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縦走・小金沢嶺~大菩薩嶺
千葉 朋子

山行日 2016年1月16日~17日
メンバー (L)和田、(SL)深谷、三澤、有馬、千葉

 三峰山岳会に入会して3回目に参加した例会は、リーダーを和田さんが務める小金沢連嶺1泊2日の南北縦走で、連峰最南端の滝子山を南陵からハイクアップし、最北端に位置する大菩薩嶺まで尾根を北上、山塊の西の裂石に降りるルートだ。甲府盆地から望むと、連峰のほぼ水平に長く横たわる山容がスカイラインをかたどり、ひときわ目を引く。何度も小さなピークを越え、アップダウンを強いられる登りごたえのある行程でありながら、5つの秀麗富獄12景を踏む、富士山絶景のフォトジェニックな道でもある。今回は中間の湯ノ沢峠手前でテントを張り一泊する。
 パーティーのメンバーは男女混合の5名。和田さんと有馬さんは昨年12月の茂倉岳での雪上訓練山行から2回目、深谷さんと三澤さんとは今回初めて一緒に歩く。朝、9:00に中央線笹子駅に集合。湯ノ沢峠まで水場がないので、その日の晩と翌朝の食事用に一人1.5Lの水を積んだ。歩いているとすぐに喉が渇く私は不安で、さらに1.5L追加し3k増だ。これまで個人的に歩いてきたなかで私が愛用していたハイドレーション(補水のためのチューブ)は、三峰の人たちの間では不人気で用いる者がなく、その代わり一時間に一回程度のペースで小休止を取る際に喉を潤し、行動食でエネルギー補給する。ほとんど休憩を取らず「ながら」でゆっくり歩き続ける今までの私のスタイルとは違い、「小さな気づきリスト」に加える。
 吉久保登山口までは地元のバス(富士急山梨バス)で5分。取付から稜線までは高低差1,000m、3時間の急登だ。この寂ショウ尾根は、登山地図に破線で示されバリエーションルートとして扱われているものの実際歩いてみると踏み跡がしっかりあって迷う心配はない。それに、落葉樹の木立には陽が差し込んで明るくとても気持ちの良い小さな尾根で、私は大好きになった。山容は高度を稼ぐに連れみるみる変化する。最初は草原を踏みしめて登るが、次第に砂岩が脆く滑りやすくなり、尾根の中腹からは大きな岩が現れ、手足を使ってよじ登るようになる。
 12時半頃、稜線に出て、最初のピーク滝子山に登頂した。頂上からはこれから歩く峰々を手に取るように見渡せた。
明るい滝子山山頂で。和田リーダーがパチリ!  振り返ると白い富士山が見えて絶景だ。山頂は風もなく温かい。1月ともなれば稜線ではラッセルもあり得るはずが、上がってみた尾根は暖冬の影響で雪の片りんも見えず秋山の様子である。昨シーズンから本格的な雪山にデビューした私にとって、今回の山行は雪山を歩く練習の場とも捉えていたため、足元は冬靴、冬用アウターズボン、ザックには12本歯のアイゼンにピッケル、オーバー手袋やその替え、ゴーグルなど、いわゆる雪山装備を携えていたが、それらは全く場違いで出番は皆無、下山までボッカすることとなった。
 ハイクアップがやっと終わり、ここからは今夜の幕営地に向かって主稜伝いに縦走する。連峰の広い背中には誰も踏んでいないフカフカの落ち葉が敷き詰められ、それをざくざく鳴らしながら大きな山塊の懐に入り込んでいく。
 ところで、少し大袈裟かも知れないが、山行は私にとって日本列島の背中を辿る小さな旅だ。そういう意味で山行はいつも前回の旅の続きだし、だから山に来ると、どこの山域でも「またここに戻ってきてしまった」と懐かしい感じがする。一人で歩いても、みんなと歩いても山歩きはいつも旅である。
 三峰に入って初めて大勢の仲間で歩くようになり、そんな私の山旅も多彩で賑やかになった。リーダーの和田さんは歩き抜いた強靭な脚の持ち主で、平坦でも登りでも速さが変わらず淡々と先導する。深谷さんはというと、平坦でも登りでもおしゃべりが自由自在で、周りはいつも賑やかだ。有馬さんはマイペースな足取りに言葉少なめで、大きなザックは何故か絶妙なバランスで傾きを維持している。これまたマイペースなうえにゆっくりなのが私で、最後尾をベテランの三澤さんがフォローしてくれた。ちなみに、三澤さんのザックは一泊するとは思えない軽さで見た目にもコンパクトにまとめられている。
 数度の休憩をはさみ、伸びたり縮んだりしながら滝子山、大谷ヶ丸を抜け、ハマイバ丸を通過したあたりで16時頃になった。目標の湯ノ沢峠まで達していなかったが、日没も近いため、大蔵高丸の手前のやや開けた平らな草地でビバークすることになった。ビバーク地からは真っ赤な夕陽が落ちるのがきれいに見えた。
開けた場所にテントを2張してビバークした  夕飯は、深谷さんがきりたんぽ鍋をこしらえてくれた。トリの出汁の旨みが染み込み日本酒に合う絶品で、みんな食べるほどに飲み、いい感じに酔っ払った。とくに女子達のおしゃべりが止まらず就寝は20時になった。
 先輩の武勇伝は尽きなくて、いつもどれも興味深く聞き入るのだが、その合間にみんなが大事にしている山への姿勢や気持ちが覗くことがあって、私はそれを聞くのが好きで耳を澄ましている。この夜もそんな熱い話を織り交ぜながら、とても賑やかなテント泊となった。
 翌朝は4時に起床。初めての朝食当番では、1月だったので味噌ベースのお雑煮を作ってみた。
 出発は6時。晴天で、最初のピーク大蔵高丸からは朝陽に赤く染まる富士山が見えた。ここから黒岳、牛奥ノ鴈ヶ腹摺山、小金沢山、大菩薩までは、およそ2,000mの山々が連なり山行の核心部となる。秀麗富獄12景の名前の通り、ここら辺りからの富士山の眺望は最高で、朝の山行を華やかに彩ってくれた。

大蔵高丸から望む夜明けの富士山

 天狗棚山まで来たあたりで時間的に余裕がなかったので、大菩薩峠までは直進せずに上日川峠経由で裂石まで下ることにし、約2,000m地点から約900m地点へと一気に下山ルートを辿り、14時頃に裂石に到着。バスにて甲府駅へ帰着し、山行は無事終了した。


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