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白馬三山~唐松岳
小幡 信義
斎藤 吉夫
天城 敞彦
飯塚 陽子

山行日 2009年5月1日~4日
メンバー (L)小幡、金子、飯塚、天城、斎藤(吉)、大田

(1日目) 斎藤 記
 4月30日(木)23時33分、急行能登で上野を出発した。ラウンジのような車両を独占して、取りあえず酒盛りだ。電車はとにかく空いている。金子さんは、ホームで電車を待っている間、誰も後ろに並ばないので日にちを間違ったのではないかと心配したほどで、メンバーの人間がやってきた時はほっとしたそうだ。これが明日なら座れるかどうかというところだろう。せっかくの空いた車両で盛り上がりたいところだが、明日は朝が早いということで、各々床にマットを敷いたり、そのままソファーで横になったりして1時間ほどで皆、眠りについた。
 翌5月1日(金) 7時9分北小谷駅着。共同装備を分け、8時に出発。素晴らしい天気で、皆足取りも軽やかに車道を風吹登山口へ向けて目指す。途中、風吹荘を過ぎ橋を渡ったあたりで地図を広げると、土沢の両岸に道が伸びている。左岸の方の道が直線的で近そうだが、標識は右岸を指示している。迷ったあげく、左岸を行く。しかし、1時間ほど行くと沢沿いの道は崩落していて進めなくなった。危険を覚悟でこのまま行くか、沢の水際まで降りようかと迷っていると、軽トラックが通りかかった。車を止めて運転手さん(仮に田中さんとしよう)に聞いてみた。田中さんが言うには、この道は、数年前の豪雨でこの先数箇所で崩落して、廃道になったということである。今では対岸に道を付け替えられ、そちらからでないと行けないということであった。全員がっかりしていると、その田中さんが、雪の状態を見に行くついでに、車で行ける所まで連れて行ってくれると言うではないか。感謝、感謝である。
 6人車の荷台に乗って、5kmほど走っただろうか、雪が道路を覆い、進めなくなった所で降ろしてもらった。予定より大分早くなった、と、その時は皆思ったのだが、しかし、今回の山行は一筋縄ではいかなかった。皆の気持ちにも余裕ができ、陽光の下、山の斜面のこごみを取りながらのんびりと登山口へと向かったのだが、途中、橋を渡ってすぐの所を、本来は右に行くべきところを左へ進んでしまった。途中、方向が違うのに気付き引き返したが、結局、風吹登山口に着いたのは12時になった頃だった。
ルーファイ中のお二人  さて、ここからが本番である。暫くは道もはっきりしており、問題は無かったのであるが、鉱泉があるという硫黄の臭いのするやせ尾根を過ぎて残雪が多くなるとルートがはっきりしなくなった。
 しかし、皆、時折見える目の前のピークが風吹岳だと思い込んでいたので、誰も気にもしていなかった。高度を上げるにつれて傾斜が増し、谷状の地形もはっきりしてきたので、(ちょっと傾斜が急すぎるとは感じていたが)この先が目指す風吹山荘の建つ鞍部だと疑いもしなかった。
 しかし、急斜面を疲労困憊のすえ登りきってみるとそこは立っているのも危うい痩せ尾根だった。山荘を探してもどこにも見えない。仕方ないので、リーダーの小幡さんが急斜面を降りてこの先の地形を探ることになり、木の枝や笹に捕まりながら反対側の急斜面をトラバースして行った。暫らくすると小幡さんが近くまで戻ってきて、この先に、テントを張れるいい場所があるというではないか。正直ほっとした。もう4時なので、今日はそこで幕営することになった。幸運にもそこはテントを張るには最適の場所だった。地図を広げて自分達のいる場所を検討してみると、我々が今まで目指していたのは、風吹岳の北にある横前倉山で、今いる場所は風吹岳との間の鞍部だろうということになった。そうと決まれば後は飲むか、食うかである。今日は、計画した幕営地にたどり着けなかったという意味では予定どおりとはいかなかったが、テントの中に入ってしまったら、その後は、もちろん予定どおりである。大田さんの手の込んだカレーを頂きながら、三峰恒例の大宴会とあいなったが、明日も行動時間も長いので早めに切りあげることにした。明日はどんなハプニングがあるのか楽しみにしながら皆シュラフにもぐりこんだ。


