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金木戸川双六谷
金子 隆雄

山行日 2009年8月12日~16日
メンバー (L)金子、箭内、飯塚、天城、成田、深谷、渡辺、森田(温)

 金木戸川通いも今年で3年連続となる。一昨年は小倉谷、昨年は打込谷、そして今年は双六谷本谷を目指した。本谷は平水であれば厳しい所もあまりないので本谷を溯行後に黒部川の源流に下降して赤木沢を溯行し、北ノ俣川を下降するという計画を立てた。本谷の成否は水量次第なので降水量と河川の水位は気にかけていた。国交省のWebサイトでテレメータのデータが公開されており、10分間隔で更新されているので付近の観測所のデータを数日前から監視していた。過去8日分のデータも閲覧できる。それによれば7日にちょっとまとまった雨が降り水位も上がっていたが翌日には水位も戻りそれ以降はたいして雨も降っていない。山行中の天気予報もそれ程悪くはなさそうなので安心して出かけた、のだが。

8月11日
 21時半に日暮里駅に集合。2台の車に分乗して出発するも首都高で早速渋滞にはまる。早朝に起きた地震で東名高速が通行止めになっている影響か、中央道に入っても渋滞は続く。金木戸林道ゲートまで入るのを諦めて途中で泊ろうかなどと相談しながら車を走らせたが、結局は最後まで走りきった。しかし手前のゲートが閉まっていて今年は奥のゲートまで入ることはできなかった。着いたのはもう朝の4時近く、直ぐにテントを張って仮眠する。

8月12日
 寝たのか寝てないのか分からないうちにもう起きる時間となり、朦朧とした状態で出発準備を整える。奥のゲートまでどの位かかるか分からないが取りあえず重いザックを背にヨタヨタと歩き始める。この辺の風景は全く見覚えがない、いつも夜中に車で通り過ぎているためだろう。
ゲート前で出発準備中  約1時間で奥のゲートに到着。ここからは歩き慣れた道だ。今日は工事をやっているようで工事用の車が通るが乗せてはくれない。
 いつものように金木戸神社に無事に下山できるよう祈願し、いつものように坂を登りつめた分岐で一休みし、そして広河原でも休みを取る。広河原から先は踏み跡程度の道になり、わずかで小倉谷の出合いに着く。ここからは河原には降りないで、かなりの高みに付いている森林軌道跡へと上がる。森林軌道跡と言ってもその痕跡を見つけるのは難しい。わずかにそれと分かるのは土に埋もれた数本の枕木と短いレールが1本だけだ。しばらくは歩き易いが進むにつれ道は荒れてくる。崩れて道がなくって細い丸太を渡してある所もあり、渡るとグラグラ揺れてスリリングだ。
 小倉谷出合いから1時間半で吊橋に着く。昨年は本流右岸に河原が出ていてそこへ降りて溯行準備できたが、今年は水量が多くて河原がない。右岸より流入する支沢まで行きそこで溯行準備する。この支沢も昨年は涸沢だったが今年はかなりの水量で水が流れている。
 今日は下抜戸の広河原まで行くつもりで溯行を開始する。右岸沿いに進むとすぐに巨岩帯になりいくらも進まないうちにちょっとしたアクシデントが発生する。岩の間の流れを渡ろうとしたヨーコが強い流れに足をとられて一段下の落ち込みまで流されてしまった。足は着いているようで何とかふんばっているが引き上げるのが大変だ。森田さんの頑張りで何とか引き上げることができて事なきを得た。気を取り直して先へ進もうとしたが、この水量では暗くなる前に幕場に着くことは無理そうなので先へ進むことは断念して引き返すことにした。
 吊橋付近の右岸にも泊まれそうな場所はあったが薄暗くジメジメしている。対岸は明るく開けた河原があり泊まれそうな場所もあるが水量が多く渡渉が大変そうである。吊橋は壊れかけて斜めになっているので渡るのは危険そうだ。どうしようか迷っていると後から来た男女数名のパーティーが対岸へ渡渉を始めた。我々は橋の袂でそれを眺めていたのだが最後のほうを渡っていた女性がよろけた途端にあっという間に数十メートル流されて白泡の激流へと消えていった。あかーん、もうダメかもと思ったがしばらくして岩の陰に動いているヘルメットが見えた。直ぐに仲間が駆けつけたが、引き上げるのに苦労しているようでなかなか上がってこなかったが怪我もなく無事だったようだ。
 我々も対岸へ渡って泊まることにしたが先ほどの惨事を目の当たりにしているのでロープを出して慎重に渡渉した。吊橋に近い所にタープとテントを張り今日の泊まり場を設営する。焚き火も燃え上った午後も遅い時間に3人組の若者パーティーが渡渉してやってきた。夜半から雨が降り出す。

