トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ337号目次

縦走・南アルプス深南部(光岳~中の尾根山)
鈴木 章子

山行日 2011年7月30日~8月3日
メンバー (L)鈴木(章)、飯塚、内田

 永い間、気にかけ、情熱を注いでも、なかなか行けない山がある。メンバー、アプローチ、水場等々の問題だけではなく、山中に入ってしまえば、行動距離、行動時間共に長く、ハプニングも多い。
 自分の僅かな能力と、経験全てを出して帰宅ルートを探さなくてはならない。そんな時、気心の知れたメンバーと行けばルート探しに専念できて助かる。
 今回のルートは、長く、私には未知のルート。エスケープルートを8本も用意をした。しかし、どのルートも、林道に出てから1日は歩かなければならない。ウンザリするほどの山中。今回、天気に恵まれず、思うようには進めなかった。今でも、『後、1日有れば、予定通り歩けたのに』と、悔やまれる。
 が、気温が低かったので、嫌われ者のヒル、ダニ、アブ、ブヨ等に出会わなかったのは幸いだった。
 飯塚さんの夏休みに合わせる形で、他2人も休みを取った。私以外は、深南部は初めて。もっとも、過去に私が歩いた深南部は入口に過ぎない。
 光岳に行くのは、今回で3回目。易老岳から先は、言葉に無く素晴らしいが、そこまでの登り8時間は、急登の連続。今回は、暑さも加わり、1.5Lの水は「アッ」と言う間に、飲み干してしまった。
 お花畑の水場で、今夜の分も補給して(水場に水が有るときは、小屋では水は分けてくれないとのこと)、イザルヶ岳分岐に荷物を置きピストン。イザルヶ岳山頂で、月を愛でるのは素晴らしいと言うと、内田さんが嬉しそう。(何時の日か、絶対、実行すると思う。酒を持って)
 小雨の降る中、小屋手前の空き地に幕を張る。ここは、幕場指定地ではなかったが、小屋の人はOKをくれた。この小屋は、ゆったりとした気分にさせる。お客も少人数パーティーが多いようだ。
 霧雨の中、狭いテント内で過ごす。足の踏み場も無いとはこのことか?濡れた衣服が散乱。僅かな隙間で食事を作る。女3人、これからの日々が目に浮かぶ。
 明日は早く出ようと、20時には横になった。勿論、明日の好天を祈って。

 翌朝、早起きはしたものの外は小雨。意気が上がらないまま、小屋の人に声を掛けられ出発が遅れる。女性3人、大きな荷物、危険人物にしか映らなかったのだろう。小屋番の責任として、深南部を歩いているという彼は、色々とアドバイスをして下さった。
 先ずは、光岳、光岩を見学。いよいよ、池口岳へ。分岐から一気に下る。踏み跡もテープも有り不安は無いが、倒木、シダが道を覆い、時として判断に苦しむことがあった。
 最低鞍部から細めの尾根を辿り加加森山へ。小さなピークを数か所過ぎ、平岡方面の分岐に出合う。そこから斜度は一気に増す。尾根も更に細くなる。ザレ場を過ぎると山頂に着く。長丁場の旅。写真を撮り直ぐに歩きだす。
池口岳北峰にて  痩せ尾根を1時間ほど歩くと池口岳南峰へ。北峰で、池口岳は通過したものと思い込みがっかり。小雨も降りだし、地図の確認が疎かになり、南方(千頭山方面)に下ってしまった。
 引き返し、鶏冠山の分岐に着いたのが16:30。雨も降りだし、視界も悪い。本日の行動はここまでと、笹の上にテントを張った。
 水が心細いのでと、内田、飯塚2名で探しに行ってくれた。1時間ほどで、ありがたいことに4Lの水を確保してきた。
 雨は大降りになることはなかったけれど、薄ら寒い夜、熟睡には遠かった。

 翌朝も、昨日と同じ天気。『寒い、寒い』と言いながら、濡れた物を着て出発。今日こそ笹平で水の確保。分岐から細い尾根をドンドン下る。赤布、テープはめっきり少なくなる。昨日の道間違いが良い経験?3人とも目印、地図、コンパス確認に熱心。視界50mも重なり景色を楽しむ余裕はない。
笹平での今回最初で最後の青空  笹平は、名前の通り一面笹。ここでテントを張りたかった。水場は、笹藪を漕ぎ20分下る。ささやかな流れだが、涸れることはなさそう。水汲みに精を出していると、今回、たった1度、青空に出会った。青空がこれほど美しく、素晴らしいものか。暑くてもよいから、しばらくそばに居てほしかった。
 ここから2日分(4L)の水を担ぐ。歩き出せば、また、雨。
 鶏冠山北峰は、大きく西にトラバースしてから登りに入る。このポイントがつかみ難く、何度も確認を取る。踏み跡もいくつかあった。北峰~南峰は今回一番の難所だった。プラス4Lしたザックでの岩場登りはハラハラドキドキ。幸いなことは、登り切ってから雨が降ってくれたことだった。
鶏冠山にて  南峰を過ぎると笹原になるが、ガスで、目指す尾根が判断できず、確認を繰り返す。やっと安定した尾根に乗った時から飯塚さんが不調を訴える。雨で体温が下がったようだ。騙し賺し、三又山肩辺りに、幕場適地を発見。今宵の宿にした。湿度100%のテントの中、コンロで暖をとった。今夜も、寒そう。
 23:58 駿河湾沖で地震、浜松 震度4。3人一斉に目を覚ました。周りの木がザワザワ。地面がグラグラ。『山も動くの?』。その後、全員眠れなかった。

