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雪山登山・白砂山~佐武流山~苗場山
内藤 美智子

山行日 2011年4月30日~5月4日
メンバー (L)鈴木(章)、天城、内藤、エドワーズ、曾

 章子さんの最初の計画は南アルプス深南部であったが、メンバーがそろわず断念。一方新人のエドワーズさん達がぜひ雪山に入りたいということで雪山初心者でも行けるコースに一緒に行くことになった。
 私はすっかり章子さんに下駄を預けてしまって気楽なものだったが、いろいろ考えメンバー間の調整をする章子さんは大変だったと思う。
 1日目:野反湖~堂岩山、2日目:堂岩山~白砂山~佐武流山~ナラズ山、3日目:ナラズ山~赤倉山~苗場山~神楽ヶ峰、4日目:神楽ヶ峰~小松原コース~上結東、5日目:予備日という計画であった。
 私は章子さんから雪山初心者でも行けるコースと聞いたので気楽な気持ちで参加した。しかし実際は天候が悪かったこともあって予想以上にきつい山行だった。

【4月30日(土) 天気:曇りのち雨】
 当日朝、JR特急草津1号で出発。長野原草津口で集合。この時はまだ晴れており、天気予報も悪くなかったので天気の心配はしていなかったが・・・。
 タクシーで野反湖畔まで移動。林道は観光客の車が何台も通行しており、まだ何もない野反湖に何しに行くのだろうと不思議だった。夏の登山口と思しき所でおろしてもらう。眼下に見える野反湖はまだ凍結していた。スパッツ、アイゼン、ピッケルの用意をして出発。白砂山までのコースは残雪期によく登られているようなのでトレースがあるかと思ったが、はっきりしたものは見られなかった。まずは1,619.8mのピークを右に見ながら山腹をトラバースしていき、適当なところでハンノキ沢へ下る。ハンノキ沢は水量少なく、普通に渡ることができた。そこから枝尾根を地蔵峠から堂岩山へ続く縦走路を目指して登る。途中雨が降ったりやんだり、その度に雨具を着たり脱いだりしていたが、結局は本降りとなってしまった。
 地蔵峠から白砂山に続く縦走路に出るとトレースが見られるようになった。ここまでエアリアマップのコースタイムは50分なのに積雪期とはいえ2時間もかかってしまった。あとは雨の中景色も見えず黙々と堂岩山を目指す。
 春山の常で時々ズボッと膝くらいまではまることがある。雨具のパンツをつけていなかったので雨よりそのせいで下半身が濡れた。
 午後4時近くなり、風雨も急に強くなったので尾根の傾斜が緩やかなところにテントを張る。目標としていた堂岩山の直下だった。風が強く、慣れていないメンバーもいてテントを張るのも一苦労だった。ようやくテントの中に入ったときは、ホッとした。この日はそれほど気温は低くなかったようだが、全身濡れてしまったのでとても寒かった。私は春山と思い、厳冬期ほどの衣服を用意しなかったことを後悔した。
 夜には雨も止み、星がいくつか見えたので翌日の天気回復を期待したのだが・・・。

【5月1日(日) 天気:雨のち曇り、強風】
 前夜は雨と風の音が気になり、ほとんど眠れなかった。3時起床5時出発の予定だったが、雨が降っていたので2時間ほど遅らせる。7時の出発時には雨は小降りになっていたが風が強い。章子さんの指示で新人さん2人に即席で耐風姿勢を教えておく。気温は高めで雪は前日の昼間と同じように柔らかい。
 出発して10分ほどで堂岩山頂上に着く。山名板や標識は埋もれているのかみつからなかった。堂岩山から白砂山までのルートを見ると思ったより雪が少なく、かえって歩きにくそう。
 堂岩山から緩やかに下っていき、鞍部からは登下降を繰り返して高度を上げていく。いつしか雨は上がったが、とにかく風が強くペースが上がらない。南(群馬県)側から風が吹きつけてくる。時に耐風姿勢を取って立ち止まらなければならない。
 堂岩山から夏のコースタイム1時間10分のところを倍以上の3時間もかかってようやく白砂山頂上に着いた。山頂にはやはり標識も見えなかったが、新しい足跡が付いていた。
白砂山頂上から佐武流山と苗場山を見る  山頂を10分ほど過ぎたところで方向を変えて北に下る。この分岐は3県境になっており、ここからは右(東)側は新潟県、左(西)側は長野県になる。
 分岐の直進方向に稲包山方面に向かう2人パーティーの後ろ姿が見えた。山頂で見た足跡はこの人たちのものだろう。おそらく苗場山から縦走してきたのだろう。ということはこれからは苗場山までずっとトレースがあるわけだ。やった!!そのすぐ後には単独の方ともすれ違った。この山行中、神楽ヶ峰までで見かけたのはこの3人だけだった。
 白砂山からは歩きやすい雪の稜線で(しかもトレースあり)、また方向が変わったせいか風もすっかり弱まってサクサク進むことができた。
 沖ノ西沢ノ頭は広くて平らな雪原で風もなく絶好の天場だった。しかしまだ時間が早いので先に進まねばならない。白砂山からここまでは堂岩山白砂山間より距離はあるのに2時間ほどで着いた。この調子で歩ければこの日は佐武流山を越えることができそうと思ったのだが・・・。
 沖ノ西沢ノ頭を過ぎると稜線は細くなったうえに岩場もあり、再びガクンとペースが落ちてしまった。雪の状態も悪く、安易に先行者のトレースを辿るわけにはいかず、ルートの状況を見極めながら慎重に進む。
 結局、赤土居山まで1時間20分もかかってしまう。赤土居山から再び方向が変わり西に向かう。そこを下った鞍部もいいテン場だった。2,107mのピーク付近でテントを張るつもりでさらに進む。
 そこに着いてみると狭くてとてもいい場所とは言えなかったが、その先はさらに細い稜線になってしまう。また風が強まり、時間的にも体力的にもこれ以上進むのは無理そうなので、仕方なく木の間の狭い場所を削って平らにしてテントを張る。
 前日以上の強風が吹きすさぶ中、テントを張るのが非常に大変だった。きっちりと本体とフライを固定しないと風で飛ばされてしまうのでピッケルを刺したり、枝をテントの細引きに巻きつけて雪に埋める方法などを教えながらやっていたら、あっという間に1時間以上たってしまった。
 多少斜めだったがテントの中はやはり天国だ。濡れていなかったので前日よりは寒くもなかった。

