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探鳥ハイク・奥日光
服部 寛之

山行日 2008年11月22日~23日
メンバー (L)服部、山沢、内山(22日のみ)

 勝部氏ことカッちゃんが委員長のときだったと思うが、会として一年を通して北岳に通ったことがあった。同じ山に登るのでも季節によって表情も味わいもまったく違うことを知った。花が好きな人もまた、時期を違えて同じ山に登ることがよくあると聞く。花の植生に適した環境にはさまざまな植物が暮らしていて交代で花を咲かせるからですね。
 鳥も同様で、棲みやすいところには季節ごとにいろいろな鳥がやってくる。なので、そういうところでは一年を通していろいろな鳥が見られるわけだ。「渡り鳥」という言葉は誰でも知っているだろうが、鳥の中には季節の定期便よろしくあっちに行ったりこっちに行ったりしているのがいて、ある土地から見てそこで春から夏にかけて暮らしている鳥を夏鳥、秋から冬にかけている鳥を冬鳥と便宜上呼んでいる。また帰宅途中のおとうさん(OLでもいいけど)が馴染みの店に立ち寄っていくように繁殖地や越冬地へ渡ってゆく途中ちょっと寄って羽を休めたり餌をつまんだりしていくだけの鳥もいて、そういうのは旅鳥と呼んでいる。渡り鳥というのはどちらかといえば国境を越えて遠距離を行き来している鳥たちについて言うが、ちんまりと国内で季節ごとに南北に移動したり標高の高いところと低い土地を往き来している種類なんかは漂鳥と呼んでいる。またその土地に一年中棲んでいる種類ももちろんいて、そういうのは留鳥と呼んでいる。ま、そういう呼び方は人間が勝手に生態的に分類して付けたもので、鳥たちにしてみればそれぞれの都合に合わせて暮らしやすいところで暮らしているだけのことであって知ったこっちゃないのだけれど・・・。
 実は、奥日光での探鳥ハイクの例会は2回目だ。前回は2005年の6月だったのでもう3年半も前のことになる(岩つばめNo.318)。そのとき初めて戦場ヶ原から西ノ湖(さいのこ)、千手ヶ浜(せんじゅがはま)一帯を歩きまわって、ここには湿原、草原、森、川、湖など鳥が好きそうな多様な環境がコンパクトにまとまっていることに気が付いた。その中を貫く道路(日光市道1002号線)はタクシー・一般車とも通行禁止で静かなうえにハイカー向けの足として低公害バスが運行されている。首都圏からのアクセスも良いし、周辺にはキャンプ場、駐車場、それに冬でも使える公衆トイレ(しかも水洗!)など何かと便利なインフラも整備されている。ということから、ここで季節を変えて探鳥ハイクをやればいろいろな環境を好むさまざまな鳥が見られて季節変化も分かっておもしろそうだと思ったことから今回の探鳥ハイクを企画したわけです。前回は6月で夏鳥だったので今回は冬鳥をということで11月にしたのだけど、日取りがちょっと遅すぎちゃいました。というのは・・・。

22日(土) 晴天
 朝07:00にJR大崎駅前に集合して拙車で行く。山沢さん内山さん共に朝から口はチョー快調。芝浦入口から高速に乗って東北道、日光宇都宮道路経由でいろは坂を登ってゆくと、ぬぁんと、途中から雪が薄く積もっているではないか!昨夜から早朝にかけて降ったらしい。スタッドレスに履き替えておいて良かった(^J^)と思う反面、この雪で鳥は下に降りてしまったかもしれないと不安がよぎる(?_?)。10時少し過ぎに戦場ヶ原の赤沼駐車場に着いて間もなく、千手ヶ浜行きの低公害バスが出るというのでそれに飛び乗る。20人程いた乗客は皆途中でいなくなり終点で降りたのはうちらだけだった。周囲はうっすら雪化粧。よせばいいのに内山さんは道路脇の吹き溜りに踏み込んでさっそく側溝に落ちる。5分ほどで中禅寺湖畔に出た。風はちょいと強いが波は静か。大きな湖面の向こうにどっしりとした男体山が青空に映えてうつくしい。
