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雪山登山・鶏頂山
八須 友麿

山行日 2016年1月30日~31日
メンバー (L)峯川、渡辺(靖)、高木、三澤、宮本、藤岡、(八須)

【1月30日(土) 雪のち晴れ】
 東京をどんよりとした不気味な雲が空を覆い尽くす早朝7時。まるで空から巨大な霧吹きで吹かれているかのように町全体に霧雨が降り注ぐ中、我々は車2台にいそいそと逃げ込み、出発した。目指すは太古の昔、火山活動によりこの世に生まれた山・・・その名も鶏頂山!(栃木県日光市)
 峠に差し掛かると道路にはうっすらと氷が張りついている。うわっなんだあれ・・・あぁ・・・肉の串焼きのようになっちまっているじゃないか・・・ガードレールが車のフロントにぶっ刺さっている。楽しいはずのせっかくの休日が一変して、地獄の1日になっているに違いない。外で警察と一緒に現場検証している若者数人の佇まいはそれを物語っていた。事故現場を横目に通り過ぎる。
 そんな峠道を慎重に・・・ゆっくりと慎重に突き進んでたどり着いた登山口。どうやら先客がいるようだ、車2台が主人の帰りを待っている。
 10時過ぎ、空は晴れ渡っており、ほどよい冷気の中を昼前の陽射が降り注ぐ。こうして我々はワカンを装着し、鉛のように思いザックを担ぎ、山へ足を踏み入れた。
 まだ新しい・・・数十分前にここを誰かが通ったのだろう。鳥居からトレースがひたすらと続いている。ザクザクザクザクッ・・・その上を一列となって辿っていく。今日テントを張る沼地へ向け・・・。
 15分ほど歩いただろうか、古びた建造物がその姿を現した。1つ、2つ、3つ・・・大きい建物から小さな小屋まで。取り壊されたのだろうか?割れたのだろうか?外と中を隔てる窓がなくなっており中は散乱している。壁の板は黒ずみ所々ささくれのように剥がれ落ちている。
廃墟となっている鶏頂山スキー場跡  近くに立て掛けてある無数の板のような物が・・・あれはスキー板だ!その無残にも積み重なった様は、まるで屍が積まれているようにも見える。ここは廃墟か、スキー場の・・・何十年、いや何年も前に廃業になり人々がこの地を去って行ったのだ。残された建造物は取り壊されることなく・・・しかし動くこともできず・・・ただひたすら時が過ぎ、体が朽ち果てるのをずっと、ただずっと待っている。その寂しそうな佇まいを・・・。その姿をリーダーであるM川氏は「廃墟マニアなんだよね~」とパシャパシャとカメラに収めてゆく。人はこの廃墟の様に当時の時間を、姿をそのままに保っているものに惹かれるのであろうか?
 恐らく昔はリフトが通っていたのだろう、この斜面を。綺麗一直線に木々がなくなっている。そこを通るトレースを辿り登ってゆく。ハッ!!化け物か??左の木々の隙間で何かが動いた!それは・・・人間であった。スノーボードで1人滑走していたのだ。「バックカントリーでもしているのかな?」そう思ったがその矢先、スキー場でお馴染の場内放送が響き渡ってきた。現実に戻された。「なんだ・・・すぐそこはスキー場か。」
 どこまでも続くトレース。どんな人が、何歳くらいなのか、好きな食べ物は・・・一体誰がどこに向かって付けたのだろうか?謎に包まれたその痕跡は僕らに疑問というものを常に提供してくれる。そんな謎めいた思いを脳裏にちらつかせながらひたすらと辿る。我々は開けた場所で休憩を挟んだ。各々用を足したり、軽食をとったり、そして雑談で湧いた。火照った体が再び冷えきった頃、休憩を終え出発した。程なくして前方に人影を捉えた。ズンズンズンズンこちらに向かってくる。あぁ、あの人達か。どうやら犬の散歩をしていたそうだ。こうしてトレースの主の正体が分かった。トレースをつけて頂きありがとうございます!お礼を言い残し、歩を進める。
 出発してから2時間ほど経過し14時を回っている。大沼分岐でトレースから逸れて林の中のノートレースの新雪をラッセルで進むと現れた広場。そう、ここが今日の野営地である。沼は雪という服を着ておりその姿を見せてはくれなかった。その沼の先に佇む山・・・あれが我々が目指す鶏頂山である。
快適な大沼にて幕営  バサバサとテントを広げのそのそと入り込んだ。まるで穴蔵に冬眠する熊。7人で埋め尽くされたテントは人の体温で温かい。そして時間は昼を過ぎたばかりだというのに・・・始まった。宴である。ドラえもんのポケットのようにザックから次か次へと現れる食料。パン、ブロッコリー、メンマ、酒、柿の種、ジャガイモ、チーズ・・・そう始まった宴は"チーズフォンデュ"!
 ねっとりととろけるチーズにベーコンやトマト、ジャガイモにパン。どれを付けても美味い!本当になんにでも合うものだチーズとは・・・。中心の火を囲み、何時間とその宴は続いた・・・腹が膨れ、もう何も受け付けなくなるまで。
 気が付けば時計の針は5時を回っている。そして6時半もう終わったと思った宴は再び命を吹き返した。第二の宴・・・その名は"すき焼き"である。牛肉を炒め、野菜をぶち込み、煮る。何分もしないうちにその鍋から漂う匂いにもう何も入らないと悲鳴を上げていた我々の胃袋は、そんなことを忘れよだれを垂らし始めた。別腹・・・これがすき焼きの破壊力である。皆、むさぼるようにかき込んでゆくので、鍋はピラニアに食いつかれた魚のようにあっという間に空になってしまった。こうして食べる喜びを噛み締め、夜21時半ついにその時は来た。ローソクの火を消し、寝袋に身を包みまぶたを閉じた。明日は鶏頂山登頂である。

