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縦走・両毛国境縦走
鈴木 章子

山行日 2013年10月12日~14日
メンバー (L)鈴木(章)、飯塚、杉本、内田

 無雪期の両毛国境を歩きたいと長い間思っていた。齢も大きくなり、長時間歩くのもだんだん不安を感じる昨今。例会に出してみたら少しはオンブをしてくれるメンバーが来てくれるかもしれないと大きな期待をしてみたが・・・
 何と集まったのは! 風林火山のような連中ばかり『食べること風の如く、床に入れば林の如く、喋り出せば火の如く、頑固なこと山の如し』。人への思いやりゼロ。さてさて、これから3日間どうなることか。不安と恐怖と期待と三澤氏の善意で幕は上がった。
 前夜発、新幹線とタクシーを乗り継いでロープウェイ山麓駅まで行く予定だったが、三澤氏が送ってくださるという温かい言葉に全員甘えてしまった。お陰で交通費は一桁安くなった。
 前夜、駒込出発、光徳牧場で仮眠、早朝出発。7:30始発のロープウェイに乗ることが出来た。ロープウェイ山頂駅(2,000m)には、足湯があり不思議な光景。ハイカーで身支度する場所もままならない。トイレを済ませ早々に出発。三澤氏も同行。さすが百名山、登山道は長蛇の列。紅葉を楽しむ状態ではない。抜きつ抜かれつが山頂まで。我々は山頂手前(2,300m辺り)で登山道を離れた。そこで三澤氏とも別れハイカーから見えない位置に移動、これから行くルート確認をした。
 ここで我々は地図を誤読した。白根隠山は本来登る山ではなかったのに、それに拘ったため、五色沼避難小屋へと向かってしまった。
 結局、五色沼への登山道を最低鞍部まで下り小屋と反対側(北西)へと火口を歩きだした。狐に抓まれた気分でどんどん進み小さな鞍部を登った。そこには赤テープがあり、初めて白檜岳手前の鞍部に来ていることに気付いた。
 テープを見つけるまでの不安はGPSでも補えなかった。とにかく登山道発見! 急登ながら安心感のある苦しい登り、山頂で白檜岳のプレートを見たときは全員「ほっ」とした。
 その後は、皇海山を登りきるまでプレート、テープ、空き缶、タオル、雨具等ありとあらゆるものが道案内をしてくれた。
 錫の水場に14:20着。ここで水を取り錫ヶ岳山頂で幕の予定だったが、風も冷たく天気も少し下り坂。良い幕場もあったので、ここに泊ることにした。
 そこには、水場まで1分の看板はあったがもう5分程降った処に水が細く流れている場所があり、そこで水を取ることが出来た。至る所にパイプは差してあったが、水は流れていなかった。2日前まで雨だったのに。溶岩でできた山なので水捌けが良すぎるのだろう。その涸れた沢をかなり下っても、よい水場は得られないようだ。
 とにかく水を入手、全員でザックの所まで戻り幕を張った。気温はドンドン下がっていった。テントの中で落ち着いた頃、雨が降りだした。大粒ではないが濡れずにテントを張れたことは嬉しかった。が、予定よりも早めの幕、明日からの行程距離の不安は残った。日の出とともに出発と約束をして18時半に床に就いた。今日は何となく静かにことは済んだ。しかし、明日からはー。
 6時出発。昨夜は冷えたのか、木々は霧氷で真っ白。目を楽しませてもらいながら急登をグイグイ登る。錫ヶ岳山頂で2人連れの若い男性に会う。彼らは山頂泊。これから降るとのこと。何だかよく判らないが錫の水場で水が得られなかった様子。我々が水を得たことに驚いていた。
 錫ヶ岳からの下りは要注意。テープは西側に目立つが尾根は北側へと続く。笹藪の中に踏み跡があり、笹に体重を預けての急下降。
 下り切れば平坦な笹尾根となり、今来た尾根も含め展望を楽しむことが出来る。紅葉を期待してきたが、この山は常緑樹が多くちょっとガッカリ。しかし、そんな中でも時折出逢うツツジの紅葉には「ハッ」と目を奪われた。
 その後も次々と現れる小ピークを越える。少し頑張ってもらわなければと思っても、休憩時間を短くビシバシ! とはいかなかった。
「今日は10時間行程です!」
に、全く堪えない連中ばかり。褒めることと言えば地図をよく見ていること、グイグイ歩いてくれること。しかし、ひとたび休憩となれば・・・。
 宿堂坊山手前の鞍部に石の祠があった。昔、『夏峰』と言われる最も厳しい修験道だったとか。遭難者続出で廃止になったとか。確かにこの道は厳しい。
 宿堂坊山、三俣山の登りには疲弊する。この「名」のある山がなければこの尾根は最高の縦走路。しかし、この山があるからこの山域は素晴らしい。
 矛盾と闘いながら三俣山頂へ。日はそろそろ傾き、疲れも増してきた。最後の踏ん張り。あと小ピーク2つ、先方を行く3人との距離が広がる。水はカモシカ平で、頑張れ!
 幸い最後のピークは笹原のトラバースで通過。夕日に照らされたカモシカ平に16時到着。カモシカ平には水マークは無かった。見当を付け、松木沢方面に下ってみた。昨日と同じように1ヶ所、糸のように落ちる水を発見。全員、手分けして水汲みと設営に分かれた。こんな時、山慣れしたメンバーと行けることは心強い。一言で自ずの行動が決まる。
 水汲みを終え戻ってみると、フライまでしっかり張られていた。日は既に沈み残照の中テントに潜り込む。急いで夕食の支度と寛ぎをして19時には横になった。
 「こんなに早く眠れない!」と大騒ぎしていた奴ら、15分後には林の如くになっていた。遠くでカジカの声が聞こえる。疲れているようだ。おやすみなさい。
 翌朝は、更に30分早く出発。50分後に国境平。久々に人に出会う。懐かしいやら煩わしいやら、会話を少し交わして再度出発。
 国境平は薪が山と積まれ、焚火跡もある。山中では珍しい光景。こんな場所でテントを張って、焚火を燃やし、友情を温めるのは人生の最高の至福。水場は近くにあると聞く。
 ここの水は、どこも何故か美味しい。
 残念なことに我々にはそんな余裕はない。また、友情を温めるほど深い付き合いではない。ただただ前進のみ。
 あのねー、ウサギはどうしてカメに負けたのか知ってるかい?
 それはね、ウサギはカメを見ていたの。カメは目的地を見ていたの。だからウサギは負けたんだよ。
 我々の目的地、皇海、庚申は目前? 進めー、進むのじゃ。我ら風林火山、カメ隊、遥か彼方のピーク目指して!
 今回、ここに至るまで、色々な登りを経験してきた我々には、皇海山の登りは堪えなかった。堪えたのは山頂の賑わい。百名山は良いけれど、『百快走縦走路』のガイドブックもあってよいのではないか。我々のように実に楽しい?尾根歩きの本が・・・

