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温泉山行・安達太良山
杉本 弓子

山行日 2010年8月28日~29日
メンバー (L)佐藤、川崎、橋岡、渡辺(智)、内田、杉本

 猛暑が続いた2010年夏。平年なら秋の気配も感じようという8月最後の週末に、私たち6名は「真夏の夜の夢!?」とも思えるような、めくるめく山行を体験してきました。タイトルには計画書に従い「温泉山行」と記しましたが、それはほんの一部。実際には、プチ観光に始まり、美渓の沢歩きあり、抱腹絶倒の焚き火宴会あり、絶景ハイキングあり、天然の激流温泉あり。さらに直火ローストビーフ食べ放題!まで付いた、豪華フルコースのような山旅でありました。

〈1日目〉
 金曜夜9時に車で都内を出発し、一路、橋岡さんが住む郡山へ。途中、高速のSAに寄るつもりが誤ってICへ降りてしまうハプニングがあったが、料金所のおじさんに掛け合うとあっさりUターンを許可してくれた。おかげで0時ジャストに高速を降り、ETC週末割引の1000円均一もゲット。予定時刻ぴったりの0時半に橋岡邸に到着。深夜にもかかわらず、橋岡さんがとても美味なつまみやワインを用意しておいてくださり、何はともあれ前夜祭。山口百恵全集のDVD鑑賞に盛り上がるも、明日に備えて就寝。広々としたお宅でゆったり熟睡させていただいた。
 翌朝8時、盛夏のごとき青空のもと出発。本日最初のメニューは「裏磐梯・五色沼観光」。山でも沢でもなく、まず観光? 実のところ、計画書に観光の文字を見たときは戸惑った。後から思うことだが、ここらが明さん山行のニクイところ。先ほどフルコースという言葉を使ったが、明シェフは、我々の食欲をそっと促すように「前菜」から出してくれるのである。粋な計らいだし、熟練ならではの「ゆとり」だなあ、と勉強させられる。
 五色沼のほとりを散策し、おぉ、あれが宝のこりゃ山よ~の磐梯山かと堪能させていただいた。当のシェフは歩き始めたとたん、「緊急事態発生!」と叫んでトイレにこもりっきりであったが(笑)。
 午前10時、中津川渓谷レストハウスに到着。駐車場で装備を調え、いよいよ天下の美渓「白滑八丁」の沢歩きへ。私にとっては初めての沢である。10分ほど遊歩道を歩き、沢へと下ると、鮮やかな緑とキッラキラの透明な川面が目に飛び込んできてメンバー一同から歓声があがる。大きな石づたいにぴょんぴょん飛ぶように歩いていくと、やがて鏡のように空と木々を映す真っ平らな浅瀬へと変化し、ここでは感嘆のため息がもれる。「初めての沢がこんなにキレイだと、もう、他の沢には行けないね!」と智世さんもテンションが高い。ジャブジャブと水を渡っていくうちにすっかり気持ちよくなってしまった私は、膝丈くらいの深さしかないというのに、真っ先に水に飛び込んでしまった。ついさっきまで『パンツ濡れたらやだな~』などと思っていたくせに。
童心にかえってはしゃぐメンバー  沢の様子はどんどん変化する。次に現れたのは世にも素晴らしいナメだった。その素晴らしさをどう形容していいやら、「すっごいナメナメだね!」「ほんとナメナメ!」と、皆の日本語もおかしくなってきた。
 いくつかの小さな滝を越え、水深が増してくると今度は美しい曲線を描くへつり地帯である。ここでは真っ先に内田さんがドボンと落ち、救いの手をさしのべた私もドボン。川崎さんも智世さんもドボンドボン。もう誰か落ちるたびにゲラゲラと笑い合う私たち。
 やがて「ここまでかな」という地点に至った。その先は、水に磨かれた岩肌のカーブが蛇行しながら奥へ続いている。これぞ自然の造形美。この先へ行ってみたいな・・・と思わされたが、それはもっと実力をつけてからのお楽しみにしておこう。
 さて、振り返るとそこはちょっとしたジャンプ台の様相。内田さんが先頭をきって、「1番、内田優生いきまーす!」と威勢よく飛び込み、浮き上がってシンクロポーズ!そんなアホな遊びを全員で順番にやり、皆で腹を抱えてゲラゲラ笑い合った。行きはロープで登った3mくらいの滝も、下りはもちろんドボンドボンである。本当に本当に、皆が童心に帰って、水と戯れた楽しいひとときだった。
 無事に下流へ戻り、川べりでのランチタイムはそうめんである。ゆでたてのそうめんを清流の水でキュッと冷やす。智世さんが持参してくれた竹のざるが何とも風流。ミョウガや大葉といった薬味も用意されており、生涯で最も美味しいそうめんをいただきました。
 ところで、今回、初めて沢へ行くにあたり、私が用いた沢靴は飯塚委員長からお古をいただいたものであった。「本当にこんなボロでいいの?」と陽子さんはおっしゃるが、たくさんの場数を踏んできた靴なんだと思うだけで誇らしく頼もしい。しかも靴紐だけは新品に換えてくれていて、使い込まれた紺の靴にオレンジの紐がなんともカッコいい! 陽子さん、本当にありがとう!この靴を履いて来年は本格的に沢をやるぞ~!
 13時45分、駐車場に戻って半分濡れたまま車に乗り込み、今夜の幕営地へ移動。明さんはあらかじめいくつかの候補地を見つくろっており、最初に行ってみた場所はNG、2番目に行った沼尻高原の脇道の奥に決まった。行ったこともないのに、どうして「ここが良さそう」と見当がつけられるのかと明さんに尋ねたところ、「やってると分かるようになるんだよ~」とニヤニヤするだけ。野性のカンを磨け、ということだろうか。ぜひ会得したいものだ。
 まずは車の中で着替えを済ませてからテント設営。今回のテントは7~8人用の特大ドーム。明太子のように交互にならずとも、6人が思い思いの方向に転がってもまだ余裕。豪邸といっても過言ではない。
 続いて焚き火と食事の準備。ちょっとヤブに入ると手頃な枝が豊富に集まり、盛大に燃やす。と、そこへ、明さんがデヘヘ~!と取り出したのは、なんと1.2kgの和牛のかたまり!塩こしょうをたっぷり振り、串刺しにして、さらにポールの先にくくりつけ、やや遠火になるように焚き火にかざし、ジワジワ~っと燻しながら焼く。外側が焼けたところを見計らって、ナイフでスライスすると、外側は香ばしく、中はジューシーのまさにローストビーフ!一人頭200gも食べられるかなと思われたが、あまりの美味しさにあっという間に皆の胃袋に収まってしまった。
超美味!焚き火ローストビーフ  しかし不思議な夜だった。皆、それなりにお酒はまわっていたが、あのエレガントなマダム川崎が披露してくれた、おかしな歌とダンスに爆笑したことだけは皆強烈に記憶しているものの、とにかく一晩中笑い転げていたけれど果たして何がそんなに楽しかったのか、皆がキョトンと首をかしげるばかりなのだ。翌朝になってデジカメを見ると、皆で肩を組んでラインダンスをしている写真などなど・・・。「私たち何でこんなことしてるの??」とお互いに聞き合う始末。明さんだけは、「人はね~火を見ると変わるんだよ。野性が呼び起こされるんだよ~フフフ」と目を光らせていた。

