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雪稜登攀・鹿島槍ヶ岳東尾根~五竜岳~唐松岳
星野 剛

山行日 2012年5月3日~7日
メンバー (L)荻原、渡辺(守)、和田、星野

 背中には20kgを超える縦走の荷物。ハイマツを握ったこの手を離せば少なくとも2~3mは下へ、運が悪ければ更に下の谷底へ真っ逆さま・・・。これが噂の『キレット越え』!?

【5月3日(木) 雨のち晴れ】
 連休中の天気予報がどうにもすぐれない。しかし一日だけでも好天があれば東尾根を越えられるのではないか、と現地に向かう。
 ムーンライト信州に乗ってたどり着いた信濃大町はやはり雨。夜行バスで先に到着していた別所隊と合流。きょう一日江村さんのアトリエに滞在し、天候の回復を待つとのこと。さすがの段取り力である。我々は大谷原に向かう道沿いの“薬師の湯”がこの時期から朝6時営業開始となっているので、そちらで天候回復を待った。
 10時を過ぎると雨が止み、晴れ間がのぞいてきた。この隙を突いて上まで行くことにする。タクシーで大谷原に移動。汗だくになりながら幕場を目指す。一ノ沢の頭の幕場には我々だけ。明日は混雑の(原因をつくる)心配もなく登れそうだ。

【5月4日(金) 曇り一時雨】
 朝起きてテントから出ると、北股本谷を登っていく明かりが見える。赤岩尾根の取付は過ぎているように見えるが、どこに行くのだろう・・・?
 第一岩峰までの道のりは雪の状態が悪く、シュルントを避けながら進んでいく。ところどころで雪稜は切れており、雪稜というよりも、「木の上に乗っている雪の上を歩く」と言う方が適切な場所もある。リーダーによると、例年よりも雪は少ないであろうということ。
 一組だけ先行パーティが見えた。既に第二岩峰を過ぎ、稜線上に出ようとしている。我々より上で幕を張っていたのだろう。第一岩峰の最初は岩場、後は雪のルンゼとブッシュ帯のミックス。それほど苦もなく越えたが、雨の中での第二岩峰のチムニー越えに苦戦する。
第二岩峰  荷物を背負った状態で体を持ち上げなければならない。リードの二人は難なく越えていくが、フォローの二人はアイゼンで左側の細かいホールドを拾って登ることができず、結局荷揚げをすることとなってしまった。
 これで時間切れとなり、北峰直下で一泊。後にも一組登ってくるのが見えたということであったが、余裕がなく確認できず。とはいえ雪稜登攀はここで終わり。明日からは「縦走」となるということで一安心である。

【5月5日(土) 曇りのち晴れ、夕方一時雹】
 朝5時から好天待ちをし、明るくなった10時過ぎに出発。視界は20~30mくらい。鹿島槍ヶ岳を過ぎ、五竜岳へのルートはトレースもなく、ところどころで分からなくなる。地図とコンパスで方向を確認し、目を凝らしながら慎重に進んでいくと不意に雲が晴れ、五竜岳がその姿を現した。それまでの辛さも一気に吹き飛ぶ。この一瞬を感じるために登山をしているのだ、と改めて感じる。
五竜岳が見えた!  八峰キレットに到着。ロープを出しながら下り、最下部からハシゴを一段登り返すと右にトラバースしていくはずの夏道は途中で見事に雪に埋まっていた。
 岩場か雪面を直上するしかないのか?逡巡しているとリーダーが2m位の雪のコブを登り、ルートを見つけてきてくれた。雪面と岩場の間、頭の上に生えているハイマツにつかまり、5mほどよじ登るルートだ。手を滑らせて落ちたら最低2~3m、運が悪いと更に数十m下まで落ちてしまう。上部はハイマツ帯のため、今度はロープでの確保も荷揚げも不可である。自分の手だけで自分の身体と荷物を持ち上げなければいけない。心を落ち着かせて登る。枝が足にかからないよう、ハイマツを早めに身体の前でさばいてクリア。藪こぎ山行の経験がこんなところで生きてくる。「山は総合力」なのだ、多分。
キレット・・・どこを登るの?  その後もうんざりするようなアップダウンや鎖場、ハシゴ場が続くが、遠くに見える剱岳の偉容が自分を奮い立たせてくれる。とはいえ連日の疲れから少しずつ足取りも重くなり、西からは黒い雲が凄い勢いでこちらに向かってくる。別所隊が待っているはずの五竜山荘までは届きそうもない。やむを得ずここでビバークすることにする。テントを設営して中に入ると、大粒の雹が降ってきた。1cm弱ほどの大きさのものもある。携帯電話の電波が入ったので、在京本部に状況を報告する。

【5月6日(日) 曇りのち吹雪】
 遠くで雷の音が響いている。赤抜付近は所々が崩壊し、日影側の斜面には氷も残っており、このルート中一番の悪場。五竜岳は近付くほどに小さく感じられてくるのが不思議な感じだ。この辺りでは一年前に挑戦した遠見尾根~東谷山尾根のルートを一望できる。ふり返れば年末に挑戦した鹿島槍ヶ岳・天狗尾根。思えばこの山域にも随分と楽しませてもらっている。
 朝からの強風は五竜岳を過ぎる頃には雪混じりとなり、五竜山荘で休憩していると激しい吹雪に変わった。先に進む気力もテントを張る気力も無く、リーダーに頼み込んで山荘に泊めさせてもらうことにする。(リーダーは山小屋に泊まるのは初めてだそうだ。僕も二度目だけれど)
 五竜山荘はGWの最終営業日、宿泊客は我々だけということもあり、色々と親切にして頂いた。みんなは少し早い祝杯をあげ、長旅の疲れを癒す仮眠に入ったので、ここで山行記録を記すことにする・・・。

【5月7日(月) 晴れ】
 前日とは打って変わっての青空。天気と山に行く日は選べないのが非常に残念である。某映画に触発されたイメージ写真などを撮影しながら快適に唐松岳まで。無人の八方尾根から、スキー場ではグリセードを堪能して白馬へ下山した。
 今回は予備日を使用してしまったため「結果的に」ではあったが、シーズンオフの白馬の温泉や帰りの電車は空いており、下山日を連休とずらすのは有効ではないかという話も出た。『通年営業』のはずの八方尾根スキー場のリフトがGW直後のこの時期だけメンテナンスのために運休、というのは落とし穴だったが・・・。

※白馬から東京に戻る場合、白馬駅前の『北アルプス総合案内所』にて「あずさ」の自由席券がお買得価格で購入できる場合あり(要問い合わせ)

〈コースタイム〉
【5月3日】 大谷原(12:00) → 一ノ沢の頭(17:00)
【5月4日】 一ノ沢の頭(5:00) → 第一岩峰 → 第二岩峰(11:45~14:30) → 鹿島槍ヶ岳北峰直下(15:00)
【5月5日】 鹿島槍ヶ岳北峰直下(9:50) → 鹿島槍ヶ岳北峰(10:05) → 八峰キレット(12:20~50) → ビバークサイト(16:00)
【5月6日】 ビバークサイト(4:50) → 五竜岳(8:00) → 五竜山荘(8:30)
【5月7日】 五竜山荘(4:50) → 唐松山荘(7:45) → 唐松岳(8:05) → 八方尾根 → 八方BT(13:00)

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