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燕岳~常念岳(表銀座縦走)
杉本 弓子
平尾 英也
内田 優生
高木 敦子

山行日  2011年5月3日~7日
メンバー (L)高木、杉本、平尾、内田

【第1日目:5月3日】(杉本 弓子)
 今回のGW山行は、雪山1年生の新人3名のために高木さんが企画してくれた。思えば、この3名は昨年12月上旬の雪上訓練(日光白根)で同じ高木リーダーのもと初めて雪山を経験したのであり、今回はいわば卒業試験のようなものである。登ったことはないけれど常念岳が大好きな私のたっての希望で、燕岳~大天井岳~常念岳~蝶ヶ岳をゆったり歩く3泊4日の縦走コースを組んでもらった。
 出発はGW後半戦の5月3日。新宿発7時ちょうどのスーパーあずさ1号のホームに集合。今年のGW前半の北アルプスは暴風雪・暴風雨の悪天が続いていたが、後半は天気も回復傾向。「後半にして正解だったね」と穏やかムードだったが、そこでトラブル勃発。ザ・ギリギリ山ガールの内田さんが来ない。発車ベルが鳴り響くなか、文字通り片足を電車にかけてハラハラ待っていると、まさにベルが鳴り止むと同時に電車に滑り込んだ。心臓に毛が生えているとは彼女のことだ。こちらは朝から大汗をかき、たまらず車内販売のビールをガブ飲み。もちろん内田のおごりだ。
 松本からローカル線に乗り換え、穂高駅10:20着。駅を出ると山岳指導員?の方から行程をたずねられた。天気は回復するが雪庇が崩れやすいので注意するように等々の忠告を受け、気を引き締める。  駅前からタクシーに乗り、11時過ぎに中房温泉の登山口に到着。装備振り分けや身支度を調え、11:40出発。
標高1,462mの燕岳登山口  1日目の目的地は、とりあえず合戦小屋(標高2,360m)と決めた。標準タイム3時間で標高差900mを稼ぐのは、かなりキツそう。エアリアマップによると、この合戦尾根は「北アルプス三大急登」とある。
 さすがに雪はあまりないが、スタート直後から結構きつい登りが続いた。眼下に中房温泉の建物を見下ろす。この秘湯の宿には15年ほど前に温泉客として泊まったことがあり、懐かしく思う。どんどん高度をかせぎ、第一ベンチを経て、荷揚げ用ケーブルが頭上をクロスする第二ベンチ(標高1,820m)に13:00着。まあまあのペースか。やや雪も多くなり、ここでアイゼンを付けるパーティもあったが、我々はまだ早いと判断。
 第三ベンチ着は14:00。標高2,000m強。ここでアイゼン装着。もう行程の半分は過ぎたはずだが、ここからが真の合戦尾根だった。斜度も厳しいがなにしろ荷物が重い。テント泊装備もそうだが、なにより今後4日分の食料とお酒が恨めしい。初日は元気ハツラツ!というのは素人考えで、特に初日は無理するべからずと雪山縦走の心得を知った。「だから食当は体力の弱い順番にするんだよ」という高木さんの教えもしみじみ納得である。
 最後の休憩ポイントである富士見ベンチのあたりで雪が舞い始めた。ジャケットを着ての急登になり、暑いのなんの。上から下りてくる人から、「合戦小屋までもう一山だね」と聞かされ、まだ一山もあるのか・・・と心が折れそうになりつつ黙々と登る。ふと気づくと、左側に大きな稜線が横たわっていてびっくりする。「明日あそこ歩くのかな?」「そうだよね・・・。めっちゃでかいね・・・」。こういう期待と不安が入り交じった山への畏怖を感じる瞬間が私はなぜか大好きだ。視線を前に戻すと、樹の合間に合戦小屋の屋根が見えていた。
小屋が見えた途端、足が速くなる人達  合戦小屋到着は15:30。4時間弱はかかりすぎだろうか?我々はここで幕営するが、他のパーティの多くはさらに1時間以上かかる燕山荘を目指して登っていった。この小屋は売店のみで宿泊できないからだろう。
 重い荷を降ろした我々は、とにかくまずビール!で意気投合。小屋で缶ビールを8本頼み、ついでに幕営の申込みをしたら、「8名様ですね」と言われたことはご愛敬(笑)。
 小屋のそばにもテントを張るスペースがあったが、やや上の方にちょうどよい整地したスペースを見つけて設営した。夕食は私がジョンという韓国風お好み焼きに挑戦。ビニール袋に小麦粉と片栗粉と卵と野菜なんぞを入れてモミモミしてゴマ油で焼くだけ・・・なのだが1枚ずつ焼くので時間がかかるのが難点。平尾さんは寝ては食べ、食べては寝るを繰り返していた。美味しいし楽しいけど山にはオススメできないかも。
 宴もたけなわ、トイレに行こうと外へ出ると、内田さんが夕闇を見つめて「ねえ、あれって槍?」とつぶやく。まさか・・・と目を凝らすと確かに槍ヶ岳の穂先がこっそり隠れていてドキッとした。それは明日からの稜線歩きの絶景をまざまざと予感させる光景であった。
〈コースタイム〉
中房温泉登山口(11:40) → 第一ベンチ(12:30) → 第二ベンチ(13:00) → 第三ベンチ(14:00) → 合戦小屋(15:30)

