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きのこハイク・信越トレイル
山崎 邦子

山行日 2009年10月17日~18日
メンバー (L)山崎、佐藤、別所、成田

 信越トレイルは、新潟県と長野県の県境・斑尾山~関田山脈の尾根に沿って整備された全長約80キロの自然歩道。かつて里の集落を結んで歩かれた信州~越後往還の峠道や山道をトレイルコースとして整備したものだ。
 関田山脈は最高峰が鍋倉山の1288mと標高はさほど高くないので登山道と呼ぶには大げさだが、いくつもの小ピークを登り降りするし、低山ながら豪雪地のため植物が多彩、湿原や池があり、里が近いため石仏や砲台跡などの遺構も見られ、歴史や文化にも触れられてなかなか興味深いルートだ。
 この信越トレイルが一部整備され、これから要チェックか? と、私が最初に注目したのは2006年の春のこと。6月に斑尾山~富倉峠を1泊2日で歩き、ハイカーがいないこと、残雪でコースが不明瞭だったことで、山を独占したような心地良い気分でハイキングが楽しめた。道わきにはカタクリ、キクザキイチゲなど春の花が群生し、ブナの森の眩しい新緑、イワイチョウやリュウキンカの花が咲き誇る湿原など、様々な美しい景観に感動して、これはまた別ルートも繋いで歩いてみなければ!と思ったのだった。
 以来、2007、2008年と1年に1回のペースで信越トレイルを歩き、気づけば、残すはあと半分。そこで、今回は未踏の鍋倉山~伏野峠を1泊2日で歩くことにした。最初に歩いたのは春だったが、ブナの森はキノコの宝庫!ということで、その後はずっと秋に歩いてキノコハイクを楽しんでいる。過去2回ともそこそこ豊作だったので、今回もその趣向で計画したのだが・・・。
 信越トレイルの難点は、登山口に入る林道があちこちにありながら、そこまで行く公共の交通機関がまったく無いということだ。マイカーで行った場合は、往復しないと車のピックアップができない。しかし、それでは面白くない。2台あれば交差縦走が可能だが、今回は1台だったので「マイカー回送サービス」なるものを利用することにした。登山口まで我々と一緒に行き、その後、下山口に車を回送しておいてくれるというシステムだ。料金は距離によるが、今回は2日間とも1日5000円。高いか安いかは何ともいえないが、普通にタクシーを利用するよりは安いし、下山してすぐマイカーで移動できるのも便利だ。
 東京前夜発で、豊田飯山ICを出てすぐの道の駅にテン泊。1日目は戸狩温泉「望の湯」の駐車場で7:30にマイカー回送会社と待ち合わせ、巨木の谷登山道入口へ向かった。この入口は2007年に一度来ているが、案内表示もなく見つけ難い。しかし、今回は少し先に大きな駐車場ができていてすぐわかった。信越トレイルも年々整備が進み、歩く人も増えているのだろう。
 しばらくは広葉樹の森を行くなだらかな登りで、早速キノコ目になって地面を探す。が、すぐに「何か・・・違うな」と感じた。2007年に同じ時期に来た時は、この道でシャキシャキした良質のナラタケをたくさん収穫したのだが、今回は雑キノコも出ていない。何よりも下草が乾いていて落葉がカサカサだ。しばらく雨が降っていなくて地面が乾燥しているという感じ。これではキノコはおがらない!(※『おがる』とは北海道の方言で大きくなる、成長するという意味です。)それでも倒木周辺を探して、チャナメツムタケ、ナラタケをぽつぽつ採り、ブナハリタケ少々、まだ出たばかりの小さなナメコなどを採る。キノコ採取スタイルでばっちり決めた別所さんは、果敢にヤブをこいで森の中の倒木を見に行き、食べごろのチャナメツムタケを何本も収穫していた。大収穫を目論んでいたナラタケはどうやらハズレだったが、巨木の谷の名所「ブナ姫」「ブナ太郎」、ちょうど見ごろのブナの黄葉を楽しみながら稜線へ。キノコを探しながらなので、通常より時間がかかったため、山脈最高峰の鍋倉山はパス。黒倉山へと北上する。

ブナ姫(2007年秋撮影)2009年はもっと傷みが進んでいましたナイフでナメコ採取中!

