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白峰三山縦走
小幡 信義
道祖土 巌
大田 雅子
渡辺 守

山行日 2008年12月26日~30日
メンバー (CL)小幡、(SL)紺野、天城、橋岡、成田、道祖土、大田、渡辺

12/27(土) 道祖土記
 私にとって厳冬期の白峰三山縦走は、目標であり憧れでもありました。そして今、振り返ってみると山行中の自信喪失と下山後のもう少し挑戦してみたいという複雑な気持ちをもたらしてくれた山行になりました。今年に入りほとんど山に行っていないまま、結局は雪訓にも参加できずに迎えた正月合宿、内心とても不安でした。まず体力不足、そして慣れや勘が鈍ってしまっていて怪我でもして他のメンバーにどこかで迷惑をかけてしまうのではないか、そんな不安の中での出発でした。
 前日の12/26日23:00に新宿西口スバルビル前に集合し、橋岡車と天城車に分乗し出発。高速のインターを降りて間もなくの道の駅で前泊し翌朝8:00に奈良田へ到着。
 入山者は、少ないようで駐車してあった車は2台程でした。我々が準備している間に、もう2台程到着したようでしたが、入山者は思っていたよりもかなり少なく感じました。ここで装備分けとパッキングをテントごとに行い9:00前に出発。間もなく発電所過ぎのトンネルが見えてくると入り口に立派なゲートが出現、どうやって乗り越えるか考えあぐねていると真っ暗闇トンネルの向こうから見たこともない巨大な工事用車両がこちらに向かってきました。ゲート前で止まると運転手は無言のうちにゲートの鍵を開け、我々はしばらく車両の通過するのを黙って眺めていましたが、車両を通すと暗黙というのか何とも言わず我々を中に入れてくれました。
ゲート入り口にて  ここから延々ともいえる林道歩きが続くと思い覚悟のうえマイペースで歩きはじめ、とりあえずいつも通り1時間ほどで小休止。その間にも何度か大型の工事用車両とすれ違い、年末のぎりぎりまで人気の少ない工事現場の仕事とは大変だなと思いつつ、ただ歩き続けていました。そう思っていた矢先に後方の小幡さんから、呼び止める声、何とトラックの荷台に乗せてくれるとのこと、躊躇することなく素直に乗せてもらうことにしました。生まれてはじめてトラックの荷台に乗せてもらいましたが、そこはあくまで荷台であり人が乗るには不安定、それに風でとても寒く体は冷え切ってしまいそうでした。それでも今日の行程を考えると時間の短縮には大変貴重なものでした。間もなく工事現場との分岐で下車しまし、あるき沢橋には11:00に到着。
あるき沢橋にて準備中  何とか予定通り池山小屋へ行けそうな時間でした。登山道入り口からは、いきなりの急登が始まりましたが、ジグザグ道のわりあ合い歩きやすい道で一気に高度を稼ぐにはよかったかも知れません。積雪も徐々に増えてきて冬山の様相もまして来ました。急登も終わり、もうそろそろ池山小屋も近いのではと思って歩くのですが、なかなか見えてきません。皆さんの記憶も10年以上も前のもののようで定かでありません。それでもようやく15:30を過ぎ小屋に到着。予定外の幸運もあり何とか着くことが出来ました。我々の他にテントは2張りと小屋の中に数人と、ここも少し寂しい感じのテン場でした。
〈コースタイム〉
奈良田駐車場08:50 → あるき沢橋11:00 → 池山小屋15:30