(2日目)天城 記
 現在地がどこか確定できないまま、おおまかに西方と見当を付けて、ともかく目の前の小尾根を登る。登り詰めたら小屋か池が見えるかと期待したが、単に次の谷が見えるだけ。しかしトラバースぎみに谷へ下りしばし歩くと左の尾根上にアンテナが見え、やがて小屋が現れた。小屋の奥には風吹大池が広がり、左の尾根にはシュプールもある。おそらくこのシュプールは登山道を通らずに直接下の牧場へ繋がっているのであろう。ようやく現在地が確認でき、昨日からの長かった放浪は終わった。
 尾根に登るとフスブリ山から天狗原に至る尾根が連なり、その右奥には乗鞍岳が見える。シュプールを辿りながらなだらかな尾根を行く。ヘリコプターが頻繁に飛来するが、これは栂池の下から天狗原へスキーヤーを運び上げるものだという。天狗原からは急に人が多くなり、多くの人が乗鞍山に取り付いているのが見える。
 乗鞍山へは1時間余りの登り。山頂は平らで岩もでている。ここから天狗原へ下るスキーヤーが多い。登山道は白馬大池の北を通って迂回しているので、われわれは真っ直ぐ西方へ下り、池の南端を通って小蓮華山を目指す。船越ノ頭までは結構急登で、ピークに着いたと思うとまた先にピークが見えるということを繰り返す。このあたりにもスキーヤーがおり、猿倉方面にシュプールがついている。スキーが上手でこんな斜面を滑れたらさぞ爽快だろうなと思う。
 右手には雪倉岳、朝日岳が、正面には白馬岳がそびえ、晴天のもと、暑くも寒くもなく実に気持ちがいい。傾斜はゆるんだものの小蓮華山までも長い登りが続く。雷鳥のつがいがいて雄が雌を追いかけているのを見て斎藤さんが発した一言(ここでは省略)にみんな爆笑。よくとっさにそういうことを思いつくものだ。彼の特殊な才能であることは間違いない。ブロックを積んでテントを張る準備をしているパーティもいるが、まだ2時。明日の長い行程のこともあるし、とりわけ今夜のビールを手に入れるためにもと、白馬小屋を目指す。しかし三国境の手前にテント適地があり、リーダーが「ここから先は白馬までテン場はないけれど、どうする」と聞く。たぶん白馬のテン場まであと1時間以上はかかるだろう。もう3時だし、ビールは明日の朝小屋で買って、明日の泊まり場で飲むことにして、今日はここに泊まることになった。昨日とったコゴミがまだあり、つまみの足しとして食卓をにぎわせた。
〈コースタイム〉
テント場(06:15) → 風吹小屋(06:45~07:00) → 天狗原(09:50~10:10) → 乗鞍岳(11:30~11:40) → 船越ノ頭(13:00) → 小蓮華山(14:00) → 三国境下(テント場)(15:00)


(3日目)飯塚 記
 5月3日も快晴の朝を迎えたー。朝から北アルプスの山々がくっきりと青空に聳えたち眩しいくらいだ。やはりGWの北アルプスは最高だ。昨日は時間切れで辿り着けなかった白馬岳山頂へは、朝のワンピッチで楽勝で到着。
白馬山頂にて  そしてこの日の朝一番に、白馬主稜を登ってきたという二人組みのクライマーのおじさん達と挨拶を交わす。この主稜はやはり人気のルートで、山頂からは、続々と登ってくるパーティーの姿が望める。また、今日主稜を登る予定の三峰の荻原パーティーに(もちろん姿は見えてはいないのだが)皆で、気!!のモートーコールを送っておいた。
 さて、今日は核心部の不帰のキレットを越えて、唐松岳まで行く予定であったが、それはあくまでも予定であったので、辿り着けない場合も想定(確信?)して、本日は白馬山荘で各自1本のビール(エビスビール!)を仕入れて先を急ぐことにした。白馬岳を過ぎると、重装備を身に付けた山岳スキーヤーを見かけるようになり、広大な北アルプスの斜面を滑る姿は、やはり気持ち良さそうでかっこよかった。モキチさんは、来春は白馬岳にスキーで来るぞ!とひそかに誓いを立てていたようである。
 右に剱岳の雄姿を望みながら、順調に杓子岳、鑓ヶ岳と進んでいく。順調に歩き、お昼前には天狗山荘前に辿り着いたが、これから不帰キレットを越えて唐松岳まで行くには時間切れになりそうだし、この先には良い幕場が得られそうになかったので、皆で話し合った結果、本日の行動は天狗岳山荘までとなった。
黒部の山々、剱岳がひときわ目立つ  そうなったら皆の行動はすばやく、すぐにテン場の回りに立派なブロックを積み上げ、かなり立派なテン場を作り、そして宴会へと突入した。白馬岳山荘で仕入れたエビスビールは、めっちゃ美味しかった!みんなでウダウダしながら午後を過ごしていたのだが、小幡リーダーは、やはり働き者で、一人黙々と立派なトイレを製作してくれたのであった。
 そして残りの酒で(結構まだ隠し?酒が残っていた)宴会は盛り上がったが、明日の核心部不帰キレット越えの為に、早めの就寝となった。


