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雪山登山・ランカン尾根~笊ヶ岳
鈴木 章子
津田 友紀子
杉本 弓子
軽部 剛
江島 沙織
永岡 恵二

山行日 2013年12月29日~2014年1月2日
メンバー (L)鈴木(章)、杉本、軽部、江島、津田、永岡

【総評 記録:鈴木】
 半年前から今年の年末山行は「大無限~風不入」のコースと決めていたが、例年より休みが長いので急遽変更。はてさて何処の山へ? 今の私の体力ではリーダーとして行ける山は限られている。そんな折、杉本さんより「静かな山へ行きたい!」の依頼メール。
 毎日のラッセルは厳しい。天気との戦いは辛い。雪はほどほど、天気は良好安定、正月らしい思い出に残る山。結局、南アルプス南部になってしまった。更に私が諦めかけていたランカン尾根を登って笊ヶ岳のコースに決定。
 参加者は、昨年も一緒だった軽部さん、杉本さん、江島さん、病み上がりの永岡さん、雪山初心者の津田さんと私の6名。
 ジャンボテントを担いでの出発。出発前、登山中も不安は付きもの。全員無事下山を願うしかない。
 結果は一人ひとりの努力と全員の協力で完走できたランカン尾根は、実に素晴らしいコースだと実感。また、この尾根は登る尾根ではない。前回下山ルートと考えたのは甘かった。
 今回一つだけ不満を言えばアタック日(1月1日)だけは晴れて欲しかった。他の日は毎日モルゲンロートで全員真っ赤に顔を染めていたのに。笊ヶ岳山頂から見る南アルプス全山を一瞬でもよいから見たかった。他の人にも見てもらいたかった。
 ランカン尾根全体は地形図からでは読み取れないほど変化があり厳しい。等高線の幅以上に急で不安定な岩場が続き、3箇所のキレット通過、枯れた立木が多く握る木を選びながら高度を上げて行った。
 高度を増すごとに増える雪量。そんな中、愚痴を言わずに「楽しい!」と言う言葉が返ってくる。若さとは羨ましい。
 最後の布引山で記念撮影後、全員が「あっこさん、ありがとう!来てよかった」私の目から一粒・・・「頑張ったのは皆さんです!」。
 下山口の老平を目指して長い下り。最終日は10時間行動。よく頑張った全員。下山後の心弾む温泉と食事は一寸しょぼかったけど、下山祝いのビールは実にうまかった。全員の笑顔を見ながら無事下山できたことへの感謝と、これからは私から同行をお願いする時期は近いなと思えた。
 軽部さん、杉本さん、江島さん3名には、私から伝えるものが何もなくなってしまった。もう立派な山ヤです。

イソ平に残してきた三峰隊の赤布最後の布引山にて。全員元気に完登しました!

【12月29日 記録:津田】
 1日目は移動日なのでゆっくり出発。高尾駅発8:01の中央線に乗って甲府駅で身延線に乗り換え下部温泉へ。下山後に宿泊予定の旅館の方に駅まで来ていただいて荷物を預け、あっこさんが予約してくださったジャンボタクシーに乗っていざ出発。
 水は当初4Lを各自担ぐ予定だったが、上の方は雪がありそうとのことで2Lに減って安堵。20kgを背負ったことがない私には行く前から心配だったが2キロ減っただけでもだいぶ楽になったはず。ジャンボタクシーの運転手さんに水が汲めるところを聞いたところ、タクシー会社の庭先の水もおいしいとのことでそこで分けてもらった。
林道途中の標高800m地点から出発!  タクシーで戸屋集落の林道終点まで連れていってもらうはずだったが、コンクリートの道は続いているものの、ジャンボタクシーではUターンできなくなるので、これ以上入れないとのことで入れるところまでで下ろしてもらった。これでも地図上の林道終点よりは道が延伸しているはず、とのこと。
 今晩は取付口まで歩くだけなので、昼下がりの林道をのんびり歩いていく。
 杉本さん、江島さん、軽部さんは地図とそこから見える地形をじっくり照らし合わせながら進む。出発する前に地図読みの本を斜め読みしただけの私はかろうじて単語がわかるばかりで、地図読みにどっぷりはまっている3人はとっても楽しそう。その間に先を行くあっこさんと永岡さんはカモシカに出会ったとのこと。
 立ち止まりながらのんびり2時間ほど歩いて15時。道がなくなったところでテントを張る。今晩は永岡さんが背負ってきた大量の鶏肉、野菜、冷凍うどんでちゃんこ鍋。翌日からの長い山行に備えてたっぷり栄養補給。この日は早めに就寝した。

