トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ331号目次

飯豊・西俣川大熊沢
金子 隆雄

山行日 2009年9月19日~22日
メンバー (L)金子、藤井、高木、土肥

 今年の秋の連休はシルバーウィークと名づけられたようだがなんともセンスのないネーミングだこと。この連休には会の集中山行が企画されていたが、ずっと前からこの連休には東北方面の沢へ行くことを目論んでいた。一時は集中山行へ参加することも考えて沢ルートを盛り込んで行けないかを検討してみたが集中場所の関係で無理そうなのでちょっと後ろめたいが全然違う山域の沢へ行くことにした。場所は飯豊の大石川支流の西俣川大熊沢に決まった。
 18日夜に東所沢駅に集合。関越道から日本海東北道に入り豊栄(とよさか)SAにて幕営。

9月19日
 中条ICで降りて大石ダムへ向かう。ダムの駐車場に車を停め共同装備の振り分けなどして準備を開始する。駐車場の隣には水洗式の綺麗なトイレもある。大石ダムは東俣川と西俣川の二俣に造られていて西俣川へ行くにはダムを対岸へ渡ることになる。ダムを渡り切るとトンネルがあり天井には藁で作った大蛇が吊り下げられている。これから怪しげな世界へと誘われていく我々に相応しい。この大蛇は「大したもん蛇」といって関川村で行われている「えちごせきかわ大したもん蛇まつり」の神輿だそうだ。全長82.8mあるとのことだが吊り下がっている物は頭から5m程でちょん切れていて尻尾のほうがない。今はもう使われていないのか、どこか別の所に保管されているのか不明である。トンネルの中は真っ暗だったが工事にきているオジサンから照明があることを教えてもらった。スイッチを押すと10分間だけ点灯する仕掛けになっているらしい。ということは10分以内に通らなければ途中でまた真っ暗になってしまうということだが、そんなに長くないので10分あれば十分だった。
大したもん蛇くんです  トンネルを抜けると緩い下りの舗装された車道がしばらく続く。滝倉沢のバックウォーターに架かる立派な吊橋を渡ると道がなくなったかと思える程に唐突に細い山道になる。道は川底から100m以上も高い所につけられており谷側はスッパリと切れ落ちており、足でも滑らそうものなら谷底へ真っ逆さまというかなり緊張する道がしばらく続く。道が少し川から離れるようになると気持ちの良いブナ林の中の道となる。途中、杉林もあるが杉林の中は陰気で暗くて気分が良くない。
 また、この辺はミズナラの木が沢山あるのだが目に入るミズナラはほぼすべて立ち枯れている。樹齢の若い木も多い。帰ってから調べてみたのだが、カシノナガキクイムシが媒介する病原菌によるブナ科樹木萎凋病によるものとの説が有力のようだ。これに感染すると水を吸い上げられなくなり枯れてしまうようだ。ミズナラは抵抗力が弱いため真っ先にやられてしまうらしい。
 途中、下山してくる人に会い、ゼカイ沢より先は藪だと聞いたが行ってみると草が被って歩きづらいだけで藪という程のものではなかった。西俣川に架かる丸太を削って作った吊橋を渡ると今日の目的地の大熊小屋まで後わずかだ。大熊小屋は無人で2階建ての小奇麗な小屋だ。2階は殆ど使われることがないみたいで埃だらけだ。2階を使う程混み合うことはないということだろうか。この時点で小屋には我々以外には単独行者が一人いるだけだった。
2階建ての小奇麗な大熊小屋  小屋の1階に寝場所を確保し、小屋のそばの水場でビールを冷やし、夕方までまだ時間があるので藤井さんと釣りにいってみることにする。来るときに渡った吊橋まで下って西俣川に降りる。大物は釣れなかったが何とか数匹キープする。釣りに夢中になってもうすぐ暗くなる時間になっていて慌てる。本流から大熊沢に入り大熊沢の橋から登山道に上がって小屋へ戻る。
 小屋へ戻ると随分人が増えていて1階は満員状態になっていた。今日は焚き火ができないので(小屋の土間で焚き火できるようになっているが煙だらけで他の登山客の迷惑になる)釣った岩魚はムニエルにする。大変美味しゅうございました。
 同宿の人達は品行方正な山屋さんばかりで食事が終わると皆早々に寝てしまう。今回は3泊4日なので酒が切れたら大変だということで沢山担ぎ上げたが、沢山あるのに飲めないなんて哀し過ぎる。寝るしかないか。