12/28(日) 大田記
 22日目。朝、小雪の降る中、池山吊尾根へ出発。樹林帯をしばらく進むと視界がひらける。
 それととも共に天気も回復してきて、ボーコン沢ノ頭に着く頃には、北岳が冬空をバックにくっきりと姿を現した。
ボーコン沢ノ頭  北岳は何度か来ているが冬は初めてで、また別の顔だ。雪化粧をして稜線を際立たせカッコイイ!このポイントで皆写真を撮りまくる。そう、私もこの時は元気だった・・・
 ここから先は岩稜となり岩をよじ登る。垂直な岩を下りる時に1度ロープを出してもらう。その後も鎖場があったりで、岩場を2、3越えると八本歯のコルに着いた。この辺りから池山小屋ベースで北岳をピストンする人たちに会う。鉄梯子をいくつか越えて分岐にまで着くと風が吹き始めた。時間は13時を過ぎ、山頂をピストンしていると本日のテント場・北岳山荘に着くのが遅くなってしまうので、もし好条件なら翌朝登ることにして、小屋へのトラバースルートを行くことになった。
 しかしここからが厳しかった。風で雪が吹き飛ばされ、凍結した足場をトラバースするのは緊張した。傾斜がきつい所は山側に身体を向けてアイゼンを蹴り混んで蹴り込んでカニ歩きとなる。途中、リーダーと雪山初心者2人はザイルを結んで進んだが、これも歩調が合わないとザイルが引っ張られるので息を合わせるのが難しい。慎重に進んでいると山頂から来た一行が追いついてきた。尾根ルートは強風で通れずこのルートに下って来たようだ。
強風の中をトラバースで通過  風はどんどん強くなり、何度も耐風姿勢をとる。尾根ルートとの合流点に着くと、そこは何も遮るものがなく風が自由に大暴れしている世界で、空気中の何もかも吹き飛ばし純度の高い澄み切った青空を作っていた。どうも人間も邪魔なようで容赦なく襲ってくる。先を行く紺野さんたちはそのまま下のルートを岩陰で突風をやり過ごしながらスキをついて進んでいるが、足下も傾斜して不安定なこのルートを進むことは私にはできそうにない、と躊躇していると、大岩の多い尾根ルートに移るよう天城さんが呼んでいる。尾根を横断して移ろうとするが、踏ん張っていないと飛ばされそうで脚を踏み出すことができない。断続的だった突風は次第に休むことなく吹き続けて、小屋までの距離はわかっているのに一生辿り着けない気分でいると、リーダーが戻ってきて、「もう風は止まないから、とにかく歩いて!」と言われ、にじりながら尾根ルートへなんとか移動した。そこからは岩に身体を押しつけ掴まりながら進んだ。小屋が見える頃ようやく風が少し弱まり、踏ん張って歩けるようになった。通常1時間の行程に3時間かかってやっと小屋に着いた。
 避難小屋の中は既に先客があり、テント一張りのスペースしかない。小幡テントは風の吹く中、小屋の外に張ることに。紺野テントは小屋の中に張って、やっと一息つくことができた。「明日も風が強かったら、ここでビバーク!」と連絡が入り、この夜は冬山の洗礼を受けて身体は疲れているのに、気が高ぶっていつまでも寝られなかった。
 そして翌日、またしてもヘタレてしまった私でした・・・
〈コースタイム〉
池山小屋テント場06:50 → ボーコン沢のノ頭11:00 → 八本歯のコル12:30 → 北岳山荘へトラバース分岐13:30 → 北岳山荘16:00

12/29(月) 渡辺記
 明け方まで強風が続いたのか、風の音でなかなか寝付けなかったが、3日目も無事に快晴の朝を迎える。昨日のアイスバーントラバースの恐怖と幕場にたどり着いた時の安堵の実感がまだ残る。風は大分弱まったが、今日も無事にたどり着けるか不安である。
 北岳山荘をほぼ予定どおりの7時に出発し、最初のピーク中白根山に向かうが、みな流石に疲れも溜まり気味で足取りが重い。それでも振り返ると北岳の絶景に後押しされ、8時15分にはピーク到着。

北岳と北岳山荘をバックに無念の北岳をバックに

 少し下った後はしばらく稜線歩きとなり、つづく緩やかな登りの先のピーク間ノ岳に到着したのが10時15分。快晴の下に甲斐駒、仙丈、鳳凰三山そして塩見と360度の大パノラマで疲れも吹っ飛ぶ。
 そこからは農鳥小屋まで広い山稜を400m近く下る。スローペースであったこともあり、ここで今晩の幕場は農鳥岳直下と決める。小幡さんによればテント2張り程度の良い平地があるとのこと。この先は雪の状態によっては昨日のようなトラバースがあるというので不安が募ったが、ゆとりの行程になり落ち着いて進むことができた。西農鳥岳を経由して幕場の農鳥岳到着が14時、今日は実に3000m峰を4座踏み幕場も3000m超え。好条件に感謝。昨日のような風であればとても辿りつけなかった。だんだんと赤くそまる富士山を眺めながら、ゆっくりと夕食と翌日の準備を進める。最高の3日目となった。

