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長距離行進訓練(カモシカ山行)高尾~数馬
峯川 正行

山行日 2009年9月5日~6日
メンバー (L)峯川、渡辺、三澤、星野、原口

 以前から気になっていた山行形態がありました。それはカモシカ山行。夜を徹して修行のごとく山を駆け巡る山行です。この「カモシカ山行」の由来は夜も行動するカモシカのように歩くということからその名前がついたとばっかり思っていたのですが、それは勘違いのようで、本当の由来は戦前まで遡るようで、名を冠した方がかつて記載された文章から抜粋いたします。『かもしか山行というは私が創案したといわれる山行で、夜ねむらないで歩くのがミソである。これは実のところ富士登山などにむかしからよく行われてきた登山様式であってとくに私が工夫したわけではないが、これを一般の山行に通用したのは確かに私である。それで私のペンネーム、加茂鹿之助を冠して、加茂鹿之助式夜行日帰り山行、略して「かもしか山行」または「かもしか行」というのだ』
「山と高原の旅」(中村謙著・1958年朋文堂)
『兎角誤解されるんですが、マラソン式に速く歩くというのではないので、要は、我我は時間も(金も)ないからニ日なり、三日なり要して行く處を(夜をこめて)一日で歩くということです』
(中村談・「山と渓谷」1947年4月号・99号)
 現在は交通手段なども整い、このような山行形態は淘汰されてしまっているのですが、かつての先人が歩かれた山行形態に敬意を表するということもあり、カモシカ山行を計画したいなあと以前から思っておりました。そんな時に今年の委員会の企画でつぼちゃんが長距離行進訓練というなんとも山岳会には似つかわしくない訓練を発案されたので、現在お仕事多忙なつぼちゃんに代わってこの訓練も実施せねばなあと思い、長距離行進訓練+カモシカ山行というなんとも修験的な山行を計画することとしました。当初は長沢背稜を経て雲取山に向かうという行程を考えていたのですが、第1回目ということでエスケープがたくさんある高尾~笹尾根(数馬)に変更致しました。
 9月5日は朝からできるだけ自宅で寝て、昼夜を逆転してから現地に向かいます。そして、なんとも人影が多い高尾山口駅に17時頃に到着し、駅近くの味のあるお店で蕎麦を食べみんなを待ちます。急遽参加の原口さんにまず会い、先に行って待っているとのことです。集合時間通りに皆さん集合し、18時から稲荷山コースでスタートです。
ネオンが眩しい高尾からいざスタート  登りはじめはまだ薄暗い感じでヘッドランプは必要ありませんでした。しばらく登り月が出てきたくらいでヘッドランプを装着です。高尾山からの下山者と結構会い驚きでした。多分、ヘッドランプをつけて登っている我々の方を見てもっと驚いたかもしれません。高尾山に着いたときはもう真っ暗です。まだ、他のハイカーもいます。すっかり整備された道で城山へ向かいますが、順調に歩いていきます。この頃にはヘッドランプを付けての懐電歩行にはすっかり慣れてきました。途中、一丁平付近でモートーコールが聞こえました。原口さんが待っていてくれました。いつも花見山行で陣取るあの場所です。ここには立派な展望台ができていて、夜景を少し見ることができました。城山で少し休憩し小仏峠に向かいます。小仏峠では以前あった青木茶屋の廃屋が壊されて、その場所にはなぜか猫様がいました。こんな夜に猫様にあえて嬉しかったです!ここから陣馬山までが頑張り所です。
夜に失礼!小仏峠の狸さん  景信山では我々と同じようにカモシカをするのかヘッドライトを付けたパーティが登ってきました。「お月見ですか~」と言われてしまいました。ここからの夜景はとても綺麗でした。ここから陣馬山へはアップダウンが続きます。明王峠ではいよいよ睡魔が襲ってきました。眠気さましのメントールを舐めながら歩行です。かなり予定より早く陣馬山に到着です。山頂にはテントが一張りあり、静かに横のベンチで休息です。ひとまず、今回の行程の1/3である第1セクションを終了いたしました。時間もあるのでひとまずここで20分くらい仮眠をしました。これくらいの短い仮眠は有効であったようで、その後はすっかり元気になりました。
闇夜に浮かぶ陣馬山の白馬にて  和田峠ではカップルが乗車しているマーチがあり、多分我々をみてびっくりしたでしょう。お邪魔してすいませんでした。和田峠からしばらく登りが続きます。醍醐丸には0時を過ぎ到着です。さすがに皆さんも眠たそうです。私はここで持参したリポビタンDをぐいっと飲んでカモシカ山行の核心部にのぞみます。リポDのおかげかすっかり眼がさめてしまい、なんともハイ状態になってしまいました。今回の山行の中で一番元気だったと思います。