中禅寺湖西岸、千手ヶ浜より男体山を仰ぐ UFOが出そうな晴天だった  見渡すと100mほど離れた湖岸の岩の上にカワガラス(留鳥)がいた。これまでカワガラスは川や沢でしか見たことがなく湖で見るのは初めてだ。しばらく見ているとだんだん近づいてきてすぐ近くの浅いところで泳ぎながら潜水ガモ(潜って採餌する種類の鴨ですね)のように盛んにダイビングを繰り返していた。湖底の水棲昆虫を食べているのだろうが、沖合に行かないところをみるとあまり深くは潜れないのかも知れない。浜の少し離れたところで数人のグループが望遠鏡を構えていたのでそっちへ行ってみる。来る前に日光自然博物館のホームページに22日探鳥会開催の案内があってオジロワシ(冬鳥)が出るかもしれないと書いてあったが、案の定その人たちだった。(ちなみに、鳥見の世界では鳥をみつけると「○○が出た」と言う。なぜかオバケと一緒。(^^)v)聞くとオオワシ(冬鳥)は出たがオジロワシはまだとのことだった。うちらもオジロワシのお出ましを期待して少し待ってみたが、風に吹かれて寒くなったので森の中へ退散することにした。
 森の中に入ると風は治まる。ここから2kmほど西にある西ノ湖まで高い木々を縫って森のなかのプロムナードが続いている。多くは樹高20m近くありそうだが、葉を落とした枝を透かして青い空が見える。そこを突然大きな影がよぎった。「出たっ!」オジロワシか?いや、オオワシだ! 2mを超える翼を広げて悠々と旋回している。純白の翼前部と尾羽が青空に映えてうつくしい。めったにお目にかかれない鳥だけにみんな大コーフン。
楽しい森のプロムナード、千手の森歩道  その先でコンコンコンコン木をつつく音が聞こえてきた。30m前方の木の幹の中ほどに内山さんが目敏く見つける。30cmほどの緑っぽい鳥が上の方へ移動している。望遠鏡で捉えるとアオゲラ(留鳥)だ。この鳥はあちこちでよく見られる鳥だが、日本の特産種です。ここの森は大型のキツツキが営巣できそうな太い大きな木が多く、注意深く見ているとキツツキによるものと思われる丸い穴が散見される。アカゲラ(留鳥)が居てもよさそうだが、最後まで姿は見えなかった。
 西ノ湖に出る100mほど手前でカラ類に出会った。カラ類というのは言葉ではちょっと説明しづらいが、オカラではない。カラキジのカラとも、カラアゲのカラとも違う。カラが付いてもカラスはカラ類ではない。同じ「出る」にしてもからかさ一本足(歌舞伎・闇梅百物語)の仲間でもない。要するに、見れば分かるのだが、この日出会ったのは、コガラ、シジュウカラ、ゴジュウカラ、それにエナガであった(全て留鳥)。3~5mの高さの低木から低木へと移りながら忙しく種をついばんでいた。正確に言えばゴジュウカラとエナガはカラ類ではないが、これら種類は(他の数種とともに)昔ながらの隣組の伝統を引き継ぎ?、秋冬には協力体制を敷いて混群をつくる。葉が落ちて敵の目にさらされやすい季節、目の数を多くして襲撃に備える作戦だと云われている。だからこの季節は一緒にいることが多いのだ。
 西ノ湖の北岸に出る。小さな湖面が迫りくる緑を押し返すように青空と向かい合っている。前回来たときより水が引いて、そのぶん広がった岸辺の雪原が目に眩しい。凍てついた浅瀬のなかを対岸の森へとつづく誰かの足跡が一筋。誰もおらず、鳥の姿もない。森の縁の切り株に座って行動食を口にするが、三脚をも押し倒す風の勢いに森の中へ追い返された。
 再び森の道へ戻って間もなく、またしても上空を旋回する大きな影を発見!出たかオジロワシ!だが生憎ここは樹冠の枝が混んでほとんど見えない。しかも遠い。結局正体は確認できなかったが、後で内山さんが仕入れた情報によるとどうやらオジロワシだったようだ。
 さて、このとき既に時計は14時を回っており、日帰りの内山さんのバスの心配もあるので、赤沼行きの低公害バスをつかまえて石楠花橋まで戻ることにする。西ノ湖入口のバス停で他の2パーティー4人とともにバスに乗り込むと、いったいどこにこれだけの人がいたんだと思うくらい混んでいた。