 翌朝も霧の中、もう誰も天気に期待はしない。残りの日数も不安だから下山と判断。以前、私が歩いたことのある、中の尾根山から白倉林道へ。
 幕場から10分ほどで三又山へ。そこから中の尾根山までは、胸までの笹藪。笹籔も4日目、気にもせずに進む。大きな大きな、中の尾根山山頂。赤布、テープ、看板の賑やかなところ。二等三角点は何時付けられたのか。シラビソ林で何も見えない。
中の尾根山から白倉林道へ  下降点の2,214Pを、笹の中を泳ぐように目指す。わざわざ、2,214Pを目指さなくても道はありそうだが、不安もあり目指した。登る人も多く、ポピュラー化した道と記されている記録もあるが、籔漕ぎ、倒木、と安易な気分では歩けない。
 2,214Pから半分ほど下り、道型もハッキリしだした頃、撮影機材を持った6名に出会った。今回、初めての人間。お互い、『足、有るの?』。彼らは、三又山まで行くという。そこからの展望が素晴らしいという。雲が低いし、笹は深いことを伝えた。(結局、諦めたらしく、ゲートを17時頃、車で通過していった)
 林道に出てからは、荷物が肩に食い込み、ゲートまでの3時間、この不快感を何処に持っていけばいいのか、苦痛の連続。雨は、今日も15:36に降りだした。4日間、一度も狂ったことが無かった。
 ゲートを出ると、全員、『もう、絶対歩きたくない』気分。作業小屋の脇にテントを張った。脇に、ワゴン車が1台。1時間ほどで、持ち主が帰ってきた。岩魚釣りをしていたという。彼に、明日のタクシーの予約をしてくれるように依頼。気持ち良く引き受けてくれた。

 最終日 タクシーが来るか不安ながら待つ。7時、予定通りタクシーがやって来た。荷物を載せおわると、ドライバーが「ヒルはいないよね?」。この辺りは、至る所にいるとのこと。私たちは、運が良かったのだ。更に、ドライバーの話では、水窪タクシーは、8時にならなければ動かない。ドライバーは2名。今回、来てくれた人は、定期バスのドライバー。1日おきの仕事で、本日は非番。我々の為に、働いてくれたのだ。
 水窪駅に7:45着 電車は8:05、次は、11時まで無し。なんてラッキー!
 色々な人に支えられて、今回の山行を終えることができました。全てに感謝!!
 内田さんには、初めてのことが多い山行だったと思う。愚痴も言わず、よく頑張ったと褒めてあげたい。
 まだまだ、深南部は長く深い。ベストシーズンが、何時かは判らないが、私は足を運び続けたい。飯塚さんたちも続けてほしい。

〈コースタイム〉
【7月30日】(晴のち雨) 飯田駅=易老渡(08:10) → 面平(10:20) → 易老岳(14:10) → 水場(16:20) → イザルヶ岳分岐(17:00)【イザルヶ岳ピストン】 → 光岳小屋(17:30)
【7月31日】(曇のち雨) 光岳小屋(06:30) → 光岳山頂(07:00) → 【山頂散策】 → 池口岳分岐(07:30) → 2,381P(09:30) → 加加森山(10:50) → 平岡分岐(13:15) → 池口岳北峰(13:50) → 池口岳南峰(14:40) → 【ルート間違い 2時間ロス】 → 鶏冠岳分岐(16:30)
【8月1日】(曇のち雨) 鶏冠岳分岐(05:50) → 笹平(08:40~09:50)【水補給】 → 鶏冠山北峰(10:50) → 鶏冠山南峰(13:10) → 三又山の肩(16:30)
【8月2日】(曇のち雨) 三又山の肩(05:50) → 三又山山頂(06:00) → 中の尾根山(07:20) → 2,214P(08:45) → 1,830m → 林道(12:00) → 黒沢橋(14:15) → 白倉権現ゲート(15:00)
【8月3日】(晴のち雨) 白倉権現ゲート(07:00)=水窪駅=飯田駅=新宿バスターミナル

〈諸経費〉
 タクシー  飯田=易老渡   ¥17,280
         白倉権現=水窪駅 ¥5,960(含む送迎料 ¥130)
 高速バス  新宿~飯田    ¥4,200×2


トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ337号目次