トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ340号目次

沢登り・和賀川大鷲倉沢
金子 隆雄

山行日 2012年7月27日~29日
メンバー (L)金子、小幡、斎藤(吉)、和田

 大鷲倉沢には以前トライしたことがある。17年も前のことだ。その時は赤沢林道から本流へ下降途中でメンバーの一人が負傷してしまい、大鷲倉沢は諦めて本流を登山道の渡渉点まで溯行した。以来行きたいとは思ってもアプローチや下山ルートを考えると踏ん切りがつかないでいた。ネット上で情報を探しているとき、秋田県側の登山道から稜線へ上がって、枝沢を下降して和賀川本流へ降り立つ方法があるのを見つけた。これだと同じ所へ下山できるので車が1台でも問題ない。これだよ、これ、これでいこうと例会山行として計画した。

【7月27日 曇り時々晴れ】
 昨夜は出発したのがかなり遅い時間だったので安達太良SAで仮眠。真木渓谷の斉内川沿いの林道奥のゲートに着いたのは昼も近い時間だった。ゲート前には広い駐車スペースがあり既に何台かの車が停まっている。直ぐ近くには新しそうな避難小屋もある。下山後にこの小屋に泊まる予定にしている。
 11時過ぎに出発。林道はゲートから先も続いており10分ほど行くと甘露水という湧水がある。ここから薬師岳へ登る登山道が分かれているが、我々が行くのはこの登山道ではなく更に林道を先に行った甲山(かぶとやま)・中ノ沢岳方面への登山道だ。山道に入るとしばらくは杉の植林帯の九十九折れの道が続くがやがてブナの原生林へと変わっていく。この日は気温はそれほど高くはないが湿度が高く、風もないので蒸し暑くて汗を滴らせての登りとなる。
 稜線に出る少し手前に甲山と中ノ沢岳への分岐の指導標がある。地図には中ノ沢岳への道は記載されていないが道があるのだろう。ここから道は笹に覆われて足元が全く見えなくなるが道はしっかり付いている。稜線に出ると甲山分岐の指導標がある。これも地図には載っていないが甲山への道があるようだ。稜線に出るまでは甲山の姿を目にすることはできない。
名前に似つかわしい甲山の勇姿  薬師岳に向かって50mほど高度を下げた鞍部が和賀川への下降点となる。沢装備を着けて藪に突入する。30mほど藪漕ぎするとはっきりとした沢が現れこれを辿る。もっと長い藪漕ぎを覚悟していたが幸いなことにほとんど藪漕ぎなしで沢に降りることができた。この枝沢をどんどん下り、厳しそうな滝が出てきたときは左岸の小尾根に上がって捲き下る。鞍部から1時間半ほどで和賀川に降り立つ。
 和賀川は前回来たときと比べてかなり水量が多いように思える。まぁ、17年も前の記憶なので当てにはならないけど。今日は大鷲倉沢に入って泊まるつもりでいたが、時間的に厳しいので本流で泊まることにした。少し下流の左岸にタープを張る。
 焚火を2人に任せてバタヤンと釣りに出かけてみるが全くダメで自分は早々に諦めて戻る。バタヤンは随分粘ったようだがやはりダメだったようだ。

