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雪山登山・塩見岳
安田 章

山行日 2012年4月28日~30日
メンバー (L)渡辺(守)、内藤、今井、安田

 三伏峠は日本一高所にある峠だそうで、ここをベースにして塩見岳を目指した。
 長野県大鹿村の鳥倉林道へ入り、ゲート手前の駐車場に車を置いた。かなり広い駐車場で20台くらいは停められるだろうか。この日は我々の他に4台の車があった。しっかりした便所も備えられていた。
 ここで身支度をして出発。微風、快晴でとても気持ちがいい。そのまま林道を歩くこと1時間弱で登山口に着いた。大きな看板があった。
 樹林帯の中の道を登った。木々はまばらな感じで、葉も少ない季節なのでたいへん明るく歩き易かった。地形図2,248メートルのピークの手前、豊口山のコルで休憩した。暑すぎもせず、休んでいて寒くなることもない。よい条件に恵まれて、峠にも早く着けそうだと期待した。時間があれば峠でなく本谷山まで足を延ばしたいと話していたのだが、そう何もかもうまくいかないのが世の常だ。
 コルから先、尾根北面の山腹を登っていくと雪が現れ始めた。次第に深くなってきたのでワカンを履いた。それでも膝までもぐることもしばしばで、重たい5月の雪に苦労した。
 繰り返し現れる沢のトラバースでは慎重に足を運んだ。
 途中で先行していた2人の登山者に追いついた。どちらも単独であった。彼らに並んだということは、これから先トレースがなくなる。互いに先頭を務めながらいったが、時間のかかることとなった。登山口から峠まで無雪期なら3時間ほどのところだが、倍くらいを要した。
三伏峠冬期小屋から塩見岳  塩川からの道と合流してさらに行くと、木々の間から、農鳥岳の姿がのぞいた。峠も近いと思ったのだがそれでもなかなか着かない。一本を渡辺さんにおねだりしてひとふんばりするとようやく三伏峠小屋が見えた。小屋は雪の中であったが、冬期避難小屋が使えたので、中に天幕をはった。快適なベースとなった。
 峠からは塩見岳を望むことができ、遠いとも近いとも感じた。ほんとうのところ遠いのだけれど、あまりにも山容がはっきりと見えるので近くにあるように思えてしまうのだ。
 翌29日、3時に起床、5時前にはベースを出発した。天気は快晴ですでに外は明るい。無雪期であれば10時間くらいで往復できるが、雪の状態も考えるともっと長くなることが予想された。
 峠を出ると三伏山の頂に出る。周りに木がないので、塩見岳への稜線がすべて見渡せる。本谷山、権右衛門山を越えるあたりまで樹林帯で、その先、塩見小屋から塩見岳までが岩と雪の世界だ。

