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縦走・大朝日岳(鳥原 ~ 朝日軍道)
峯川 正行

山行日 2012年7月14日~16日
メンバー (L)鈴木(章)、篠崎、平尾、内田、杉本、峯川

 朝日連峰は未だ足を踏み入れていないエリアでした。単独で山に行っていたときも、あまりに遠いので全く行く気になりませんでしたが、最近、朝日連峰が気になっていました。そんな時、アッコさんが3連休を使って朝日連峰の例会を出していたので、早々に参加表明をしました。そして、今回のルートの後半部分は直江兼続ゆかりの朝日軍道らしい・・・。んー歴史の香りがしていい感じです。あとは天気次第ですが、私が参加するからには小雨ぐらいで済んでくれればいいなあと・・・。

【7月14日】
 13日金曜夜に上野集合で夜行バスで寒河江に向かいます。3列シートですが、前に座っているおじさんがこれでもか!というくらい座席を倒してきたのであまり寝付けず・・・。うとうとしながらカーテンを開けると小雨模様。やはり雨の中のスタートらしい。寒河江のバスターミナルについて、アッコさん手配のジャンボタクシーに乗り込み鳥原山へ向かう白滝登山口に向かいます。朝日鉱泉への道を見やりながら急坂の林道をずんずん進んでもらいます。運転手さんは砂利道の急坂で嫌がっている雰囲気を感じましたが無理やり押し込みました!
 しばらく雨が止んでいたのですが、白滝登山口で出発準備をしていると、雨が降り出しました。この後は、土砂降りになることはなく、降ったり止んだりの雨模様でした。花を愛でながらわいわい進むと鳥原小屋に到着です。近くに水場もあり小屋も綺麗。そして景色も曇っていなければ最高の展望のはず。ちゃんと地元の山岳会の方たちに維持管理されている素晴らしい小屋です。以前から思っていたのですが、山岳会が委託されて小屋を維持管理するというのはとてもいいことだなあと。会の拠点にもなり、心の拠り所のような感じになるのかなあと。
 鳥原山からは進むべき稜線をしっかりと眺めることができました。長いな~。でも素敵なラインです。次なる目的地は小朝日岳です。晴れていれば展望が素晴らしいはずなのですが、小雨模様です。でも、これぐらいの天気のほうが暑くなくてちょうどよかったのかなあと。小朝日岳への登りは一気に駆け上がる感じでした。
 ここからいよいよヒメサユリ街道のはず。前方メンバーから歓喜があがるとヒメサユリがあるとわかります。初めてみるヒメサユリはとても品のあるピンク色でした。横に黄色のニッコウキスゲがあり、同じような花の形が並んでなんか得した気分でした~。下山してくる人は、この先はヒメサユリが凄い!と興奮気味に声をかけてくれます。しばらく進むと一本取れる場所がヒメサユリの群生エリアでした。確かに素晴らしいです。一体いつの時代からこのヒメサユリは咲いていたのだろうか。直江兼続の時代にももちろん咲いていたのだろうか?そんなことをふと思ってしまいました。
なんとも色が素敵なヒメサユリ  あとは大朝日小屋に雪崩れ込むだけです。最後の登りの手前の銀玉水で全員水を確保します。水場は鮮やかな黄色のシナノキンバイに囲まれていました。なんと素敵な水場でしょうか。そして水はとても美味しいです。がぶ飲みしてしまいました。
 荷物が各自重くなった状態で、雪渓を踏みながら小屋を目指します。フラットになってくるとふわふわの苔が一面広がります。そして霧の中から突然小屋が出現しました。2階建ての小屋です。ちゃんと冬季用の入り口もあります。今回はテント泊予定だったのですが、現在この小屋は幕営禁止のようです。私はネットでチェックしていて幕営禁止というのが目に入っていたので、もしかすると小屋泊になるのではと思っていました。テントは広げる必要はなくなりましたが、いい歩荷になったなあと。それにしても、この時期はヒメサユリもあり、小屋は大変混雑していました。小屋番のおじさんがまるで羊飼いのように来た人たちを捌いていました。我々はロフトが寝床でしたが、遅くに到着した人たちは真っ暗な屋根裏スペースに梯子で登っていました。私は人ごみ恐怖症なので、どうもこの混雑は苦手です。
 その後、小屋の外に出てみると、今までかかっていたガスがすべて抜けて、歩いてきたルートを見ることが出来ました。なんとも素晴らしい景色でした。