〈2日目〉
 朝6時起床。朝食を食べていると、すぐそばの草むらから動物の唸り声。ローストビーフの香りが熊を呼び寄せてしまったかと警戒するが、どうやら近くで放牧されている牛が「もぉ~」と不平不満を言いにきたようだった。
 7時に出発して、沼尻登山口の駐車場へ。ここから安達太良山を目指す。5分ほど登ったところに展望台があり、遠くに白糸の滝が見渡せる。眼下に広がる谷を指さし「あそこが帰りに寄る温泉ね」と明さん。え?それらしいもの見えないんですけど・・・!? ナゾのまま再び登り始める。道中、川崎さんが植物の名前を教えてくれる。が、私がインプットできたのは赤い実がかわいいゴゼンタチバナと、サロメチールの匂いがする白玉の木くらい。ちゃんと覚えたらもっと山歩きが楽しくなるだろうにと反省。まだまだ気温は高いが結構キノコも顔を出していて、「今年はキノコの当たり年のようだね」と明さん。ああ、キノコも覚えたい。学ぶことだらけだ。
 やがて稜線に出ると、遠くに吾妻連峰の山々が見渡せた。数週間後に、集中山行で登ることになる山のカッコよさに期待が膨らむ。逆の方向には、昨日見た磐梯山がちょっとだけ見えた。やがて左手に噴火口の沼ノ平の絶景が広がり、目を奪われた。まるで違う惑星にでも来たかのような、見たこともないような光景だ。岡本太郎画伯ではないが「なんなんだ、これは!」と叫びたくなる圧倒的スケールの絵画のようでもあった。
荒涼とした沼ノ平の外輪をゆく  小さな沼のような、大きな水たまりのようなところを過ぎると、角張った箱船のような頂が見える。船明神山だ。いったん南側に回り込むようにして頂上へ出る。登りはじめてからほとんど登山者に会わなかったが、そこには男性が一人くつろいでいた。物思いに耽っている様子だったが、我々がガヤガヤと賑やかに登って行ってしまったものだから、感じの良い笑顔を浮かべて去っていかれた。ちょっと悪いことをした気分。
 ここからは安達太良山の乳首と呼ばれる頂がよく見えた。まあ、確かにそれっぽい形状だが、呼びにくいなぁ。船明神山からは遠く見えたが30分ほどで乳首の下に着いた。そこで驚いたのは人の多さである。もうウジャウジャいる。というのも、我々のコースの反対側にその名も「あだたらエクスプレス」という超特急の観光ゴンドラがあったのだ。せっかくだから乳首のてっぺんまで登ったが、狭い岩場に人があふれんばかり。軽く休憩をとり、早々に退散。
 再び沼ノ平の外輪を歩き、右手の谷間にくろがね小屋を見ながら鉄山へ。この小屋にはよい温泉が湧いているとのこと。今度来るときには泊まってみたい。鉄山を越えしばらく行くと鉄山避難小屋が見えてきた。黒塗りの外壁に赤い扉。なんだかおしゃれなカフェのようである。わ~ステキね~とガヤガヤ入っていくと、先ほど船明神山でお邪魔してしまった男性が、一人おごそかにコーヒーを煎れているところだった。今日の彼はまったくツイてない。慌てて外に出て、皆で顔を見合わせてクスクス笑ってしまった。
 小屋の前で軽くランチ休憩。川崎さんがブルーベリーを見つけてくれて食べてみる。うーん、野生はこんな味なのかと思いきや、どうも間違えたらしい。何の実だったのだ。
 次第にガスが出てきて眺望が望めなくなってきた。小屋からやや行くと、ナゾのプロペラのオブジェがある。「しゃくなげの塔」とあるが、なぜプロペラ?と皆で首をひねってみるが諦めて通過。あたりは岩山へと表情を変え、胎内岩と呼ばれる狭い穴をくぐる。小柄な私でもザックを背負ったままでは通れないような狭さである。森田温さんならつっかえてしまうだろう。しかし乳首に胎内、安達太良山は女性の山なのだろうか。
 さて、ここからはどんどん下る。やがて硫黄臭とともに川筋が見えてきた。そのまんま硫黄川である。この川はなんと白い!いや、普通の川なのだが地中から豊富に湧き出る硫黄泉が流れ込み、ちょうどいい湯加減の白濁湯となって流れているのだ。これが、明シェフが用意してくれた、とっておきのデザート、激流温泉なのだった。すごい!野趣満点!ただし、丸見え!傍らの建物は脱衣所?なわけはなく、湯の花採取場であった。
 すっぽんぽんのおじさんなどもいたが、私たちは水着を持っている。川と温泉が混じり合う場所によって温度が違うので、湯加減を確かめつつ適温の場所を探して、水着に着替え、恐る恐る浸かってみる。うは~、気持ちいい~!この日もしっかり6時間近く歩いたあとだけに、体中に温泉成分が染み渡るよう。浅いので寝転んでみると川底にはクリーム状の湯の花が積もっていて、これがお肌にしっとりまとわりついて、泥パックエステのような夢心地だった。
天然100%の流れる温泉!  ここから駐車場までは30分ほどなので、温泉だけを目当てに来るのもいいかもしれない。お近くへ行かれる方はぜひお試しを。