 尾根に出ても道脇は樹林に覆われ展望はあまりないが、黒倉山頂では新潟方面が開けて、彼方に弥彦山や直江津方面、日本海まで見渡せた。ここからはまた樹林帯の道だが、ブナを中心とした広葉樹なので明るい。なだらかな場所では森の中に入ってキノコを探すが、とにかく少ない!収穫が無いと疲れるもので、後半はペースも早まる。関田峠で一度林道を分け、梨平峠から牧峠へ。ゴール直前にナラタケを数株採る。牧峠にはしっかりと成田号が待っていた。
 午後1時半には下山したが、今日はこれからがヤマ場。焚火のできるテン場探しと夕食の買出しだ。キノコの収穫が少なかったので食材は別途調達しないといけない。水場があり、人のこない場所ということで、牧峠近くのため池わきに張ることにする。水場はなかったが、そこへ行く林道の途中に勢いよく出ている水場があったので、コッヘルや全員の水入れ器を総動員して汲んで運ぶ。
 幕場が決まり、私と成田さんが買い出し組、明さん、別所さんが薪拾い組に分かれて作業に入る。スーパーは戸狩野沢温泉駅近くまで行かないとしっかりした店はなく、テン場から買い物時間も含め、往復1時間半ほどかかった。幕場に戻ると既に焚火が起こっていて、明さんお得意の「牛フィレ肉の串焼き」が仕込まれていた。焚火を囲んで気持ち良くなっているところに突然スコールが来たり、またやんだりと、なかなか落ち着いて焚火宴会ができなかったのは残念だったが、キノコは不作ながら、豊富なツマミと食材いっぱいの鍋やお酒で大いに盛り上がった一夜だった。
 翌朝は晴天。マイカー回送会社と7:30に牧峠で待ち合わせる。今日は牧峠から続きコースを北上する。また下山口の伏野(ぶしの)峠に車を回送してもらう。
 2008年秋に、北寄りのコースでブナハリタケを大量ゲットしており、「今日はブナハリタケを採るぞ!」と意気込んでみたが、少し歩き始めると地面の様子は昨日と同じで、期待薄~である。30分ほどで本日の最高峰、1069mの花立山に着く。登山道からははっきりした山容に見えたが、登ってみるとどこがピークかわからないし山名標もなかった。斑尾山のある南方面のルートに比べると、北方面のルートの方がアプローチも不便でハイカーも少なく、まだ整備途中なのだろう。あまり人の手を入れないで今のままでも十分だと思うが。
 標識のある宇津ノ俣峠に着く。ルート上には峠の名が多い。林道が交差している場所はもちろんだが、特に交差した道のない鞍部に峠名の標識があって、峠なんだ~と気づかされる。かつて越後~信州間を行き交う峠道のひとつだったのだろうが、今、新潟側、長野側の斜面を覗き込んでも道はなくヤブが続くばかり。時とともに消えていった道の名残は、かすかな谷筋地形で感じられるくらいだ。
 新潟側は急峻に落ちているが、長野県側がゆるやかな地形となる場所にブナの原生林に囲まれた「幻の池」がある。川や水場の無い尾根に周囲300mもの池があるのはちょっと不思議。何故に幻なのか、時期によっては消えるのかな? とも思ったが、消えそうもないそこそこ大きな池だ。畔で休憩していると、反対方向から、多分、信越トレイルクラブのガイド案内のツアーらしき一団がやってきた。ガイドの説明を盗み聞きすると「池の水源は不明ですが、湧き水ではないかと推測されています」とのこと。その間、キノコ不作で探す気力のない私をよそに、成田さんと別所さんは池の畔の倒木を探してしっかりナラタケを収穫していた。エライ!
ブナの天然林に囲まれた幻の池  幻の池には、ゴールの伏野峠までは3.1kmとの標識があった。ここからは峠までは特に美しいブナの森が続く。豪雪地ということで雪に曲げられた大木を想像してしまうが、標高が低いせいか、風向きの影響か、真っ直ぐに伸びたブナの木々が林立するきれいな森が広がっている。途中の倒木で取り残しのブナハリタケなどを収穫し、小さなアップダウンを繰り返しながら、昼前に伏野峠に到着。2日間で約17kmのトレイルを踏破した。
コースには美しい黄葉のブナ林が広がる  帰路は北側のルートにいるので津南から越後湯沢に出て関越道で行く。途中、道の駅・信越さかえに寄り、「キノコ販売」の旗印に誘われて店頭のキノコを見学。天然クリタケが1パック900円「高いっ!」。しかし、今回はターゲットのひとつだったクリタケは、まったく株が無く、5本くらいしか採れなかった。時期や気候を外すと、以前収穫があった場所でもまったくダメだということを実感した。本当に自然って気まぐれで難しい・・・。
 下山後入浴は「百合居温泉」へ。以前、立ち寄ろうとしたが場所がわからなくてたどり着けなかった。明さんが行ったことがあるというので案内してもらうと、確かにわかりにくい。突然、川沿いの田畑の横にプレハブ造りの質素な建物が現れた。信越トレイルのマップや観光パンフに載っているので、立派な温泉と思っていたのでビックリ。しかし入ってみるとお湯はとても良い! 地元の人に愛されているまさに「ふだん着の温泉」だ。
 目的だったキノコ収穫はイマイチだったが、車と装備を参加の皆様にご協力いただき、ブナの黄葉をめでながら秋満喫のハイキングが楽しめました。ありがとうございました。残すはあと1回、富倉峠~鍋倉山ルートのみ。今度は久々に山菜を楽しみながら春に歩くのもいいかもしれない。

プレハブの外観が粋な百合居温泉
〈コースタイム〉
10月17日 巨木の谷入口(07:50) → ブナ姫(08:30) → 稜線(10:17) → 黒倉山(10:30) → 筒方峠(11:00) → 関田峠(11:15) → 梨平峠(12:00) → 牧峠(13:23)
10月18日 牧峠(07:40) → 花立山(08:15) → 宇津ノ俣峠(09:09) → 幻の池(10:10) → 伏野峠(11:40)

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