清冽な湯川の流れ、雪ですべてが浄化されたよう  石楠花橋で降りたのはうちらだけ。ここでバス道路と湯川が交差している。橋の袂から湯川沿いに歩道がついており、流れに沿って下流へ(南へ)10分も行くと川は竜頭の滝となって中禅寺湖へそそぐが、ここは上流側戦場ヶ原方面へ向かう。透明な湯川の流れを左に見てすすむ。雪で森の木々のみならず空気までもが清められたような清冽な小川の風景。やがて次の分岐点まで来ると、そこにかかる橋の向うに数組のマガモの番が浮いていた。マガモの雄はこの時期頭部が光線の具合によって緑色とも紫色とも見え、くちばしの黄色とマッチしてとてもきれいだ。しばらく前から戦場ヶ原で一部のマガモが繁殖するようになったと何かで読んだことを思い出す。今でも渡ってくるマガモも勿論いるのだろうが、このコたちはどうなのだろう。
 その少し先の分岐で、今度はアトリとツグミに出会った。そこは戦場ヶ原の湿原への入口で、その周辺にはズミが群生しているのだ。鳥たちはそのズミの実をせっせと摂取していた。アトリはパッと見、胸の橙色と翼の黒が目立つ。スズメより一回り大きい。冬鳥で、群れで移動する。群れる、つまり集まる鳥というところからアトリと名付けられたそうで、古事記にもその名で出てくるとか。安土桃山以降はアットリとも呼ばれたそうで、わたくしとしてはその名の方に親しみが湧くが、現在ではアトリが統一和名である。ツグミは冬鳥の代表格のような鳥で、平地の畑や河原や公園の芝地などでもよく見かけるので知っている人も多いだろう。地上では立ち止まっては胸を張って頭を高く上げる独特のポーズをするのですぐ分かる。白い眉と胸のまだら模様がチャームポイントだ。
 そこからほんの3~4分で赤沼の駐車場に帰りついた。時刻は16時頃で、それから間もなく東京へ帰る内山さんを赤沼バス停で見送ったあと、今夜のねぐら探しに近くの戦場ヶ原キャンプ場に行ってみたが、案の定閉鎖されていた。奥日光にはせっかく冬も手軽にアウトドアライフが楽しめる環境がそろっているのに、キャンプ場を閉めてしまってキャンパーを受け入れないというのはすごくもったいない気がする。結局その夜はちょっと奥まった光徳駐車場で車中泊することにした。ここには冬でも使える水洗トイレが整備されている。その夜の星空の見事だったこと。

23日(日) 晴れ、昼から曇り
 翌朝もよく晴れた。やや風が強い。薄明るくなってから赤沼の駐車場に移動。昨日アトリとツグミを見たところから戦場ヶ原の湿原に入る。左手の湯川に沿って木道がついている。氷化した昨日の雪で足元が滑るのではないかと危惧したがそうでもなかった。透明な流れには睦まじく遊ぶマガモの番が3組。
 周囲の木立が切れると冬枯れの湿原の風景が広がった。吹きわたる清澄な風。透明な大気。右手から大真名子、小真名子、太郎山、そして山王帽子山がくっきりと並んでいる。清らかな冬の風景の中にいると心も体も洗われるようだ。
透徹した大気が支配する冬枯れの戦場ヶ原  湿原のあちこちに突き出している灌木の枝に鳥の姿を探すが、どれも疾風に大きく揺れて、鳥の出現は期待できそうになかった。だが、その少し先で、木道脇の灌木から鳥の声が聞こえてきた。そっと近寄るとツグミの小群だ。しばらくじっとその声に耳を傾ける。ツグミのおしゃべりを聴くのは初めてだ。何と言っているのか是非知りたいところだが、鳥語は英語より難しい。ツグミはかつて霞網で大量に捕えられヤキトリにされてしまった暗い過去を持つが、おしゃべりは明るかった。一説にこの鳥の名は"噤み"(つぐみ)、即ち夏至を過ぎると口をつぐんだように鳴かなくなることに由来するという。そう聞くとこの名をつけたくなる顔がいくつか思い浮かぶのは決して筆者だけではないだろう。