小ギャップと呼ぶには険しすぎる崖っぷち 【12月30日 記録:軽部】
 早め3時に起床。初め予定していた大金山へは行かずに林道途中の950mコルから西へ延びる尾根を踏み跡に沿って登る。体も温まって来た頃、日が射して来て辺りが真っ赤に染まり、気持ち良い。林道は大金山の山頂まで通っているようだった。イソ平の手前で急登があったものの午前中は順調に進んでいったが、1,880m付近の小ギャップでは岩に雪がのっていて嫌らしく細引きを出して降りた。
 その後は急で手を使って登る所が多くなり1,948m付近で時間が来たので幕を張ることにした。あまり良い場所ではないが段差に小枝を敷いて狭い所にどうにかテントをはめ込んだ。しかし、この小枝が良くなかった。テントに穴が・・・すいません。予想していない小さなアップダウンで疲れましたが楽しい1日でした。

【12月31日 記録:江島】
ランカン崩れのへりを慎重に進む  朝日が白樺に当たり森が燃えるように赤くなる。今日はランカン尾根で最も注意が必要なランカン崩れを通る。昨日の小ギャップが思いのほか大ギャップだったので、昨夜テントの中では想像もつかないギャップが現れるのではと盛り上がった。
 2,085Pと2,125Pを越えるとランカン崩れへ降りる大ギャップが現れた。昨日見た小ギャップよりは尾根が広く細引きを出さなくてもなんとか降りられそうだ。慎重に一人ずつ後ろ向きでクライムダウンしていく。アイゼンの前歯を蹴り込んで、一歩ずつ確実に降りて行く。新ハイの資料ではコルから右巻きのトラバースルートを進むとあったが、テープが見つからず、そのまま尾根上を進む。岩肌が雪から現れているため、手で岩や木の根を掴み、アイゼンの歯を引っ掛けながら、四肢を使い登っていく。さすがあっこさん山行、なかなか難儀だ。ランカン崩れを過ぎる頃、下の方にテープがあったようで、やはりトラバースルートがあるようだ。
細く険しい岩稜帯を幾つも越えた  2万5000分の1の地図ではなんとなく細い尾根を登っていくだけのようだが、実際は所々岩稜帯が現れ、苦戦した。2箇所細引きを出し、確保しながら登ることとなった。ランカン崩れを通過するだけで5時間かかり、気持ち的に少し焦る。休憩時間も15分と時間を決めることとした。
 だんだんと雪も深くなり、わかんレディース(杉本・津田・江島)が活躍するが、すぐにでてくる岩稜帯で脱ぎ、また履いたりとあまり効率も良くない。それでも、等高線に現れない小さなアップダウンや岩稜に苦戦したため、14:30でタイムアップとなり、2,320m付近の尾根上で幕とした。
 今夜は大晦日。津田さんの鍋はジャンボハムが出てきて、あっこさんの口が塞がらなかった。長期山行なのに今回はご飯が豪勢だ。殿(永岡氏)もご満悦の様子で寝釈迦になっていた。ラジオで紅白を聞きつつ就寝。

【1月1日 記録:杉本】
 新年おめでとう。三峰に入って以来、毎年テントの中で新年を迎えている。昨晩は紅白の「あまちゃん」ライブを楽しみにしていたのに、すっかり熟睡してしまった。殿は藤あや子のバックで壇蜜が日本舞踊を舞ったところまで聞いていたらしい。朝食では江島さんがドライフードのお餅をふるまってくれた。
 お餅をパクつきながら今日の行程を確認し合う。ここ2日間、思うように進めていない。25,000地図で見ると現在地は笊ヶ岳頂上までわずか4cm、直線距離にして1km程度。標高差300mの単調な尾根にすぎない。ところが「岳人」の記録では、この行程に5時間を費やしている。昨日までなら「ウッソー?」の声が出たが、もはや疑う余地はない。それがランカン尾根なのだ。
 6:45出発。薄曇りの空に初日の出は拝めなかった。天気は冬型が強まり下り坂の予報。本日のワカン隊は軽部君を先頭に永岡君と津田さん。相変わらずの痩せ尾根の急登だ。8時を過ぎる頃、早くも雪が降り出した。風も徐々に強まっている。案の定、等高線には表れない激しいアップダウンが続いた。急登と急降下の繰り返しに息つく暇もない。やがて長い急登を経て小笊のピークにたどり着いた。すでに3時間以上が経過していた。
 笊ヶ岳へはあとひと息。しかし真に驚くのはこの先だった。小笊を下り始めると眼前にピークが見えるが、おかしなことにその奥にもう一つピークが見えるのだ。なんと小笊と大笊の間に「中笊」が存在していた。地形図では広めのコルになっていて本来なら昨晩のテン場予定地だったその場所に・・・(絶句)。
笊ヶ岳登頂!眺望ゼロでも感無量~!  こうして丸3日間かけて長大なランカン尾根を登りきり、笊ヶ岳の頂上に立った。永岡君が三峰会旗(80周年記念のミニ版)を取り出し記念撮影。ホワイトアウト状態で南アの絶景を拝めず残念だったが、みんな充実感いっぱいの同じ顔。なんだろうね、あれは。頂上でしか見られない笑顔といったら大げさだろうか? おのおの感慨深いものがあるようで、吹雪だというのに立ち去りがたく30分くらいその場にいた。
吹き溜まりを泳ぐようなラッセル  この先、笊ヶ岳から布引山へ連なる稜線は一般ルートだが、期待していたトレースは雪に消え、本格的なラッセル行軍となった。しばらくは下りなのでマシだが、コルを過ぎて登りに差しかかると腰までの雪。先頭はピッケルで雪を掻き分けながら全身を使ってガシガシ進む。あと1時間もあれば布引山に着くはずと頑張ったが、道は稜線のわずかに下(東側)の斜面についており、雪の吹き溜まりにお手上げ状態。時計はすでに15時を回ろうとしていた。
 テン場を求めて軽部君と永岡君がザックを置いて偵察に行ったが、この先も狭い樹林帯だった。試しに稜線上に出てみると張れなくはないがよろめくほどの強風。するとアッコさんが少し手前に張れそうな場所があったと言う。半信半疑で密集した樹林に分け入って行くと、そこには唯一無二の、ジャンボテントきっかり1つ分だけのスペースがぽっかり空いていた。「アッコさん凄い!」みんな目をパチクリして驚いた。アッコさんは実は魔法使いなのではないかと疑うときがある。それくらい不自然な空間だった(笑)。
 かくして2,520m地点に幕を張った。その夜は猛吹雪に見舞われ、樹林帯に張って本当に良かったね~としみじみ実感。テントの中では永岡君のバカ殿っぷりに疲れも吹っ飛ぶ“福笑い”。とても楽しいお正月の夜だった。

