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集中山行・尾瀬縦走
杉本 弓子

山行日 2013年9月13日~15日
メンバー (L)渡辺(守)、原口、西尾、江島、杉本

 2013年の集中山行は「会津駒ヶ岳」。9月の3連休を大いに活用して、沢ルート組、縦走ルート組、釣り&ピストン組など計6本の山行が計画されていた。
 我々の尾瀬縦走組は、連休初日の土曜午後に見晴キャンプ場に集合し、翌日に燧ヶ岳山頂を経て大杉林道稜線で幕営、翌々日10時の会津駒集中を目指す2泊3日の縦走計画だった。
 そこで、欲の深い江島さんと私は先入りして至仏山にも登るプランを立てた。至仏山~燧ヶ岳~会津駒という3つの百名山を一挙に稼ごうという算段だ(別に百名山ハンターではないのだが)。出発を1日早めて群馬側の湯の小屋温泉から入山し、笠ヶ岳~至仏山~尾瀬へと至るルートを取ることにした。
 ネットで湯の小屋温泉ルートの記録を探してみると、日帰りピストンの記録が少々。もしくは鳩待峠から至仏山へ登り、下山にこのルートを使う記録が少々。どうやら幕営地や水場の存在が怪しい。避難小屋はあるが、扉は破損し泊りには向かないとの記述。ようやくテン泊の縦走記録が見つかったと思ったら「岩つばめ」だった。残雪期のアッコさんの山行である。さっそく問い合わせると、「ヤブだけど平らな道の上にお張りなさい。人なんて来ないから」とのお告げ。心細いがツェルト泊が正解だろう。また、水場に関しても不安が拭えず各自3リットルを担ぐことにした。
 不安材料がもうひとつ。今年の秋は週末に限って天気が崩れ、雲ゆきに翻弄されっぱなしだったが、この週末も大型台風が接近する可能性があった。「尾瀬に降りる頃には集中解除で誰もいなかったりしてね」というオチも一応想定してはいた。

【9月13日(金)】晴れ
 水上駅10時半集合。当日の都内発だと水上10:50発のバスしか選択肢はない。平日のせいか終点の湯の小屋温泉まで客は私達のみだった。
 正午にバス停スタート。5分ほど車道を進み、左側の「葉留日野山荘」手前が登山道入口だ。民家の脇を通り草っ原へ。一瞬、進路を見失うが右奥の草むらに小さな道標を見つけて樹林帯へ入る。何度か林道を横切るが道標を辿れば問題ない。1時間弱で林道のゲートにぶつかる。脇の石垣にかけられた鉄ハシゴを登って樹林帯へ入るのだが、この尾根づたいの道はエアリアマップでは一般道だが、2万5千地図には載っていなかった。トレースはしっかり付いているが、現在地を見失わないよう地図を読みながら慎重に行く。
林道ゲート脇のハシゴを登る  途中、舗装されていない林道が並行して現れる。セオリーに従って尾根道を登ったが、結果的に合流するので、林道の方が歩き易かったろう。その合流地点の広場がワラビ平(1,250m地点)だ。まだ3時間しか歩いていないのにすでに15時。ちょっと焦る。
 この先は樹林帯の急坂が続く。この日は酷く暑く、風はなく、展望もなく、荷物が重い。今日中になるべく先へ進みたかったが、地形図から想像するよりはるかに厳しい登りだった。ここらで男女2人の沢パーティに出会った。「まさか人に出会うとは・・・」とお互いに驚いた。彼らはこの登山道と並行する「洗ノ沢」から笠ヶ岳に詰め、下山途中とのこと。こちらの行程を説明すると、この先にテントを張れそうなところは無かったと言う。ああ、やっぱりね。アッコさんに聞いておいて良かった。道の上にツェルトを張るから大丈夫と話して別れた。
 予定より30分遅れの16時半過ぎ、咲倉沢頭避難小屋(1,678m)に到着。2-3人は横になれそうだが、噂どおり緊急時以外の宿泊は遠慮したい佇まい。休憩場所としてもイマイチなので先を急ぐ。
 30分ほど進むと傾斜が緩やかになる。今日中にもう少し先へ行きたかったが、湿地帯になってしまうとまずいし、おあつらえ向きの平らな道を見つけて本日の幕営地とした(P1,715手前のコル)。背の高い笹に囲まれた狭い道だが、ツェルト泊には十分だし、2-3テンでもギリギリ張れるだろう。
 ツェルトは立ち木やストックを使ってなかなか上手に張れた。落ち葉のクッションが柔らかく、すこぶる快適だ。しかし、まったく人気のない山奥にか弱い女子2人というシチュエーションは、結構コワイ。逆に獣の気配はムンムンしていたので、各自ラジオや携帯の音楽を一晩中鳴らしながら寝た(うるさすぎて2人とも熟睡できなかったが、怖くて眠れないよりはマシ?)。
広々2LDKの路上ツェルト泊!

