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正月合宿(その2)・鹿島槍ヶ岳天狗尾根
渡辺 守

山行日 2011年12月30日~2012年1月3日
メンバー (L)渡辺(守)、星野、飯塚、深谷、大田

 年末の天狗尾根記録はネットで調べてもほとんど出てこない。ポツリポツリある記録も敗退が多く、完全な踏破記録となると25年前の1987年の三峰金子隊まで遡る。金子さんが30代バリバリの話では、時の経過以上に参考にならない。第一の問題は渡渉とラッセルで、それをクリアしないと天狗の鼻まで辿りつけない。トレースはまず期待できない。2つのクーロワール越えもリーダーをはじめ雪稜登攀に未熟なメンバーには難関である。その後の稜線での強風はすさまじいらしく、稜線手前が最後の撤退ポイントとなる。残雪期なら踏破の可能性は十分あるが、準備を進めるうちに無謀な計画だと判る。一方で是非チャレンジしたいという気持ちが高まり、結局、爺ヶ岳からの転進者を集めた5人編成で臨むこととなる。
 結果から言えば第2クーロワール手前で撤退となり、天狗の鼻さえ踏めなかった。ある程度予想していたからそれなりの充実感はあったが、リーダーとしてはやり切れない感じも残る。コンディションは正直悪くなかった。渡渉もラッセルも想定以下だったし、天気もこの時期にしては安定していた。踏破は無理でもせめて稜線手前まで行き、次につなげたかったし、その可能性は十分あった。
 敗因は経験不足、技術不足、体力不足、全てだが、最大の要因は意識不足だろう。前に進む意識が希薄で毎日予定よりかなり手前で幕となり、翌日挽回しようという気持ちが足りなかった。最終的に無理なら何時でも引き返すつもりだったが、無理をしない毎日を繰り返してそのまま撤退となった。天候が安定していた前半に無理してでももっと前に進むべきだったが、「行ける所まででいい」という中途半端な気持ちと、「安全第一」という言い訳が今回の山行を支配してしまった。しかしその一方で、メンバーの実力を考えると賢明な判断であったことも明言しなければいけない。撤退はメンバー全員が納得して決めたことであり、その点では三峰を引っ張るこの面々は、さすが長年まじめに山と向き合ってきた達人たちだ。傍からは宴会ばかりしていると見えるかもしれないが、やるときはやるのである。宴会のウェイトが多くなっているのも事実なのだが。
 撤退を決めた1月2日朝は前日の青空は消え、予報では午後に向けかなり荒れるとのことだった。しかし何とか午前中はもつのではないかと期待していた。前日の下見で星野君と第2クーロワールを越えたニセ天狗まではトレースを付けていた。空身でも苦労したルートだがトレースはあり天狗の鼻、最悪でもニセ天狗まで行けると疑問の余地はなかった。しかし、仮に天狗の鼻まで行けても、停滞日なしに予備日一杯を使ってやっと踏破できる状況という現実にも直面していた。私は、天候が悪化しても撤退判断はまだ先で間に合うと考えたが、テント内の雰囲気は必ずしもそうではなかった。「踏破が無理なら早めの判断が賢明、予備日前提のプランは止めるべき、メンバーの力量を考慮しても・・・」。私の気持ちは「このメンバーなら力量は足りなくても、踏破は無理でも、予備日一杯使えばある程度の地点まで行けるのでは」だったので、かなりのギャップを感じた。そのためか私は少し感情的になって「とにかく今日は行くところまで行く、天候が崩れたらそこで撤退する」と言い、半ば強引に出発した。
撤退前の幕地点  結局、出発して直ぐの第2クーロワールで星野君がリードする間に風雪が強くなり、小規模の表層雪崩が多発してきた時点で撤退を判断、2日前の幕営地1,600m付近まで下った。既に朝の話し合いでこの結果は決まっていたのだろう。直ぐに撤退するのではなく、少しでも前に進んだのは、状況によって何時でも撤退して安全を確保するという、全員が全く同じ気持ちであったからだと思う。みなそれだけ冷静であり余裕も持っていた。私にとってこの前進の意味はとても大きかったし、たぶんメンバー全員にとっても間違いなくそうであったはずである。
 話は1日目に戻る。駅で明るくなるのを待ってタクシーで林道入り口まで行き20分で登山口。赤岩尾根方面に林道を進み東尾根取り口のY字路を右にしばらく行くと川原に出る。そのまま真っ直ぐ行くと1回目の渡渉となる。水量は膝下だが靴のままでは無理でスパッツに履き替える。
華麗なる渡渉  取水口までもう一度渡渉があり、そこは靴のまま行けそうだが濡れてはいけないのでスパッツを履く。取水口から10分ほど行ったあたりにある左壁をまき気味に越える。残置ロープがあるがいやらしいのでロープを出して確保して進む。暫くラッセルすると荒川入り口。ここまで約4時間で11時頃、だいぶ時間を要してしまう。100mほどで左岸に渡り尾根に取り付くが、急登なため1時間ほどで諦め川原に戻る。金子さんの記録では右岸を何度かトラバースしてから取り付いているが、とてもそんな状況には見えない。結局1日目は川原に幕を決め、取り付き口偵察で終わる。
 2日目は尾根に上がるだけでほとんどが終わる。取り付き口でのロープを使ったザックを上げ、続く急登ラッセルに時間がかかり過ぎた。尾根を上がって直ぐの地点で幕となる。3日目はペースを上げて尾根を進んだが、第1クーロワールでロープを出したこともあり、上述のとおり第2クーロワール手前で幕営。
第1クーロワール  2日間とも7時には出発したが14時には幕営を決めた。12月上旬の下見時は無雪で稜線の幕場ポイントは薮のため限定されていたが、積雪期の幕営ポイントは多かった。第1クーロワールはトラバース気味のラッセルで体力消耗するがロープはなくても問題ない。第2クーロワールの登りはアイスバーンになると厳しそうだが、池ノ谷ガリーなどと比べて距離は短いので難易度は低い。今回の場合は上りきったあとのルート作りに苦労した。注意すべきはやはり雪崩であろう。小規模であるが風雪で溜る雪が星野君の横を次々と雪崩れていく光景はまさに寒々しい。
第2クーロワール  繰り返しになるが、反省点も多かったが得たことも多かった。とは言え、やはり撤退は悔しい。残雪期に再び天狗、そして東尾根、何年後かでいいので厳冬期の天狗尾根を是非踏破したい。


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