塩見岳を目指す塩見岳を背に権右衛門山にて

 稜線越しの北の方には、仙丈岳が堂々とした姿を見せ、その横に甲斐駒ヶ岳が意外と小さくみえ、さらにその東に白峰三山の連なりがあった。南には赤石岳をはじめとする南アルプス南部の山々、そして西に目をやると中央アルプスの山々が壁のようにそびえ、雪を被った頂の連なりが空中に浮いているようだ。
 最高の景色を楽しみながらの稜線歩きではあるが、雪が重たく、トレースもないので時間がかかり、体力を消耗する。権右衛門山は夏道を行かず、稜線通しである。権右衛門山を下り樹林帯を抜けると登りにかかる。塩見小屋に着いた。雪に埋もれて屋根だけが少し見えていた。
 ここでアイゼン、ハーネスを着けた。目の前には天狗岩、塩見岳山頂がすぐそこにある。すでに11時を過ぎており、帰りを考えると戻るべきということもあったが、やはり山頂に立ってみたい。天候もよく、日も長い。三伏峠へ戻るのは日が暮れてからになるが、塩見岳近くを除けば危険なところもないので渡辺さんが判断し登ることにした。
塩見岳の頂へ  天狗岩は南面をトラバース気味に登っていく。途中に幅30メートルくらいの急な雪渓があって少し緊張した。天狗岩を越えて塩見岳とのコルに出た。ここまでで少々ばて気味であった私は、荷を置いて登ることにした。
 頂上への登りは傾斜がきつく、雪混じりではあるが岩の露出が多い。不安定なガレ場でアイゼンを履いた足ではさらに苦労する。しかし、雪がもう少し多かったならもっと難しくなっただろうと感じた。
 気の張る登りが続き、傾斜が落ちてくると行く手にひとかたまりの雪が見えて、その先は青い空しかない。12時過ぎ、塩見岳山頂に立った。予定より時間はかかってしまったが、登頂を皆で喜びあった。ひとつの山を極めることのすばらしさを改めて思い、素直にうれしかった。
 地形図では3,046メートルのピークが記されているが、こちらは西峰で、東側に東峰がある。5分ほど歩いて行ってみた。3,052メートルとあった。
 30分ほど山頂で憩う。南に富士山があるのに気がついた。残念ながら、春霞のせいだろうか北アルプスまでは見ることができなかった。
塩見岳  下りは、やはり慎重になるが、様子がわかってきたせいかそれほど難しく感じることもなく無事に天狗岩も越えた。塩見岳に登った喜びにあまりひたることもできずに三伏峠への道を急いだ。再び塩見小屋を過ぎたのは14時半くらい。歩きづらい雪の上を疲れた足を運ぶ。私はだいぶばててしまって、ちょっと登りにかかると息があがり、歩みを止めてしまうことしばしばであった。皆に迷惑をかけてしまった。
 本谷山を過ぎたのが17時半近く、三伏山山頂ではいよいよ暗くなり懐電を出した。頭上には半月が懸かっていたが、夜を照らすには不十分だ。
 19時すぎに三伏峠に到着した。結局14時間をこえる行動となってしまったが、渡辺さんの的確な判断とメンバーの力をもって登頂を果たすことができた。この日、塩見岳山頂に立ったのは我々の他に単独の人がひとりいただけで、たいへん静かな山であった。
 わたしは疲れてしまい晩飯のカレーがあまりのどを通らなかった。食当の今井さんには悪いことをしてしまった。今井さんも内藤さんも疲れた様子をみせない。強いなと思うと同時に自分ももっと体力作りをしなければならないと改めて感じた。
 3日目、下山日は少し遅めの5時起床。7時半頃峠を出発し、またグズグズの雪に足をとられながら下った。登山口へは3時間ほどで着いた。

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 入山前日、新宿駅西口ロータリーに22時集合、中央高速で中央道・原サービスエリアまで行き、そこで幕を張り仮眠しました。翌朝、そのまま中央高速を行き、松川インターで下り、大鹿村へ入りました。
 大鹿村はNPO法人「日本で最も美しい村」連合で認められたその名の通り美しい村でした。ちなみに全国には44の「美しい村」があるそうです。
 山の斜面にひろがる村のそこここに桃の木が植えられています。訪れた時はちょうど花が満開でした。赤、白、ピンクの色も鮮やかで、山の緑と村のたたずまいに溶け合い、その美しさに感動しました。
 下山して、大鹿村にある小渋温泉赤石荘というところでお風呂に入ってきました。山の高いところにあって、その露天風呂からは美しい村を眺めることができました。いつまでも入っていたい、そんな温泉でした。
 この日帰り入浴は午前11時半から。入浴料は500円。冬は営業していないようです。
□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■(写真:内藤、今井)

〈コースタイム〉
【4月28日(土)】 鳥倉林道ゲート(8:20) → 登山口(9:10) → 豊口山のコル(10:30~50) → 塩川ルート合流点(13:45) → 三伏峠(14:55)
【4月29日(日)】 三伏峠(4:55) → 本谷山(6:50~7:00) → 権右衛門山(9:00) → 塩見小屋(10:10~20) → 塩見岳山頂(12:20~40) → 塩見小屋(14:10~20) → 権右衛門山(15:00) → 本谷山(17:20) → 三伏山(18:40) → 三伏峠(19:15)
【4月30日(月)】 三伏峠(4:55) → 豊口山のコル(9:25) → 登山口(10:20) → 鳥倉林道ゲート(10:55)

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