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岩登り・滝谷第四尾根/前穂4峰正面壁(北条=新村ルート)
荻原 健一
小芝 泰規

山行日 2013年8月10日~14日
メンバー (L)荻原、小芝

 滝谷第四尾根は今回で3回目の企画となる。1回目は台風で、2回目は仕事でいずれも在京敗退であった。このルートはアプローチも含めて崩壊が進んでいるようでモタモタしていると登れなくなってしまいそうなので、今回は日程に余裕のある盆休みに企画することにした。盆休みに1本だけでは寂しいので、奥又白池に行ったことのない小芝さんのことも意識して①涸沢-滝谷と②奥又白池-前穂4峰正面壁の2本及び涸沢-奥又白池への移動日=実質停滞日を含めた三峰流ゆるめプランとした。

【8月10日】記録:荻原
 今日は上高地から涸沢への移動日。ゆっくり登ったが、久々の重荷に体は正直でとてもじゃないけどこれから北穂南稜を登る体力は全く残っておらず、今回のゆるゆるプランに自分で自分に感謝する。

【8月11日】記録:荻原
 今日は涸沢から北穂南稜を登り、稜線を越えてC沢左俣を下降、スノーコルから滝谷4尾根経由涸沢のベースに戻るので結構な長丁場だ。1:30に起床し3:00前に出発する。滝谷第四尾根はC沢左俣の下降が核心と言わるくらい落石の巣として悪名高いが、気は使うもののほぼ落石は発生させず順調に降りることが出来た。
 スノーコルで食事と登攀準備をして、いざクライムオン。残置は豊富ながらぼろぼろで半分も使えない状態ながら、ルートガイドとしての役割としては十分だ。ビレー点やランナーは、持参したカムでどこでも取り放題という感じだ。
 Aカンテ、Bカンテ、Cカンテはどれも簡単。その後ツルムの左肩に上がり、ツルムのコルへ懸垂する。ツルムのコルからの2ピッチがDカンテの登攀でこのルートの核心となる。傾斜は今までよりは少々強くなるがホールドだらけでさくさく登れる。2ピッチ目の出だしが核心で、大方のトポ図ではA0で紹介されているが、フリーで登っても体感5級くらいで問題なし。終点からは100mくらい歩けば縦走路に合流出来る。
 四尾根は技術的な困難さはあまり感じなかったが、滝谷の全体像を把握出来きる長大なルートであり、やはり滝谷を代表する名ルートであると感じた。アプローチも含め我々だけでこのルートを満喫できたことも満足度を高めてくれた。涸沢に戻り、まずは1本目の成功を生ジョッキで乾杯する。

長大な4尾根下部をバックにピナクルを越えツルムの左肩へ

〈コースタイム〉
涸沢(2:40) → スノーコル(7:30~8:30) → 終了点(12:30) → 涸沢(15:00)

【8月12日】記録:荻原
 今日は涸沢から奥又白池へのB.C.の移動日。前穂北尾根5・6のコルを越えて明日登る前穂4峰や前穂東壁を右手に見ながらぶらぶら歩く。5・6のコルを越えてすぐの所が一箇所崩壊しているので念のためロープを出す。4時間半くらいでB.Cの移動を終了。涸沢で仕入れたビールを水場の雪融け水に浸して10分もすれば極冷えビールに変身だ。足を冷たい水の中に入れながら極冷えビールを飲み干し、明日への英気を養うことができた。

奥又白池のB.C.

【8月13日】記録:小芝
 前日に奥又白から4峰を見上げてルート図を確認すると、登攀するラインがはっきり見えたので、ピッチや核心を概ねイメージすることができた。1:30に起床し3:00前に出発。
 ガレた奥又白谷を詰め、途中雪渓を30分程上がったところで空が薄らと明るくなり、アプローチの道しるべとなる巨大なチョックストーンが見えた。そのあたりか4峰基部を右上する形で取付きに到着。取付きから3ピッチは簡単なガリーで、ホールドが多く残置も随所にあるので安心して登れる。ただ、“安定した浮石”が曲者で、叩く程度では動かないが、体重をかけるとグラッと動き出すやつがいて、こちらに神経を使わされた。
 広いハイマツテラスから始まる4ピッチ目はハング帯の切れ目を突き、小ハングを右から乗越す核心部分。右足のスタンスが無いところを荻原さんがアブミをセットしてクリア。続いて残置されたアブミを使って乗越しにかかるが、回収のタイミングがなかなか難しい。それこそ石にかじり付くような奮闘的なムーブでなんとかクリアした。
 ルートの最終ピッチとなる5ピッチ目はほぼ垂直な壁を10m程のトラバースからカンテ。スタンスは豊富だが、スタンス間の段差が大きくホールドが小さいので1歩1歩がヒヤヒヤものだが、高度感抜群で岩壁に張り付くスリルを体中で感じられるおすすめピッチだ。カンテを越えたテラスに出ても終了点らしいものが見当たらないのでカムでビレイ点をセット。そこからは緩傾斜帯を4ピッチ程度で北尾根に到達。靴を履きかえて前穂山頂を目指したが、3峰取付きから北尾根縦走の先行組で渋滞していたので、適当な日陰を見つけてのんびりと昼食をとった。前穂山頂までは岩質もしっかりしていて、2~3級程度のクライミングを快適に楽しめた。
 奥又白への下りは前穂から明神岳に向かって稜線を降り、三本槍を越えたところでA沢を下るがここが間違えやすい。ちょうど三本槍を越えた正面に左に落ち込む沢が見えるが、これは中又白沢でNG。ぐるりと左側に廻り込むと尾根の踏み替え点にケルンやテープがあり、これがA沢を示す目印になっている。
 A沢は雪渓が大きく残っていたのでアイゼンを付けて下降になったが、2日前の滝谷の下降で不覚にもバイルを紛失してしまっていたので、荻原さんにハンマーを借り、自分のものと合わせてダブルアックスで降りることにした。相当な下降時間を覚悟してそろりそろりと慎重に下りてみると、雪の状態が良かったのかハンマーがしっかりと効いてくれて、それほど遅れをとることなく下降できた。B.C.に戻ると、お約束の極冷ビールで祝杯をあげた。

5P目の手に汗握るトラバース

〈コースタイム〉
奥又白池(3:00) → 北条=新村ルート取付(5:30~5:50) → 終了点(9:00) → 前穂北尾根3・4のコル(10:30) → 前穂頂上(13:00) → A沢経由 → 奥又白池(15:20)

【8月14日】記録:小芝
 今日が帰京日。前日に奥又白入りし、松高ルートを登るといっていたパーティの1ピッチ目終了までを見届けてから、上高地へ下った。
 今回は天気にも恵まれたが、荻原さんの正確なルートファインディングと状況判断はさすがといった感じで、心地よい登攀のリズムが最後まで途切れることはなく、楽しいクライミングを満喫できた。また行きたいな~。ありがとうございました!


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