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山スキー・鳥海山 「あがりこ大王」あひるの子
さとう あきら

山行日 2009年5月23日~25日
メンバー (L)佐藤、成田、山沢、山崎

 先程までは、藪にはばまれて突破口発見に右往左往していた。やっと抜けたかと思うと、すぐ前の人も見えないほどのホワイトアウトである。平衡感覚が鈍り、ふらふらする。
 ストックを横に広めに突いてバランスを取る。トップはどんどん先に行ってしまい、パーティもばらけてしまったようだ。無事帰れるのだろうか。典型的コニーデ型火山である鳥海山はどの方向にも同じような斜面が広がり、わずかな方角間違いでとんでもない所に滑り下ってしまう。既に藪が多く露出し、一旦下り過ぎると、トラバースして戻ることなど出来ない。

祓川ヒュッテと鳥海山 5月24日
 ほぼ貸切状態だった祓川ヒュッテを午前7時出発。今しがた迄の濃霧は少し下がったようで、雲の切れ間から時折青空も見える。昨日は鳥海山東麓のベテラン向けとして名高い百宅(ももやけ)登山口を目指したが、林道の残雪は例年以上で、あっけなく追い返されてしまった。猿倉温泉にて気分転換し、早めに祓川ヒュッテへ。同宿の八戸山水会の皆さんの宴会にご一緒させて頂いた。
 あちらも4名、毎年来ているベテランばかりで、ここは彼らのテリトリー。頂上へもご一緒をお願いする事になった。
美しく広がる鳥海山のブナ林  空いっぱい黄緑色に広がるブナ林の新緑は、とても美しい。根元を覆う残雪に反射した日差しが若葉を下側からも照らし出し、レフ板の前でポーズをとるモデルよろしく、こっちの写真も撮ってよぅとせがんでいるようだ。
 一方、人間が破壊し、再生した森があると聞いて行ってみた。しかしそのブナの木は全てが奇形ブナになり果てていた。
 以前、日本三大薬湯として名高い新潟県松之山温泉近くの「美人林」を訪れたことがあった。木々は若々しく、細いながらも天に向かってすらりと、垂直にブナの幹を伸ばしていた。きゃしゃな体躯の女子高生が、木漏れ日に照らされながら恥ずかしそうに森中に立っている、そんな健康的な美しさこそがブナ林の本来の姿だと私は刷り込まれた。

奇形ブナ「あがりこ大王」

 この獅子が鼻湿原入口に立ちふさがるのは、どれもが背中を異様なほどに曲げた醜い老婆のようなブナの木である。大きく隆起したコブ、根元からいくつもの株に分かれ、うねうねと伸びた幹。
 「あがりこ大王」は幹周が7.6mにも及ぶ奇形ブナの巨木で、林野庁選定の森の巨人たち100選のひとつとの事である。
 垂れこめる灰色の雲の下で大蛇のようにくねらせた大枝は、私の愛する瀟洒(しょうしゃ)なブナとは似ても似つかぬものだった。
 人間が炭焼きのために伐採、放置した結果がこのような姿にしてしまったとの事だが、その悲しさとともに、森の生命力の力強さには驚嘆するばかりだった。
 ちなみに「あがりこ」とは地上すぐ上から子(枝分かれ)が出ている状況のことだそうである。

 ホワイトアウトに包囲された我々は、笛を吹きコールをかけ合っては集結し、赤布ポールを突き刺しながら進む。と、急にガスが移動し、雲上に飛び出した。今迄の弱気が一転して、とたんにモチベーションが高揚してきた。御田の急坂が見え、その上は七ッ釜避難小屋である。急坂を一気に登り切り、小屋前で初めての一本となった。
七ツ釜避難小屋前で一本  青空の下、雪渓が切れ目なくずっと頂上直下まで続きているのが分かる。ヤマサチは何度もこの祓川ルートを登っているらしく、氷の薬師経由で行こうと言う。残雪期、登路はかなり自由だが、この夏道に沿ったルートが最も登りやすい。
 「氷の薬師」の由来は判然としないが、やはり鳥海山は山岳宗教の山。当時は薬師如来像がこの溶岩の小山の上で風雪に耐えていたのだろうか。想像力を刺激するちょっぴり素敵な名前だ。
氷の薬師をめざすが頂上はガス  溶岩の小山からざんざん湧き出る名水で喉をいやすと、頂上へと続く舎利坂の急登となる。広い斜面の適度に緩んだ雪をシールを効かせながら登り、10時半、外輪山ピークの七高山頂上に到着した。残念ながらガスが頂上付近にのみまとわりつき、三角点の置かれた最高峰の新山は濃い霧の中だ。
 ゆっくりと昼食を取りながら、時折薄くなるガスの切れ間を待つ。そしてスキーを履いたままスタンバイすること15分。今だ。ゴー。
 はやい速い。中高年スキー軍団とはいえ、皆の足前はそろっている。途中数回、リグルーピングのために待ち合わせた以外は休みも写真も取らず、登り3.5時間をわずか40分で祓川ヒュッテに滑り下った。ちょっともったいなかった感もあったが、ザラメの雪質も良好で、今年の山スキーの有終の美を飾るのにふさわしい滑りだった。

〈行動概要〉
5/22(金) PM6新宿出発、錦秋湖SA幕営PM12
5/23(土) 百宅口敗退、猿倉温泉入浴、祓川ヒュッテ泊
5/24(日) 祓川発07:10、鳥海山頂上10:35~11:20、祓川着12:00、獅子が鼻湿原散策、象潟温泉入浴、寒河江SA幕営
5/25(月) 花咲温泉入浴、都内解散AM12

参考情報
ずらりブナが美しい 松之山の美人林
ずらりブナが美しい 松之山の美人林
(十日町市観光協会HPより転用)


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