吊橋付近の泊り場 8月13日
 昨夜からの雨は朝になっても降り続いていた、天気予報通りだ。取りあえず起き出したが停滞を決める。水位は昨日より10cmほど上がっているようだ。朝食後またシュラフに潜り込んで二度寝を決め込む。
 若者3人組は突っ込むようで、小雨の中を出発して行った。右岸を行けば少しは楽なのに彼らは左岸を苦労して藪に突っ込んで高捲きながら進んで行った。結局、彼らは諦めたようで戻ってきて下山して行った。昨日、渡渉中に流された女性のいたパーティーも敗退を決断したようで下山して行き、残ったのは我々だけになった。天気予報では明日以降は好天とのことなので粘ることにする。
 午後になると雨も上がり、水位も徐々に下がってきて昨日と同じ位になってきた。水位が下がったと言っても昨日と同じになっただけで昨年の同時期と比べると格段に多い。

8月14日
 快晴の朝を迎える。今日は何処まで行けるか、最低でも下抜戸の広河原まで、あわよくば蓮華谷出合いまで行ければと見積もるがこの水量ではそうは簡単にはいきそうにないことが予想される。遅くなったが7時45分に幕場を後にする。
 左岸を進むのは厳しいので右岸へ渡渉して一昨日と同じルートで進む。巨岩帯を大岩を乗越したり岩の下を潜ったりして進んで行くと大きな淵に行く手を阻まれる。打込谷出合いの直ぐ手前だ。谷幅は広いがゴルジュ帯なので捲くことは叶わない。幸いなことに対岸までロープがフィックスされており、これを使わせてもらって渡渉する。打込谷も何処を渡渉するか迷うほどに水量が多い。女性を含む3人組パーティーが追いついてきていたが打込谷にでも入ったのか以後姿を見ることはなかった。
フィックス頼りの渡渉  打込谷出合いを過ぎると渡渉は更に厳しさを増してくる。渡渉の度にロープを出さざるを得なくて時間がかかる。渡渉では抜群の安定感を見せる箭内さんがリードしてくれて大助かりだった。
 遠くに先行しているパーティーの姿が認められる。昨日の午後にやって来て吊橋付近に泊ったパーティーのようだ。なかなか難儀しているようで我々が追いついてもその場所を動いていなかった。トップがザイルを付けて激流を飛び越えようとしているが踏ん切りがつかないようで躊躇っている。我々が追いついたことでいつまでも躊躇しているわけにもいかないと思ったのか意を決して飛び越え、見事対岸へ渡って行った。一同から拍手が沸き起こる。しかし、後続が渡っている最中に流されてしまう。ザイルに捉まって耐えているが行くも戻るもできない状態になってしまい、我々も手伝って何とか引き上げることができた。これで意気消沈してしまったのか彼らは先へ進むのを止めて戻るという。我々は彼らが張ったロープを使わせてもらいクリアする。
 なおも厳しい渡渉は続く。1ヶ所水流通しには進めずに左岸より捲いて降りる。右岸よりセンズ谷が出合い、少し行くとゴルジュが終わりホッとする渓相になってくる。開けたゴーロ帯を進み、谷が左に屈曲する辺りに広い砂地の河原が現れる。下抜戸の広河原に着いたようだ。時刻は14時を少し過ぎたところ、ここまでかかった時間を考えると今日は蓮華谷出合いまでは無理なのでここに泊ることにする。
 広くて砂地で寝心地は良さそうだし、薪も沢山あって盛大な焚き火ができそうだ。この上なく良さそうな泊り場だ。天気も良く開放的な場所なので夕方までのんびりする。
 しばらくして2人組のパーティーがやって来た。大人数の我々を避けてか少し上流に泊るとのことだ。それは賢明な選択だと思う。