大朝日小屋からの鳥原山と小朝日岳

【7月15日】
 今日は長丁場なので5時出発です。天気が回復するかと思っていたのですが、かなりの雨で風も強いです。通常の人なら進軍することなく撤退の天候ですが、誰もそんなことを思うことなく進軍するのです。そうです。ここから朝日軍道なのです。まずは一登りで大朝日岳です。本来は最高の展望のはずですが、一面ガスの中です。それでも一瞬ガスが抜け山並みが見えました。
大展望はおあずけの大朝日岳  進路を確認して一気に岩稜帯を下降していき、少し登り返して平岩山に到着。周りは全て煙幕が下りています。かなりの荒天で、途中から歩きながら笑い出していました。これほど雨に降られると笑うしかないなあと。私はやはり嵐男なのだなあと。絶対に秋の紅葉の時期にいい天気を狙ってまた歩こう等と思いながら気持ちを吹っ切り、ガシガシと進みます。
 御影森山からいよいよ藪がかかる核心部分です。ここからはほとんど樹林帯で景色がありません。予想していたより藪がかかっておらず、スムーズに進みます。刈払いが最近されたのだなあと思いました。景色もあまりなく、ぐちゃぐちゃの道を進むので途中から飽きてきましたが、熊の糞らしい物体を発見し逆にテンションがあがり、さつきさんの声も高くなります(後でのみんなでの話で熊ではなく狸の糞ではという話も)。途中、道が崩れているのか、急坂を無理やり登っていく箇所もありました。なかなか一般縦走路にぶつからず、まだかなあと飽きた頃にポンと中沢峰に到着です。
 中沢峰を下ると鞍部があり、指導標で水場が表記されていました。天気がよければ寄ったと思いますが、この雨なので先を急ぎます。
 またまたここからも樹林帯です。どの辺を歩いているのかわからなくなっていましたが、三角点を発見し位置は確定。八形峰を過ぎ、無名峰の三角点と地図で確認。葉山山荘も近いことがわかり、テンションが上ります。その先には全く整備されていない湿原があり、なんとも幻想的でした。木道などがなく、あまり人が通らないのかなあと思いました。池の中を覗くと、なんとカエルちゃんが可愛い顔して我々を見ています。池の中なのです!ぴょん吉のような顔でなんとも癒されました。カエルは水の中で呼吸は大丈夫なのですね。
 そんなこんなでまったりしながら進むと奥宮の分岐を過ぎ葉山山荘に到着です。そこには葉山神社があり、その横に立派な小屋がありました。今日の小屋は昨日のような小屋番はいない静かな小屋だなあと思い、扉を開けると真新しいダルマストーブがありました。なんて素晴らしい小屋なのでしょうか。昨日の小屋でのことなどすべて吹っ飛びました。みんなが水場を探しに行っている間に、小屋にあった薪を使わせていただき、ストーブに火を入れました。濡れた服や靴などがこのストーブのおかげですべて乾きました。本当に感謝です~。みんなが帰ってくると、綺麗な水場は見つからずに湿原からの流れる水で『茶水』として汲み上げてくれました。まじまじと見ると確かに『茶水』でした。そして、独占状態の小屋でまったり宴会をしていると、突然扉が開きました。今日も独占はなく、ほかのパーティが泊まるのかと思っていたら、ナタを持ったおじさん一人だけでした。身なりと言葉遣いからすると地元の人とすぐに察知しました。色々と小屋内に荷物を広げていて、暖炉も使わせてもらい、御礼代を置かせてくださいと言うと、「気にしないで使ってください」と素朴な言葉で言ってくださいました。「お互い様だからどんどん薪も使ってください」。その言葉に本当に驚きました。私もこんな懐の深い人間にならなくてはと・・・。目先のことにうだうだ言っている自分は狭い人間だなあと・・・。そして、「真」の水場をおじさんに教えて頂き、平尾さんと私が再度向かいました。先ほどみんなが引き返した少し先にありました。「本当に美味しいから」とおじさんは言っていましたが、洞窟の奥から湧水している水で冷えていて本当に美味しかったです。水場まで少し時間がかかるので知らないとわからないと思いました。おじさん有り難う!
洞窟の奥から湧水している水場  今宵は、素敵なおじさんを交えて本当に楽しい宴会となりました。
 昨日の小屋でのこと、大雨での山行のことなどすべてが楽しい思い出になったのでした。温かい暖炉の前で仲間と語らうのは本当に楽しいのです。
 2時頃におじさんはまた下草刈りの作業の為に早々に小屋を後にされました。本当に頭が下がります。昨日の夜の話では、安い賃金ではなかなか下草刈り作業をしてくれない現実で、山に対する情熱によって作業を続けているとのことでした。山は登るだけではなく、守ることが一番大事だと痛感させられました。私も最近山ばかり登っていますが、少し悩んでいました。登るだけではなくて他にもすることがあるのでは・・・。そんなことを思いながらおじさんが出ていく姿をシュラフから見ながら、うとうとと寝たのでした。