(4日目)天気くもり時々晴れ 小幡 記
 4日目の行程は唐松から八方尾根を下降、白馬駅まで歩く予定であったが、天狗山荘からのスタートとなる。約半日の遅れだ。本日中に下山したいので、今日は1時間早めの5時出発とする。今日も天候が安定しているのがなによりだ。
 天狗の頭から大下りまでは、ダラダラした稜線であるが、夏道が顔を出していて、アイゼンでは歩きにくい。天狗の大下り手前で休憩していると、昨日天狗山荘で会った4人パーティが追い越して先を行く。
不帰の峰々を前に  ここで不帰ノ剣の通過に備えてハーネスらしきものを身に付ける。天狗の大下り標高差300mの急な下りも、殆ど雪が付いていないので、特に危険な所もなかったが、1カ所10m位のルンゼ状に残雪があり、ここはピックを差し、後ろ向きで慎重に下る。K氏は前向きですたすたと下りてしまい、皆あ然とした顔の一幕もあったが、とりあえず、一峰手前まで到着する。一峰の頂から二峰の急斜面の雪渓の上にトレースがしっかりと目に飛び込んでくる。「あそこに行くのか?。いやらしい雪の付き具合だ」まさに2人のパーティーが、ロープを出し通過中のようで、「時間がかかりそうだな」と一寸不安になる。二峰の取付きは岩場を垂直に登ったり、岩をへつるようにトラバースしたりしながら登って行くが、鎖が出ているので安心である。アングルの橋を渡った所で、追い抜いていった4人パーティーがロープを出し通過中であった。30分位の待ち時間となる。雪の上にしっかりと足跡が踏まれているので、ピッケルを刺して慎重に行けば行けないこともないが、信州側が切れているので、我々も8mm30mのロープをフィックスし、一人一人移動することになる。最後のK氏を確保し、ロープをまとめてメンバーの所に行くと、またもやいやらしいトラバースで、先行パーティーのトップがロープを引き、ハーケンを打ち固定している所であった。あと3人通過となると、1時間はかかるだろう。ここはゆっくり行くしかない。狭いバンド状で1ピッチ、さらに雪稜を右に回り込み、4人パーティーが見えなくなってから、我々も行動する。最初の出だしが岩場となって一寸ひやりとしたが、あとは踏み込まれた雪上を一歩一歩ゆっくり行けば問題なし。左側はスッパリ切れているのであまり気にしないで行くことだ。30mロープいっぱい伸ばしたが、しっかりした支点がなく、ピッケルを雪に差し固定したが、雪がゆるんでいるため不安が残る。ここは各人の行動に頼るしかない。1人、2人、危なげなく通過してくる。最後のK氏を確保し、また私がトップで行こうとすると、K氏が「俺が行く」と言ってくれ、雪壁を登り、右に回り込んで見えなくなってしまった。「あと5m!」の合図でロープが止まる。支点を作っているようだ。核心部の通過は3ピッチで、6人全員無事に二峰の頂上に立つことが出来た。2人のロープワークの息が合い、リーダーとして嬉しかった。
 このような具合で三峰から唐松までは一般道と変わらず、最後の頂上唐松岳に12時30分に到着する。
唐松岳山頂にて満足な面々  山頂は人が多かった。不帰ノ剣からの緊張から解放され、皆の顔がほころんでいるように見えた。唐松の標識をバックに記念写真となり、山頂を後にする。八方尾根は各々自由に下っていった。丸山ケルンで振り返って眺めて見る。白馬三山から不帰ノ剣は長い長い稜線で「よく歩いて来たものだ。」と一人感慨にふける。16年前だったか、一人で同じルートを歩いたがもっと簡単に行けたような気がするが・・・。八方池山荘からはリフトに2回乗り、その後はゴンドラで一気に尾根を下る。下の方はスキーヤーの姿が多かった。
 4日間を振り返り、前半は風吹山荘まで林道を戻ったり、道を間違えたりでたどり着けなかったが、山菜がたくさん採れ、夕飯をにぎわしてくれた。自然の恵みに感謝である。後半は今回のルートの核心部である不帰ノ剣もロープワークのコンビネーションがうまく合い、問題なく通過出来ました。無事に帰れるのがなによりです。皆様お疲れさまでした。来年の5月は何処に行きますか?
〈コースタイム〉
天狗山荘(05:00) → 不帰ノ剣(一峰から三峰)(06:30~11:00) → 唐松岳(12:30) → 八方池山荘(15:00) → リフト・ゴンドラ → 八方(15:50) → タクシー → 白馬駅(16:05)


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