8月15日
 今回の山行の残り日数はあと2日、赤木沢は諦めて日限までに下山することを考えなければならない。普通ならば問題ないはずだ。
 今日は早出することができて6時過ぎに出発する。しばらくは穏やかな河原が続く。昨日、遅れて到着した2人のパーティーはまだ出発していなかった。河原は直ぐに終わり右岸より美しい滝で出合う支沢が入ってくるとゴルジュ帯となる。昨日のような厳しい渡渉が待ち構えているのかと心配したがそうでもなかった。気楽に渡渉できるわけではないがロープを使わずに渡渉できるので快調なペースで進むことができる。出発して2時間ほどでキンチジミまで来た。これがそうかという程度のものだ。左岸側のチムニー状の岩を登るのだが、チムニーの中に入るとかなり登り辛いので空身でチアキがチムニーの左側のカンテ状を登る。後続はお助け紐で引っ張り上げてもらう。
キンチジミで奮闘するチアキ  ここから1時間ほどで蓮華谷出合いに着く。随分荒れた感じがする所だ。本流との間に土砂が高く堆積しており、泊るとしたらこの上になるのだろう。蓮華谷出合いを過ぎると水量も随分と少なくなってくる。ゴルジュも終わっているので気分的にはかなり楽になる。やがて双六谷で唯一の滝と言える六千尺の滝が現れる。釜は大きいが高さは3mしかないので迫力はない。左側をへつって行って登れそうだ。しかし、右岸を簡単に捲けるのであえて登るまでもないので捲いて行く。
 左岸より出合う抜戸沢を過ぎると雪渓が出てくる。まだしっかりしているようなので上を通過する。その先にもまだあったが崩壊して両岸だけ残っている状態なので問題なし。
 今日は双六小屋まで行きたいと思っていたのだが、行けども行けども二俣にも辿り着かない。暗くなる時間も迫ってきて泊る所を見つけなければならないが、なかなか見つからずに焦りがでてくる。もうここしかないだろうという所を見つけた時には16時になっていた。ちょっと斜めだが広さは十分にある。対岸に雪渓があって寒そうだが贅沢は言っていられない。焚き火はできたが最近まで雪渓に埋まっていたような木しかなくて盛大な焚き火とはいかなかった。
 もう皆、酒も持っていないだろうと思っていたが結構出てくるもんだ。雪渓もあるし標高も2300m位まで上げているので今夜は寒いだろうと覚悟していたが、皆それなりに対策して寝たのでそれ程でもなかったようだ。

8月16日
 今日も朝から晴天で暑くなりそうな予感がする。下山日にこんなに晴天にならなくてもよいのにと思ってしまう。
 出発して直ぐに最後の二俣に着く。左へ行けば双六岳に直接突き上げ、右へ行けば双六小屋へ詰め上げる。ここで間違えば最後にケチがついてしまうので慎重に現在地を確認して右へ進む。直ぐに水は涸れるが沢形はずっと続いており忠実に辿っていくと藪漕ぎもなく双六池へと続く草原に至る。幕場から1時間強だった。
藪漕ぎもなく草原に詰め上げる  池のそばのテント場にまだいくつかのテントはあるがそれほど多くはない。今日はもう16日なので下山してしまった人が多いのだろう。
 溯行終了の余韻に浸っていたいところだがのんびりとしている余裕はない。車を回収しに行かなければならないし、下山が遅くなれば帰りに渋滞に巻き込まれる可能性が高くなる。沢装備を解いて、箭内さんと私とで車の回収のため一足先に下山することにした。共同装備を後続に託して下山を開始するも直に後続に追いつかれてしまった。まだ荷物が重いようなのでまた少し減らしてもらって、メンバーも箭内さんから渡辺さんに交代して仕切り直しだ。
 しばらくは渡辺さんの速いペースに付いて行けていたがだんだんと間が開くようになってしまった。途中から少しペースを落としてくれたようで何とか遅れずに歩けるようになる。それにしても人が多い、下山する人、登ってくる人、途切れることがない。
 目標に設定した12時ぴったりにバスターミナルに着いた。直ぐにタクシーで金木戸林道に置いた車の回収に向かう。こんなに長かったかなあと思うほどタクシーは走り続ける。ゲート前に置いた車に乗り込むと中は灼熱地獄のようだ。バスターミナルに戻ったのは13時頃、既に皆は下山しているだろうと思っていたが誰もいない。バスターミナル付近は駐車できないので橋の近くへ移動し待つことにする。待てども待てども待ち人来たらずで、行き違いになってしまったかと再度バスターミナルに行ってみてもやはりいない。待つこと1時間ほど、14時頃に全員が下山してきた。時間調整しながら降りてきたとのことだった。
 温泉に入った後、渋滞を避けるため上信越道~関越道で帰宅の途に就いた。

 3年続いた金木戸川だが3回ともに溯行できて幸運だった。これで当分はここに来ることもないだろう。

〈コースタイム〉
8/12 金木戸林道ゲート発(7:00) → 広河原(10:30-45) → 双六谷吊橋(12:35) → 幕場(14:00)
8/13 停滞
8/14 幕場発(7:45) → センズ谷出合(12:55) → 幕場(下抜戸広河原)(14:15)
8/15 幕場発(6:05) → 蓮華谷出合(9:30) → 六千尺の滝(11:20) → 幕場(16:00)
8/16 幕場発(6:25) → 二俣(6:40) → 登山道(7:40~8:00) → 鏡平(9:10) → わさび平(11:05) → 新穂高温泉(12:00)

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