皇海山山頂鎖場が続く

 皇海山頂でゆっくり休み、後は鋸山、庚申山と安易に出発。不動尻の分岐から人はめっきり人は少なくなり、絵にも描けない恐怖の連続梯子、鎖場が続いた。
 20年以上前の2月、雪の降る中、私は、友人と2人で、庚申小屋から、ここを往復している。鎖場は確かにあったがこんなに怖かった記憶は無かった。ただ、鎖を握った手袋が凍り3mほど滑り落ちたのは覚えているが、無知だったんだね―、あの頃は。
 一越え、一越え、鋸の刃を越えようやく辿りついた庚申山少し手前に展望台。白根山~皇海山迄の尾根がよく見える。尾根は初秋に輝き、色んなことはあったけど、全員、感無量で眺めた。
展望台  そこから、庚申山山頂迄5分。時刻は13時。初めてきたと喜ぶ3名。時間に焦る1名。山頂にはこの辺りを徘徊している男性1人。群馬人か栃木人か? 少し会話をして別れた。
 その後も小屋までは岩場続きでスピードは上げられない。梯子、鎖、穴潜りと時間があれば充分楽しめる道だが、今回は残念。
 小屋で水を補給後、一の鳥居を目指した。小屋から一の鳥居の間で、突然、猿軍団に遭遇。流石の風林火山、カメ隊も怯む。仕方なく、リーダーが猿軍団と交渉。道を空けてもらった。
 一の鳥居で休憩をとり一気にカジカ荘を目指した。カジカ荘に着いたのは16時15分。カジカ荘では、今の時間帯では、入浴は可能だが、食事は駄目とのこと。食事を諦めタクシーを予約。17:20の電車に間に合うように急いで入浴してタクシーに乗り込んだ。とにかく、この時点では帰宅を急いだ。ところが、駅近くに『ホルモン』の赤い提灯。ドライバーも「この店は、美味しい」と言う。3名から電車を1本遅らせても食べたいと火のようなエコーが響く。しぶしぶ駅に荷物を置いて赤提灯へ。暖簾を潜るとお客は一人、常連客の様子。中から温かみのあるおばちゃんの顔。89歳のおばちゃん1人でやっているとか。肌の張りに驚く。私はまだ子供、他の者は孫と言われてしまった。
 4人、畳の部屋に案内され、勝手に注文する3名。私はホルモンの味は全く判らない。が、美味しい美味しいと食べる3名、目の前のホルモンが風の如く消えてゆく。風林火山の強さをここ処でも感じる。あっという間の1時間だった。
風林火山のみなさん  ビール缶片手に、渡良瀬鉄道に乗ればお客は我々のみ。
「初めて乗るのー、わたらせテツドー!」
と、ここでも始った。風林火山。大間々駅で乗務員交代時、降ろされるかとヒヤヒヤ。それでも、相生駅までは乗車が許された。
 風林火山山行は、渡良瀬鉄道、相生駅で、ようやく終了となった。東武線に乗り換えた途端、ただただ林の如く静かになった。
 今回歩いた結果、両毛国境縦走は、無雪期も良いけれど、私としては、やはり有雪期の縦走を薦めたい。
 反省として、今回の縦走は、北ア1日10時間行程よりも厳しかった。

〈コースタイム〉
【10月12日】 日光白根ロープウエイ=山頂(2,000m)(8:10) → 七色平分岐(9:00) → 登山道を離れる(10:00) → 五色沼避難小屋分岐(11:30) → 白檜岳鞍部(12:20) → 白檜岳(13:00) → 錫ノ水場14:20(泊)
【10月13日】 錫ノ水場(6:00) → 錫ヶ岳(6:54~7:10) → 柳沢ノ水場 → 宿坊堂手前の鞍部・ネギトノ水場(11:05) → 宿坊堂山(11:37) → ヤジノ水場(12:53) → 三俣山(14:10) → カモシカ平(16:08)(泊)
【10月14日】 カモシカ平(5:36) → 国境平(6:24) → 皇海山(8:18~8:45) → 不動ノコル(9:25) → 鋸山(10:15) → 薬師岳(11:35) → 渓雲岳(11:57) → 駒掛山(12:12) → 御岳山(12:34) → 庚申山(12:50) → 小屋分岐(14:16~14:30) → 一の鳥居(15:15~15:30) → カジカ荘=通洞駅
〈諸経費〉
カジカ荘=通洞駅 タクシー ¥2,940
カジカ荘 入浴 ¥600
ロープウエイ(片道) ¥1,000

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