【7月16日】
 最終日は最高の天気です!おじさんに教えてもらった奥の院にすぐに向かいます。祝瓶山の景色が最高とのこと。小屋から数分の奥の院は遮るものなど何もなく、景色は最高でした。目の前には祝瓶山、飯豊連峰などを眺めることが出来、本当に嬉しい気分になりました。いつか祝瓶山も行ってみたいものです。
奥の院から祝瓶山を望む  奥の院に来る途中には葉山の湿原があるのですが、ここは夏場に麓の小学生などが来て稲を植えるそうです。ただ育つことはなく、葉山神社へ豊作を祈願する昔からの祭り事とのこと。いつまでも続けてほしいものです。そして下山ルートはまたしてもおじさんから教えてもらった昭和堰ルートで下山です。小屋から一気にかけ下がらない水平路で、少し遠回りですがブナが綺麗なこのコースを選びました。つい最近下草刈りをしたとおじさんも言っていたので、ルートも安心です。沢底まで一気に下降して、沢をまたぐのですが、そこには明らかに人工的な細工がありました。ここが昭和堰のスタート地点のようで、沢から水を引き入れる遺構が残っていました。ここからは水平路となります。下草刈りがされていたのでとてもルートがわかりやすいです。長井市史によると「昭和堰」とは、長井葉山の西斜面を流れるいくつもの沢水を集めながら、葉山東面集落である勧進代村へと取水するために、長井葉山の山頂直下に造られた用水路であり、嘉永6年の大旱魃を機に、草岡村には「桶佐(オケサ)堀」、勧進代村には「嘉永堰」を開削したのが始まりで、その後昭和7年から昭和9年にかけて、その「嘉永堰」の堰幅を拡張補修し、鍋割沢からさらに奥にある御秘蔵沢まで延長し新たな用水を確保すると共に「昭和堰」と改めたのが由来のようです。本当に気持ちのいいブナが素敵な道でした。水平路なので必ず沢とぶつかりますが、確かにその部分には取水するための遺構がありました。用水路は土に埋まっている部分も有りましたが、最後のところではちゃんと形になって水も流れていました。今回の山行を思いおこしながら本当に気持ちのいい昭和堰のルートでした。紅葉の時期はもっと素晴らしいかと思います。
昭和堰にまだ水が流れている所もありました  葉山山荘からのルートにぶつかり、オケサ掘を通りタクシーを手配していた農免道路に到着です。まさしく夏のような天気の中下山。なんとも晴れやかな気分でした。葉山山荘からのルートも朝日軍道であり、下山地点にも以前は馬が大挙して歩いていたのかと思うと本当に不思議な気分になりました。
 その後はタクシーで温泉センターに向かい、あのおじさんから絶品と教えてもらった、「千利庵」という蕎麦屋にタクシーで直行です。十割で更科という絶品蕎麦でした。田舎の親戚の家に来たようなお店で行列ができるお店です。おじさんの助言通りに11時半前に入ったので少し並んだくらいで済みました。なんとも最終日の行程はあのおじさんにすべてコーディネートしていただいたように思います。本当に有り難うございました!こんな出会いのある山行が私は大好きです。最近、山登りと旅を結び付けたいと思っていた私には大満足の山行となりました。

〈コースタイム〉
【7月14日】 寒河江バスターミナル(5:20)=(タクシー)=白滝登山口(6:30~55) → 山の神(7:40~45) → 鳥原小屋(9:40~55) → 鳥原山(10:25~35) → 小朝日岳(11:22~12:00) → 銀玉水(13:30~45) → 大朝日小屋(14:20)[小屋素泊まり]
【7月15日】 大朝日小屋(5:10)~大朝日岳(5:20~25) → 平岩山(6:25) → 大沢峰(7:15) → 御影森山(8:20~45) → 中沢峰(10:15~30) → 1264.8三角点(13:45) → 葉山山荘(14:20)
【7月16日】 葉山山荘(5:30) → 奥の院(5:40~50) → 昭和堰分岐(5:55) → 沢渡渉[昭和堰始点](6:05) → 昭和堰分岐(7:15) → オケサ堀(8:10~25) → 大石大明神(9:30~40) → 梨の木平(9:55)

〈諸経費〉
■寒河江BT ⇒ 白滝登山口:17,390円 (寒河江タクシー株式会社)
■大朝日小屋:1,500円(素泊まり)
■梨の木平登山口 ⇒ 長井駅:10,870円 (株式会社 白鷹タクシー)


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