【第2日目:5月4日】(平尾 英也)
 5月4日の予定は、合戦小屋から燕山荘に向かい、燕山荘から燕岳頂上のピストン後、表銀座縦走し、大天井岳山頂を経て、幕営は大天荘にする約8時間程度の行程。
 午前4時起床、昨夜は強い風が吹き天候を心配したが、雲はあるものの風も弱く、天気に恵まれた。午前6時に燕山荘に向け出発。昨日で体も慣れ、合戦尾根の急坂を重い荷物を背負いながらサクサク登り、予定通り午前7時20分頃燕山荘着。人気の燕岳とあって、燕山荘には多くのテントが張られており、多数の登山者で混み合っていた。すぐ、雪と黒い花崗岩とのコントラストが美しい、名前の通り燕の姿に似た燕岳に出発し、午前8時10分に最初の目標である燕岳頂上に立つ。燕岳に向かう登頂中には数羽の雷鳥に会うことが出来た(その後も縦走中数回雷鳥が見ることが出来た)。その後、燕山荘に戻り、缶ビールを仕込んで、午前9時に大天井岳に向け出発。天気も快晴となり、まだ雪で覆われた鷲羽岳、双六岳、槍ヶ岳・穂高連峰が次第に綺麗に見えるようになる。また、表銀座は雪も少なくアイゼンを外すことが出来た。表銀座の続くアップダウンは、徐々に皆の体力を奪い、大天井岳へ最後の急登を前に息がきれぎれになり、杉本さんが「このテントポール持って、男でしょう!」と言うコメントを私(平尾)に放つ。(そうだ、主に荷物運びでこの女性陣中心のパーティに呼ばれたんだと再認識)。泣く泣くテントポールを預かり、最後の大天井岳に向け登りはじめ、午後2時に大天井岳頂上に立つ。そこからは、立山・剱岳~槍・穂高まで見渡すことができ、特に中央に見える真白な槍ヶ岳の雄姿は感動的なものでした。
 大天井岳頂上からすぐ下の大天荘冬季用小屋(2段ベッド風、4.5畳程度の板畳×2段)をお借りし、そこの1段目で本日は泊まることとなった。そこの2段目には夜空の星を撮影するカメラマンが1人来ていたが、夜からは雲が覆い、撮影は出来なかったとのこと。そのカメラマンを気にすることなく、女性陣は夜遅くまで宴会し、私は疲れたのでさっさと床に就き、本格的な縦走が始まった5月4日が終了した。
〈コースタイム〉
合戦小屋(06:00) → 燕山荘(07:20) → 燕岳(08:10) → 燕山荘(09:00) → 大天井岳(14:00) → 大天荘冬季小屋(15:00)

