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雪山登山・北八ヶ岳
星野 剛
杉本 弓子

山行日 2011年1月22日~23日
メンバー (L)星野、YUKI、飯塚、山口(敦)、杉本、山崎

【星野】
 「雪山でのセルフレスキュー」とは実際はどんなものであるのかを多くの人に体験してもらうため、本山行を計画した。第1回は前半部分である「雪崩発生~要救助者発見」までの部分を中心に学ぶ。
 まずは縞枯山荘に向かう途中の斜面で、グループでの掘り出し練習を行った。V字コンベア方式での掘り出しの練習は、いかに素早く、効率よく、疲労せずに掘り出すかが重要。だからといって全員が掘り出しに集中すればよい訳ではなく、二次雪崩の警戒、掘り出した後の処置の準備など、同時に進行させることは山積みである。
 その後、ビーコン捜索訓練に適当な斜面を探しながら雨池周辺に移動。まずは各種ビーコンの動作を比較。捜索可能な範囲の違い、ピンポイント捜索時の挙動について確認した。
ビーコンはどこだ!?  続いて2つのグループに分かれ、一人ずつ捜索訓練を行う。北八ヶ岳地域は積雪量が70~80cmと少なめで、埋めたビーコンと地面との差が分かりにくく訓練には難しい環境になってしまった。今後同様の訓練を実施する際には注意したい。
 訓練終了後、テント内でYUKIさんの作成した資料を使い「低体温症」についての意見交換を行った。低体温症の応急処置は、街中での救急救命とは手順が異なる部分もある。状況によっては心臓マッサージも身体を暖めることもやってはいけない場合があるということであった。これについてはまだまだ処置の方法が確立していない部分も多い。引き続き情報入手に努めたい。
 夕食のきりたんぽ鍋(特盛)に舌鼓を打ちながら、それぞれの「登山を始めたきっかけ」について話をした。入会した理由はそれぞれだけれど、特に登山のような日常と離れる趣味は人との出会いにより大きく変わるということを改めて感じた。
 2日目は3~4人パーティーを組んでのグループ捜索訓練を実施。順番に全員にリーダー役をやってもらう。
 周囲に指示をするためには自分が捜索の手順について本当に理解していなくてはならない。最初は戸惑いが見られたが、役割を変えながら数回続けるうちにリーダーあるいはパーティーの一員として自分のやるべきことをそれぞれが把握できるようになってきた。
早く助けて下さい・・・寒いので  また、低体温症の処置も含め、「掘り出した後はどうするの?」というところにまだまだ知識の不足があることも改めて浮き彫りになった。
 最後に山崎さんにお願いし、雪の中の弱層を見つける簡易的な手段として「円柱テスト」の方法を説明してもらった。円柱を手前に引いた時にどの程度の力で分離するか、どの位置が分離するかにより積雪の安定性を判断することができる。強めに引いたところ、雪面から70cm程の位置で円柱が分離。その下には雨でできたのであろうか、厚い氷の層ができていた。
 捜索、掘り出し、円柱テスト。まだまだ学ぶべきことはたくさんあるが、全員がそれぞれの項目を理解し、リーダー任せにならず同じ意識を持って行動することによって危険回避の判断、効率的な救助活動などの点においてパーティーの総合力が大きく上がるであろうことが実感できた。
円柱を掘っていく  「連れていってもらう」から、自分のできることを増やし主体的に山行の計画/実施に関わっていく。そんな風に協力して、更にやりがいのある登山に挑戦していきたい。

