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まさかのビバーク?!タワ尾根~酉谷山
渡辺 智世

山行日 2010年11月20日~21日
メンバー (L)渡辺(智)、(SL)小芝、永岡、原田、杉本、内田、(小芝(麻))

 ルート・ファインディングの練習をしようとコンパスと地形図を片手にタワ尾根から酉谷山を目指した私たちは、今年(2010年)5月12日に入会したばかりの同期6人組(プラス小芝夫人の麻紀子さん)。
 その構成メンバーは登山歴5年程度から初心者までのヒヨッコばかり。そんなお荷物が同じ日に揃いも揃って6人も入会するなんて、80年近い歴史を持つ「三峰山岳会」創立以来、初めてのことだとか。
 9月の半ば、例会のカロー大滝バリエーションルート山行に参加した小芝さんが、ふと漏らした「もう少し地図読みの勉強してみたいな」という言葉をきっかけに「今度、同期で山に行ってみようか?」「賛成!」「うん、行く行く~!」とトントン拍子に話が進み、アッコさんや川崎さん、峯川さんから、お勧めの山、ルート、避難小屋に至るまで多くの情報やアドバイスを頂いて、今回の同期山行が実現したのでした。
 山行当日の東日原界隈は快晴。清々しい青空のもと赤や黄色に染まった木の葉も美しく映え、一石山神社裏手の急斜面を登り始めると早くも汗ばむほどの暖かな陽気になりました。直前まで、この日の天気は「雨のち曇り」の予報が出ていたので、雨模様の中、地形図を広げてルーファイするなんて私たちに出来るのだろうかとヤキモキしていた心配事が一つ消えたのでした。
 まず初めに、地図読み隊長の杉本さんのもと、基本的なコンパスと地形図の使い方を習得。明るい陽射しとフワフワの落葉で覆われた美しいタワ尾根の上を、実際の地形と地形図とをジックリと見比べ、目標一つ一つを丁寧に確認しながら長沢背稜を目指して進んで行きました。
みんな真剣に地図読み中  人形山の手前では憧れの「ミズナラの巨木」にも会え、仰ぎ見たり写真を撮ったりと、しばらく遊んでしまった上に、ポカポカの尾根道が、あまりにも気持ち良くて、のんびり歩きすぎたようです。予定よりも大幅に時間を費やしてしまったのでした。
 ふり返れば、これが、最初の失敗でした。この調子では日没までに宿泊予定の酉谷避難小屋まで辿り着けないかもしれないと気がつきペースアップすることに。しかし、ウトウノ頭の辺りから残雪が多くみられるようになり、雪のついた岩場の登り降りでは思うようにテンポが上がりません。次第にメンバーの中に靴ずれや小さな転倒が起こるようになり、この私も余程ヨロヨロと歩いていたのでしょう、見るに見かねた永岡さんと小芝さんに共同装備の水や食料を持ってもらう始末。心遣いに感謝しつつ何とか長沢背稜まで登り詰めることができたのでした。
ミズナラの巨木ポーズ!この時はまだ余裕?  しかし、ここで一同ホッとしてしまったのが、2つ目の失敗でした。ここから先は一般登山道を進めばよいのだという気の緩みからか、意識することなくコンパスから手を離してしまったのです。そして、あろうことかマーキング・テープに誘導されて稜線をはずれ、何と小川谷へと下る支尾根に足を踏み入れてしまったのです。その分かれ道が「林班界標27/28」の地点でした。
 分岐で迷ったら、その両方を自らの目で確認してから進むべき方向を決めなければならないのに、私たちは、それを怠ってしまったのです。とにかく、日没までに何とか酉谷避難小屋まで辿り着かなくてはいけないという焦りが、そうさせたのかもしれません。これが3つ目の失敗でした。
 しばらく歩いていくうちに、どうも下りすぎていやしないか? そして、本来だったら稜線に沿った道を進まなければならないはずなのに、いつの間にか支尾根にのって歩いていることに気がついたのです。
 しかも、耳を澄ますと下の方から微かに水の流れる音が聞こえてきます。
「ねぇ、道ちがってない?」「そうだね、変だよね」「うん、変だよ」
 そうです。道を間違ったのです。
 しかし、時、既に遅し。一般登山道に出てコンパスをはずしてしまった私たちは現在地点すら分からなくなっていました。
「もしかして私たち迷子になっちゃったのかも、どうしよう」