【第3日目:5月5日】(内田 優生)
 3日目。朝起きてみると昨日よりさらに天気がよく、大天荘から日の出がきれいに見えた。3日に山に入ってから日を増すごとに天気が良くなっていく。つくづくラッキーだ。6時半頃に冬季小屋を後にした。昨晩は我々が1階を陣取り宴会をしていたので、小屋の2階にカメラを抱えて一人で来た男性はちゃんと眠れたかな~と少し気になった。
大天荘から常念岳に向かう道のり  大天荘から常念までの道のりはまさに尾根沿いを歩くとはこういうことなんだと実感できる素晴らしいルート。右には穂高連峰を一望でき、左は中央アルプスに八ヶ岳まで見える絶景の中を歩いていった。しばらく行くと昨日に引き続き雷鳥発見!つがいの雷鳥でメスはドーンとハイマツの中に鎮座する中、オスはうろうろと我々の登山ルートの真ん中で右往左往している姿が可愛い!!これを見られただけでも来たかいがあったな~と思うほど。実は雷鳥をずっと見てみたかったので感激もひとしお。その後軽いアップダウンを繰り返すと、常念小屋が下に見えてきた。大きな小屋から少し離れたところにカラフルなテントがチラホラ見える。しかし、小屋が見えてからが長い!リーダーが見えてからが結構あるのよと警告してくれた通り、すぐそこなのに遠い。やっとのことで小屋まで下りて少し長めの休憩。常念小屋は入り口が雪のトンネルに覆われていて、その下の階段を下っていくと小屋の入り口という素敵な造りになっていて、なんだかワクワクしてしまう。ここで今夜のビールを1人1本調達。大事な聖水だ。
 その後、常念岳を目指して歩くが、かなりの急登でクタクタになってしまう。下から見上げた時はいっきに頂上まで行けるかなと感じたが、40分くらい歩くとバテバテで1回目の休憩。ここで事件発生。休憩を終えさあ出発というところで、リーダーが「お杉、ザックからなんか漏れてるよ!下ろして確かめなさい!」と言う。当の本人は「え~もしかしたらプラティパスの締めが甘かったのかも・・・」と言ってザックを開けて確かめるとなんと!聖水にアイゼンが刺さっていた様子。「わ~大事なビールが~」と大騒ぎになったが、穴があいてしまったものはしょうがない。当の本人が怪我の功名!と開き直って残りを飲み始めたので、リーダーと私もお手伝いした。その間ずっと平尾さんはしら~っと少し上の方からこのバタバタ劇を眺めていた。
 ゴツゴツの歩きづらい岩肌を抜けると頂上へと続く最後の道は一面雪に覆われた急登だ。ここでまたアイゼンをつけて最後の登りを終え、常念岳の三角点に立てたのはちょうど正午前だった。天気はこの頃最高潮に達して、真っ青な空に360度のパノラマ。頂上は他の団体客でごった返していたが、とても穏やかな雰囲気で、我々も写真を撮りつつ山座同定でひとしきり盛り上がった。その後の下りは頂上に立てた喜びも吹き飛ぶ程長く辛いものに感じた。雪だったり岩だったりの道でその都度アイゼンをつけたり、脱いだりを繰り返した。もともと下りが苦手なこともあり、一刻も早く下りを抜けて今夜のテン場に着くことだけを考えて歩いた。途中の休憩でぐったり横になっていると、上空をかなりの数の岩ツバメが縦横無尽に飛んでいて、それを眺めていると少しだけ癒された。はじめは上の方を飛んでいたのに、気のせいかどんどん近づいてきて、結構すれすれの所を凄いスピードで飛ぶものだから、巣が近くにあってもしかしたらこれは威嚇されているのかな?と思ったりもした。
常念岳登頂!360度のパノラマ  結局今日も歩行時間8時間強。テン場に着いたのは14時半を過ぎていたように思う。蝶ヶ岳手前のコルが今夜のテン場。前の晩もそうだったが、今日も天気に恵まれたので、まずテントを張って荷物を入れたら、ビールとおつまみと敷物を持って一番景色の良いところにどーんと4人で横並びに座って景色を眺めビールを飲み地図を広げて、あーだこーだと話す。この瞬間が何度やってもたまらない!このために登っていると言ってもいいほど至福の時だ。
 しばらく安曇野の街を眺めてのんびりした時間を過ごした後、テントに戻り夕食を済ませた。平尾さんは相変わらず16時から17時頃に眠りのピークに達するようで、女達が酒を飲みながらつまみを作り盛り上がっている横で、小さくなって寝ていた。明日はとうとう最終日で、徳沢園まで下りれば三澤さんがステーキとワインを持って迎えてくれるはず!と心躍らせながら眠りについた。

3日目のテン場 蝶ヶ岳手前のコル

〈コースタイム〉
大天荘冬季小屋(06:30) → 常念小屋(09:45) → 常念岳山頂(11:55) → 蝶ヶ岳手前のコル・テン場(14:30)

