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岩登り・谷川岳一ノ倉沢 南稜&中央稜
荻原 健一
星野 剛

山行日 2011年6月6日
メンバー (L)荻原、小幡、高橋(俊)、深谷、大田、渡辺(守)、星野、永田、小芝、和田

【総括】(執筆:荻原)
 最近岩登りをやりたがっている若者?が多くなってきたので一ノ倉沢の入門ルートを企画してみた。例会計画表に「南稜or中央稜」と書いたのは、クライミング当日にどちらか空いている方にでも行こうかな?という軽い気持ちだったのだが、予想以上に参加希望者が多く南稜に2パーティー5人、中央稜に2パーティー5人の総勢10人という本ちゃん岩登りの例会としては前代未聞の規模になってしまった。それでも全希望者を連れていくことは出来ず、結局数名の参加希望者は見送りとした。この例会に参加した人も結果的に参加出来なかった人も是非岩トレを継続して力を付けて頂きたい。そして入門ルートだけではなく中・上級者ルートも含めた岩登りの集中山行を谷川、穂高、剱などで毎年行えるような日が来ることを楽しみにしています。(その頃私は引退してます)

【南稜組】(執筆:荻原)
◎荻原-和田-永田
◎深谷-大田

 谷川岳・一ノ倉沢といえばまずこのルートが一番に来る。一ノ倉沢の諸ルートの中では、硬い岩、安定したテラス、抜群の展望と条件が整っていて人気が高いのも頷ける好ルートだ。でも終了点から懸垂したのではこのルートを登攀した喜びは半分だ。今回、南稜経験者はちあきさんだけ、国境稜線に抜けたことのあるメンバーとなると私以外皆無なので、“南稜経由国境稜線”のルートを企画した。
 駐車場からテールリッジを登り、中央稜基部で中央稜組の5人と分かれ南稜テラスに向かう。テラスには先行パーティーが複数いたが、ある程度力量のあるガイドパーティーでさっさと行ってしまい順番待ちはほとんどない。

壮大な景色の中、南稜を快適に登る南終了点にて

皆さん快調に登れました ルートは全6ピッチと短く難易度もさして高くはないので終了点まではあっという間だ。
 終了点から少し歩き、その上3Pで烏帽子尾根に上がる。この3Pは難しくはないが、ほぼノーピンになるのでトップの滑落は許されない。烏帽子尾根に上がったところでザイルを解き靴も履きかえる。しばらく歩くと5ルンゼの頭だが、ここは浮石だらけでやはり滑落は許されないのでロープを出す。頭を越えると一ノ倉尾根と合流し少々藪を漕いで一ノ倉山頂左横の国境稜線に出る。一ノ倉沢の岩壁を攀じって国境稜線に出る充実感を各自味わっているようだ。皆は初めてだが私は何回目だろうか?簡単に抜けた時の記憶はあまり残っていないが、苦労した時の記憶は生々しく残っている。ここに来るとどうしてもバタヤンと吹雪の中ビバークした3月の一ノ倉尾根を思い出してしまう。
 ちょうどこのタイミングで中央稜組とも無線で連絡がとれ、お互いの無事を確認する。
 国境稜線からは登山道をトマノ耳まで行き、途中から雨が降る中、西黒尾根~厳剛新道経由でマチガ沢出合いに降り、先に降りていた中央稜組と合流・解散となった。

<コースタイム>
一ノ倉沢出合(03:20) → 南稜終了点(08:30) → 烏帽子尾根(09:30) → 国境稜線(12:00) → マチガ沢(16:30)

