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雪稜登攀・赤岳主稜
渡辺 守

山行日 2012年2月25日~26日
メンバー (L)渡辺(守)、大田、和田

 うす曇りだが無風で絶好のコンディション。2ピッチ目のチムニーをリードして、後続2人のビレイをしていたときはとても不思議な気分だった。今年何度目の八ツだろう、自分がここでリードしているなんて、一年前はまったく想像できなかった。
 今年から本格的に取り組んだ雪稜の仕上げとして赤岳主稜のリーダー山行を計画した。
 雪稜をやりたくて今年から突然岩をまじめにやるようになった。突然という言葉がピッタリで周りは驚いた様子だが、それなりの理由がある。
 確かにこれまでの山行きは、自分の何かと同じで行き当たりばったり、事前に研究や努力をすることはなかった。転機はやはり昨年の正月。とうてい自分なんかでは行けるはずのなかった正月の剱の頂に立てたのは、経験豊富なリーダー、研究熱心なメンバー、そして奇跡的な天気に因るもの以外、何物でもなかった。これほど圧倒的で感動的な世界を体験できるのは、長い間の鍛錬と研究を続けてきた者でなければならないと思った。
 それから少し山への取り組みが変わり、次の3月広沢寺岩トレで初めてセカンドビレイをした。情けない話だが何度岩トレに参加してもトップロープで2、3本登って終わり。自分からはやろうとはしなかった。
 次の5月三つ峠岩トレは、リーダーには申し訳なかったが、新人のお世話は任せて自分でも行けそうなルートをマルチピッチで登れるだけ登った。この辺で少しやれるような自信がつき、岩例会には遠慮しないで積極的に参加した。荻ちゃんの企画と星野君のサポートが有難かった。谷川中央稜、錫丈左方カンテ、前穂北壁Aフェース、八ツ峰4峰フェース・チムニーと行くにつれ、本ちゃんでも少しずつリードできるようになった。しかし苦手の事前研究は疎かで、いまでも荻ちゃんにはよく叱られる。
 今年の正月に鹿島天狗尾根をリーダー例会でトライしたとき、初めて真面目に研究した。詳細は前号で書いたが、とにかく近年の山行記録がない。想像ばかりが膨らんで、とてつもなく恐ろしい場所であるような不安を持ちながら進んだ。結局は天狗の鼻にも到達できず敗退したが、無事に帰れたときは心底ほっとしたし、得たものは大きかった。
 雪稜期になると毎週八ヶ岳に通い、勢いで車まで買ってしまった。2、3の縦走を挟みながら阿弥陀北稜、石尊稜、阿弥陀南稜に行き、今回の赤岳主稜は入門コースをクリアするという位置づけであった。
 ここはとにかく人気ルートなので、朝いかに早く出るかが重要だ。確か5時半に出て7時前には2ピッチ目の岩に取り付いた。1ピッチ目のトラバースは状態によっては雪崩が心配だが、まず問題ないだろう。幸運にも前は2名の1組だったが、とても遅くて閉口した。確かに2ピッチ目が核心と言われていて、意外に手ごわい。ザックが岩に挟まり、なかなか身体を上げられない。多少時間はかかったが、それでも我々3人は難なくクリアした。
 いま振り返ると、むしろ次の3ピッチ目の岩稜帯が僕にとっての核心だった。難易度は低いが約200メートルを3人で安全かつスピーディーに移動しなければならない。コンテにすることも考えたがとても不安があり、3人ということもあって小刻みに岩で支点を取った。実際にコンテで行く自信がなかった。この時の手際の悪さはいま思い出しても腹立たしい。かなりの時間を要してしまった。もし吹雪だったら厳しい局面であったはずだ。
3ピッチ目上部、やや疲労気味!  残りの4ピッチは特に難しいことはなかった。いつしか視界が利かなくなり、ペースを上げて稜線に上がり帰路を急いだ。
 15時頃に行者小屋のベースへ戻ると阿弥陀北稜線の星野組が撤収していた。我々より早く出発していたが取り付きまでのルートを間違え大分時間をロスしたということだ。
 この後の3月には、今季の仕上げとして旭東稜に行ったが雪が多く時間切れで敗退、来年へ持ち越した。来年の八ヶ岳はグレードを2級以上に上げ全てのルートを行く、そんな意気込みでこの夏の岩に取り組みたい。

後半の登攀、これで終わりか?

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