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雲取山
小堀 憲夫

山行日 2010年4月24日~25日
メンバー (L)小堀、江村(皦)、田原

 雲取山は高校2年の時に生まれて初めて登った山らしい山だ。裏がツルツルのバックスキンのタウンシューズとセーターという装備で、季節は2月。当然よく滑ったし寒かった。従兄弟と2人、鴨沢からのポピュラールート。今から三代前に当たる頂上の避難小屋に泊まる予定だったが、予想以上に時間がかかり、七つ石小屋に荷物をデポして空身で頂上をピストンした。何故か頂上で縄跳びをした覚えがある。あのころ流行のトレーニングだったのかもしれない。それとアラジンの魔法瓶に熱燗を入れて行き、頂上で祝杯をあげる予定だったが、当時は中ビンがガラス製だった魔法瓶のこと、割れていて飲めなかったのを思い出す。随分早くから酒を飲んでいたのだなぁと我ながら感心?!してしまう。暗くなりかけた道を小屋番の居ない小屋に戻り、火を起こし、おしゃべりしながら適当に食事を済ませて就寝。朝起きると小屋番が上がってきていて、一緒に朝飯を食べながら山の話などしてから下山したのを思い出す。当時はのんびりしていた。
 その後、雲取山には沢登りルートも含め、色々なルートから登った。中でもヨモギ尾根ルートが一番好きだが、今回の富田新道も雲取山東斜面の野陣尾根ルートで、日原林道を登山口までかなり入らなくてはならない為あまり利用されず、比較的静かに登れる好ルートでなかなか良い。我々は車で登山口まで入った。途中、釣り人だろうか、2~3台車に出会った。林道脇に車を停めていざ出発。急ぐ旅でもなし、休憩しながらのんびり登った。ただ、途中豊かなブナ林を見ることができるはずだったが、今回それほどでもなくなっているのに少しがっかりした。江村さんは相変わらず足が早い。周りの樹木を観察しながらも、勢い良く先頭を切った田原さんをいつの間にか追い抜いていた。やがて見覚えのある石尾根が見えてきて、奥多摩小屋少し上の小雲取山に出た。尾根に出る少し手前で小雲取沢でも遡行してきたのだろうか、沢登りの格好をした登山者とすれ違った。後は鴨沢からの登山者達に混ざりながら石尾根を詰め頂上に到着。2億円かけて建てたログハウス風の避難小屋を初めて見た江村さんと田原さんはその立派さにビックリ。まだ時間に余裕があったので、小屋脇の岩場に腰掛けて一杯。のんびり景色を楽しんだ。頂上から雲取小屋までは北斜面になる為、所々道が凍っていた。元気なオジサン2人に先に行ってもらい、膝に不安のある小堀は、軽アイゼンを付けてゆっくり下った。
 やがて着いた雲取小屋はまるで北アルプスのそれかと見まがうほど立派な山小屋だ。小屋の前は登山者で賑わっていた。先行の2人はベンチを陣取り早速一杯の続きをやっている。後続者も混ざり乾杯!顔見知りらしく、小屋番の1人が田原さんに挨拶に来たりした。つまみも適当に出てきて、酒も進むし、おしゃべりも弾む。このオジサン達はスルメみたいに噛めば噛むほど味が染み出てくる人生の達人だ。この人達とのこうしたひと時がとても楽しい。やがて寒くなってきたので、小屋に入った。
噛めば噛むほど味が染み出る人生の達人です  小屋は幸い個室貸切で広々使えた。ただ夕食時には、登山客が一度に食堂に入りきれないほどの盛況ぶりで2~3回戦に分けての夕食となった。隣の席になった若い女性の登山客に田原さんはゴキゲンで自慢話。素直なその乙女達は真剣に田原さんの話を聞いていて、
「本当にすごい方なんですね~!」
とあまりにも率直すぎる感想をもらしていた。
 部屋に戻り、田原さんの好きな荒井由実を小さなボリュームで流しながらしばし歓談していると、直ぐに消灯タイムが来てしまった。随分早いななどと文句を言いながら、歓談を続けていると、やがて先ほどの小屋番が我々の部屋に入ってきて、
「もう寝てください。これ以上一言もしゃべらないでください」
と叱られた。予想はしていたが、田原さんは普通の小屋泊りには適さない人だと、つくづく思い知った。声を落としても小屋の隅々まであの声は届いてしまう。
 翌朝、大ダワ林道を下り、車まで戻った。所々崩壊している箇所があったが、途中土木作業の道具などがデポされており、整備が進んでいる様子だった。
 最近、このオジサンパーティー例会が続いている。まだオレはオジサンの仲間に入りたくないよ!、という焦りの気持ちと、この人生の達人達がオレを仲間に入れてくれるのかという誇らしい気持ちとが入り混じり、複雑だ。しかし、これはこれで十分楽しい味わいの山行だ。今度はどこへ行こうか。
 ところっで、今回の雲取山は思い返せば人生の節目節目で何回か登っている。気持ちの整理が主な目的で登っている日記みたいな山だ。あの時は何があってどんな心境でこの山に登ってきたのかと良く覚えている。仲間との楽しい思い出もいっぱいあるし、切ない思い出もある。今回もある意味日記山行だった。これからも何回も登るんだろうな。よろしく、雲取。


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