 青木橋で湯川を渡る。ここにはピクニックテーブルが幾つかしつらえてあり、先ほど追い越して行った4人家族が楽しそうにお弁当を広げていた。お姉ちゃんも弟もまだ小学生だ。ここから木道は上りとなり、右手に湯川が蛇行する湿原の景色を俯瞰しながらゆるゆると森の中へ入ってゆく。葉が落ちた見通しのよい森には大きな樹が目立つ。ここで思いがけず外人の単独ハイカーとすれ違った。20代半ばの女の子で山屋のザックを背負っている。声をかけようかと思ったが、結構な美形にハッ!としてる間にスタスタ行ってしまった。いったいオレは何のために英語を習ったのかっ!とジクジたる思いで見送る。早朝は熊に出遭いやすいと国道脇の看板にあったが、美形の異邦人に出遭うとは思ってもみなかった。ミシュランとやらに奥日光のハイキングコースも載っているのかも知らんが、そういうのに載ると見知ュラン外人に遭遇する機会も多くなるのだ。
 その先の小田代ヶ原への分岐で鳥の声がしたのでしばらく姿を追うが成果なし。諦めてその少し先の泉門池まで足を延ばす。ここは文字通り水が湧いている池で、前回来たときはマガモファミリーがいた。が、今日はお留守のよう。池のほとりのテーブルで小休止していると、近くの枝にゴジュウカラが一羽来た。下から見上げると脇腹の橙色がきれいだ。普通より橙色の鮮やかな個体だった。
 先ほどの分岐まで戻り、小田代ヶ原へ向かう。ほどなくドラミングが聞こえてきた。見ると30m先の大きな木の中ほどに一羽のアオゲラがいる。この鳥は繁殖期を除いて一羽でいることが多い。ここは望遠鏡でじっくり観察。赤い帽子が鮮やかだ。アオゲラの雄と雌は赤い帽子で見分ける。額から後頭部まで全て赤いのが雄、後頭部だけ赤いのが雌だ。ここのは雌だった。アオゲラを見る度に思うのだが、灰緑色の背に灰色の顔それに赤いキャップという配色バランスはなかなかシックで趣味が良い。
小田代ヶ原より男体山  森を抜けると小田代ヶ原で、木道は左側に湿原の風景を見せながら林縁に沿ってつづいている。ここは戦場ヶ原よりも乾燥化が進んでいるらしく、湿原の中に木立が広がっている。その向うには男体山が大きい。残念ながら鳥の声は聞こえなくなってしまったが、すがすがしい風景を独占できるのは気分が良い。ここで会ったのは湿原の中ほどですれ違った4~5人の中高年グループ1組だけだった。
 小田代原のバス停で低公害バスをつかまえ、昨日と同じく石楠花橋で降りる。昨日とは反対に湯川に沿って竜頭の滝方面へ行く。途中河原に下りられるようになっているところでカワガラスを発見。盛んに冷たい瀬の中に飛び込んでエサを採っている。長いと30~40秒姿が消える。見ているこっちの方が寒くなってくるが、羽衣(うい。全身を覆う羽のこと)はバッチリ水をはじいて防水は完璧だ。
 竜頭の滝に出ると途端に観光客だらけになった。意外にも山沢さんは竜頭の滝初体験という。滝沿いに下から上がってくる人間をかわしながら階段を下りてゆくと、中にはうちらを奇異な目で見遣る奴らもいてムッとする。「なんだその格好、山屋なのか鳥屋なのかハッキリせー」と眼が言っている。確かに見た目判別はむずかしかろうが、山屋ベースの鳥屋なんだからこれでいいのだ。悪いかバーロー!
 滝からは川沿いに中禅寺湖にでる道はないので適当に近くの道をくだって行く。すると向こうから高そうな着物を召した老夫人とこれまた高そうな黒い毛皮のコートを羽織った中年婦人としつこいようだけどこれまた高そうな白い服に身をつつんだその娘らしきお嬢さまのいかにも上流階級でございますのよ風な3人組がやってきた。うちらとはかなり劇的に対照的な身なり!すれ違いながら、ここで場違いなのはどっちなのかとこの先の展開に一抹の不安。間もなく行きついたのはプリンスホテルの玄関で、かんぽの宿慣れした目にはじゅうぶん高級そうに映る。やや気後れするもただちに立ち直り建物の脇からゴーインに庭を抜けて浜に出る。ゴーインマイウェイでそのままホテルの専用桟橋におじゃまする。強風下白いプレジャーボートが一隻波にあおられて揺れている。沖合に鳥影が見えたので桟橋の先端に望遠鏡を立てるとオオバンの群れだった。オオバンは全身真っ黒で嘴から額の部分だけが白く眼は真赤。雌雄同色。望遠鏡で見る顔はちょっと怖い。