9月20日
 品行方正な山屋さんはやはり朝も早い。我々が起き出し朝飯を済ませる頃には殆どの人が出発している。今日は大熊沢を溯行して杁差小屋へ泊る予定なので必要のないテントや最終日の食料・酒などは小屋の2階へデポしていくことにする。大熊沢はここからわずかなので小屋で沢装備に身を固め、少し遅くなったが6:50に小屋を後にする。
 登山道を20分位歩いて大熊沢に架かる橋の脇から入渓する。標高も低く樹林が迫ってきているので鬱蒼として暗い渓相がしばらく続く。入渓して直ぐに2段3m逆くの字形の滝が現れる。釜が深いので左岸より低く捲く。釣師のものと思われるフィックスを使って中断のバンドへ降りられる。バンドから更に1段下へはホールドが細かく微妙なクライムダウンとなる。2段3mスダレ状の滝を右から簡単にへつって越え、次の2m小滝を越えると上部に流木の詰まった5m滝になる。釜が深く右岸より捲く。沢床へ降りる所がズルズルで嫌らしいがここにもフィックスロープがあった。
 しばらくは滝もなく巨岩のゴーロ帯を行く。右岸よりの支沢を過ぎると2段8m滝が現れる。登れそうになく右岸を高捲く。釣師もこの先までは行かないようで踏み跡もない。適当に藪をトラバースして藤井さんが先に降りたが、その先にも登れそうにない5m滝が続いているとのことで更にトラバースして2つまとめて捲いて降りる。またしばらくは巨岩のゴーロ帯が続く。
 次の滝は2段15m。下段は水流左の草付きを容易に登る。上段は大岩が左から被さり登れないので右岸より低く捲く。標高720mあたりで左岸より支沢が入る手前の5m滝は登ろうとすれば全身水を浴びるシャワークライムになるので右より捲く。続く3m滝も釜が深く右から捲く。しばらくゴーロを行き標高970m辺りで左岸より支沢が合わさるとその先には大熊沢最大の30m滝がドーンとその姿を現す。
大熊沢最大の30m大滝  こんなでかい滝があるとは思いもしなかった。右岸側を登れそうにも見えるが、今回の我々の装備では厳しそうなので止めておくことにする。左岸からの支沢を少し登り左の小尾根を乗越して本流へ戻る。この先どうなっているのかと先を見ると極端に沢幅は狭まり典型的なゴルジュになっている。沢幅はおよそ3m、左岸はほぼ垂直に切り立っておりゴルジュの中には滝が連続している。この沢の核心部になるに違いない。ゴルジュ内の最初の滝は5m、これは登れそうにない。左岸は絶望的で活路は右岸に見出すしかない。右岸の傾斜の強い露岩帯を登って捲くが、きわどくて冷や冷やする。続く2つの5m滝は何とか登れる。更に6m、5mと続くがどちらも登れそうにない。空身で右岸の露岩を登ってザックを引き上げる。ゴルジュ出口の8m滝は捲くこともできず登るしか手はなさそうだ。幸いに釜はそれ程深くないので藤井さんトップでチャレンジする。低い位置に残置ハーケンがあったがプロテクション用ではなくて釜から這い上がるために打ったもののようだ。釜から這い上がれば見た目程は難しくはなかった。上部はゴーロ滝状なので容易だ。
ゴルジュ出口の8m滝を登る藤井さん  短いが滝の詰まったゴルジュを無事に抜けてホッとする。標高1200m付近で左岸より支沢が流入する。当初はこの支沢を詰め上げて大熊尾根の池の辺りに出ようと目論んでいたのだが、この支沢は出合いがゴジュルで中には3段15m滝が見える。これを突破するのはかなり苦労しそうなので本流を最後まで忠実に詰めることにする。2m、4m滝を問題なく越えて行くと最後の二俣になる。どちらに進むか意見が分かれたが、小屋までは遠くなるが楽そうな左へ進むことにした。左の沢へ入ると直ぐに水が涸れ沢形もなくなり藪になる。背丈を超える笹薮を掻き分け潅木帯を避けてなるべく左に寄りながら笹藪を進んで行くと30分程で稜線上の登山道に飛び出した。
 思いのほか時間がかかってしまい16時を過ぎていたので少し休憩した後、小屋へと急ぐ。小屋へ行くには先ずは杁差岳へ登らなければならない。ガスって視界の良くない稜線上を歩くこと25分位で杁差岳山頂へ到着。視界も良くないので写真を撮ると直ぐに小屋へ向かう。小屋は数分下った所にある。
立派な杁差小屋 隣にトイレもある  2階建ての杁差小屋はかなり立派だ。中に入ると1階は満員なので2階に上がってみる。2階もかなり混み合っていたが何とか4人分のスペースを確保することができた。沢で水を汲んでこなかったので水場まで水を汲みに出かける。水場は近いと聞いていたのでサンダル履きで軽装で出かけたのだが、これが大間違いだった。東俣川の方に下っていく踏み跡を辿るが、だんだんサンダル履きでは辛くなってくる。靴を履いてくればよかったと後悔するが戻る気にもなれない。かなり下って沢にでたが水は流れてなく沢沿いの踏み跡を更に下って行く。ようやく水のある場所に着いたが勢いよく流れているわけではなく染み出た水が溜まってそれがチョロチョロ流れているだけ。6Lの水を汲むのにかなり時間がかかってしまった。おまけに薄着で来たので寒くてしかたない。重い水を持っての帰りは更に歩き辛くて大変だ。重い、寒い、歩き辛いで嫌になる。帰りが遅いので心配したのか藤井さんが途中まで迎えに来てくれる。
 外はかなり寒いが小屋の中は暖かくて有難い。昨日と同じように食事が終わると皆さっさと寝てしまうので酒も飲めず寝るしかない。