【7月28日 曇り】
 出かける前に見てきた天気予報とは違い、今日はどんよりとした雲が低く垂れこめている。本流の水量は昨日と比べてかなり減っており、上流には多量の雪渓が残っているものと思われる。
 6時出発。本流を1時間弱で大鷲倉沢出合に着く。大鷲倉沢の水量は本流とほぼ同じ、大岩が門番のように両岸に構えている。ゴーロ帯を10分ほど行くと小鷲倉沢出合となる。小鷲倉沢を分けると直ぐにゴルジュの中の滝場が始まる。最初の滝は2段6m、これを越えて3~4mの小滝をいくつか登ると釜を持った3mのハングした滝となる。これは登れず左岸の草付きから捲く。草しか生えていない斜面なので捲きは嫌らしい。
 3mハング滝を過ぎると巨岩帯となり、しばらく続く。標高750m付近の右岸に幕場に良さそうな場所が出てくる。昨日の幕場に予定していた所だ。大鷲倉沢にはここ以外に幕場適地はなかった。4m滝を越え左岸からの枝沢を見送ると大鷲倉沢で最大の15m滝が現れる。水量も多く迫力があり見栄えのする滝だ。これは登れず左岸から捲いた。3m、2mの小滝を越えると左岸より7m滝を懸けて枝沢が出合い、その先は再び巨岩帯となる。2条4mのゴーロ滝を越え、右岸からの枝沢を見送り沢が右曲する所に2段7m滝が懸る。左岸の苔むした小沢を登って途中でトラバースして小尾根に上がる。下降は急で灌木も少ないので20mの懸垂下降で沢床へ戻った。ロープを使用したのはこれ1回きりだった。懸垂途中で先を見ると幾段かに連なったナメ滝と最奥に一筋の白い線が見える。大きな滝が待ち構えていそうだ。
大鷲倉沢最大の15m滝  3段7mのナメ滝を越え、沢が右に大きく曲がる所に10mの直瀑が懸っている。懸垂途中に見えた滝のようだ。落口は狭いが途中で水流が広がり、下の方でまたすぼまっているような面白い形の滝だ。この滝にはちょっと手を出せない。右岸のルンゼを登って大きく捲いて降りる。降りた所の左岸には80mほどのスラブ状の滝で枝沢が流入している。沢と言うよりは急傾斜の草付きのそこだけ草がなくて水が流れているという感じだ。続く5m滝も登れず右岸を捲く。
 スノーブリッジが2つ続けて現れる。どちらも天井が透けるくらいに薄くなっている。短くて出口も見えていたので一人ずつ駆け抜ける。3mほどのナメ滝を際どいヘツリで越えると右岸よりルンゼが数本まとまって流下している所でまたしても雪渓が現れる。標高1,000mくらいの所で、今度のはかなり大きい。ブリッジになっているが沢が曲がっているためか出口は見えず真っ暗だ。とても潜る気にはなれない。かなり厚そうなので上を渡ることにする。雪渓上から降りられるか気がかりだったが簡単に降りることができた。
 雪渓はこれが最後で、この先はナメが続くようになる。標高1,050mの二俣を右へ入る。1,090mで再び二俣となり右の本流は4mの滝で出合っている。左の方が沢床が低く本流のように見える。本流の滝は登れず右岸の急な藪に突入して捲く。捲き終わってしばらく進んだが後続が来ないので降りた所まで戻る。随分待ったが降りてこない。何かヤバイことになっているんじゃないかと心配になる。ここのところ事故続きだからなおさらだ。声をかけてみるが何が起きているのか分からない。更にしばらく待ってようやく全員降りてきて安堵する。灌木のない草付きで四苦八苦していたようだ。
 1,150mで最後の二俣となる。右へ行けば高下からの登山道に近いが下山は長くなる。和賀岳直下に詰め上がる左へ入る。直ぐに水は涸れるが階段状でぐんぐんと高度を上げていく。沢形が尽きると草原となる。草原と言えば穏やかなイメージになるが要は急傾斜の草付きだ、決して容易ではない。右に寄りながら登り詰めると山頂直下の登山道に出た。
 長めの休憩をとり、靴を履き替えて和賀岳を目指す。5分ほどで山頂到着。ガスに包まれて展望は全くなし。晴れていればすごく展望の良い所なのに残念だ。代わりに高山植物が今が盛りと咲き誇っている。名前など知らないが白、ピンク、黄色、紫、オレンジと多彩な花たちの饗宴だ。何も見えないので写真を撮ってさっさと下山にかかる。撮った写真も真っ白で人の顔も分からない始末だ。
和賀岳山頂にて ガスに包まれ真っ白  薬師岳へと続く稜線は本来ならば小鷲倉、小杉山、薬師岳などのこんもりとしたピークを連ねた、いかにも東北らしいたおやかな風景を提供してくれるはずなのだが今日はそれも叶わない。道はしっかりしているが藪が被さり足元が見えなく、何があるか分からないので恐る恐る歩くことになりスピードが上がらない。薬師岳からは一気に高度を下げ、藪っぽい道から解放される。
 途中、水場となっている沢で休憩後、何とか暗くなる前に林道に着いた。甘露水で水を汲んでゲートへ戻る。
 今日の泊りの避難小屋には2人の先客があり広い1階が占有されていたので2階を使うことにする。寝るだけなら十分なスペースだが狭いので食事と宴会は外でやることにする。小屋には冷たい水が流れており、飲めないと書いてあるがビールを冷やすには十分だ。暗くなると何処からともなくホタルが飛んできて光のショーを披露してくれた。

林道ゲート前にある避難小屋

【7月29日】
 ガスがなくなって朝飯を作れず、すきっ腹をかかえて取りあえず風呂だということで朝の7時から営業している中里温泉へ向かい一風呂浴びる。その後、道の駅でご飯お代わり自由だと聞いて、たらふく朝飯を食べてから帰途に就いた。

〈コースタイム〉
【7月27日】 林道ゲート出発(11:10) → 甲山分岐(稜線)(13:15) → 950mコル(13:45~14:00) → 和賀川本流(15:25)幕営
【7月28日】 幕場発(6:00) → 大鷲倉沢出合(6:50) → 10m直瀑下(10:10) → 1,050m二俣(11:35) → 登山道(13:45~14:05) → 和賀岳(14:10) → 薬師岳(15:50) → 林道(17:30) → 林道ゲート着(17:45)避難小屋泊り
概念図
遡行図
PDF版遡行図

トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ340号目次