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集中山行・祖母谷温泉
その4 早月尾根~剱岳北方稜線
飯塚 陽子

山行日 2009年9月19日~23日
メンバー (L)飯塚、小幡、斎藤(吉)、大田

【9月19日】
 昨晩は、さすがに連休前とあって混雑した上野駅発23:33の急行能登に乗車し、魚津で下車。富山地方鉄道に乗り換えて上市で下車し、予約しておいたタクシーで馬場島に入る。馬場島が近くなる頃、ガスが払われギザギザの剱の北方稜線が望めるようになってきた。薄暗い雲の中ではあるが、薄い朝日に照らされたそれは、なんだか空恐ろしい感じで聳え立っており、誰からともなく「本当にあそこに行くの~!?」という言葉が出てしまったのであった。
 さて、馬場島で支度を終え、早月尾根への取付きまで歩く。取付き前に建てられている、剱岳へ登る人への教訓の石碑『憧れと試練』の言葉を、ありがたく?受け止めながら、早月尾根の登りに取りかかるが、早月尾根はしょっぱなから急登の連続で、早くも試練を味わうことになる・・・。ツライ・・・。重荷と目が覚めない体にムチ打って、とにかく標高差約1,500mの急登をひたすら登らなければならない尾根であり、辺りに雷鳥の"つがい"も見かけないせいかモキチさんの勢いも出ないようで、皆でモクモクと登るしかないのであった。
 シルバーウィークの初日ではあるが、早月尾根は静かなもので、登ろうとする人達もまばらであり、別山尾根方面の混雑ぶりは嘘のようである。何回か休憩をとりながら、それでも順調に歩を進めて行き、ようやく早月小屋が近くなってきた頃に、辺りのガスが払われ、紅葉の山々の上に聳え立つ剱岳も望めるようになってきた。
早月小屋にてバックは、剣岳  そしてようやく早月小屋に到着となったが、小屋の幕場エリアは狭く既にたくさんのテントが張られていたが、空きスペースを見つけて私達もテントを張る。尾根上にはほとんど人がいなかったが、小屋周辺には沢山の人がいたので、ちょっとびっくりした。そして我々も準備を整え、入山祝いビールで乾杯!こんな時、ビールの買える小屋のありがたさをしみじみ感じる。剱岳を仰ぎ見ながら飲むビールは本当に美味しかった。
 さて、ビールの値段が高いのはわかっているが、ここでは汲水ができないので水は小屋で買うしかないのだが、なんと水2Lのペットボトルが800円(めちゃ高)であった。明日の行動水も含めて4人で6L=2,400円の支出となってしまった。無雪期の早月尾根を登る人は、水代が惜しかったら下から担いできて下さい。こんなに高いのなら、私たちも水を汲んでくればよかったとちょっと後悔した・・・。この日は、初日の疲れと明日の北方稜線への備えのため、早めに就寝となった。