9月21日
 今日は朝から快晴、この連休中一番の良い天気だ。今日は大熊尾根を下るだけ、帰るのは明日なのでのんびりモードだ。小屋を出たのは我々が最後だった。
 大熊尾根上の登山道は急ではあるが歩き易い良い道だ。途中には水を補給できるところもある。また、大熊沢全体を見下ろせる絶好のビューポイントもある。3時間強で橋に到着した。
沢はこうでなくちゃいけない  2日間小屋泊りで焚き火もできずゆっくり酒も飲めなかったので今日は是非ともテントで泊って焚き火をしたいということで場所を探す。大熊沢の橋の少し下流にテントが張れそうな場所があったので整地する。泊る場所が決まったので藤井さんと大熊小屋にデポした荷物を取りに行く。大熊小屋はペンキの塗り替え作業中だった。  テントを張り終えると早速焚き火だ。薪は近くに沢山ある。このところ天気が良い日が続いていたので乾いていて直ぐに燃え上る。やっぱり沢はこうでなくちゃいけない。焚き火の傍らで飲む酒は最高に美味い。

9月22日
 今日は下山日だが天気はあまり良くない。午前中は雨が降ったり止んだりの繰り返しだった。下山するだけだから構わないんだけど。大熊小屋ではペンキを塗りに来ていた職人たちが下山するところで、彼らと前後しながら大石ダムへ下山する。
 途中で藤井さんが足を蜂に刺されるという事態が起きた。私は最後尾を歩いていたので見ていないのだが蜂の種類はよくわからなかったとのこと、スズメバチではないようだ。後になって結構腫れてきたそうだ。
 昼過ぎに大石ダムに到着。全員筋肉痛で動きがロボットのようだ。お疲れ様でした。

〈コースタイム〉
9/19 大石ダム発(8:45) → 大熊小屋(14:05)
9/20 大熊小屋発(6:50) → 30m大滝(11:20) → 稜線(16:15) → 杁差避難小屋(16:50)
9/21 杁差避難小屋発(8:50) → 大熊沢の橋(12:00)
9/22 幕場発(7:15) → 大石ダム(12:30)

西俣川大熊沢溯行図


トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ331号目次