

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