【9月14日(土)】晴れ時々くもり
 夜のうちに少し雨が降ったようだが、翌朝はスッキリ晴れていた。明るくなるのを待って5時過ぎに出発。樹林帯を抜けて片藤沼あたりへ来ると視界も開け、沼の向こうに小さく燧ヶ岳の姿も見えた。やはり、人のいない静かな朝の山は気持ちがいい。
 笠ヶ岳手前の水場はやはり不明瞭だった。水溜りのヤブをかき分けた奥にパイプが見えたが、水は流れていなかったので諦めた。多めに3リットル担いできて正解だった。
 笠ヶ岳へは頂上直下の分岐に荷物をデポしてガレの急登。頂上は狭いながら360度のパノラマだ。至仏山へ連なる稜線とその奥に燧ヶ岳。振り返れば雲海の上に上州武尊が雄大な裾野を広げていた。ここの眺めはかなりおすすめだ。しかも今回のルートならば静かなひと時を独占できるだろう。
笠ヶ岳山頂より至仏山方面  笠ヶ岳を過ぎると、朝一番で鳩待峠から登ってきた人がチラホラと現れる。誰もが「夕べはどうしたの?」と不思議そうに尋ねるので、私達が泊まった“最高のコル”を紹介しておいた。
 さて、静かな山歩きが楽しめるのはここまで。悪沢岳分岐点で再び荷物をデポして至仏山へ向かうと、一気に人が増え、もはや観光地だ。至仏山の山頂は大いに賑わっており座る場所を探すのも大変。晴れてはいるが、だんだんガスが上がってくる。尾瀬ヶ原~燧ヶ岳のジオラマのような光景を楽しみにしていたが、ガスの切れ間からチラッと見えるくらい。けれど、今日の目的地である見晴キャンプ場がやたら遠いことは見て取れた。
至仏山頂にて  ここで初めて携帯(ソフトバンク)の電波が入り、金子さんが集中山行用のML(メーリングリスト)を開設してくれたことを知った。一気に受信したメールを辿ると、各パーティの中止の知らせが続々と・・・。
 麓で釣りをしている永岡隊と、私達と見晴キャンプ場で合流する縦走本隊だけは動いていた。「ただいま10:45至仏山山頂。順調に行動しています」とMLに投稿すると、すぐに渡辺Lより「いま鳩待峠に着きました。見晴へ向かいます」との返答。ややあって高速バス組の西尾さんから「事故渋滞で1時間以上遅れそうです」の報告。原口さんはさらに後発のバスに乗っているはず。
 ここで、山岳気象予報士の猪熊氏が発信している天気予報メール(後述)も受信できた。
「<大荒れ情報>台風18号は・・・(略)・・・尾瀬の山岳では15日夕方から南風が強まり、台風がもっとも接近する16日午前中に一旦風雨が弱まるものの、これは擬似好天で、その後、猛烈な北風とともに暴風雨となる見込みです」
 やばい、明日は燧ヶ岳どころじゃない。見晴まで行ってしまうとドツボにはまりそうだ。西尾さんたちも遅れているし、今日は山ノ鼻キャンプ場に泊まって、明日朝一で帰京した方がいいのではないか。渡辺Lへの連絡を試みたが、すでに電波が通じないのか電話もメールも応答なし。山頂で待っていても仕方がないので、とにかく鳩待へ下山開始。ちなみに鳩待への途中の水場はジャブジャブ出ていて助かった。
 鳩待へ下りたのは13時半。メール確認すると、一足違いで西尾さん、原口さんは見晴へと発っていた。私達はすでに8時間以上を歩いており、木道歩きとはいえ、見晴まではあと3時間の距離。メールに気づいて山ノ鼻で待っていてくれたらなあ・・・という淡い期待は叶わず、翌日の大荒れ予報も相まって、テンションがた落ちでほとんど惰性で木道を歩いた。嵐の前兆なのか、雲の流れは速いものの晴れ間ものぞく穏やかさ。まだ紅葉には早かったが尾瀬ヶ原の美しさはご存じのとおり。もっと楽しむ余裕があるときに、あらためて歩きたい。
尾瀬ヶ原と燧ヶ岳  ほぼ半日を歩き通し、ようやく17時に見晴キャンプ場へ到着。渡辺Lや西尾さん、原口さんと合流した。テン場は台風接近とあってガラガラ。むろん明日以降の計画は中止。原口さんのauのみ電波が通じたので、明日朝に合流予定だった山蔦さんへ連絡。「来たかったら来てもいいよ?」と言ってみたがそんな酔狂な人はそういない。「見晴集中になっちゃったね」なんて言いながら乾杯。さて問題は、皆で担いできた2泊3日×6名分の大量の食材をどう消化するか・・・(苦笑)。

