トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ333号目次

遠見尾根~五竜岳
星野 剛

山行日 2010年3月20日~22日
メンバー (L)荻原、星野、権、永田

 夜半過ぎ、隣で寝ていたおっちゃんがガバっと飛び起きた。
「おさけ、お酒はどこですか?」
『どうしたの?いつもは飲まないのに?』
「全然・・・寝られないんです・・・」
無理もない。テントの端で眠るおっちゃんを北風が何時間もの間ずっと揺り動かし続けているのだから・・・
 3月の3連休を使って、五竜岳・遠見尾根に挑戦することになった。『ゆかいな仲間たち』も少しずつレベルアップしている。(いつまでもゆかいなだけではありません!)
 木曜の夜は仕事も早々に切り上げて新宿に集合し、車で白馬五竜スキー場へ。
 天気予報によると、初日と3日目は天気がいいのだが、2日目の天気はかなり悪いようだ。天候の悪化が分かっていて山に入っていくのは、若干の不安と共に正直気乗りしないところもある。
 まずは「テレキャビン」というゴンドラに乗って高度を稼ぐ。終点からは歩き。結構急な斜面に、スキーの跡が真っ直ぐについている。直滑降・・・ではなく、登高の跡らしい。冬山が分かるようになったら、次はバックカントリーでスノーボードに挑戦しようかと密かに思っていたのだが、スキーならこんな斜面まで登れてしまうのでは勝負にならないなあ。左手に鹿島槍の北壁が見えてきた。白と黒のコントラストが実にきれいだ。
鹿島槍・北壁 いつかはあそこへ!  おっちゃんは調子がいいみたいで、サクサクと進んでいく。進んで、進んで・・・見えなくなってしまった。(歩くのが楽しくて楽しくて仕方がなかったそうだ)。なんとか追いついて、尾根の途中で設営。明日の天気が悪いなら今日行ってしまいたいなあとも思ったが、今夜からかなり風が強くなるということで、テントの周りにしっかりと雪のブロックを積んで備えることにする。設営後、偵察のために少し上まで登ってみることに。ブロック作りでもうヘトヘトだったのだが、明日は行けないかもしれないので行ってみることにする。1時間ちょっと、白岳取り付きの目の前まで来たかなというところで時間切れ。
結局ここがこの旅の最高到達点になった  夜半から風が強くなってくる。風に押されてテントの屋根が目の前に迫ってくる。ポールは折れないだろうか?テントは破れないだろうか?積み上げたブロックは役に立っているのだろうか?不安でなかなか寝付けない・・・冒頭のような出来事もあり、夜半を過ぎた頃に疲れからかようやく眠りにつく。
 2日目:朝から雪。風は弱まったけれど視界はもの凄く悪い。あれだけ積んだブロックはどこかに飛んでしまったのか、それとも雪に埋まってしまったのか、付近と同化してしまっている。天気はこれからますます悪くなる予報。早々に本日の停滞が決定。隣のテントのパーティーは撤退するようだ。下山とはいえこの天気では行動するのは厳しいのではないのかなあと思いながら見送る。お菓子を食べながらこの天気はどうなるか、明日はどう行動するかを話し合う。おっちゃんはウトウトしている・・・
 夜にかけてまた強まる吹雪の中、3時間おきに外に出てテント周りの除雪を行う。きれいに掘り出したはずのアイゼンやらピッケルやらがそのたびに雪に埋まって見えなくなっている。改めて自然の力に感嘆する。風は相変わらず強いが、もう慣れた。開き直ってぐっすりと眠る。
 3日目:雪も風もすっかり止んで、さながら台風一過の澄み渡った空。鹿島槍が、五竜が朝焼けに赤く染まっている。モルゲンロートというらしい。遠見尾根は2つの山を見る特等席だ。うって変わっての好天で五竜岳の山頂もはっきりと見えるが、昨日の積雪のために厳しいラッセルや雪崩の危険が予想され、山頂まで行くことは難しいとのこと。残念ながらここまで、である。
 車の置いてあるスキー場まで戻る途中、多くのスキーヤー、ボーダーとすれ違う。雪のあとの好天は彼らには最高のコンディション。みんな嬉しそうな顔をしている。ここで下山するのは非常に残念。すると、おっちゃんが言った。「北アルプスの厳しさを知ることができました。最高の山行でした」。そこで僕は初めて気がついたのだった。登頂するばかり、成功するばかりが大事ではないのだと。山の入口で「吹雪がどういうものか、停滞することがどういうものか」ということを体験できただけでも、来てよかったんだ。早々に撤退して家で寝ていたら、きっと分からなかっただろう。でもおっちゃん、この冬は西穂も五竜も山頂を踏めなかったんだよな・・・今度は絶対に登頂しようね

〈コースタイム〉
3月20日五竜スキー場(08:38) → 幕営地(1900m)到着(13:00)
3月21日終日停滞
3月22日記録なし

トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ333号目次