 陽もすっかり傾いて辺りは急に薄暗くなり、霧も深くなってきました。このまま進んで沢に降りてしまうことだけは絶対に避けなければなりません。皆で相談し、とにかく戻ろうと、今、来た道を登り返すことにしました。しかし、たとえ稜線に戻れても酉谷避難小屋まで少なくとも1時間は歩かなければなりません。恐らく途中で日が暮れてしまうでしょう。この先、何があるか分からない道を、ヘッドライトを付けて歩くことにも大きな不安がありました。
 そこで考えた末、稜線に出る少し手前にテントの張れそうな広い場所を探し、ビバークする決断をしました。小さな酉谷避難小屋に先客があったら私たち大所帯は入りきれないことを想定しテントを持って来たこと、水場が涸れている可能性もあるので万が一のために水を上げていたことが、せめてもの幸いでした。
 焚火を囲んで暖まり、原田料理長による豪華で美味しい夕食でお腹が満たされると、大分、元気が戻ってきましたが、テントに入りシュラフに潜り込んでからも直ぐには寝つけません。静かに目をつぶって、この日、歩いた道を順に思い起こしてみました。
 ああ、そうか~、あそこで私たちは小川谷に向かって下ってしまったのかもしれないなぁ・・・。あれこれ考えを巡らしているうち、いつの間にか眠ってしまったようです。
 翌朝、うっすらと空が明るくなり、テントから顔を出して辺りをうかがうと、北の方角に酉谷山らしき頂が見えていました。
 やはり、ここが小川谷へと続く支尾根に間違いないことが確認できたので、改めて気合いを入れて長沢背稜へ向かって出発です!
翌朝、無事に?酉谷山ピークに到着  まず、問題の分岐点「林班界標27/28」まで戻り、その後は順調に酉谷山のピークに辿り着くことができました。そして、本当だったら宿泊するはずだった可愛らしい酉谷避難小屋に立ち寄ったあと、三ツドッケまで進み、おとなしくヨコスズ尾根を下山しました。
 当初の計画では、その先の蕎麦粒山まで歩いて破線ルートの鳥屋戸尾根を下るはずだったのですが、また道に迷ったら大変だものね!とか何とか理由をつけて、早く温泉に入ってサッパリしたいだの、やっぱりビールだ!アイスクリームだ!と思い思いの希望を口にしながらの下山となったのでした。
 今回、同期メンバーだけで山へ行くことになり、私は6人の中で、一番、体力も経験も技術もないけれど、それぞれが得意の分野で力を出し合おうということになり、事務連絡係としてならとリーダー役を引き受けることになりました。そこで『三峰 安全登山マニュアル』を読み返し、共同装備やルートの確認、登山計画書の提出に至るまで一通りやってみると、今までだったら、さほど気にもかけなかった細かなことが色々と見えて来ました。
 また、三峰山岳会に入会して約半年、これまで私はベテランのリーダーのもと周到に計画された例会に幾つも参加させて頂いてきましたが、そこにはリーダーや諸先輩方の、メンバー皆が安全で楽しい充実した登山が出来るようにとの、行き届いた、鋭く、かつ温かな眼差しのあったことにも改めて気がつきました。
 私たち新人は、何と心強く恵まれた環境に身を置いていることか!
 初めての同期山行は、結局、すべて計画通りという訳には行きませんでした。しかし、今回の経験を決して無駄にすることなく、次に活かしていければ良いなと思っています。
 こんな私たちですが、これからも、ご指導をどうぞよろしくお願い致します。
 さあ!次回は川苔橋から鳥屋戸尾根を登って蕎麦粒山へのリベンジ山行かな?
 おっと、その前に、もう、こんな危なっかしいメンバーだけで山に行かせるわけにはいかないと登山計画書を受理してもらえないかも?!

いつか、酉谷避難小屋に泊まろうね!
〈コースタイム〉
11月20日 東日原バス停(09:20) → 一石山神社(10:08) → ミズナラの巨木(11:50) → 人形山(12:10) → 金袋山(12:40) → 篶坂ノ丸(13:05) → ウトウノ頭(13:55) → 長沢背稜(15:05) → 林班界標27/28(15:22) → 小川谷へ向かう支尾根上の某所(15:45)
11月21日 小川谷へ向かう支尾根上の某所(08:00) → 酉谷山ピーク(08:55) → 酉谷避難小屋(09:15) → 犬麦尾根分岐(10:25) → ハナド岩(11:00) → 一杯水避難小屋(11:30) → 東日原バス停(13:06)

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