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沢登り&縦走・黒部川赤木沢/雲ノ平周辺
津田 友紀子

山行日 2013年8月10日~16日
メンバー (L)渡辺(守)、天城、津田

 1週間北アルプス縦走などという大冒険に手を挙げてしまった。2泊3日以上したことがない私にとっては手を挙げるまで何度も迷った。行く前はドキドキワクワクと同時に不安で胸がいっぱいだったが、1週間ピーカンのお天気と先輩方の心優しい気遣いで何とか歩き通すことができた。
 まずは金曜日の夜に深夜バスで新宿から富山に入った。富山で前泊をされていた天城さんと待ち合わせをし、そこから始発のローカル線に乗って途中からタクシーで折立まで移動した。
 折立にはテント場があり、蛇口の付いた洗い場もあったが、ここの水は少し茶色く濁っていて飲用はできないとの張り紙があった。いよいよ登山開始。テントも食事も先輩方に背負っていただいて、私の荷物ははるかに軽いはずだが沢道具もあって、肩にずっしりと重い。樹林帯では高校山岳部のメンバーと抜きつ抜かれつだったが、彼らは歌を歌いながら楽しそうに登っていく。それにも励まされ、最初はすがすがしく登っていたが、前夜の睡眠不足が祟って途中から眠くてふらふら、目をつむりながら歩いている状態になってしまった。あまりの遅さに渡辺さんと天城さんに荷物を持ってもらう。途中で倒れこんで眠ってしまいたい気持ちと戦いながらやっとのことで太郎平小屋に到着。ここで先輩方は夜のお酒を調達し薬師峠キャンプ場に向かった。お盆の週の最初の土曜日、しかも縦走路の入り口ということでテン場は大変な混雑だった。いくつか場所を見回って張った後は、天城さんのカツ煮丼。山でカツが食べられるなんて!疲れた体にお醤油のしょっぱさも有り難い。美味しかった。この日は寝不足解消のため早々に就寝をした。
 たっぷり眠った翌日は沢登り。実はここで沢デビューの私はまずは薬師沢左俣で基礎を教えていただく。沢と言ってもどこを歩けばいいのかわからなかったが、とにかく渡辺さんの後を辿って付いていく。ごろごろとした岩の上を歩くのは慣れていないのでおっかなびっくりである。巻道では後れをとって方角がわからなくなり、左足を泥で滑らせたら足場がない!というヒヤリも経験した。しかし私たち以外に人はおらず、マイペースで登らせてもらうことができた。晴天で青空が気持ちよく、しばらくして後ろを振り返ると薬師岳がよく見える。沢沿いを歩いているのに実は登っている、という当たり前のことを実感し、沢登りって、山登りなのね、と納得した。沢がちょろちょろと流れる水に変わってようやく稜線が見えたがもう足が上がらない。最後に雪渓が横たわり登山靴に履き替えて稜線に上がった。上がったところは北ノ俣岳より太郎平小屋寄りだった。ここから太郎平まではお花畑で、特にコバイケイソウが真っ盛りであった。またここから東側の景色はまさにメルヘンな世界で、翌日と翌々日も見ることになるが何度見ても癒される素敵な場所だった。薬師峠に戻った後は、天城さんが薬師沢で釣ったイワナの蒸し焼きも堪能させてもらった。
薬師沢左俣より薬師岳  3日目はいよいよ赤木沢。空が明るくなってきたころから歩き出したが、薬師峠から太郎平間の木道を歩いている間も朝の山々の景色が薄紫色から明るくなっていってとてもきれいだった。この日は前日の薬師沢を越えて薬師沢小屋まで進む。朝露を含んだ樹林の中を歩くのはとても気持ちがいい。体の中も潤ってくるよう。沢の近くまで下ると今度は木道が続いている。調子よく歩いていたら木道の反対側が外れていて思いっきり転び、頬を打って指をざっくり切ってしまった。これから沢で水に入るのにそれまでに血が止まりますようにと祈りながら絆創膏を貼った。薬師沢小屋で天城さんは戻られるというのでここで一旦記念撮影。天城さんに見送られて薬師沢小屋脇の階段を下って赤木沢の入り口へ。前日の薬師沢左俣とは川幅も岩の大きさも違ってちょっとびびる。足首に捻挫グセがある私は昨日よりさらに慎重になって渡辺さんに付いていった。前に3人組がおり、後ろから1人の男の子、さらに釣りのような恰好の男性も途中で見かけた。
 しばらく歩くと慣れていったが、比較的最初の方で流れの速いところがあり、先行パーティーの一人が腰まで浸かってしまって上がりきれず、渡辺さんがお助け紐を出す場面もあった。水の色は深い緑から、日が差す場所まで来ると明るいエメラルドグリーンになった。去年山雑誌で見た赤木沢にまさか自分が来ることになるとは! 自分には縁がない場所だと思って、当時はただきれいな写真を眺めるだけだったが、全くの初心者の私を連れてきてくださった渡辺さんに大感謝! ほんとに赤木沢はきれいだった。光が差して水面がキラキラと輝く。晴天の中、岩が気持ちよく洗われるナメ滝。脇の緑とのコントラストも美しい。大滝まで来るとすぐ下までよじ登ってしばし見学。巻道を上がって(前日の足を滑らせた記憶が蘇って心臓はバクバクしていた)ようやく一息をついた。
 沢も細くなったころには急に疲れが出てペースダウンしてしまった。途中少しヤブこぎを経験して稜線へ上がった。太郎平小屋で、指の切り傷に挟まった小石をピンセットで取ってもらう。お医者さんが小屋にいるなんて有り難い。薬師峠へ戻って、登るのは数十年ぶりという薬師岳から戻られた天城さんと合流。
