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韓国交流山行・ソウル近郊・北漢山
総括
小堀 憲夫

山行日 2010年10月22日~26日

 権 五錫(コン オーソク)くんは韓国の青年だ。2009年6月10日、三峰山岳会のルームを訪れた3人ほどの見学者の1人だった。ダークグレーのスーツにグレーのシャツを合わせクールにきめていた。当日私は豆講座と司会の担当で、ルームの参加者も多く、皆真面目に話を聞いてくれていたので気を良くしていた。ただ、ルームの終了を告げた時、権くんが『ニッ』とシニカルに笑った(その時はそう見えたのだが、直ぐに違うことが分かった)のが目に留まり、なぜか彼のことが気になったのを覚えている。ルームの後の親睦会に向かう途中、見学者の相手をしていた委員長から彼が韓国の人であることを知らされ、先ほどのニッもあって興味が湧いた。見学者がそのまま親睦会に付き合うことはまれなのだが、店で席につくと彼がいた。彼は流暢な日本語で自分のことをよく話した。韓国の建設会社に勤める設計技師で、日本には大手建設会社に出向で来ており、家族は妻1人と男の子1人であること、韓国軍に入隊経験のあること、韓国の彼の会社には山のクラブがあり山には頻繁に登っていること、酒は飲まないが酒の席は嫌いではないこと、などなど。日本語の会話力も含めてそのエネルギッシュな話しぶりに感心した。先ほどのニッの時にいだいた印象と間逆の、率直でエネルギッシュな好青年であることが分かり、嬉しくなった。すっかり意気投合し、翌週予定されていた委員長企画の例会、丹沢・鬼石沢に誘った。聞けば、韓国では沢登りの山行形態が無く、これが初体験でとても楽しみだとのこと。これが、権くんとの出会いだった。
 彼担当の新人フォロー役を委員長に依頼されたこともあり、事前に装備の購入などに付き合い、さて、その鬼石沢でのこと。忘れられない思い出がある。前日から呑み助のおじさん、おばさんと入渓点に近いバンガローに泊まった彼は、翌朝到着した本隊と合流し、小雨降る中雨具を着けて入渓した。そして、先を行くメンバーに続いて沢の流れに足を踏み入れるまさに最初の一歩の瞬間、後ろを歩いていた私を振り返り、照れたような確認するような実に複雑な表情を見せた。その視線に私はかた目をつぶって答えた。
『大丈夫。そう、そうやってジャブジャブ入って行くんだ』
 この表情の豊かさに見られる彼の豊かな人間性にはその後の山行などを通して何度も出会うことになった。妙な話だが、日本人よりもよりいっそう、彼の目は私に多くのことを語りかけてくる。これは彼の家族も同様だ。彼の妻女は控えめなもの静かな女性だが、その表情、特に目力は、こちらの心を読むことができる能力があるのではないかと思うほど豊かだ。お二人の息子であるヒョクジュンくんの表情の豊かさは言うまでもない。すべての韓国人がそうではないので、これは彼の家庭の文化みたいなものだと勝手に納得している。
 その後2009年、2010年と、春夏秋冬、彼は実に意欲的に三峰の例会に参加した。今、私の手元には、彼が三峰と過ごした日々を記録した記念のフォトブックがある。これは韓国に戻ってから彼が編集し、綺麗に装丁して送ってくれたもので、素晴らしいできばえだ。もともと写真家も目指した彼の写真の腕はプロ級で、素人の私が見ても芸術の域に達していることが分かる。
 そんな彼が韓国に戻る時期が近づいたある日、山の帰りの車中だったか、この交流山行の構想を打ち明けたのだった。曰く、
 「韓国に帰っても時々日本の山に登りに来たいし、三峰山岳会と会社の山のクラブとの交流山行もやりたい。できれば三峰山岳会とは一生縁を繋いでいたい」
 その熱い思いを聞かされ、皆で感激したのを覚えている。その時は、それは素晴らしいことだと漠然と考えていたが、その後、彼のエネルギーに後押しされるようにして、交流山行の計画は着々と実現に向けて進められたのだった。
 2010年の2月から、私は新しい仕事の関係でルームには出席できない状況だったが、委員長から、この交流山行の三峰側の窓口を仰せつかり、数ヶ月に渡る権くんとの連絡、委員長、三澤さん、山崎さんらと三峰側での打ち合わせ・準備を経て、今回の第1回交流山行を実現させることができたのである。また、出発前の会長からの提案に、印刷会社を経営する播磨さん、デザイナーの大田さんの協力を得、記念の登山用手袋の作成も実現した。
 今回三峰側は、全員23日に北漢山を登ることを本題とし、4パーティーに分かれて韓国入りし、交流山行以外にも観光、ショッピング、田舎ツアーなど権くんが考えてくれた盛りだくさんの企画を十分に楽しむことができた。中でも、東京大学農学部の学生として昔日本に留学していた権くんのお祖父さんとの面会は、日韓交流の歴史の一端を目の当たりにした思いがして、筆者には心に残るものがあった。本題の交流山行では、権くんのクラブの若い仲間達が実に良くしてくれ、心の底からの交流を実感でき、心温まる貴重な経験をさせてもらった。そして、我々の滞在中、初めから最後まで、権くんには実に色々お世話になった。彼の献身ぶりには感謝の言葉も無い。
 なお、三峰側の参加者の構成は、少し早めの20日に出発し、済州島の韓国最高峰ハルラ山を登った寄り道隊の2名、本隊5名、北漢山登山後ももっと遊び隊の6名、女性のみの自炊隊5名、総勢18名。各パーティーのメンバーは以下の通りである。

●本体(22~24日)・・・原口、天城、土肥、深谷、小幡
●もっと遊び隊(22~26日)・・・佐藤、飯塚、三澤、高木、山崎、小山
●寄り道隊(20~24日)・・・藤井、小堀(25日からもっと遊び隊に合流)
●あっこ自炊隊(21~25日)・・・鈴木(章)、五十嵐、川崎、吉岡、大田(25日からもっと遊び隊に合流)

 今後もこの交流が末永く続くよう微力を尽くしたいと思っている。


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