この姿で人間だとギョッとするが鳥なので許せる。淡水だけでなく海にも居る。関東では留鳥もいるし冬鳥としてやって来るのもいるようだ。名前は似ているが大判焼きとは関係ない。念のため。「バン」はクイナ科のバンの意で、そのバンより一回り大きいのでオオバンだ。良く見るとオオバンの近くに別種の鳥もいる。体は少し小さく、波間に激しく浮き沈みしている姿は灰色っぽく見えるが、数羽のハジロカイツブリと確認できた。こちらは冬鳥でやはり眼が赤い。同じく淡水・海水どちらにも入いる。眼の赤い鳥はじっと見てるとなんだか因縁つけられそうでどうも親しみが湧かない。
 強風が寒くてたまらないので早々に桟橋から退散して浜伝いに東隣の菖蒲ヶ浜キャンプ村へ行く。冬季閉鎖中で誰もいない。前回はここのキャビンに一泊した。きれいで快適なキャンプ場だ。岸辺で望遠鏡を構えるが、波打ち際から10m離れても強い向い風に乗って波しぶきが飛んでくるので諦める。このキャンプ場の敷地内には入口に近い管理棟の脇を一本の川が流れ下っている。その名も『地獄川』。恐ろしげな名前だが川相はのんびりとして至って平和。実は何を隠そうこの川こそ竜頭の滝から流れてきている川なのだ。なぜか湯川は竜頭の滝を流れ下ると地獄川と名を変えて中禅寺湖に注いでいるのだ。上流でカモたちを育んだこころ優しい川水たちは竜頭の滝までやってきたところでいきなり鬼の洗濯板みたいな岩の急斜面をあちこちゴンゴンぶつけながら滑落させられ満身創痍となって最後はほぼ垂直に滝壺へと突き落とされるのだ。そんなことされたら誰だって地獄を見る。地獄を見た水たちは最後は御仏の慈悲により浄化され穏やかに流れ下って中禅寺の懐にいだかれる・・・ところから付いた名だというのは今思いついた説だが、まったく怪しい。信じないように。その川面を上流から一羽のカワガラスが低空飛行してきて一直線に河口付近の茂みに消えた。
 管理棟の前からロープで通せん坊された橋を渡ると、おっさんがひとりカメラの望遠レンズを上に向けている。15m離れてカップルらしき2人連れがその方向に双眼鏡を向けている。ん?なんだべと双眼鏡で見ると高い枝先にマヒワちゃんが3羽いるではないか。一心に花芽(だと思う)をついばんでいる。すばやく望遠鏡に入れてドアップで拝見。マヒワ(冬鳥または漂鳥)は黄色いちっちゃな鳥でちゃんをつけたくなるほどかわいいのだ。さっそく覗いた山沢さんから感激の声が上がる。画像の黄色がそのまま声に転写されている。すごい!隣で小さな双眼鏡で見ているカップルにも「どうぞご覧あそべ」と幸せを分けてあげる。
 ひととき幸せな時間を過ごしたあと、その先の小さな浜で一休みする。ここは入り江に面していてうまい具合に強風が当たらない。湖面も静かで先ほどの荒波がうそのようだ。ここにも100mほど沖合いにオオバンの群れがいた。少し離れてコガモ(冬鳥)の雌が一羽。浜に腰を下ろして栄養を摂取しているとすぐ後ろの潅木でカサコソ音がする。振り返るとアトリも数羽地べたで栄養摂取中であった。スズメ同様ピョンピョン跳んで歩いている。アトリは群れで行動する鳥で、群れはいるときにはドビャーッと居るのだが、ここで見たのは昨日も今日も小さな群れだった。
 時計は11時を回りちょっと疲れてきたのでバスでクルマに戻ることにする。タイミングが悪かったのかバス停で30~40分待たされる。その間上空に腹が白っぽい小型のタカが出現。数十秒で姿が消えたが、ワシタカ類が苦手の小生としては脳裏の画像が鮮明なうちに必死で図鑑をめくる。検討の結果、ハイタカかと思われたがよくわからない。ケントー違いかも知れない。鳥屋の中には猛禽に狂うのが少なからずいるが、僕はダメだ。そういう生態だと分かっていても小鳥や小動物を足で押さえつけ嘴で引きちぎる姿が好きになれない。狂う連中は姿の格好良さに引かれるようで、確かにカッコイイと僕も思うが、しかしその美しさは戦闘機や戦車など攻撃型兵器に通じる機能美的部分が大で、動物が本来持つ優しさや異性にアピールするための美しさの部分が抑制され、その姿は冷ややかさが先に立つように感じられる。平たく言えば超クール。このクールさはハンティングする動物に共通して見られるものだろうが、逆に言えばそのクールさが無ければ彼らは生きて行かれないだろうし、そのクールさがそのような形状を生み出したと言えるのかも知れない。
