トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ342号目次

雪稜登攀・天狗尾根~鹿島槍ヶ岳
金子 隆雄

山行日 2013年5月3日~5日
メンバー (L)小幡、紺野、軽部、金子

 26年振りに天狗尾根を登ることになった。天狗尾根は11月と正月の2回登ったことがあるが春の天狗尾根は未経験だ、どんなだろうか。

【5月3日 晴れ】
 久し振りに乗るムーンライト信州で信濃大町駅に着く。タクシーで大谷原に着くと、かなりの車が既に駐車している。遭対協だと思われる人がきて計画書を求められたので渡す。27日から行方不明の人がいて、未だ発見されていないということだった。我三峰のメンバーもGW前半に天狗尾根で危うい目にあっているので気を引き締めて行かねばならない。
 重たいザックを担いで6:40出発する。橋を渡ってしばらく行くと右から林道が合流してくるので、そちらに進む。大川沢沿いの林道が尽きると河原を行くようになる。しばらく右岸を進むが途中で進めなくなる。渡渉したくないのでなんとかヘツれないか頑張ってみるがダメで1回目の渡渉となる。水はかなり冷たい。左岸をしばらく進み取水堤の手前で2回めの渡渉となる。バタヤンは渡渉したくないらしく、飛び石伝いに渡れるところを探してウロウロしている。
渡渉点を探してウロウロするバタヤン  取水堤からフィックスロープのある右岸の嫌らしいトラバースをこなすと荒沢の出合に着く。
 天狗尾根の取付きは荒沢を200mほど溯った所になる。荒沢は流れが出ているが両岸にはまだ雪が残っており雪上を辿る。天狗尾根の支尾根に取り付く所で対岸に渡れず3回目の渡渉となる。バタヤンはまたしても渡渉せずに渡ろうと四苦八苦している。登山靴では滑るので失敗して沢へドボンするより、さっさと渡渉したほうがいいと思うのだが。
 取り付いた支尾根は雪がなく、かなりの急登が続く。広くてあまり尾根らしくない。紺野さんは腰が痛いらしく、かなり辛そうだ。ようやく主尾根に合流した所で遂に紺野さんがギブアップ、腰が痛くてもう歩けないらしい。ここから一人で、これから下山すると言うが、それは思い止まってもらった。歩くこともままならない状態でこれから下山では明るいうちに辿り着けないかもしれない。一晩泊まって明日になれば少しは回復しているかもしれない、ということを期待して今日の行動は終了して幕営することになった。後続のパーティーが何組かテントの前を通り過ぎて行く。これで明日はトレースが期待できそうだ。