【中央稜組】(執筆:星野)
◎高橋(俊)-小芝
◎小幡-渡辺(守) -星野

 入会から2年、やっとここまでたどりついた、本チャンデビューである。今日は小幡さんと渡辺さんと組んで3人で登る。前日に相談して、リードで登らせてもらうことになった。不安半分、楽しみ半分である。
 幕場を3時過ぎに出発。他のパーティーも同じような時間に出発するので、ここでの5分、10分の遅れが後になって数時間の違いにつながってしまう。出発時間厳守のための前日準備の重要性を改めて感じる。歩き出すと前には5~6組は歩いていて、今日は相当の順番待ちとなることを覚悟した。しかし取付に到着するとほとんどのパーティーが南稜に回ったようで、中央稜には一組(俊介さんたち)しかいない。南稜テラスには順番待ちの人だかりが見える。
 ここを何回も登っている俊介さんに、どのあたりを注意したらいいですかと質問したが、「あんまり言っちゃうとつまらないよ」とのこと。そりゃそうだ。まあ、ついて行けばルートやピッチを切る場所も分かるだろうし。雲稜第一、ダイレクトカンテなどのルートを眺めながら、先行パーティーが1ピッチ終えるのを待つ。少しずつ気分が高揚してくるのが分かる。
衝立岩を目の前に武者震いする男たち 【1P】
 衝立岩を左にかわしながらフェースを登る。終了点も見えるところにあり、簡単。
【2P】
 ルートが見えないのだが、ルート図を頼りに左側の岩の裏側までトラバースしてから登っていく。見上げると、10mほど登って右の尾根に出るように見える(過去の記録によると、真っ直ぐ上がってしまうと難しいルートに入ってしまうらしい)。中間付近にちょっと岩が飛び出していて角度が変わって難しそうなところがある。その下に支点があるが、前のパーティーを見ているとそこを越えたところにセカンドの人が待っている。あそこにも支点があるのかな?聞きたいけど、さっきの話もあるし・・・ここは敢えて聞かずに登ることにする。ロープが届くなら、あまり短く切らないで距離を稼いだほうがいい。
 バランスを取りながら少し左から難所を越えると、そこに支点らしきものは見当たらない・・・やってもうた (1回目)!でももう戻ることはできない。先に進みながら支点を探さないと。ロープの残りも心配。灌木でビレイを取ることも覚悟しながら登って行くと、右側の尾根への出口に小さな棚があり、ハーケンが3つ打ってあった。先ほどの支点よりも頼りなく見えるが仕方ない。ここでピッチを切ることにする。
中央稜を登る高橋パーティー  セカンドの確保をしながら一息いれて、南稜の方を見てみる。南稜や中央カンテ、変形チムニーを登っているパーティーが見える。南稜は人の数の割には順調に登っているように見えるが、全部のロープが1つにつながっているかのような狭い間隔で登っている。あれでは落ち着いて登るのも大変だろう。時折南稜を登っている人たちの声が聞こえてくる。順調そうに登っているようだ。変形チムニーの辺りからは石の落ちる音とそれに注意する声ばかりが聞こえてくる。あそこにはあまり行きたくないな。
 今のところ後からついてくるパーティーもなく、マイペースで登攀を続ける。登ってきた小幡さんの話によると、もっと手前で右の尾根にルートもあるとのこと。その場合は下の支点で切るのだろう。
【3P】
 先行パーティーは既に見えなくなってしまったので、もうどこを登っていいやらわからない。とはいえ行く方向だけは明らかなので、手探りで進んでいく。右に回り込み尾根を登っていくが、次第に右側の狭いルンゼに引き寄せられる。ルンゼを詰めた所で予想していた通りに行き詰まる。ここから左に出るところが核心。チャレンジしたい気持ちもあったが、この先まだ何があるか分からないので安全策を取り、AOで左側に出る。少し上がったところにいい棚がある。
【4P】
 上部は広いチムニー。シューズに土がついてしまい、足がすべる。出たところに大きな棚があるのでそこで切れば良かったが、少し上に支点が1つ、その少し上にもう1つ見える。一番上は傾斜が緩そうに見えるのでそこまで上がってみると・・・やってもうた(2回目)!棚は狭くて休めないし、傾いてるし、ボルトは2つしか使えないし。
【5P】
 登り出すとすぐに広い平らなところに出る。ここからの登りは怖い思いをすることはなかった。ピッチは短かったが、悪いリズムを立て直したかったのと平らなところで休みたかったのでここでピッチを切る。久々に安心して休憩できるところ。
【6P】
 大きな岩の手前でルートが2つに分かれている。だがこういう所で表に出ると、きっといい眺めなのではないだろうか?右に曲がって表に出ると、ロープが大きく折れ、流れなくなってしまった。やってもうた(3回目)!右手で岩をつかみ、左手でロープを引っ張って登る。左側は簡単に帰って来られるのだから一度見に行けばよかった。大きな岩を乗り越え、裏側でビレイして終了。
 ロープを外し浮き石に注意しながら北稜の下降点へ向かう。直上せず一旦右に下ってからルンゼを登るルートを選択する。登り易いが、ちょうどいいホールドが浮き石であることが多いので、注意して進む。
 北稜に出たところで右に曲がって降りだす。すぐに下降点。1ピッチ目は高度感があるが、よく整備された支点があり安心して降りられる。3ピッチ目くらいの笹薮の中を降りていくところが、若干ルートが分かりづらかった。
 懸垂下降も5回も6回も繰り返せばそれなりに時間がかかるものである。下降中に12:00。南稜組との第1回の定時交信。あちらは一ノ倉岳の頂上まであと少しのところにいるらしい。混雑に巻き込まれず、順調に登れたようだ。うんざりするほど懸垂下降を繰り返し、コップスラブへ到着。でもこのあたりのクライムダウンの方が懸垂下降よりもよっぽど危ないので注意。
 衝立前沢の手前で登山靴に履き替えると雨が降ってきた。雪渓の下りは途中から沢の下りになる。木の枝や笹につかまりながら下降。登山靴は滑って、午前中のクライミングより難易度が高い。一ノ倉沢に出る直前に滝がある。ロープを出して懸垂下降。ビショビショになりながら出合に戻る。先に登った俊介-小芝組は雨が降り出す前、12:30には出合についていたらしい。この差は人数だけの問題じゃないな。
 ずっとリードで登るのは休む暇がないのでとても大変。でも自分でルートを探しながら登るのは楽しい!初めての谷川を堪能させて頂きました。要所でフォロー、アドバイスをくれた小幡さん、渡辺さんほか皆さんに感謝です。

〈コースタイム〉
一ノ倉沢出合(03:20) → テールリッジ(04:20~05:00) → 北稜下降点(11:00) → コップスラブ(12:50) → 衝立前沢出合(14:30) → 一ノ倉沢出合(14:50)


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