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お風呂:
蓼科温泉共同浴場(入浴料400円)
0266-67-2100
温泉というよりもむしろ古き良き銭湯の印象。お湯は熱め。
食事:
「かつ時(かつとき)」茅野店
0266-82-3530
(中央道諏訪ICより10分)
ご飯、味噌汁、キャベツのお替り自由。お腹が空いているときにお勧め。
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【杉本】
 初心者代表として感想を述べさせていただきます。
 今回の訓練は非常に内容が濃く、参加者の意識も高レベルで行われたと思います。教わるというよりも「各自で考える」というスタンスが非常に効果的でした。
 雪崩による埋没~救出まで15分というリミットのなか(口のまわりにエアポケットがあれば135分というデータもあるそうです)、まずは効率的に掘り出す方法(V字コンベア法)で1mを数人で掘るのに7~8分かかることを実際に体験します。するとビーコン捜索にかけられる時間も7~8分。もっと深く埋没していればもっと精度を上げなければならないことをみなが痛感してから、ビーコン練習に移ります。タイムを計りながら、ビーコンでピンポイント特定、プローブを刺して感触があったらスコップで掘りだす訓練を繰り返し、おかげでビーコン操作はだいぶ自信がつきました。
 訓練後は、いつもなら即宴会!となるのが恒例ですが、なんと食事の前にYUKIちゃんの低体温症講習でもうひと勉強。「え~食べながらやろうよ~」とぼやく酒飲み組に対し、星野リーダーは「いや、その前にやっちゃいましょう」ときっぱり。三峰では前代未聞の大事件(?)です。
 しかし、この講座が素晴らしかった。10ページ以上もあるYUKIちゃん渾身の自作のプリントが配られ、ディスカッション形式で進行。意見を求められると各自の理解の曖昧さが露呈するとともに興味が沸きます。低体温症の定義、予防、処置と進めていくと、「あの時のCさんがそんな症状だったよ!」などと実例も出てきたりして、とても活発な授業になりました。おかげで低体温症についての基礎知識はかなり正確に得られたのではないかと思います。ルームのプチ講座でもやってはどうでしょう。
 2日目は3~4人ずつパーティーを組んでのシミュレーション訓練。捜索チームは斜面上の岩陰で待機し、遭難チームはさまざまな状況を設定してビーコンを埋めます。用意ができたら生存者役が捜索チームに助けを求めに走ります!
 「助けて!雪崩がおきて仲間が巻き込まれたんです!」
 「落ち着いて!何人ですか?ビーコンはつけてますか?」
 「3人です。2人はビーコンをつけてるけど、1人はつけてなくて・・・」
 「分かりました。みんな、ビーコンをサーチモードに設定!お杉は遺留品まわりをプロービング!二次雪崩も見てて!」
 「ラジャー!」(とは言わないけど・笑)
という具合で、演技のようでいて結構本気でやってました。雪の樹林帯のなかを右へ左へ走り回ってる我々を、時折スノーシューのギャラリーが足を止めて不思議そうに見物しておりました。
 このシミュレーション訓練、最初は敢えて何も教わらないままやってみたところ、見事にバラバラで無駄な動きが多く、時間もかかりました。そこでリーダーは捜索に当たらず指揮に徹することや、各自の役割分担をどうするかの「行動判断」の大切さをディスカッション。修正を重ねながら何度もやっていくうちに、最後はかなりスムーズに救出ができるようになりました。
 しかし! スムーズにできるようになって、奇しくもみんなから出てきた感想は、「パーティーの全員が同じ意識でいないと、実際はこうはいかないよね・・・」という現実でした。我々は主に三峰の会員同士で山に行くのだから、三峰内で意識を上げていかなくては、共通の指針が必要なのではと、そんな深いところに帰着したのでした。
 ところで、この1ヶ月後、新人同期の和田さん、内田さんと共に、都岳連の「冬山レスキュー講習」に参加してまいりました。内容は星野さん講習とほぼ同じですが、加えて滑落停止や埋没体験、雪質観察などを入念に教わりました。それはそれで大変有意義だったのですが、やはり少しずつ異なる点もあり、あらためて「三峰基準」のガイドラインが必要なのでは・・・と感じた次第です。和田・内田の両名も、「パーティー全員が分かっていないと・・・」と同じ危惧に行き着きました。星野さんとも力を合わせ、今回学んだことを新人に伝えていければと思っています(都岳連・遭対委員の方々からもハッパをかけられました)。
 このようにセルフレスキューを真剣に考えるきっかけを作ってくれた星野さんほか、ご一緒した皆さんに感謝です。ありがとうございました。


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