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谷川岳東尾根
星野 剛

山行日 2011年2月26日
メンバー (L)星野、小幡、榊原、YUKI

 進路の右から左から強風が吹き込んでくる。行く手をはばむ2mもある雪の壁を、両手をついて乗り越えていく。片斜面はしっかりアイゼン、ピッケルを使わないと滑落の危険がある。前方には雪崩跡が何ヶ所も見える。まだ林道歩きだというのに、この先どうなるんだろう・・・?

 この冬、一つは雪稜に挑戦してみたいと思い、アイゼンでのクライミング、支点作成や相互の確保などのロープワーク練習、道具の準備などを一つ一つ重ねてきた。最初はどこから行くか迷ったのだが、ガイドブックには「入門レベル」と書いてあり、大好きな谷川エリアで登れるということで「東尾根」を選択。・・・しかし、色々な人から話を聞いてみると、どうもそうではないようだ。

・東尾根は全般的な雪稜登攀の入門ではなく、「谷川岳の」入門コース
・一ノ沢は雪崩の危険あり、休憩しないで一気に登る
・もし敗退して元の道を戻ることになっても、雪が溶けて不安定になる日中は絶対に一ノ沢には入らない。夕方まで待つこと。

 今まで聞いたことのないタイプのアドバイスばかりだ。どうやらこの山、何かが違うようである。

 出発日、家に帰ると発売されたばかりの廣川健太郎さんのDVD「大氷壁に挑む 谷川岳・一ノ倉沢」が届いていた。装備の確認が終わってから、気分を盛り上げるために再生する。オープニングから一ノ倉沢を駆け下りる大きな雪崩・・・おいおいこんなところに行くのか?どうやらこの山、何かが違うようである。
 新宿に集合し、車で関越道を土合へ向かう。埼玉県内は速度規制が行われるほどの強風で、少しスピードをあげると車が右に左に振られる。明日の天気のことを考えながら車を走らせる。予報によればこれから日本は高気圧に覆われて天候も安定するはず、といっても出発まであと5,6時間しかないのだが。土合口に到着し、ロープウェー駅で仮眠を取る。夜中の1時を過ぎてもまだ宴会を続けている人たちがいる・・・お前らどこに行くつもりなんだ?まったく。
 3時に起床。外の状況を確認する。「これは・・・地吹雪だね」天候の回復を祈りつつ、指導センターでアイゼンを装着し、除雪の行われていない林道に入っていく。雪は強い風によって形を変え、林道がどこを通っているのかも油断すると分からなくなってしまう。どうやらこの山、(以下略)。
 マチガ沢の入口で少し上部に入り込んでしまった。帰りに分かったのだが、夏道通りに行くには右下の谷の方に下っていかなければならなかったのだ。地図だけではその選択はなかなかできないと思う。50mくらいマチガ沢を登った後、GPSを使って現在地と方向を修正し、元の道に復帰することができた。後から二組のパーティーが追ってくるのが明かりから分かった。
 一ノ倉沢出合には先頭で到着。辺りも明るくなり、状況が見えるようになった。谷川岳の上部は雲に覆われている。一ノ倉尾根は途中で雲に包まれ、ここからは衝立岩も望むことができない。ここで休憩がてら作戦会議を開くこととする。
 今いるところの風は弱まったが、上の方では相変わらず強い風が吹いているようだ。尾根上は雲が晴れず、どんな状況になっているかは想像できる。残念だが挑戦はここで終了。後学のために一ノ沢出合まで進み、様子を見てから帰ることに決定した。
 一ノ倉尾根から一ノ倉沢に流れ込む谷はすべてが雪崩ている・・・デブリも人間より大きいような見たことのない大きさのものがいくつも転がっている。一ノ沢出合からはうっすらと衝立岩が見える程度、目指す滝沢第三・・・じゃない、一ノ沢も雲の中。
 後から来た二組のパーティーは、いずれもここで準備を整えて一ノ沢へ向かっていった。我々はここを進むにはまだまだ力不足である。
 すっかり明るくなった林道を、再び土合口方向に戻り、下山する。帰りの車中から谷川岳を望むと、一面の青空の中尾根だけに雲が貼りついているのが見える。後日聞いた話によると、この日は天神尾根でも行動に相当苦労したとのこと。やはり止めておいて良かったのであろう。

 3月も下旬になるとこの辺りは雪が不安定になり、入山が禁止される。再挑戦は来シーズン以降に持ち越しとなる。今回登れなかったことに若干の心残りはあるけれど、登山を続けていればいつか登ることができると思う。


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