【5月4日 晴れ後雪】
 一夜明けても紺野さんの症状は回復せず、紺野さんは1人で下山、残る3人で登高を続けることになった。6:15、紺野さんと別れて鹿島槍を目指す。雪は締まっていて歩き易く順調に高度を稼いでいく。
 やがて天狗尾根のポイントの一つである第一クーロワールが現れる。雪が安定していれば、ただの急な雪の斜面で特に問題はない。登り切った所は狭く、トレースはそこから右にトラバースするように続いている。オオマサが滑落したのは多分ここだろうと思うと、いやがうえにも緊張感が増してくる。
 第二クーロワールは第一に比べると傾斜も緩く幅も広いが距離が長くて息が上がる。第二クーロワールを越え、天狗の鼻が見えたかと思えば1つ手前のピークで天狗の鼻はその先だった。天狗の鼻は広くて良い幕場になる。また、展望もいい。鹿島槍の北壁や荒沢ノ頭へと続く細くうねうねとした雪稜が手にとるようだ。細い尾根の先には小舎岩も見える。遠くから見ると、そこに小屋があるかのように見える岩だ。
 天狗の鼻から方向を変え、最低コルへと下る。冬に来た時はロープを出さなければならなかったが今回は必要なかった。雪庇に注意しながら最低コルを通過すると天に向かって登っているがごとき急雪壁が連続する。急雪壁を終えると小舎岩に着く。ここは平でいい幕場になる。特に冬は風を遮ってくれるので最高に良い幕場だ。冬に来た時はここに泊まった記憶がある。
天狗の鼻から最低コルへの下り  小舎岩から少しで本ルートの核心部となる岩場が出てくる。冬に来た時は基部を右にトラバースしてブッシュ混じりの所を登ったが、今は雪も少なくトラバースできないのでダイレクトに登るしかないようだ。ロープを出してバタヤンのリードで登る。続いて軽部、金子の順で登る。少し下に太い這松の根っ子が出ているのでこれをアンカーとする。1ピッチ目は浅い溝状を左上していく。岩は外傾していてホールドは少なく、中間支点になるような残置ピトンもない。2ピッチ目は短く約5mほどだが、同じように外傾した岩で登りづらい。出だしに残置ハーケンが2枚あるので少しは安心だ。
 核心部を終えホッとするが、午前中は良かった天気も雪が舞い始めたかと思うと吹雪模様になり視界も利かなくなってきた。無理をせず今日は早目の行動終了とする。三角おにぎりのような大きな岩陰に風を避けて幕営する。この岩の下には花が添えられており線香の残り香も漂っていた。今年の3月に2人の女性パーティーが遭難死しているが、彼女たちにたむけたものだろうと思われる。
 登ることに集中していてすっかり忘れていたが、1人で下山した紺野さんは無事下山できたか気になるので携帯の電源を入れてみた。うまい具合に電波が通じて下山できたとのメールが入っていたので一安心。
 ここからは隣の東尾根も間近に見渡せる。第二岩峰の下では順番待ちをしているパーティーが、ずっと同じ場所に留まっている。先行パーティーが、なかなか登り切らないようだ。結局、そのパーティーはその場所で泊まることになってしまったみたいだ。

【5月5日 快晴】
 今日は朝から快晴、今GW中一番の晴天になった。核心部は終わっているとは言え、まだ気を抜くには早い。急雪壁なども出てくる。荒沢ノ頭は顕著なピークではないため、よくわからないまま過ぎてしまったようだ。鹿島槍へと続く気持ちのよい雪稜を辿ると幕場から1時間強で鹿島槍北峰に着いた。
鹿島槍ヶ岳北峰にて  鹿島槍からの展望は天気が良いこともあってすこぶる良い。黒部川を隔てた剱岳もバッチリだ(本音を言えばあそこへ行きたかったなぁ)。
 後は、ただただ稜線を辿って赤岩尾根を下るだけだ。赤岩尾根の下り出しは雪も安定しているようなので夏道通りのトラバースで下る。この頃から鹿島槍付近でヘリが盛んに行き来を始めた、それもかなり低い高度でだ。後で知ったことだが、27日から行方不明になっていた人が北股本谷で遺体で発見されたとのことだった。
 赤岩尾根を少し下った所から西沢へ降りて西沢を下降することにした。腐った雪に足をとられて大変だったが赤岩尾根を忠実に下るよりかなり短時間で西俣出合に着くことができた。もしかしたら今日中に帰れないかもしれないと思い、冷池山荘で高いビールを買い込んでおいたのだが、余裕で帰れそうなので西俣出合で飲み干してしまう。
 林道をテクテク1時間強、大谷原でタクシーを呼んで帰途に就く。大谷原周辺は猿だらけだった。

〈コースタイム〉
【5月3日】 大谷原発(6:40) → 荒沢出合(8:00) → 1,500m幕場(11:00)
【5月4日】 出発(6:15) → 天狗の鼻(9:45) → 2,580m幕場(14:00)
【5月5日】 出発(6:00) → 鹿島槍北峰(7:10) → 冷池山荘(10:00) → 西俣出合(11:45) → 大谷原(13:00)

トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ342号目次