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岩登り・明星山P6南壁フリースピリッツ
荻原 健一

山行日 2014年10月11日~12日
メンバー (L)荻原、軽部

明星山P6南壁全景  いつかの岳人に載っていた切り抜きが、今、私の手元にある。「日本最大の石灰岩の大岩壁である明星山南壁はアルパインロング&フリーの代名詞としてあまりにも有名だ。今では当たり前となったこの壁のフリー登攀は、しかし日本のアルパインクライミングが人工登攀主体で発展していた時代には驚くべき成果であった。その歴史的経緯などを思えば、このルートを登ることは単に技術的興味以外にアルピニズムの神髄に触れることでもある。」
 今回我々が挑戦するフリースピリッツはこの壁のど真ん中を初めてオールフリーで登ったラインであり、現在では、この壁の最人気ルートとなっている。2007年11月に左岩稜ルート、翌2008年11月に左フェースルートを登攀し、さあ次はいよいよフリースピリッツだと思ってから、はや6年。自身の実力不足に加え、このルートを一緒に目指すだけの登攀力があるパートナーが不在で、私にとってこのルートはいつしか目標というよりは憧れに近い存在になっていた。しかし、昨年から小芝さん、軽部さんという実に頼もしいパートナーが付き合ってくれるようになり、また私自身もインドアやフリーの岩場に通い、当時よりは多少なりともフリーの技術が向上したことで、今回ようやく例会として企画するまでに漕ぎつけた。

【10月10日夜】
 とにかく遠いので、いつもより早めの21時に新宿に集合する。谷川岳・馬蹄形縦走組の渡辺・津田ペアーも同じ集合だったようだ。(私は渋滞で少々遅れたので軽部氏より聞いた)
 中央道-安曇野IC-大町-白馬-小谷温泉と延々と北上し、更に北の糸魚川市を目指す。小滝駅から左折し小滝ヒスイ峡へ。いつもの駐車場に着いたのは2:30頃だったか?明日に備えてすぐに寝る。

【10月11日】
 翌朝は5:30起床。6時過ぎに出発する。5分も下れば小滝川だが、過去2回と比べて水量が異常に多い。とても飛び石伝いに渡れる状態ではなく、しばらくウロウロするがあきらめて太股まで濡らして裸足で徒渉する。軽部っちはパンツまでいってしまったようだ。後で気付いたのだが、我々が徒渉した少し先の大岩と大岩に間に長さ数メートルのFIXロープが張ってあり、これを使ってチロリアンブリッジでも渡れるようだ。(後続パーティーはそうしていた。)
 取付きには既に地元新潟のクライミングクラブのパーティー4名(2名×2パーティー)がいて1P目を登り始めていた。本日フリースピリッツに入ったのは4パーティー9名で、我々は3番手だ。ルーファイがないのは助かるが、ちょっと残念な気もした。
 以下はピッチごとの簡単な感想。

(1P目)
草つきのフェースを左上。簡単だがランナーはとれない。

(2P目)
出だしの垂壁が若干いやらしい。カムが有効。その後はバンドを左へ。

(3P目)
ここから傾斜が強くなる。残置がないとのことだったが、意外とハーケンがあったような気がする。クラックが発達しておりカムが有効。

(4P目)
Ⅳ級くらいで簡単だが、スラブを少し右下へトラバースするところがあまり気持ち良くない。だいぶ高度感が出てくる。

(5P目)
ウメボシ岩の下を左へトラバースして回り込む手前でハンキングビレー。ガバはないがよく見れば細かいホールドはたくさんある。

ウメボシ岩下部のトラバース

(6P目)
15mと短いがここが下部の核心。ウメボシ岩の上部を右下へ下りながらのトラバース。かぶっていて足元は見えない。高度感がすさまじくて恐怖を覚え、ここで唯一シュリンゲを掴んでしまった。もうひとつ同じようなところがあるが、こちらは手がガバなのでぶらさがるようにしたら足が着いた。

(7P目)
急な凹角を直上しカンテを右へ越える。ここもⅤ+のグレードがあり、なかなか気が抜けない。

(8~9P目)
8P目は簡単。9P目はかぶった凹角のハングを右へ抜けるところがポイント。中央バンドへ。

中央バンド手前で余裕を見せるパートナー

(10P目)
中央バンドを横切るが歩いているだけで落石が100%起こる。そもそもここに来るまでの間に先行パーティーによる中央バンドからの落石は頻繁だった。

(11~12P目)
11P目はスラブを右上。12P目はⅤ級程度の垂壁の直上だがランナーはほぼとれない。

(13P目)
フリスピ名物のパノラマトラバース。ホールドは結構あるので難しくはないが、圧倒的な高度感で下をみるとクラクラする。

(14P目)
上部の核心。大半の記録がA0で抜けているが、難しいのは1手だけ。落ち着いて探せばホールドはちゃんとあり、私のレベルでもフリーで十分行ける。

(15-16P目)
これまでと比べて傾斜が一気に落ちる。落石に気をつけて慎重に登る。

 終了点に着いたのは16時くらいで9時間弱かかってしまったが、先行パーティーの待ち時間が多く、それがなければ6~7時間くらいで十分抜けられたと思う。ただルートはやはり複雑でルーファイについては、このルートの経験者である先行パーティーに大いに助けられた。
 見覚えのある下降点の目印になっている松の木に着いたのが16:40。我々の後ろにもう1パーティーいて西面下降路が初めてと言っていたので気になるが、まだ姿が見えない。この先も迷い易い踏み跡が続くので暗くなる前にと思い先を急ぐ。我々はここから約1時間で駐車場に戻れたが、結局、後続パーティーはこの松の木付近でビバークしたようで、間一髪だった。

 翌日は、この壁の入門ルートである左岩稜に登ってから帰る予定であったが、フリースピリッツに登れた満足感と今宵の大宴会を考慮して明日の登攀は中止とする。キャンプ場の駐車場に移動し、最高の満足感と開放感と輝く星空の下で大宴会へと突入した。そして今夜も軽部ちゃんはテントに戻ってくることはなかった・・・

【10月12日】
 ゆっくり起床し、明星山南壁がよく見える展望台へ移動し、昨日の復習をする。よくもまぁあんな恐ろしいところを登ったもんだと思いながら、一方で次の目標としてのマニフェストのルートを確認してみる。あのハング帯をフリーで登るのか~ 等とタメ息交じりで話していたが、二人とも静かにちょっぴり熱い闘志を燃やすのであった。
 その後、糸魚川市~親不知港の道の駅で海の幸を堪能し、近くの堤防で海釣り見学と昼寝をする。魚影は濃いようでミニアジは入れ食い状態。30分もあればサビキ仕掛けで100匹以上は釣れる勢い。さらに、そのミニアジを追って回遊しているイナダがルアーで結構釣れている。来年は初日に明星山クライミングで2日目は終日海釣り&宴会でもいいかもね~などど言いながら東京への帰途に着いた。

 9月下旬から越沢バットレス、小川山、一ノ倉沢、そして今回の明星南壁と4週連続でクライミングに付き合ってくれたパートナーと"ビバークもまた良し"と思わせる真っ青な秋晴れ天気に感謝です。さー次はマニフェストだ!???

〈コースタイム〉
【10月11日】
取付き(7:20) → 終了点(16:10) → 松の木[下降点目印](16:40) → 駐車場(17:40)


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