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剱岳源次郎尾根
永田 尚大

山行日 2010年5月1日~4日
メンバー (L)荻原、大田、星野、永田

 11月から始めた雪山もこのGWの剱岳でいよいよラスト!パーティーは4月の爺ヶ岳と同じで、荻原さん(リーダー)、大田さん、星野さん&自分の4人。

 源次郎尾根は、剱岳の頂上から劔沢に向けて高度差950m、美しいラインで落ち込む急峻な尾根である。北に長次郎谷、南に平蔵谷という剱岳を代表する2つの谷にはさまれ途中に2つのピークをもつ。とくに雪をまとった尾根は美しく、登りがいのある素晴らしいルートになる。
(日本のクラシックルート―アルパインクライミング・ルート集)

5月3日
 いよいよ起床の2:30が近づいてくる。今日も昨日に続き、風が強い。本来は5/2に源次郎尾根を登るはずだったが、テン場で強風が続いていたため5/2は一般ルートからの登頂に変更していた。しかし実際は源次郎尾根を登っているパーティーは複数あり、山頂付近もそれほど風は強くなかった。テン場の剱沢は強風だったのに・・・この辺の判断は難しい。
ということで翌3日はテン場の風が強くても源次郎尾根を登ることが決まっていた。いつも通りの準備をしてテントの外に出る。室堂方面の上にある月のせいで外は明るい。満月ほどではないが。
 4:00源次郎尾根の取り付きに向かって出発。月光を背に受け、適度に雪が締まった剱沢を懐電をつけた4人が横一列に並び、ざくざくと下りていく。剱沢の奥に見える鹿島槍(?)の上空にかかっている雲が紅く染まり始めた。ここで大キジを撃った。(←失礼!)
剱沢はあまりに大きく距離感が狂う。源次郎尾根は大きくはっきり見えるのだが、なかなか近づいてこない。それとも自分の体が近づくのを拒否しているのだろうか。懐電の必要がなくなったころ、取り付きに到着した。
源次郎尾根の取り付きに向けて  装備の再確認を行う。ビバーグ用のガスコンロ、ツェルト、ビナ類・・・etc。全て揃っている。ポカリを一口飲む。全ての準備は整った。
 5:04 Climb ON!! 急傾斜のルンゼをじわりじわりと登っていく。ハア、ハアという自分の呼吸音だけしか聞こえない。いや、ピヨピヨという鳥のさえずりも聞こえるか。先行パーティーが作ってくれたステップを使わせてもらう。それにしてもスカイラインが遠い。あそこまでいかなければならないのか。どのくらいの時間がかかるのだろう。1時間か2時間か。それに休めそうな所が全くない。一度、スリップしてしまえば剱沢に逆戻りだ。先行パーティーが落としていく細かな氷がヘルメットにコツコツと当たるのが気になる。雪の状態が良くないのか。先行パーティーを含めほとんど全員がピッケル1本で登っているが自分はアックス2本をストックのようにして登る。なりふり構ってられない。こっちは必死なのだ。ダブルアックスにすると足は多少、アバウトでもOK(な気がする。)なのでスピードが上がる。
ダブルアックスでガツガツと登る  とにかくこんな所、速く抜け出したい。あのスカイラインまで行って水を飲みたい。最初からこのプレッシャー。本当に剱の頂上に立てるのか?結局、ルンゼの終了点まで1時間半、登り続けた。
 ハイマツでセルフビレイをとり、水を飲み、クッキーを食べる。平蔵谷から吹き上げてくる風が冷たい。あまり長くはじっとしてられない。わずかなブッシュ帯を抜けると再び、急峻な雪壁。ダブルアックスでガツガツ登る。しばらくすると今度は左上にトラバース気味になる。正体に比べると側体でのトラバースは難度が上がる。右足を前に出す。左足を右足のアイゼンに引っかからないように慎重に前に出す。足のすぐ下には平蔵谷が口を開けて待っている。なんと恐ろしい。上を見ると先行パーティーがロープを出しているのが見える。左から右への水平トラバースのようだ。
慎重にトラバースをこなす  トラバースを終え、岩場を抜けるとまたも急な雪稜。ここまできたらもう引き返せない。やれるところまでやってやる!登り始めてすぐにハイマツが完全に雪の下に埋まり、見通しがよくなった。右手には鹿島槍や爺ヶ岳、後ろには別山が見える。
 そしてついにやってきた、ナイフリッジ!
いつものように落ちた時、左右どちらが被害が少なさそうか確認する。左に平蔵谷・・・右に長次郎谷・・・。ウム、どっちに落ちてもダメそう。(ここまで3.0秒←遅い!)頼む、風よ吹かないでくれ、と祈りながらナイフリッジを渡る。渡りきったところがI峰ノ頭。ここで始めてザックを降ろすことができた。フウ~まだ、II峰があるんだよなあ。I・II峰のコルまでは急な下り。これ苦手。顔を山側に向け慎重に下りていく。そして登り返し。すると、またナイフリッジが待っていた。ナイフリッジを終えると次は30mの懸垂下降が待っているはずなのだ。まず、荻原さんが先行していき、ロープをFIXする。自分は3番目で、スリングをプルージックで結んでナイフリッジを通過する。
怖、楽しいナイフリッジを進む  一歩目はこわごわ足を出したが、プルージックで確保されているという安心感もあってか、どんどん進むことができた。というか、これ楽しい。ワーイ!ナイフリッジの中間で360度見回してみる。
青い空!
白く輝く雪稜!
黒く光る岩!
全てが鮮やかでくっきりとしていて美しい。現実じゃないみたいだ!?
 ロープの終点まで行き、セルフビレイをとる。次は苦手の懸垂下降。時間がかかりながらもクリア。ケツに体重を乗せればいいんだというのがちょっとだけ分かった(気がした。)
青い空と太陽のもと、II峰の懸垂下降  後は、頂上まで難しいところはない。気温が上昇しているせいで雪がグズグズしてきた。頂上には昨日と同じで10人くらいの人がいた。大脱走ルンゼを降りるというスキーヤー&ボーダーも複数いた。こんなに急なところスキーで滑っておりるなんて・・・。帰りはカニの横ばいを通った後、平蔵谷をシリセードで一気に剱沢まで。ここからテン場までの長いこと、長いこと。

〈コースタイム〉
5月3日
源次郎尾根取付(05:00) → I峰(07:30) → II峰懸垂下降開始(09:30) → 剱岳山頂(10:30) → 平蔵谷と剱沢の出合(13:00)


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