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雪山縦走・杓子尾根~清水尾根~欅平
金子 隆雄

山行日 2014年4月29日~5月4日
メンバー (L)金子、飯塚、渡辺(守)、和田

 今回の山行の当初計画は杓子尾根を登って清水尾根を下り、欅平から北仙人尾根を登って更に源次郎尾根から剱岳に立つというなかなかに壮大なものだったのだが、計画が甘すぎたようで計画倒れになってしまった。メンバーは正月に共に鹿島槍ヶ岳を目指した中の4人、募集後すぐに想定した人数に達してしまい参加を断らなければならない状態になってしまい申し訳なかった。
 今回も、はるばる福岡から参戦してくれたワダッチをナベちゃんが羽田まで迎えに行ってくれて、東所沢駅で全員が集合して現地へ向かう。その夜は安曇野の道の駅で仮眠。

【4月29日 曇り後雨】
 車は猿倉荘まで入ることができた。予定通り行動できれば扇沢に下山することになるので車の回収をどうするか、扇沢に車を置いてタクシーで猿倉へ向かおうとタクシー代を調べている時に偶然に回送サービスがあることを見つけた。タクシーを使うより割安なのでこのサービスを使って猿倉から扇沢へ回送してもらうことにした。しかし、結局は扇沢に下山できなかったので無駄な出費に終わってしまった。
 駐車場で準備を整え、いざ出発、長い山旅の始まりだ。雪の量は例年より少し多いかなという程度だ。人気のない猿倉荘脇からいきなりの急登で始まる。天気はどんよりした曇り空で気分は盛り上がらない。白馬尻あたりで大雪渓を下山してきた単独行の人とすれ違う。
杓子尾根下部の登り  傾斜の緩そうなところを見計らって杓子尾根に取り付く。杓子尾根の下部は尾根も広く危険箇所はないが急傾斜なので辛い。自分は同じ季節に登ったことがあるのだが、その時は日帰り装備だったので1日で登って降りることができた。今回もそんなもんだろうとたかをくくっていたが荷物の重さが頭から抜け落ちていた。
 前方に犬を連れた2人のスキーヤーが見えた。見えてから少し登ってあっという間に滑り降りて行ってしまった。これ以降3日間は人に会うことはなかった。
 今日中に登り切れないことが明白になったので幕場を探す。上部は尾根が細くなるのでその前になんとかしなければならない。標高2,400mあたりの狭い雪の斜面を整地してなんとかテントを張ることができた。この先はもう張れそうな場所はなさそうだ。テントを張り終えると間もなく雨が降り始めた。

【4月30日 雨後晴れ 強風】
 まだ雨が残る中の出発となった。この先はロープを必要とするほどではないが尾根が細くなるので慎重に進む。山頂直下は少しの間だけ岩稜となり、そこを越えて少しで山頂だ。朝の元気な時間帯でも4時間弱かかっているので昨日はやはり無理だったようだ。
杓子岳山頂にて  雨は止んだがまだ雲が多いなか、行程の遅れを取り戻すべく雪の少ない主稜線を辿り村営小屋方面へ向かう。主稜線上は融雪が進み水が流れている所も多い。丸山付近で長めの休憩とする。天気は急速に回復してきているが今日は朝から風がとても強い。ワダッチはビールを買いに行きたそうだったが思いとどまったようだ。
 主稜線を離れ清水尾根に入ると雪が多くなる。旭岳への広大な雪原を途中まで登り、旭岳を捲くように進んでいく。旭岳の先の広いコルを今日の幕場とした。時間的にはまだ余裕があり清水岳まで行けそうだったが風を避けられる場所にしたかった。コルの風下側の整地をしなくてもいいような平らな場所に幕営する。昨日は急な斜面にへばりつくように泊まったが今日の幕場は開放感があって気分がいい。

【5月1日 晴れ後雪 強風】
 朝は風はあるもののスッキリと晴れ渡っていた。清水岳までは快適な雪尾根で眩しさに耐えながら順調に進めた。しかし、だだっ広い清水岳に着いた頃には雲も多くなりガスも湧き始めていた。
朝は快適な雪尾根歩きだった  ここで第一の失敗。ガスって視界が悪いなか、時間をかけて不帰岳へと続く尾根を見定めて下り始めた。どんどん下っていったが視界が悪くルートが正しいのか確信が持てなくなってくる。再度ルートを確認するが結局はよくわからないという結論になり、確実な地点の清水岳まで戻ることにした。かなり下ったので清水岳と思われるピークまで1時間ほどかかった。カメラのGPSで現在地を確認してみると清水岳に間違いなかった。カメラのGPSはGPS自体はかなりの精度はあるのだが地図が超簡易的なものなのでメジャーな山のピークや地図に水線の記載がある沢くらいしか表示されない。もちろん等高線など表示されない。
 再々度ルートを検討してみたが、さっき下った尾根は猫又山へと続く尾根に違いないという結論に至った。時刻はまだ昼前なのだが、天候は更に悪化して雪も降り出し、視界は数十m程度という状態になっている。同じ失敗は避けたいので今日の行動は諦めることにする。行程は更に遅れることになるが予備日を使えばまだ何とかなるという希望はあった。
 時間がたっぷりあったのでワダ親方の指揮のもと大工事が始まり、テントの周囲に立派な塀が出来上がった。

