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その4 沢登り・家入沢
安田 章

山行日 2010年7月4日
メンバー (L)鈴木(章)、箭内、安田

 奥多摩鳩ノ巣での三峰祭りの翌日、三ノ木戸山北面の家入沢へ行ってきた。
 夜半、大雨があって行けないかなと心配したが、朝になると陽が差してきたので行くことにした。同行予定のカッちゃんは、雨でいけないものと判断したのか、朝から宴会の続きを始めてしまった。飲酒遡行はご法度である。酔っ払いは切り捨てて行くことにした。
 奥多摩駅から日原へ向かう道を歩き、40分ほどで入渓点の大沢鱒釣り場に着いた。沢はちょっと暗い感じで、冷たい風も吹き抜けてきたりして、気勢がちょっとそがれる。
 2メートルから3メートルくらいの小さな滝が次々現れてくるが、水量があって直登できず、高捲くことがほとんどであった。ひとつ箭内さんが頑張って全身水流をかぶりながら登った。滝の裏側がくぼんでいて、手掛りを探すのに体を奥に入れざるを得なかった、とはご自身の言葉。
 登り始めのところは両岸の壁が迫って暗かったが、しばらく登ると緩やかな斜面に変わってくる。辺りの森も、人が手入れをしたように下草がなく、見通しがよくなってくる。
 先頭で調子よく登っていた時、後ろから箭内さんの声がした。
「熊だ。ほら、あそこに」
 すぐにはそれとわからなかったが、本当に熊であった。黒い体をゆったりと動かしながら、前方の流れを右岸から左岸へと渡って行く。距離は30メートルくらい。こんな近くで熊を見たのは初めてだ。3人で岩陰にかくれ熊の動きを見ていたが、幸い左岸の斜面を登っていってしまった。
「2歳くらいかね。こっちに気づいていただろうけど、おとなしい熊でよかった」
と、アッコさんは言う。冷静な観察に敬服する。ぼくはしばらく心臓がどきどきしていた。
♪ 熊さんに、出会った  10分ほどじっとしてから遡行再開。用心のためアッコさんは笛を吹き、ぼくはエイト環とカラビナをがちゃがちゃ鳴らした。エイト環が妙なことで役にたった。
 落ち着きを取り戻し、調子が出てきたところで、信じられないことにまたしても行く手に獣の姿。熊かと一瞬思ったが、今度は茶色い毛だ。大きな猪であった。熊のときと同じくらいの距離であったろうか。これも幸いなことにこちらに向かってくることもなく、評判通りにどこかへ突っ走って行ってしまった。野性味があり過ぎる、ここは東京都だぞ、と思わざるを得ない。
 沢は一度涸れて、再び水流が現れたその先に8メートルの大滝があった。傾斜はきつくなく、手掛りもあるので快適に登れた。
 入渓点の釣り場用の水を取る取水小屋が見えてくると沢は終わる。後は急な樹林帯の斜面を詰め、石尾根の縦走路に出た。この詰めが意外と長く汗をかいた。
 石尾根を下り奥多摩駅に着いた。風呂に入ってから駅前の食堂でそばと生ビールで無事の下山祝い。野生との出会いによい経験をさせてもらったとは、今だから言えること。
 アッコさん曰く、「まるで動物園のような沢」であった。

〈コースタイム〉
7月4日(日) 天候 くもり
奥多摩駅(09:00) → 大沢入渓点(09:40~10:00) → チョックストーンの滝(10:45) → ヒカゲザスクボ沢合流(11:50) → 涸沢(12:10) → 取水小屋(12:30) → 石尾根(13:50~14:00) → 奥多摩駅(15:45)


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