【5月2日(月) 天気:曇りのち晴れ】
 一晩中、強風が吹き荒れた。風の音が気になり、またもよく眠れなかった。もともと山ではあまり眠れない方ではあるけれど、こんなに続けて眠れないのも珍しい。
 4時に起きて6時前にだいたいのパッキングを終えて、テントから外に出てみるとガスがかかって何も見えない。起きた時にはおさまっていた風もまた強くなっている。予報ではこの日は天気がよくなるはずなので出発を少し遅らせて様子を見る。まもなくガスが薄くなってきたのでテントの撤収にかかる。この日は冷え込んだので前日に埋めたテントの細引きが凍りついて掘り出すのに苦労した。
 そんなこんなでこの日も7時近くに出発。天城さんが先頭、次にエドワーズさんと男性2人はスタスタ進み、章子さん、続いて曾さん、写真を撮っていたため私が最後尾になる。天場からは細い雪の稜線をトラバースしたあと急な登りになる。入山以来初めて雪も凍ってアイゼンがよく利く。
 トラバースの真ん中で突然曾さんが立ち止まり、歩かなくなってしまった。具合が悪いのかと聞いても返事がない。私にはアイゼンが利いて歩きやすいと思った凍った雪面が慣れていない曾さんには逆に滑りそうで怖くて足が止まってしまったようだ。そばに行ってこういう雪の状態はアイゼンが利いて却って歩きやすいこと、ゆっくり一歩一歩確実に歩けば落ちることはないなどと話して励ます。しばらく待って落ち着いたところで章子さんとわたしで挟むようにしてゆっくり進む。トラバースのあとはちょっとした雪壁状の急登があったが、そこもピッケルを確実に差して一歩一歩登る。
 あとは尾根も広くゆるやかで登りやすくなり、曾さんも普通に歩けるようになった。また天候も良くなってきて時折青空ものぞくようになってくる。
 天場から1時間で佐武流山の頂上に着いた。頂上は広くなだらか、山名板などは見えない。佐武流山からは北へ緩やかに下っていく。雪が締まっているので樹林の間を通ってもハマることがなく歩きやすい。気温が上がる前にどんどん進みたい。40分ほど進んだところでルート確認。この辺りから稜線は北東へ方向を変えてナラズ山に向かう。ワルサ峰をへて切明温泉へ下る北の尾根に引き込まれないように注意する。
 ナラズ山に向かうルートは灌木混じりの急斜面。このころから気温が上がって雪が腐り始めたため、非常に歩きにくくなる。皆かわるがわる腐れ雪に足を取られ、もがいたり転んだり。鞍部を過ぎ登りになってもやはり雪が不安定な状態で苦労する。
 11時くらいに『土舞台』という地名板を見る。1,901mの小ピーク付近のようだ。ここにはブルーシートに覆われた物があった。登山道整備のためのものだろうか。
快適だったナラズ山手前のテン場  それからさらに1時間がんばると広い雪原が美しい、テン場に最適な場所があった。ナラズ山手前の1,900mあたり。
 とりあえず休憩とザックを下ろすと急に章子さんから「今日はここでテントを張り、半日のんびりしましょう」と嬉しい発言。まだまだ先に進むものと思っていた私はびっくりするやらほっとするやら。たぶん他のメンバーも同じ思いだっただろう。
 早速テントを張り、濡れた寝袋や装備を干し、あとは思い思いの時間を過ごす。雪の上にマットを広げて昼寝したり、お茶を飲んでおしゃべりしたり。
 ここまで悪天候の中を1日目、2日目とも長時間行動して大変な思いが続き、メンバーの疲労もたまってきていた。ようやく天気も良くなって雪山であっても冬とは違った暖かい日差しの中でのんびりまったりして身体を休めることができた。
 計画では3日目は苗場山を越えているはずだったが、計画通りに進むことより、私たちの状態を考えて休養の時間をとってくれた章子さんに感謝した。