【第4日目:5月6日】(高木 敦子)
 今回の縦走も今日が最後、今晩は徳沢園で三澤さんがステーキの用意をして待ってくれている。天気は今日も快晴である。蝶槍の手前の気持ち良いテン場を後に、気持ち足取りも軽く出発する。しかし、体は正直なもので、縦走も4日目ともなるとダメージも現れ、体が重く感じる。元気一杯の若い連中の後をとぼとぼと着いていく。下り斜面になると、お杉と平尾さんがシリセードをしたそうだったが、まだ時間が早く雪が硬いので諦めてもらったが、実に残念そうである。
 蝶槍に出ると稜線には雪の無い所もあり、前に来た時より雪が少ないのは少し意外だった。今日はキツイ登りが無いので嬉しい。ここまで来ると登山者も増え、ようやく上高地に近づいて来たなと実感する。時間もたっぷりあるので蝶ヶ岳ヒュッテで一休み、ビールがとても美味しい。一応蝶ヶ岳のピークを踏むが、なぜか岩の上にサングラスの忘れ物?今回は誰も拾わずそのままにしておいた。
 ずっと見てきた槍・穂高の稜線に別れを告げ、ビールとステーキ、もとい三澤さんの待つ徳沢園に向け、長塀尾根をひたすら下る。だが、尾根は半分も行かないうちに雪が無くなり、歩きにくいこと夥しい。ようやく徳沢園に着いた頃にはヘトヘトになってしまい、ウッチーもだいぶ膝を痛めてしまったようだ。徳沢園は結構テントが張ってあり、お杉が三澤さんを探してきょろきょろするが見つからず、いつものMOTOコールをすると、テントの前で寝ていた三澤さんがむっくりと起き上がってきた。やっぱり便利ですねぇ。
 皆の頭の中は肉・肉・ビールしか無いのは言うまでもないが、一応念を押して(こんなに期待されて、万が一お肉の量が少なかったらどうしよう、皆そうなっても恨まないように)と言い含めておいたが、さすが三澤さん、お肉もワインもたっぷり用意をして、皆の目をウルウルさせてくれた。この後、長かった縦走をやり遂げた満足感と、美味しいお肉の満腹感に満たされて最高のフィナーレとなった。感謝!
〈コースタイム〉
テン場(06:20) → 蝶槍(08:00) → 蝶ヶ岳(09:50) → 徳沢園(13:30)

【第5日目:5月7日】(高木 敦子)
 今日は上高地まで。残った食材で朝食を済ませ徳沢園を後にした。梓川を右手に見て、昨日まで歩いた稜線を見上げながら40分程で明神館に到着。平尾さんが早速タバコを買って一服していた(徳沢園では売ってなく、少ないタバコを3人で分け合っていたのだ)。三澤さんも到着し、残りの2人を待っていたがなかなか来ない。途中迷う所もないし、まさか徳本峠の方には行かないでしょうと笑って待っていたが、30分たっても来ないのでさすがにおかしいと思い、平尾さんと戻って探してみた。すれ違う登山者に女性2人連れを見ないかと聞いてみたが、見ないという。そう、誰もがまさかと思う徳本峠への道に行っていました。そりゃ来ないわな。最後まで話題を提供してくれる2人でした。
 5泊6日の長い山行を無事終えて、皆さまお疲れ様でした。天気に恵まれ、楽しく行けて最高でした。これをステップにさらに上を目指してもらえればリーダー冥利につきます。

 さて、今回の山行は上高地からタクシーで沢渡に出て温泉に入ってお終いですが、さらにおまけがあります。今日は土曜日、別働隊と戸隠キャンプ場で合流して、山菜・焚き火宴会をしようという訳です。結局仕事がある平尾さんを新島々で降ろし、残りは戸隠キャンプ場に向かいました。

【オプション 山菜宴会(5月7日~8日)】
メンバー:深谷、土肥、山崎、永岡、高木、杉本、内田、三澤
 戸隠キャンプ場にて宴会するのは今回で3度目。最初は2005年10月の戸隠山西岳の山行時で、キノコが沢山採れた時だ。2回目は2008年のGW、蝶ヶ岳の山行で天候不順により1日早く降りて、途中で山菜を採りこのキャンプ場のお世話になった。戸隠山と牧場のようなロケーションが素晴らしく、炊事場を独占して焚き火も出来ちゃうのがお気に入りとなっている。
 今回の山菜は別働隊の4人が、コゴミ、カンゾウなど沢山採ってくれた。お陰で昨日のステーキ、今日の山菜料理ととってもご機嫌なGWとなりました。お杉とウッチーも初めての経験でとても満足そう。次の日はお土産のコゴミを採って、長かったGWの締めくくりとした。

戸隠キャンプ場で長かったGW山行を楽しく締めくくる

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