 この先の連行峰へは思った以上に距離がありました。生藤山は大した山頂でもなく、岩場なので巻いてしまい、三国山を通り過ぎ、頑張って登ると軍刃利神社に到着です。時間は2時30過ぎで、予定よりかなり早かったので、1時間以上ここで本格的な仮眠?をとることとしました。皆さん相当眠かったようですぐに就寝です。私はまだ眼が醒めていたので、しばしシュラフに足を突っ込んでキャプテンブラックをふかしながら夜の空気を楽しんでいました。
軍刃利神社前で皆さん仮眠  4時半くらいに起床で5時前に出発となりました。寝ている間はシュラフカバーのみだったので結構寒く、あまり寝れませんでした。まだ、明るくなる前でヘッドライトをつけて歩行再開です。ちょうど行程の半分くらいです。熊倉山から浅間峠への下りの時は本当に眠くてしょうがなかったです。中途半端に仮眠すると逆に眠くなってしまうことがよく分かりました。このような時は20分くらいの仮眠を繰り返したほうがいいのかもしれません。
 いよいよ夜が明け浅間峠には6時前に着きましたが、私も含め、またここで仮眠です。この眠さは本当にすごかったです。夢遊病者のように歩いていた感じです。ここから日原峠への登りもいつもは楽にいけるのですが、この睡魔に襲われた状態では結構荷が重いです。日原峠ではお地蔵さんがいつものように微笑んで坐っていました。水場へは人里(へんぼり)方面に道を5分くらい降りるとあります。水は豊富にわき出ていて、味は柔らかく本当に美味く、顔を洗い眼が醒めました。三澤さんも私も行動水が空になってしまっていたので、この最終第3セクション用の水を補給いたしました。水場から日原峠までもう一度登り返していきますが、朝日が木々の間から差し込み、なんとも神秘的でした。お地蔵様にお別れをして、ここからまた登りなのでひと頑張りです。
お地蔵さんが佇む水補給ポイントの日原峠  土俵岳、小棡峠を進みます。この辺は笹尾根という名の通りの笹の中の道を進みますが、この時期は緑に覆われそれほど景色はよくありませんが、冬場などはいい気分で歩けると思います。我々はなんともいえない眠気の中を黙々と進みます。体力云々ということは関係なく、気力のみで進んでいるような感じでした。丸山も巻き道があるのでそちらを選びます。体力温存でピークハントにこだわっている場合ではありません。石碑がある笛吹(うずしき)峠には9時前に到着です。ここまで来れば数馬は近いです。この頃から帰りのバスの時刻を気にするようになり、数馬温泉センター発急行10時56分に間に合うかもしれないと。数馬峠まで少しの登りで着くのですが、その頃から私の持病の左足の膝痛がまた出てきてしまい、庇いながら進みます。ここでこの膝痛爆弾が爆発すると、この後に控えている大事な祖母谷温泉集中山行に参加ができなくなり、みんなに迷惑がかかってしまうのです。数馬峠には9時45分に到着し、これならばバスに間に合いそうです。数馬峠からは隣の山の坪山などが見え、なんとかこの山行も終わりそうだなあとほっとできました。星野さんは集中山行用に新しく購入した靴で少し靴ずれが起きているようで、膝が痛い私と一緒にゆっくりと下山することとなりました。それでもこの数馬峠から数馬の湯への道はとても歩きやすく足にそれほど負担がかからずに無事にバスに間に合いました。温泉は結局入らずにそのまま武蔵五日市駅に直行致しました。温泉よりとにかく電車で寝て早く家に帰り、布団でゆっくり寝たいのです!
ゴール地点の数馬温泉でほっと一息  今回の長距離行進訓練&カモシカ山行ですが、歩行距離約50キロ、歩行時間約14時間というなんとも過酷な修行のような山行となりましたが、懐電歩行や長時間歩行の恐るべき睡魔など幾つか収穫できたことがあったかと思います。実際に、この後の集中山行において剱岳への懐電歩行と祖母谷温泉への12時間行動において非常にこの長距離行進訓練&カモシカ山行は役に立ちました。それにしても、皆さん本当にお疲れ様でした!まさか数馬まで歩けるなんて当初は思ってもいませんでした。皆さんの体力気力には本当に脱帽です!またやりますか?と聞かれれば、「また数年後に~」と言ってしまうかもしれません。それほど過酷でした!次回は本来予定していた長沢背稜と雲取山を結ぶコースでしょうか。

〈コースタイム〉
高尾山口(18:00) → 高尾山(19:00~10) → 城山(19:55~20:05) → 小仏峠(20:24) → 景信山(20:50~21:05) → 明王峠(22:05~22:15) → 陣馬山(22:50~23:20) → 和田峠(23:35) → 醍醐丸(0:12~25) → 連行峰(1:30~50) → 三国山(2:15) → 軍刃利神社(2:30)【仮眠】軍刃利神社(4:45) → 熊倉山(4:58) → 浅間峠(5:42~6:00) → 日原峠(6:43~7:20【水補給】) → 丸山直下(8:40) → 笛吹峠(8:55~9:00) → 数馬峠(9:45~50) → 数馬の湯(10:35)


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