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七人作り尾根
杉本 弓子

山行日 2011年11月12日~13日
メンバー (L)山崎、森田(温)、成田(義)、永岡、杉本

 ~安倍奥一のヤブといわれる尾根。果たしてどれだけのものか。読図と大谷崩の縁を通過するスリルも魅力?パーティの総合力で激ヤブを突破したい~ (例会山行計画表より)
 山崎さんがずっと温めていたというこの計画。標高差1,200mの長大な尾根。確実なルートファインディング技術を持たなければ絶対に立ち入ってはならないといわれる激ヤブに、5人の勇敢な物好きが挑んだ。

【11月12日】
 金曜夜21時30分国立駅集合のはずが、私の乗る電車が人身事故で完全ストップし、一方の集合場所では成田さんの車のバッテリーが上がってしまうハプニング。大幅遅れで出発し、中央道・駒ヶ岳SAで仮眠についたのは2時頃か。それでも就寝前に小宴会で盛り上がってしまうのはさすが三峰だが、激ヤブを前に皆に寝不足を強いてしまった。
 翌朝8時、新田神社(744m)の近くに車を停めて出発。鳥居の傍らで美味しい水が汲める。鳥居をくぐって、延々と続く急な階段を上ると小さな境内があり、脇に作業道らしきトレースがついている。植林帯だが一気に標高差600mをかせぐ急登。各自3リットル以上の水を担いでいるだけに堪える。
 やや熊笹が増え、斜度が緩くなってくると三角点(P1,357.9)が現れた。傍らに「七人作」の山名板が転がっている。ピークという風情でもなく、言われなければ通り過ぎてしまいそう。七人作りとはなんぞや?と想像をめぐらせながら軽く一本。
七人作りの山名板と  ここから先は、いよいよ果てしないヤブの世界。しかし獣のトレースがしっかりついているし、ハイペースでがんがん進む。1,450mあたりを過ぎると尾根が広くなる。こうしたところでのルートファインディングは本当に難しいと感じた。先頭を猪突猛進する成田さんだったが、どうやら西に逸れてしまったらしい。早い段階で皆が気づいてコンパスやGPSで軌道修正できたが、自分一人だったら気づけただろうかと問えば自信がない。後日、山崎さんのGPSに記録された軌道を見せてもらったが、このプチ迷走の跡がくっきり記録されていた。危ない、危ない。
 1,612m地点から先は「本日の核心部」と予告されていた激ヤブ地帯。傾斜がきつくなり、背丈を超す濃密なヤブに獣道も不明瞭になる。ただし長身の森田さんはヤブを上から見渡せるので、うっすらと獣道が見えるとのこと。「こっちはシカで、こっちはイノシシ」なんて具合。私も先頭でヤブ漕ぎを経験させてもらったが、適度に丈夫な熊笹に掴まりながら登れるので、かえって何もないより楽に感じた。夏の沢で屈強な根曲り竹のヤブを嫌というほど味わっているだけに、「激ヤブといっても熊笹ならかわいいもんだね」という山崎さんの言葉に同意。ヤブ漕ぎはスイスイと快調に進んだ。
森田さん以外はすっぽりヤブの中  予定よりもやや早く12時30分に幕営候補地の1,766mに到着。テントを張れそうな場所がいくつかあったが、宴会場付きのスペースを求めてやや下り、1,720m地点に落ち着いた。人の気配のない山中で、どんな宴会になったかはご想像の通り。森田さんが落語とチャンバラ映画のオタクっぷりを披露し、最後は案の定、酒切れでお開きとなった。

【11月13日】
 朝4時起床。昨日はガスで気付かなかったが東の空に富士山が浮かんでいる。夜中、テントのすぐそばでシカがうるさく鳴いていたそうだ。まったく気づかなかった。
 6時10分出発。樹林のすぐ向こうに目指すハチビツ山の鋭鋒が見える。テン場からはいったん下り、七段沢と呼ばれる複雑な沢地形を横切る。ここらは沢に迷い込む遭難が何度か起きている箇所。慎重にルートを選択してハチビツ山に取り付く。
 ここからは地形図で見る以上に厳しい急登だった。しかも極端に痩せた尾根の西側は大谷崩と呼ばれる巨大なガレ場。誰が決めたか「日本三大崩れ」の一つだそうだ。もちろんワーストの意味だ。足を置いたそばから崩れるんじゃないかという縁を、灌木を掴みつつ四つん這いで登った。
スリル満点のハチビツ山急登  やがて平坦になり、7時10分、ハチビツ山の頂上(1,912m)と思わしき地点に到着。ヤブ中の木にごく小さな山名板が打ち付けられておりそれと分かる。みな汗だくで長めの一本。今日一番の急所を乗り越え、あとはひたすら大谷崩を縁どるように大谷嶺(P1,999.7)の頂へと登りつめる。崖っぷちのアップダウンを繰り返すが、細いながらもトレースがあり、道に迷うようなことはない。後ろを振り向くと、崖の向こうに富士の稜線がきれいに見えていた。天候に恵まれ本当にラッキーだったと思う。もしガスに包まれでもしたら、こんなお気楽な原稿にならなかったろう。いつかこのルートを目指そうという人はその点に留意いただきたい。
日本三大崩れが日本一似合う女?  ガレの縁を歩くこと1時間強。あたりは再び熊笹となり、掻き分けていくと、突然パッと視界が開けて大谷嶺の頂へ出た。激ヤブ&激ガレの旅のゴールである。リーダーと握手し、安倍奥随一の難コース踏破の喜びと安堵に湧く一行。立派な山名標識の存在にほ~っと長い溜め息。獣の世界から人間社会へ無事帰還した思い。頂上からは笊ヶ岳の双耳峰がくっきり。光岳や深南部の峰々も見渡せた。前日からヤブとガレしか見てなかっただけに爽快感もひとしおだった。
激ヤブ&激ガレを無事突破!  下りはひたすら一般道。大谷嶺から八紘嶺の稜線は走るように飛ばす。ちらほらすれ違う人が現れるようになるが、みな「どこから来たの?」と不思議そうに聞く。七人作り尾根と答えると納得する人もあり、地元の人には知られた存在のようだった。
 ちなみに八紘嶺手前の登りはやたらキツい。やはり体力を消耗していたのだろう、ここで私は完全にバテてしまい、稜線からゴール地点の梅ヶ島温泉へ下る長いつづら折りの植林地帯ではついに腰に力が入らなくなり、ヨボヨボとしか歩けず、パーティからだいぶ遅れをとってしまった。
 自分自身は技術・体力ともまだまだヒヨッコと反省しつつ、最後にリーダーの総括。
「安倍奥一の激ヤブといっても、まっ、沢やってる人間にしたら大したことないってことで!」

〈コースタイム〉
【11月12日】 新田神社(8:00) → 七人作り峰1357.9P(9:40) → 1,489m(10:35) → 1,612m(11:25) → 1,766m(12:30) → 幕場1,720m(13:00)
【11月13日】 幕場(6:10) → ハチビツ山1,912m(7:10) → 大谷嶺(8:20) → 五色の頭(9:30) → 八紘嶺(10:15) → 梅ヶ島温泉(12:30)

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