【5月3日(日) 天気:晴れのち曇り】
 計画では2日には神楽ヶ峰に幕営して3日は小松原コースを上結東に下山だった。しかし実際はまだナラズ山手前、エスケープルートの神楽スキー場下山にしても予備日を使うことは確定している。家族には3日には帰れると言ってきたけど、仕方ない。
 この日は穏やかな朝だった。4日目にして初めて朝日を見られた。テントの外でパッキングできたのも初めてだ。
 まずはナラズ山へ登る。この日も朝の冷え込みで雪が締まって歩きやすい。テン場から20分くらいでナラズ山を通過。ナラズ山からの下りは佐武流山のように急ではないし、風もないので楽に進む。
赤倉山頂上、奥に見えるのは苗場山  赤倉山への登りは尾根も広くゆるやか。頂上は広くてここも幕営適地。赤倉山から北西へ下る。赤倉山と苗場山の鞍部近くで休憩。1日目、2日目に比べて休む回数は多くなっている。雨が降っていると休むのも大変ということもあるし、やはり後半に入ってみな疲れがたまっているということもあるだろうか。でもコース的には楽なので進むスピードは速くなっている。
 いよいよ苗場山への登りにかかる。樹林帯に入ると景色は見えず、トレースを追ってダラダラと登る。樹林を抜けて広い雪原に出る。天狗ノ庭というところか?もう苗場山の一角に来ているような気になってすっかり気を抜いてしまったけれど、ここからがけっこう遠かった。夏道は湿原の中を通っているが、トレースは県境にそって続いていた。トレースがなかったらルートファインディングが難しそう。
 山頂付近の雪原に入りしばらく歩くと小屋の屋根が見えてきた。しかしこのだだっ広い雪原は距離感がなく、歩いても歩いても景色は変わらず屋根も近くなってくるようには見えず、精神的に辛かった。ひたすら歩く。
 ようやく苗場山頂ヒュッテに着く。苗場山には他の登山者がいるかもと思って来たが、誰もいなかった。ヒュッテの陰にテントを張った。この日、午後には雪が降った。

【5月4日(水) 天気:晴れ】
 ようやく下山の日になった。この日の行程は短いが東京まで帰ることを考えて3時半に起きる。前夜の雪は積もるほどではなかった。起きた時は風が吹いていたが、出発の時にはおさまっていた。
最終日、苗場山の雪原を行く  苗場山頂の雪原を東へ向かい、雪原から急なヤセ尾根を下る。鞍部付近では雪が解けて夏道が出ているところもあった。雷清水はすでに水が流れていた。ここを過ぎると神楽ヶ峰の登りになる。
 神楽ヶ峰に続く稜線は再び白銀の世界。右手にはカッサ湖やスキー場のリフト、鉄塔が見えて文明の地に下りてきたことを実感する。神楽ヶ峰の山頂、単独のスキーヤーさんが登ってくる。とても親切な方で下山のルートやバスのダイヤなどいろいろな情報を教えていただいた。計画では上結束に下山予定でこのコースはエスケープだったので、かぐらのゴンドラが動いていることさえわかっていなかったのだ。
 下まで歩くつもりでまだまだ長いと思っていたが、ゴンドラの駅まで行けば一気に下山できることが分かってがぜん元気になる。
 山頂から稜線をさらにたどり、2つ目のピークから中尾根を下山する。やがてスキー場の喧騒が聞こえてきてゴンドラ山頂駅に着いた。
 ゴンドラ(片道600円)に乗り、山麓駅へ。そこから除雪された林道を30~40分辿り、スキー場を横切って駐車場への下りロープウェイに乗る。路線バスで越後湯沢駅に出る。駅前でへぎそばを食べ、温泉で5日間の汗を流した。

〈コースタイム〉
【4月30日】 野反湖(11:15) → ハンノキ沢(12:15) → 尾根に出る(13:35) → 堂岩山手前テン場(15:50)
【5月1日】 テン場(07:10) → 堂岩山(07:20~30) → 白砂山(10:25) → 沖ノ西沢ノ頭(12:35~55) → 赤土居山(14:15~25) → 2,107mピーク付近テン場(15:15)
【5月2日】 テン場(06:45) → 佐武流山頂上(07:45~8:05) → 土舞台(11:05) → ナラズ山手前1,900m付近テン場(12:00)
【5月3日】 テン場(06:35) → 赤倉山(08:15~35) → 天狗ノ庭(10:10~25) → 苗場山頂ヒュッテテン場(12:20)
【5月4日】 テン場(05:40) → 神楽ヶ峰頂上(07:45~08:30) → ゴンドラ頂上駅(09:35)

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