テント内のチーズフォンデュ祭り

【1月31日(日) 晴れ】
 早朝5時。めちゃめちゃ寒い・・・我々のまぶたは開いた。起床である。寒さに耐えながら、準備をする。そう朝飯の準備だ!再び火を囲みそれを見つめる。目線の先にあるものは鍋。そう"ほうとううどん"である。かぼちゃに、ネギ、人参にほうとう。それらは冷え切った体をぽかぽかと温めてくれた。はぁ~あったけぇ・・・鼻水を垂らしかき込んでゆく。昨日のすき焼きのように。
鶏頂山へモフモフの新雪を登る  7時半テントに荷物を置き、軽装備で鶏頂山登頂へ向かった。空は相変わらずよく晴れている。1月とは思えないほど温かい。トレースは相変わらず続いており、無言で我々を山頂へと導いている。2時間ほどで我々はその頂を踏んだ。鶏頂山登頂!!記念撮影を終え、早々と来た道をたどる。帰りはつるつると足を滑らし、転ぶ人も多数。
 テントへと再び舞い戻り、ビーコン訓練を実施。雪崩にあった人を想定し、雪の中へビーコンを埋めそれを探すのだ。
ゾンデ棒で人体突き刺し体験  15分が限度・・・これらの機械を一生使わないことを願うばかりである。ゾンデ棒の使い方とゾンデ棒を使っての捜索も体験。
 山を下り、奥塩原温泉・湯荘白樺の温泉へと身を浸す。はぁ~あたたけぇ・・・熱い、芯まで温まるその熱い温泉はまさに極楽!!ずっと浸っていたい。そう思わずにいられない・・・もつかの間、直ぐに茹蛸の様に身体は茹であがり、1人また1人と湯を後にしていく。出た後もその火照りは続いた。温泉の力を身を以って体感した我々であった。
 次にくぐった扉はスープ焼きそば屋【こばや食堂】であった。スープ焼きそばとは・・・その言葉通りスープに浸った焼きそば、そのまんまである。容易に想像できるであろう。昨日の宴でたらふく食ったはずだ。にも拘わらず、再び鼻水を垂らしズルズルとすすってゆく。そのうまさは普通の焼きそばの比ではない!!そう思ったのは僕だけだろうか?いや、他にもいた・・・隣で同じようにそのうまさに感激している・・・藤岡氏である。彼と2人して小さな幸せを大きく堪能した。
 その後も胃を休めること無く、西那須野塩原IC近くのチーズガーデンというお店でアップルパイとコーヒーを「これはうめぇうめぇ」と食べる。これで食べ納めとなり、我々の短い山行は終わりを迎えた。鶏頂山よ、美味しかったです!!どうもごちそうさまでした!!!

【エピローグ】峯川
 お試し山行で参加していただいた"ハッチー"こと八須くん。めでたく山行の最後に三峰への入会のお言葉を頂きました!そして、山や冒険の記録を執筆することが大好きなハッチーにいきなり岩つばめの原稿をお願いすることになりました。夢も希望も果てしなく大きい23歳ハッチーの世界観が伝わる原稿はいかがでしたでしょうか。

鶏頂山の山頂のお社にて
〈コースタイム〉
【1月30日】 鶏頂山登山口大鳥居(11:25) → 鶏頂山スキー場跡地(11:40) → 大沼分岐(13:15) → 大沼(13:30)【幕営】
【1月31日】 大沼(7:35) → 弁天沼(8:00) → 釈迦ヶ岳分岐(8:40) → 鶏頂山(9:10-30) → 弁天沼(10:00) → 大沼【ビーコン訓練】(10:35~12:00) → 鶏頂山登山口大鳥居(12:45)

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