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雪山登山・谷川岳天神尾根
渡辺 智世

山行日 2011年1月15日
メンバー (L)星野、森田(温)、森田(純)、山口(敦)、YUKI、渡辺(智)

 深々と積った新雪を踏み抜かないよう先行者の真新しいワカンの跡を必死に追って一体どのくらい歩きつづけたでしょうか? 一向に降り止まぬ雪と冷たい風に目を細め、ただ黙々と足を運ぶのみで、すっかり時の経つのも忘れかけていた頃でした。
 自分の姿が雪の斜面に影を落としていることに、ふと気づいたのです。
 そういえば、先程までパチパチと顔に当たっていた雪も収まり、ずっと歩き続けて来たためか随分と身体も温まっています。少しホッとして上空に目をやると、どんよりと垂れ込めていた雪雲は、いつの間にか遠ざかり、太陽が朧げに顔を出しているではありませんか。そして、今、来た道を振り返れば、眼前に、まるで薄墨で描いたような美しい峰々の稜線が広がっていたのでした。
 「きれい!なんて素晴らしい眺めなの!雪山って、こんなに美しいものだったの!?」
 この私が、雪の谷川岳で、こんな感嘆の声をあげることになろうとは、ほんの1ヶ月前まで、誰が予想できたでしょうか。

 前夜22時、錦糸町駅に集合し自動車で出発。途中、渋滞することなく順調に車は走り、深夜0時30分、谷川岳ロープウェイ駅(土合口)に到着しました。駅構内は一晩中暖房が入っている上に広さもたっぷり。しかもカーペット敷き。私たちは、その片隅をお借りして、ゆっくり快適に仮眠させていただくことが出来ました。
 翌朝はロープウェイが動き出す7時に合わせ6時に起床。
 私は、この日のために買い揃えた、おろし立てホヤホヤの冬靴を履き、同じくピカピカのアイゼンとピッケルを持ってロープウェイのゴンドラに乗り込みました。
 窓の外に見える景色は天気予報どおり雪で煙っています。こんなにたくさん雪の降る中、山に登るなんて私に出来るのだろうかという不安で早くも頭の中は一杯に。でも、ここまで来たら、もう行くしかありません。天神平でゴンドラを降り、装備を整え、覚悟を決めてスキー場脇の登山道から、まずは天神尾根を目指して歩き始めたのでした。
ドッサリ積った新雪をラッセル!ラッセル!  今回の山行は、その名も「雪山登山入門(0)」。雪山に憧れはあるけれど、厳しい寒さに耐えられるのか? 大きな荷物を担いで険しい雪道を歩けるのか? とても不安。お試し日帰り雪山山行なんてものがあったらいいな?!と言う、とんでもなく贅沢で我儘な私の願いを聞いて、とにもかくにも、まずはアイゼンをつけて雪の上を歩いてみましょう!ピッケルを使ってみましょう!と、リーダーの星野さんが「雪山散歩」を企画してくださったのです。
 天神平は、この冬一番の寒波が日本列島を覆い積雪量が増し、前夜から降り続く雪で、案の定、登山道のトレースは消えかかっていました。場所によっては腰に届かんばかりの深さです。おまけに、この日の天気も下り坂との予報が出ていたので、これ以上、天候が悪化したら直ぐにも引き返し、安全な場所を見つけ、アイゼン歩行の訓練に切り替える予定で出発しました。
 樹林帯に積もったフカフカの新雪は頼りないほど柔らかく、踏み抜いた足を幾度となく引き上げながら、天神尾根に何とか取り付きました。すると、ここでリーダーの星野さんからワカン装着の指示。準備をして来なかった私はリーダーからお借りすることに。その為リーダーには、その後ずっと壷足での雪山歩行を強いる事になってしまい誠に申し訳ない限り。本当に、ありがとうございました。
 途中通過した熊穴沢避難小屋は雪に埋もれ、辛うじて覗いていたのは屋根の庇のほんの一部。勿論、中に入ることはできません。その現実に、私は、ただただ驚くばかりでした。
 降り積もった雪を掻き分けて進むラッセルも無論初めての体験。雪の中でバタバタもがいている私に「もっと強く蹴り込んで!」というアドバイスの声が背後から掛かりますが、実行しようにも、なかなか上手くいきません。外気温は氷点下だというのに身体はアツアツ、お腹はペコペコになりました。そして、その後もトップを順番に交替しながら、時間切れになった時点で引き返すつもりで、真っ白な世界の中を、ひたすら前進して行ったのでした。
 すると・・・前述のとおり、天気予報に反して、いつの間にか空が明るくなっているではありませんか。もう、こうなったら山頂を目指すしかありません。森林限界を過ぎた頃には雪の深さも膝下くらいになり、時々、足を停めては一点の汚れもキズもない滑らかな雪面と青空を仰ぎ見、周囲の山々の雄大な姿を眺めながら、登ってゆくことができました。
 そして、無雪期ならば2時間程度で到着出来る谷川岳肩の小屋まで6時間もかかってしまいましたが、そこでも大展望が私たちを迎えてくれ、雪と風が作り出した美しい造形を思う存分堪能することができました。
素晴らしい眺望の天神尾根を登るリーダー  トマノ耳には肩の小屋にザックをデポジションしてアタック。頂からは双耳峰のオキノ耳も眺めることができ、その幻想的な美しい姿に思わず歓声を上げてしまいました。
 しかし、夢のような世界を楽しんだのも束の間、いつ、また天気が急変するか判らないので、慌ただしく下山することに。途中、シリセードを交えながら自分たちの付けてきたトレースを辿って、2時間ほどで無事に天神平まで下山しました。
 結局、アイゼンの出番はなく歩行訓練はできませんでしたが、フワフワの新雪と存分に戯れることのできた、楽しい恵まれた雪山初体験となりました。
 雪山登山は、私には到底無理だと半ば諦め、直前まで足を踏み出せずにいた私に、こんな素晴らしい機会をセッティングし導いてくださったリーダーの星野さん、そして、右も左も判らない私をサポートしてくださった同行のメンバーの皆さんに、改めて感謝します。
 そして、新年早々、雪山装備の買い物に同行してくださったアッコさんにも、この場を借りて感謝申し上げます。これから徐々にステップアップしながら、身の丈にあった雪山に挑戦していきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

〈コースタイム〉
天神平(07:30) → 熊穴沢避難小屋(10:15) → 谷川岳肩の小屋(13:30) → トマノ耳(14:00) → 往路を戻る → 天神平(16:20)


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