【9月20日】
 今日はいよいよ、我々早月隊の核心部、剱岳に登頂し北方稜線を越える日である。夜半から風が強まってきたものの、天気は良いようであり、予定通りAM3:00には起床しAM5:00に出発予定で準備を進めていた。
 ところが、関東をかすめて通過していった台風の影響なのか、だんだんと風が強まりだし、ちょっとヤバイかな?と感じたので待機していたが、じっとしていると寒いし、既に外も明るくなりだしたので行くしかないという感じで、予定より遅れてAM5:45出発となった。
 丁度他のパーティーも登り始めたようだったが、池ノ谷方面から吹き上げる風が強く、風に煽られないよう、慎重に登っていった。しかしこの風のお陰で、景色は最高に良く、途中から見た室堂周辺が写真の様にくっきりと見え、まるですぐそこにあるかのように近く見えた。風に押されるかのように登って行き着いた剱山頂は、人、人、人・・・の山。
 こんなに混雑した剱山頂は初めてだ。人にはびっくりしたが、山頂からの景色も今まで見たことがないくらい、驚く程すべて見渡せて本当に素晴らしい。剱山頂から富士山がくっきり見えたのも初めてであったし、この澄んだ秋の青色の空下に連なる北アルプスの峰々は忘れられない光景となった。また、山頂で2年前の冬の槍平で雪崩事故に遭遇した徳島のお二人に偶然にもお会いしたのである。何か三峰との縁を感じつつ、二人共元気に山に登られているようで安心した。
剣岳山頂にて  そして我々は賑やかすぎる山頂を早々に後にして、北方稜線へと進んでいく。この頃にはありがたいことに風もおさまり、長次郎のコルへ下りていく頃には、暑い位のポカポカ陽気となった。長次郎のコルへは、トラバースルートをとらずにそのまま下方へ下り、浅いガリーに入り込んでしまい、ここでちょっと時間をくってしまった。浮石は多いし落石はあるしで、この先も慎重に行かなくてはと自覚させられる場面であった。また、北方稜線に入ってからも人との行き交いが多く、無雪期はこんなにポピュラーなルートになっていることに驚くと共に、このルートは人の行き交いの際に生じる落石が一番危険だと感じた。それでも割としっかりとついている踏み跡を忠実に辿りつつ、長次郎谷、源次郎尾根、八ッ峰等・・・の雄大な景色にも目を奪われながら歩いていった。池ノ谷乗越の下りは、噂通りやはりこの稜線の中で一番嫌らしかった。池ノ谷ガリーはよく見ると踏み跡が結構ついており、我々はガリーの左側をガンガンと下っていったが、先頭の私が途中かなり大きな落石を落としてしまい、下に人がいなくて本当に良かったと安堵そして反省・・・。そして三ノ窓には13:00頃に到着した。三ノ窓からは鋭く切り込んだ池ノ平左股が見えて、小幡さんが剱尾根を登る為にあそこまで登ってきたことを、しみじみと語っていた。是非、三峰メンバーで再チャレンジして欲しいものだ。この三ノ窓から仰ぎ見る小窓の王、ジャンダルム、チンネ・・・等の景色もダイナミックな絶景である。このような絶景を連続して目の当たりにできるのも剱の魅力である。ただ、ジャンダルム側の岩場側面にある溝にコンテナのような?白い箱が取り付けてあったのが、不思議で謎な光景であった。あれはなんだったのだろう??さて、そこから小窓ノ王南壁基部のバンドを登りきれば、行く手に小窓の頭、池ノ平山、小窓雪渓が見の前に広がり、またこの先では行き交う人に会わず、我々パーティーのみであったので、開放感に浸りながら歩くことができた。小窓まではトラバースルートをとり、途中にあるはずのアイゼンを履く予定だった急な雪渓は既に小さくなっていて普通に歩けてしまい、拍子抜けしてしまった。見えているのになかなか着かない小窓には、15:30に到着。雲海が広がる西側の景色がまた素晴らしい。小窓には立派な幕場もあり静かで絶景ポイントなので、ここに泊まろうかとの案も出たのだが、水場&ビールがないのはやはりキツイと断念し、池ノ平小屋へ行くことにした。
 小窓から池ノ平小屋への登山道の取付きの白いペンキマークもくっきりと見え、小窓雪渓を下り、迷うことなくマークから左岸に上がり、あとは池ノ平小屋を目指して歩いていった。小屋には17:00頃到着したが、我々の遅い到着を箭内さんたちは心配して待っていてくれた。箭内パーティーの隣にテン場も確保していてくれて大変助かった。こうして池ノ平小屋で、2パーティーのでのミニ集中第一弾は無事に終了し、まずはビールで乾杯!無事に北方稜線を踏破したメンバー皆が、深い充実感を味わえたこの夜の宴であった。