赤木沢  4日目は下る天城さんと太郎平で記念撮影。渡辺さんと私は黒部五郎に向かう。太郎平の先でライチョウの親子に出会った。ライチョウは天気が悪いときに出るというが、まだ朝早い時間だったからか。しばし撮影タイム。お花畑を楽しみながら前日、前々日戻った道を歩いていく。赤木岳に着くころには日も高くなり、暑さとザックの重さで水がすぐに欲しくなる。残念ながら黒部五郎に着くころには少し雲が出てきてしまった。黒部五郎では稜線ルートを辿る。稜線でこんなに大きい岩が続くルートを歩くのは初めて。重いザックに振られないよう緊張して進んでいく。すぐに見えなくなる渡辺さんに途中で何度も立ち止まってもらったが、しかしつらかった・・・。ただ途中で見下ろすカールの風景はまさに「天空の城ラピュタ」の世界そのもの! この景色を見られたならやっぱり稜線コースを来てよかった! と思った。この日は三俣蓮華で幕の予定だったが、疲労困憊の私は黒部五郎のキャンプ場までで力尽きた。このテン場も次々と人がやってきて見る見るうちに埋まっていった。この日はキノコや野菜がたっぷりのユッケジャンスープを作ってもらい、疲れた体に染みわたって美味しかった。
黒部五郎の稜線よりカールを望む  5日目は憧れの雲ノ平へ。この日は歩行時間が短かったので心持ち軽やかな気分で出発。黒部源流碑が建つところまでは気持ちよく下ったものの、そこから先の登りは強烈なお天道様でバテた。登り切った後の雪田は別世界のように涼しく気持ちがよかった。ここを抜けると雲ノ平山荘が見えるが、周り道をして下っていくのでなかなか着かない。ただ木道に入る前はいろいろな種類の花々が咲き、たくさん写真を撮ることができた。しばらく続く木道を歩いてようやく山荘とテン場の分岐に出る。お昼ごろに到着して、雲ノ平山荘でカレーを食べた。いろいろなスパイスの味がして美味しかった。しかし最盛期だからかビールは1人1本だった。ここのベランダからの眺めは最高で、私はワインやコーヒーを飲んでしばらくのんびり過ごした。テント場に戻り、クリームパスタ(これも美味しかった!)を作ってもらって夕日を眺めながら就寝までゆっくり流れる時間を楽しんだ。蚊が多かったことを除けば雲ノ平は天国だ。黒部の水も豊富で、ここに何日も張って周辺を歩く過ごし方もいいなあと思った。
雲ノ平山荘とコバイケイソウ  翌6日目の朝はまだ暗いうちからヘッデンをつけて歩き始める。まずは祖父岳へ。黒い石のケルン群を抜けていくが、のどかだった雲ノ平とはまた別世界。風が強かったが山頂のケルンを風よけにして周りの山々を眺める。ワリモ北分岐からは水晶岳は眺めるだけにして、そのまま水晶小屋へ歩を進める。左側が切れ落ちていて、気が抜けない。
 水晶小屋から眺める景色も素晴らしい。本当に山々の中にいるんだなあということが実感できる。水晶小屋からはガレ場が続く。足元に注意をしながらアップダウンの続く痩せ尾根を行く。しかし去年登った槍がくっきり見える景色には感動!ほんとに晴天の縦走は贅沢だ。疲れきって野口五郎岳まで登った後は、野口五郎小屋でお昼のカレー。
 足元は茶色い土から白色の小石に変わっていた。裏銀座コースはあまり人がおらず、ここでもごつごつとした岩の稜線コースを辿った。三ツ岳を越えるとまだコマクサが登山道からすぐ近くに生えていた。もうそろそろ疲れも溜まってきて、烏帽子小屋が見えるとペースダウン。雨も降ってきてしまったが、最後にまた岩の道で疲れた足には堪えた。残念ながら烏帽子に登る気力も残っておらず、最後のテン場ではお花撮影に勤しんだ。
裏銀座から槍ヶ岳を望む  翌日はいよいよ最終日。烏帽子小屋から下るだけだが、前夜にパトロールの方から熊が出ているという注意喚起を受けたので、緊張しながら下っていく。6日間飽きるほど見ていた山々が名残惜しくなり立ち止まっては景色を眺めながら下りていった。連日の足の酷使で疲労が溜まっている。最後に怪我をしないよう慎重に下る。しかし下るのはあっという間だ。樹林帯を抜けて高瀬ダムに到着。ひんやりしたトンネルを抜けてゴール!
 タクシーで大町温泉の薬師の湯で1週間の汗を流し、目の前のバス乗り場から信濃大町経由で長野駅へ。新幹線で東京まで帰った。
 この1週間、食事からテントまで先輩におんぶに抱っこの山行でした。本当に感謝です。ありがとうございました!

太郎平にて
〈コースタイム〉
8/10 折立(9:05) → 太郎平(13:50) → 薬師峠キャンプ場(14:15)
8/11 薬師峠(7:00) → 薬師沢左俣(9:00) → 稜線(12:30) → 薬師峠(15:30)
8/12 薬師峠(5:00) → 薬師沢小屋(6:45) → 稜線(12:30) → 薬師峠(15:30)
8/13 薬師峠(6:00) → 北ノ俣岳 → 黒部五郎岳(稜線コース) → 黒部五郎キャンプ場(14:50)
8/14 黒部五郎キャンプ場 → 黒部源流 → 雲ノ平キャンプ場
8/15 雲ノ平 → 水晶小屋 → 野口五郎岳 → 烏帽子小屋
8/16 烏帽子小屋 → 高瀬ダム

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