 丁度12時頃赤沼の駐車場に戻ったが、あれほど青かった空がにわかに雲に覆われてきたのでここで切り上げることにする。なんだかかったるいので風呂はパス。帰路は沼田に抜けて関越道で帰ることにして、雪のチラつきはじめた湯ノ湖の前を通りかかると、カモらしき鳥がたくさん浮いているではないか。国道から湖畔の湯元温泉へと入るY字路のところにクルマを停め、望遠鏡を構える。オオバン、ホシハジロ(冬鳥)、ヒドリガモ(冬鳥)の混群だった。数十羽はいる。山沢さんと2人して観察していると、次々とクルマが停まってなにやら渋滞ぎみになってしまった。何だか分からないがうちらも停まって見て行こうという観光地特有の集団心理というやつだろう。みんな見ものは何だという顔をして降りてくるがカモが遠すぎて何だか分からず頭上にハテナマークを点滅させて去ってゆく。カモ見のついでにその光景も楽しむ。
 再びクルマに乗って金精峠のトンネルを越え、やや下った先で雪は止んだ。菅沼、丸沼を過ぎ、大尻沼に差し掛かったところで眼下の湖面に白いものが点々と見えた。すぐ先の丸沼高原スキー場の駐車場でUターンし、湖面を望む雪の積もった路肩にむりやり駐車して急いで望遠鏡を立てるが、レンズを覗いたときには白い影は既に遙か対岸近くに移動していた。形状と大きさ、色合いからカワアイサ(冬鳥)かと思われた。大き目のカモの仲間で、雄の白いうつくしい姿は見物だ。それと、望遠鏡を立てている最中に巨大な茶色い鳥影が一瞬視界をよぎって対岸の森の中へと消えた。生憎双眼鏡が手元になく確認できなかったが、白い尾羽が見えたのでオオワシかオジロワシと思われる。この大尻沼はぐるりと急斜面の森に囲まれていて接近路はなく、鳥たちにとって良い環境が保たれているように思われた。次回来るときは要チェックだ。
 と、今回の鳥見はここでおしまい。あとはほぼ順調に走って八王子に出、食事をした後、橋本駅で山沢さんと別れた。奥日光のこのコースはまた季節を変えて来てみたいと思う。冬鳥の場合はもう少し早く雪がくる前の方が良いようだ。

見た鳥
11/22 千手ヶ浜カワガラス
千手の森歩道オオワシ、アオゲラ、トビ
西ノ湖付近の樹林コガラ、ゴジュウカラ、エナガ、シジュウカラ
赤沼分岐付近湯川マガモ(♂3、♀4)
赤沼分岐(戦場ヶ原)ツグミ、アトリ
11/23 戦場ヶ原ハシブトガラス、マガモ(3番い、湯川)、ツグミ、マガモ(青木橋上流湯川)
泉門池ゴジュウカラ
小田代ヶ原北側樹林帯アオゲラ♀
石楠花橋下流湯川カワガラス
菖蒲ヶ浜(プリンスホテル前)オオバンの群れ、ハジロカイツブリ数羽
菖蒲ヶ浜キャンプ村アトリ、マヒワ、トビ、カワガラス、オオバンの群れ、コガモ♀1羽
菖蒲ヶ浜バス停ハイタカ?
赤沼ハシブトガラス、スズメ、ゴジュウカラ
湯ノ湖(兎島南側)オオバン、ホシハジロ、ヒドリガモの昆群
大尻沼オオワシorオジロワシ? カワアイサ?、ホシハジロの群れ

*低公害バス(赤沼⇔千手ヶ浜)
運行: 4月下旬~11月末
停留所は5箇所(◎=トイレ在り)
◎赤沼車庫-石楠花橋-◎小田代原-西ノ湖入口-◎千手ヶ浜
1回¥300。国道以外どこでも乗り降り自由。
時刻表は下記URL「栃木県立日光自然博物館」のHP内"観光情報"参照。"自然情報"には奥日光の熊出没情報も掲載されている。
http://www.nikko-nsm.co.jp/

*日光プリンスホテルはうちらがおじゃま虫した翌日(2008年11月24日)、老朽化のため営業を終了したそうです。


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