〈おわりに〉
 出来事を書き連ねるだけでもこんなに長くなってしまいました。わずか2日間での出来事とはとても思えない、濃厚なフルコースを準備してくれた明さんのサービス精神に感謝です。また、これだけの行程がほぼ完璧に予定時間どおりに行われたことに驚きを隠せません。早すぎず遅すぎず、せかすでもなくダラダラするでもなく、その結果、帰宅後もまったく疲れを感じませんでした。もちろん、楽しすぎて疲れが入り込む余地がなかったこともありますが、私も山での「時間の読み」ということについて大いに考えていきたいものです。
 「明さんは山の遊びをたくさん知ってるんですね」と言うと、「遊びというよりね、『山の生活』というものを知ってほしいんだよね」とおっしゃっていたのが強く印象に残っています。なんだかグッと、山に近づけたような気がしています。

〈コースタイム〉
【8月27日】
水道橋集合(21:00) → 郡山・橋岡邸(00:30)
【8月28日】
橋岡邸(08:00) → 裏磐梯・五色沼観光(08:45~09:30) → 中津川・白滑八丁往復(10:00~13:45) → 沼尻高原幕営(15:00)
【8月29日】
沼尻登山口(07:20) → 白糸の滝展望台(07:30) → 船明神山(10:00) → 安達太良山(10:40) → 鉄山避難小屋(11:40) → 胎内岩くぐり(12:10) → 硫黄川・湯の花採取所=激流温泉(13:30~15:00) → 沼尻登山口(15:30)


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