【9月15日(日)】雨
 朝起きたときにはすでに弱い雨が降っていた。8時にテントを撤収して出発。
 燧ヶ岳の西側を巻き、温泉小屋や三条ノ滝を経て御池へ出るルートで下山。雨具を着て、折り畳み傘も広げる。だんだん雨、風は強まり、樹林帯の中はまだよかったが湿地帯に出てしまうと身を固くして歩いた。
今年は「見晴集中」となりました!  御池には昼過ぎに到着。バスで温泉へ行く予定だったが、あまりに体が冷えてしまったため、御池のバスターミナルにあるロッジで入浴した。参考までに、きれいな施設だし広い展望風呂だが、あまりおすすめではない。
 13時半のバスに乗り、会津高原尾瀬口駅へ着くころには青空が広がっていた。これが「疑似好天」というやつか。ともあれ、電車を待つ間に濡れたテントを広げて干し、駅舎の食事処で名物料理を楽しんだ。
 さて、台風は予想よりやや速度を落としたようで、交通網の乱れもなく全員無事に帰宅できたが、その後、台風18号は猛威をふるい、8月30日から新しく運用開始された「特別警報」が初めて適用される例となったのだった。

〈コースタイム〉
【9月13日(金)】 水上駅(10:50)=バス=(11:37)湯の小屋温泉バス停(12:10) → ~登山口(12:15) → 林道ゲート(13:05) → 避難小屋(16:35) → P1,715付近コル(17:00)(幕)
【9月14日(土)】 幕場(5:10) → 片藤沼(6:45) → 笠ヶ岳分岐(7:00) → 笠ヶ岳山頂(7:10) → 悪沢岳分岐(9:15) → 至仏山山頂(10:40~11:15) → 鳩待峠(13:30~14:00) → (17:00)見晴キャンプ場(幕)
【9月15日(日)】 見晴キャンプ場(8:00) → 御池バスターミナル(12:30)=バス=会津高原尾瀬口駅

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