【1月2日 記録:永岡】
 3時過ぎに頭痛が酷く目が覚めた。前夜に飲みすぎか? とも思ったが、あの程度で二日酔いとは思えない。夜中、樹林帯の中に張ったテントに雪が落ちて、ベンチレーターに雪が詰まっていた。酸欠だったようだ。他のメンバーは平気なよう。自分が久々の2,000m以上の場所での寝泊りに慣れていないせいだろうか、他のメンバーは全く問題ないようだった。
 4時に起床。おかゆを食べて6時45分に出発。雪は止んでいたが、風が強い。前日の雪と風で昨日の幕場探しの時のトレースは消えていた。出発からラッセルだ。今日のラッセル隊は軽部っち、ガメ、自分。昨日は軽部っちに殆どラッセルをしてもらったので、元気な朝一だけでもと、自分が積極的に先頭でラッセルをする。尾根に上がると、雲が取れ、富士山と朝日が素晴らしい。皆で合掌。

思わず手を合わせたくなる絶景でした!思わず手を合わせたくなる絶景でした!

 布引山までほぼ平らだが、太ももまでの雪でラッセルが厳しい。ガメは2歩で太ももまで埋まって動けなくなってしまい、抜け出せなくなってしまった。
 1本の休憩を入れて、8時前に布引山に到着。頂上は樹林帯の中で、見晴らしはない。記念撮影だけ済ませて、すぐに下山を開始。50mほど下ると、西側も晴れてきて、山々の景観が広がっていた。南西には青薙山。かっこいい山だ。
 下山も雪が深い。トレースらしきものは、たまに見つかるが、雪質がサラサラのため、踏み固まっていない。尻セードも混じえながら、標高を下げていく。
 2,021mの桧横手山を左に巻いて更に標高を下げる。標高が下がると雪質が重くなり、ワカンが邪魔になり、全員アイゼンとなった。
 1,300m位になると、雪もだいぶ少なくなり、疲れも出てきて、アイゼン歩行が辛くなってきた。3度ほどアイゼンを引っ掛けて転んでしまった。
 下山コースは登ってきたランカン尾根が左にところどころで見える。ザイルを使って下った小ギャップ、記録では大したことないようだったが、実際は大変だったランカン崩れ、最後の急登の小笊に大笊。皆、ほぼ急登が続くランカン尾根を登ってきたという感慨にふけっていた。

遠目にも長く厳しいランカン尾根

 1,200m位の山の神で全員がアイゼンを外し、初詣。残りの下山と、今年の安全登山を祈願した。
 17時にゲートに到着。下山途中で呼んだタクシーですぐに今晩の宿、おおしま荘に向かった。
 今回、骨折後初の長期山行で、すぐにバテて、ペースが遅くなってしまい、予定していた幕場にたどり着くことができず、皆に迷惑をかけたが、素晴らしい仲間の助けがあって無事に下山できました。本当にありがとうございました。

5日間お疲れ様でしたーっ!!
〈コースタイム〉
【12月30日】 幕場(6:30) → 1,430m(9:15) → イソ平(12:00) → 小ギャップ(13:15) → 幕場(15:00)
【12月31日】 幕場(7:10) → 2,085P(8:45~9:15) → ランカン崩れ(10:30) → 2,261P(13:10) → 幕場(14:30)
【1月1日】 幕場(6:45) → 小笊(10:05) → 笊ヶ岳(11:15~40) → 幕場(15:35)
【1月2日】 幕場(6:45) → 布引山(8:00) → 桧横手山(11:00) → 広河原(14:40) → ゲート(17:00)

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