塩見岳から荒川三山テン場からの富士

〈コースタイム〉
北岳山荘07:00 → 中白根山08:15 → 間ノ岳10:15 → 農鳥岳14:00

12/30(火) 小幡記
 ほぼ予定通り4日目の朝を迎える。今回の起床4時30分。出発6時30分と決めていたが、20分遅れの出発となる。本日中に帰京できる場所であるので、少しくらい遅れても問題ないだろう。農鳥岳山頂より3m程降りた所の幕場は快適であり、最後のテント泊はゆっくり熟睡でき出来た。
 山頂は風があり早く下山したいところだが、丁度、富士山の脇より日が昇る時刻で、幻想的な一時をデジカメに納めようと、皆はしゃいでいる。(最後のピークでもあるし、後はひたすら下降するのみ。景色もここでお別れ、もう少し待つか・・・!!)
 細かい起伏の多い岩稜歩き後、凹状地をアイゼン効かせ一気に下る。ガスっていると迷い易いが視界も良く、また、昨日間ノ岳の先で追い抜かれた4人パーティーのトレースも残っており心配ない。大門沢下降点は鐘の付いた大きな指導標があるので心強い。
 左下50m付近にテントが2張あり、これから農鳥岳を目指すのか?我々はテントの右側を通り、大門沢を下降する。雪崩の危険もあるので、紺野氏に確認のため為声を掛ける。OKの合図で急斜面を一直線に下る。上部はズボズボ潜ったが中間より雪が固くなり、アイゼンを効かせ慎重に下る。他の7名も間隔はあいているものの、各々自分なりに慎重に降りて来ている。平坦になってから、また雪深くなる。傾斜も緩くなった所で、ここはシリセードと決め込み、快適に滑って行く。天気も良く、風もなく、「ヒョーオー!!」と声を出しながら軽快に滑る。(小さい頃、村のガキ仲間と手作りのソリで田んぼの斜面の芝をよく滑ったものだ。距離が短いため、滑っては登り、滑っては登り、よく飽きもせずに暗くなるまで遊んだ記憶が蘇る。人間は滑ることが好きな動物なのか・・・?)。
 大門沢下降点より1時間程下ったところより左側に進んで行くと夏道に出た。後はひたすら踏み固められた雪道を歩くのみ。
 河原から広河内沢の右岸を歩くこと1時間で大門沢小屋に着く。
大門沢小屋に到着  もうここまで来れば安心である。大休憩をとり、帰りはどこの温泉に行くか等、皆余裕の顔だ。私も荷が下りた気持ちでホッとする。
 小屋より4時間弱で奈良田の駐車場に到着する。皆さんお疲れ様でした。

 白峰三山3泊4日の予定を終えて思うことは、
(1)奈良田第一発電所のトンネルのゲートが閉じられたままであったらどうしたか?(よじ登って行けたか?)
(2)野呂川林道で工事中のトラックの荷台に乗せてもらっていなかったら、計画通り行けたのか?
(3)北岳山頂と小屋の分岐地点で山頂を目指していたらどうなっていたか?
(4)トラバースしてから北岳山荘までの距離にして500mを強風の中、やっとのことで辿り着いたが、あの状態で吹雪になっていたらどうなっていたか?
(5)池山吊尾根のどこかをベースにし北岳だけを登るパーティーが主であったが、我々三峰パーティー8名ともう1パーティー4名のみ白峰三山縦走を完登することができ出来(北岳は登れなかったが)、日頃から各自、雪山に対する取組みがあったからこそ無事に終えることができ出来、リーダーとして感謝しております。
〈コースタイム〉
幕場06:50 → 大門沢下降点09:00 → 大門沢小屋11:30 → 奈良田駐車場15:30


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