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縦走・飯豊連峰(秘湯の旅)
鈴木 章子

山行日 2015年10月31日~11月3日
メンバー (L)鈴木(章)、W嬢、F氏

 3~4ヶ月前、『新ハイキング』を読んでいたら、飯豊に秘湯があることを知り、急に行きたくなったものの、日にちが合わず今シーズン最後の休日になってしまった。参加者を募るが、この時期の3泊4日は難しく、W、F両氏のみの参加となった。
 計画当初は、逆からのコースだったが、湯の平温泉に続く吊り橋が11月1日10時で撤去になることを知り急いで逆コースに変更。結果的にはメンバーも含め良い判断だった。

【10月31日】晴れ
 早朝東京を出発、新発田駅9:10着。新発田駅~加治川ダム迄のタクシードライバーが山のことを熟知していて何かと情報をくれたことは有り難かったが、彼曰く「飯豊より朝日の方が素晴らしい」と言うので、飯豊も初めてという二人に、来年は朝日とせがまれてしまった。
 ダムから湯の平小屋まで4時間あれば充分との情報もあり、紅葉の素晴らしい中、3人で追付き・追越しを繰り返し進んだ。周りを見渡せばブナ林。ゆっくり探せばキノコも採れただろうに、残念なことに今日の取り分はなかった。
 小屋の少し手前には屋根と三面を囲われた平凡な湯船の女湯があり、小屋から100m先には野湯の男湯がある。小屋の利用代1,000円を払いテーブルと毛布を勝手に借りた。小屋にはとても感じの良い管理人が居て、明日からの我々の行程の情報を下さった。小屋の裏側には竃が3台と流しには水が溢れていた。

湯の平温泉に続く吊り橋湯の平小屋

湯の平温泉  まずは風呂からということだが、二人は女湯には見向きもせず、まずF氏が入浴。大満足で「気持ちいいです」と、頬をピンクにして帰ってきた。
 それではと二人で出かけた。湯船は4つ、枝沢からお湯はどんどん流れてくる。最初に飛び込んだ所は熱く、次々と移動。一番小さな湯船で落ち着いた。
 飯豊川の豪快な音を聞きながら、目で紅葉を楽しみ、湯につかる。最高の時を過ごすことができた。(一人ビールが欲しいと叫ぶ者がいたようだったが?)
 小屋の中は4パーティー(計8名)、夕餉の一時は、静かで幸せな時間と沢の音とともに過ぎていった。

【11月1日】晴れ
 出発前にまず一風呂と、各々好きな風呂に向かった。
 『おういんの尾根』は、出始めから急登と梯子が続きなかなか手ごわいコース。二人は、私に気遣い共同装備を持ちゆっくり歩いてくれたので、辛いとは感じなかった。
 好天に恵まれ、紅葉の素晴らしさに酔いながら更に高度を上げていく。
 1,200m辺りから雪が現れた。登りながら今夜の小屋をどこにするか相談。水はないが杁差岳に近い門内小屋が良いと決定。雨量観測所付近の最後の水場で4L補給して、不足分は雪を解かすことにした。
 雨量観測所を過ぎると、尾根は広くなったが、雪の量も増した。W嬢を先頭にラッセルが続く。山頂まで長い登りだった。深い所では膝迄のラッセル。写真を何枚撮ったことか。この尾根は、飯豊連山を展望するには最高な気がした。

飯豊連山の展望雪道を進む

 9時間を掛けて北俣岳山頂に立った。エビの尻尾に覆われた鳥居が傾き始めた日差しの中で真綿のように輝いていた。青空をうっすらと覆う白い雲が真昼の力がなくなった日差しに素晴らしいコントラストを作っている。3人共、暫く呆然と立ちすくんでいた。
 小屋まで夏時間であと1時間20分。暗くなる前に着きたい。スピードを上げ下山。雪量は減ってはいくが夏道のようには歩けない。三分の二ほど下山したとき、門内小屋から2人こちらに向かってくるのが見えた。まさか彼らがこの時間で梅花皮小屋へ行くとは想像もしなかった。
 外国人のカップル。荷物は小さく不安を感じさせた。彼らの話では、
 「明日は雨だから、今日中に梅花皮小屋に行き、明日飯豊温泉に下山する」とのこと。日本の山の恐ろしさをもっと知って貰いたいと思った。

