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岩登り・剱岳源治郎尾根Ⅰ峰平蔵谷側上部岩壁(成城大ルート)
小芝 泰規

山行日 2013年9月21日~23日
メンバー (L)荻原、小芝

 今回のルートは、この春に計画された荻原さんとのアルパインシリーズの最終回だ。前回まで大きなトラブルもなく、順調すぎるほど順調にここまで来られただけに、今回は何かあるんじゃないかなという不安が頭の片隅にあって、自宅でトポを見ているだけで緊張してきた。O型でいい加減な性格だと言われることがあるが、意外と心配性なのだ。しかし、今回も天気が崩れる予報はなく、神が味方してくれているようにも思える。とにかく今回も慎重に行こう。

【9月21日】
 室堂から剱沢野営場までの移動。テン場から見える上部岩壁はきれいな菱形をしていて、岩全体が白く輝いて見えた。トポでルートを確認してみるがよく分からない。

剱沢からI峰上部岩壁を望む 【9月22日】
 剱沢から源次郎尾根取付きまで雪渓を下り、源次郎尾根を1.5時間ほど登ったところで上部フェースの基部あたりの高さになり、そこから左方向の踏み跡をたどると30分ほどで取付きに到着。取付きは「洞窟上の下のテラス」と案内されているが、洞窟というよりは岩の窪みといった感じだ。
 1ピッチ目は、テラス右側の凹角を直上。ホールドは大きくガッツリ登れる。2ピッチ目はカンテを一旦右側に廻り込み、再び左側に戻る。岩の突起が小さめでガバッと掴めるところはないがホールドは豊富。そこそこ高度感もあり快適で楽しい。3ピッチ目は、カンテ左側の凹角を直上する。ここもホールドは細かいが特に難しいところはなく、ルートもわかりやすい。ビレイ点はしっかりしていて、比較的新しい残置スリングが数本掛かっていた。4ピッチ目の核心ルートは荻原さんにリードしていただく。ここは一見するとフェースを左上するだけのとてもシンプルなルートに見えるが、よく観察すると凹角、クラック、フレーク、スラブと多彩な要素で構成されていて、実際に登ってみると気持ちがいいほどダイナミックなムーブを使える場面もあり、気持ちが一気に高まった。途中のノッペリとしたフェースは傾斜がきつい上にホールドが細かく、スタンスは滑らかな岩の窪みにフリクションを効かせる感じで「この足が滑ったらヤバいな」と、岩にへばり付きながら下を覗きこむと、もの凄い高度感に圧倒され、一瞬体が剥がされそうになる。岩肌の細かいホールドを探りながら、岩にへばり付くようにしてジリジリと横移動を繰り返し、左腕をグッと上に伸ばすと、ちょうど手のひらで掴めるほどの岩の突起に手がかかった。「おぉ~、終わった~」と、集中力が途切れそうになったが、気を取り直して5mほどのクラックを登り切ると、荻原さんが「お疲れ~」と笑顔で迎えてくれた。このピッチはルートが屈曲しているのでロープの流れに注意が必要。トポではA0またはアブミで越えると紹介されているが、岩質がしっかりしていてフリクションが効くので、支点を確認したうえで、フリーで挑戦してみると楽しい。
クラックから核心のトラバースに入る  5ピッチ目は出だしが少し細かいが、その後は快適なフェースとハイマツ帯を抜け、大テラスに出て終了。そこからハイマツ帯を2ピッチ上がると源次郎尾根一般ルートに合流した。
 取付きから終了点まで岩のコンディションは良く、4ピッチ目以外はルートも明瞭。適当な距離に比較的しっかりしたハーケンが打ってあり、安心して登れるルートだった。

【9月23日】
 今日は下山のみ。のんびりと帰り支度をし、雷鳥沢ヒュッテで朝から温泉に浸かった。まさに至福のひととき。「日帰り入浴はAM10時から」と張り紙がされているが、フロントでお願いしてみると、「9時から掃除なので、それまでで良ければ」と入浴させていただいた。その後、快晴で賑わう室堂から帰京の途についた。

〈コースタイム〉
剱沢(3:30) → 源次郎尾根取付(4:30) → 成城大ルート取付(6:40~7:10) → 終了点(9:40) → I峰尾根(10:10) → 剱岳山頂(13:00)


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