【5月2日 晴れ】
 今日は朝からスッキリと晴れ渡り、今回の山行中一番の好天となった。今日中に欅平に降りられれば剱岳まで行ける可能性があるので気合十分で出発。広い山頂のど真ん中にテントを張ったので幕場からは下る尾根は見えない。尾根の降り口に立つと、これから下る尾根上の不帰岳や百貫山などが一望のもとに見渡せる。
 早朝にもかかわらず雪は弛くかなり潜るが勢いに任せてガンガン下る。百貫山の麓までルートは尾根上なのでルートファインディングは難しくはない。
不帰岳にて  不帰の避難小屋は雪に埋まっているのか見つけることはできなかった。百貫山の登りにかかる手前でルートを検討する。百貫山、名剣山と続く尾根を辿って祖母谷温泉へ降りるか、尾根を外れて夏道通しで行くか、我々は後者を選んだ。これが第二の失敗で最大の失敗でもあったと後に思い知ることになる。
 夏道は尾根を離れずっとトラバースを続けて名剣沢出合へと至っているが、もちろん道は雪の下で痕跡もない。地図とコンパス、地形を頼りに藪をこぎ、沢を渡ったりしながら大きく外れることなく進んでいるがルートファインディングが難しく時間がどんどん過ぎていく。「百貫の大下り」という場所がある。祖母谷に向かって急下降後に沢を横断する。楽に沢へ降りられる場所を見つけられなかったので沢へ続いているルンゼを降りることにした。自分が先頭を歩いていたのだが雪の斜面で滑ってしまう。グサグサの雪でピッケルでの制動はまるで効かない。10mほど滑り落ちて雪がなくなった所で転がって止まった。やれやれ怪我はなさそうだなとホッとして上を見るとナベちゃんが同じように滑り落ちてくるのが目に入った。そして同じ所で止まった。何も真似しなくてもいいのに。後続には別ルートで降りるように指示する。
 更にその下の2mほどの段差をクライムダウンしようとしたとき掴んだ岩が剥がれてまたしても転がり落ちてしまった。ヤバ過ぎるので以降は懸垂で降りることにした。四苦八苦してやっと雪渓上に降り立ったが、先に降りていると思った後続の2人がまだ降りていなかった。藪を伝って降りてきているようで藪がゴソゴソ動いているが姿は見えない。下から誘導して何とか全員が揃うのに1時間以上を費やしてしまった。
 広い沢の雪渓上を渡り対岸の急雪壁を登り切ると木に看板が打ち付けてあり、更に少し先には溶けた雪の中からフィックスロープが顔を出している。登山道だと確信し少し安堵する。しかし、先はまだ長い。欅平はおろか祖母谷温泉へさえ今日中に降りることは無理なようだ。
 幕場を探しながら進むが平らな場所は全くない。もうしょうがないので傾斜地の雪を削って幕場を作りテントを張る。これで剱岳へ行ける可能性はほぼなくなった。

【5月3日 晴れ一時雨】
 剱を諦めたのでもう急ぐ必要はない。ゆっくり支度して出発する。昨日と同じようにどこまでもトラバースしていく。標高も下がり雪が少なくなってくるとはっきりとした登山道が現れこれを辿る。出発してから3時間弱で白馬岳登山口の名剣沢出合に着いた。ここからは林道を行くだけだ。一足先に林道に降りて休んでいると後ろで熊がいると大騒ぎしている。写真を撮ったというので見てみたら写っていたのは猿だった。
 山菜を探しながら祖母谷温泉へ向かうが採れたのはコゴミだけだった。やがて立派な橋が見えてくる、祖母谷温泉に着いたようだ。自分は祖母谷温泉は初めてだ。トロッコ電車は今日から開通しているはずなのでこのまま帰れるのだが、急いで帰る必要もないのでここで泊って明日帰ることにする。
 対岸に4人の登山者がいるのが見えた。我々のように小汚くはないのでこれから登るのだろう。
 することもないので湿ったシュラフなど干してのんびり昼寝。女性たちは河原の温泉掘りに出かけたまま一向に帰ってこない。数時間も経ってから掘った温泉に入ってきたといって戻ってきた。湯加減を調整するのが難しいらしい。

【5月4日 晴れ】
 欅平まではわずかの距離なのだが季節が季節だけに色々とあるものだ。橋を渡ってすぐに長いトンネルがあるが出口付近で突然雪の壁が現れ出られないのかと焦る。右端の方に僅かな隙間があり何とかくぐり抜けられてホッとする。次は橋板が外されている橋を恐々渡る。黒部川に掛かる橋を渡り欅平に到着、今回の山行は終わった。

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〈コースタイム〉
【4月29日】 猿倉発(7:30) → 杓子尾根取付(8:55) → 2,400m幕場(14:00)
【4月30日】 幕場発(6:45) → 杓子岳(10:30) → 清水尾根分岐(12:55) → 幕場(14:20)
【5月1日】 幕場発(6:00) → 清水岳(8:45) → 引き返し地点(10:30) → 清水岳(11:20)幕営
【5月2日】 幕場発(6:30) → 不帰岳(9:30) → 幕場(15:45)
【5月3日】 幕場発(7:00) → 登山口(9:45) → 祖母谷温泉(10:30)
【5月4日】 祖母谷温泉(7:30) → 欅平(8:30)

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