快晴の飯豊連山エビの尻尾に覆われた鳥居

 日没前には小屋に辿り着いた。もうバテバテ。小屋の中は毛布もなく殺風景だった。彼らは毛布が必要だったのか。外は風が強くなりだした。
 水を2Lほど作りながら夕食を済ませ、20時に横になった。明日は天気を見ながらの出発。ゆっくり休むことにした。

雪と雲海とF氏

【11月2日】曇りのち雨
 5時起床、外は生暖かい南風。7時出発。天気はもう少し持ってくれそう。昨日の2人のトレースを頼りに進む。高度も下がり雪の量も半分になっていた。地神山手前で、単独の男性とすれ違う。昨夜は頼母木小屋泊とか。トレースがあったので門内岳まで行くと言っていた。我々の予定は杁差小屋までと言ったら「13時には着くよ」と教えてくれた。
 頼母木小屋に着くと同時に雨が降り出した。湯の平温泉の管理人がこの小屋は良いよと話していた。私もこの小屋が好きだ。過去2泊したことがある。
 杁差小屋の水場が不安だったので、この小屋の残り水を集めて30分後に出発。大石山、鉾ヶ峰を越え杁差小屋に12:15着。大降りになることもなく着くことができ、小屋全部を3人占めして使わせてもらった。この小屋には毛布もあった。早く着いたので昼寝もプラスしてゆったりと過ごした。
 私は飯豊連峰でこの山が一番好きだ。そしてこの小屋が一番落ち着く。
 風雨は一晩中続き、雪の量は更に半分になった。

杁差へ向かう杁差岳山頂

【11月3日】曇り時々雨、時に晴れ
 タクシーの予約が13時。充分時間はあったが、下山は急ぎ気味になった。山頂は霧で展望はなく、道型だけは確認できた。幸い雨はほとんど降っていなかった。だが、残念なことに長者ヶ原の美しさは霧でよく見えなかった。
 前杁差岳を過ぎ、更に1,300mまで高度を下げると霧が晴れ、やせ尾根の全稜が見渡せた。眼下は全て錦秋一色。一斉に3人の口から「キレイ-!」が連発。私には、飯豊はこれが最後になると思うが、これほどまでに美しい飯豊を見たのは初めて。若い二人に連れて来られたことに感謝。

錦秋一色の飯豊

 カモス峰から登山道の斜度は増々きつくなり木の根を握りながらの下山が続く。沢と合流はしても林道はまだまだ見えない。焦る心で進んだ。林道出合10:30、あと2時間で今回の山行は終了。その後は、ゆっくりキノコを探しながらゲートまで歩いた。
 天候にもまあ恵まれ、満足度は120%。次への山行計画が頭の中を駆け巡っていた。
 風呂は駅から歩いて15分ほどの道の駅で入浴。食事もここで取ればよかったと言う後悔はあったが、充実した4日間だった。

〈コースタイム〉
【10月30日】 新発田駅=加治川ダム(10:00) → (林道) → 登山口(12:23~12:40) → 湯の平温泉小屋(14:15)
【11月1日】 湯の平温泉小屋(6:30) → (おういんの尾根) → 滝見場(9:45) → 雨量計(11:30,11:50) → 北俣岳山頂(15:10~15:30) → 門内岳(17:00) → 門内岳小屋(17:10)
【11月2日】 門内岳小屋(7:05) → 扇ノ地紙(7:40) → 地神山(8:15) → 頼母木山(9:10) → 頼母木小屋(9:30~10:00) → 大石山(10:40) → 鉾立ノ峰(11:30) → 杁差小屋(12:15)
【11月3日】 杁差小屋(6:10) → 杁差岳山頂(6:15) → 長者ヶ原(6:30) → 前杁差岳(7:05) → カモス頭(8:45) → 林道(10:30) → ゲート(東俣彫刻公園)(11:45,12:45)=越後下関駅

〈費用〉
タクシー
 新発田駅~加治川ダム¥8,440 (下越タクシー 0254-22-4714)
 東俣彫刻公園~道の駅¥3,750 (関タクシー  0254-64-2111)
道の駅 入浴料 ¥600
湯平温泉小屋代 ¥1,000


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