【9月21日】
 本日も快晴の朝を迎えたー。八ッ峰がくっきりと見えて気持ちのいい朝だ。元気な箭内パーティーは先に出発し、我々も6:15に出発した。

池ノ平小屋出発の朝 バックは八ッ峰仙人池から望む裏剱

 仙人小屋では、有名人の管理人の元気なおばあさんにも会えたし、仙人池では念願の紅葉越しに見える裏剱を心ゆくまで堪能することができた。池には、逆さ裏剱もくっきりと映り、そのあまりの美しさに目を見張るばかりであった。
 さて、ここから仙人温泉を経て、2007年7月から開通したという雲切新道をひたすら下山したが、この新道はロープ&梯子ありの急坂で長く厳しい下りであった。途中から私は右膝に痛みを生じ、最後はヘロヘロな状態で阿曽原温泉小屋に到着。
 この日も箭内パーティーの隣にテン場を確保していただき、大変ありがたかった。そしてミニ集中第二弾は、極楽露天風呂&各種酒付宴会で、もちろん盛り上がったのは言うまでもない。14:00頃はまだ余裕のあった幕場であったが、暗くなってからも続々と到着するパーティーがいて、18:00頃には満員御礼状態。おそるべしシルバーウィークの北アルプス温泉小屋である。阿曽原の温泉は、男子時間と女子時間が交互に交代制で決まっており、女子組はゆったりと2回入ったが、男子組には翌日の朝風呂込みで5回入った強者おじさんチームもいた。この日は温泉にも入れて、さっぱりした気持ちで就寝となった。

【9月22日】
 いよいよ今日は、最終目的地祖母谷温泉へ集中の日である。この日も箭内パーティーが先行し、我々はゆっくりと、しかし気合を入れて出発する。黒部水平道をひたすら欅平へ向けて歩く。よくこんな岸壁に道を作ったもんだと感心しながら、道を外さないように落ちないように歩いていく。
 途中、誰もいないのに不思議な鈴の音が聞こえてきて、皆で、何の音?黒部水平道の怪?不気味等・・・と噂していたら、それは一番後ろを歩く小幡氏が途中で拾ったという鈴を鳴らしていたせいだった。3人で大爆笑!皆が笑ってくれたと、笑いを取ることができた小幡氏もご満悦の笑みで歩いてくる。水平道の歩きにもいい加減飽きてきた頃、欅平の駅が見えてきて、最後の急な道を下って到着した欅平駅も人、人、人で溢れていた。そういえば昨日の阿曽原温泉19:00の女子時間に入ってきた女性は、宇奈月温泉~欅平のトロッコ電車に5時間待ちして乗車し、途中から真っ暗な中を、一人で阿曽原温泉まで歩いてきたと言っていたが、この人々を見たら確かに頷ける。
 欅平では、もちろんビールで喉を潤し買出しをしてから、この人混みから逃れるように祖母谷温泉へ。祖母谷温泉は静かな雰囲気で、いつ来ても落ち着けるとても居心地のいい温泉だ。明パーティー、箭内パーティーが既に到着していて、集中山行締めくくりの宴の準備が着々と進んでいた。明氏が振舞ってくれた手作りホットケーキがとても美味しかった。
 その後別所さん、原口さん、天城さんのベテラン単独組が続々到着し、本日はキャンプ場なので控えめな焚き火であったが、焚き火を囲む円陣が徐々に広がり、この夜の集中打ち上げの宴もたけなわとなる。そして暗闇の中、一番最後に到着したあっこさんパーティーが、この集中山行の有終の美を飾ってくれたのであった。

【9月23日】
 最後の朝は小雨が降っていた・・・。そんな中、ベテラン・シニアチームの別所&天城さんは、我々の辿ってきた北方稜線~剱岳へと向かって行った。その山に対する真摯な行動力には、本当に頭が下がります。
 他のメンバーは(明氏は途中鐘釣駅で下車)欅平駅よりトロッコ電車に乗り、途中の魚津駅で下車し、美味しいお寿司を食べて帰京した。
 早月隊の皆さん、集中に参加された皆さん、本当にお疲れ様でした。

〈コースタイム〉
9/19 馬場島(7:45) → 早月小屋(14:00)
9/20 幕場(5:45) → 2600m稜線(7:05) → 剱岳山頂(9:25~10:00) → 三ノ窓(13:00~13:30) → 小窓(15:30) → 池ノ平小屋(17:00)
9/21 幕場(6:15) → 仙人温泉小屋(7:15) → 阿曽原小屋(14:00)
9/22 幕場(7:05) → 欅平駅(13:00~13:30) → 祖母谷温泉(14:15)
9/23 祖母谷温泉(7:30) → 欅平駅(8:00)⇒帰京

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