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岩登り・錫杖岳前衛壁「注文の多い料理店」
荻原 健一

山行日 2015年10月3日~4日
メンバー (L)荻原、軽部

錫杖岳・前衛壁  昨年10月に登った明星山・P6南壁・フリースピリッツ。このルートを登りたくてインドアクライミングを始めた。同様に私がクラックを始めた理由は、まさにこの錫杖岳・注文ルートを登りたかったからである。
 2年前に初めての1ルンゼと3回目の左方カンテをイメージ以上に快適に登攀した後、注文ルートを懸垂下降した。その際に下から登ってきた学生クライマーに注文の感想を聞いた。「一言でいうとワイルドなルート、このルートを登るためにこんなバカでかいカム買ったんですよ!」
 クラックをやらない者にとって彼らが持っていたカムはギャグとしか思えないような大きさと重量だった。でも羨ましかった、俺もデカカムを沢山ぶら下げて「ワイルドですね~」って言ってみて~!!と、年甲斐もなく強く思った。それから2年...

取付きよりルートを眺める 【10月3日】 快晴
 前夜の内に槍見温泉駐車場へ。夜中の2時頃に着いたが、我々が最後の一台だった。明日(今日)は激込みか?
 翌朝は6時起床でゆっくり出発。途中の登山道がクリヤ谷を横切るところはいつもより徒渉に苦労する。水量は多めのようだ。錫杖沢出合に幕を張るが、既に5張あってかなり繁盛している感じ。準備をして注文ルートの取付きへ。取付きからルートを見上げると先頭のパーティーは核心の3ピッチ目にリードが取りかかっている。2番目のパーティーは取付きで準備中。我々は本日3番目のようだ。

(1ピッチ目)
Ⅳ級程度で簡単。ランナーもカムでそこそことれる。

(2ピッチ目)
Ⅴ級プラスの割に結構むずいとの記録が散見されたが、そんなに難しくは感じない。しかし2番目パーティーはリード、セカンドともに苦労して、2ピッチ目終了点より懸垂で取付きに戻ってしまった。

3ピッチ目のハング帯 (3ピッチ目)
Ⅵ級(5.9)にして核心。ハングを乗っ越す一手は10a以上との記録もありビビリながらスタート。頭上のルーフはかなりのプレッシャーだが、真上に3番、ハングの穂先に4番がかっちり決まり、フィストジャムも決まるので見た目ほどではない。足は細かいのでフィストが決まらない(拳が小さい)女性などはかなり苦労しそうだ。乗っ越してからも一手が悪くなかなか楽にはなれない。ニーロック等も使い体勢を立て直して5番を決めたらようやく一息。少し余裕が出たところで、過呼吸気味の自分の呼吸に気付いてびっくり。
 そこからも結構長い。通常はレイバックらしいが、フィストも所々決まるので正対クラックを交えて登る。途中で4番を決めてもう玉切れかと思ったところで、最後に2番が決まりそうなところが出てきて、これがバッチリ決まったらレイバックで体をずり上げて3ピッチ目終了点へ。

(4ピッチ目)
Ⅴ級プラス、ワイドクラック沿いに上がるが、フェイスの技術で登れる。終了点手前のトラバースが厭らしい。足を大きく広げてクリア。

4ピッチ目 (5ピッチ目)
Ⅴ級プラス、ワイドクラックとフィンガークラックのダブルクラックだが、こちらもジャミング技術はそれほど必要ない。途中、左の草つき帯に入り、凹角状の岩に戻って少し上がると左方カンテと合流、更に5mで終了点へ。

(6ピッチ目)
5ピッチで注文は終了だが、左方カンテを登ったことのない軽部っちがいるので前衛壁の頂上からの景色を見るために更にもう1ピッチロープを伸ばす。このピッチは剥がれそうなフレークを使って登るため過去に事故(フレークが剥がれて滑落)も起きており、左方カンテを登る場合も通常は割愛することが多い。しかし前衛壁頂上に出ると槍ヶ岳から穂高連峰、焼岳、乗鞍まで一望出来る絶好の見晴らしポイントがあるのだ。私は何回目かの景色であったが、注文を登れた充実感とともに見る景色はまた格別だった。
 頂上から1ピッチの懸垂で注文ルート終了点へ。更に3ピッチの懸垂で取付きに戻る。
 会心且つ充実の1本であった。

【10月4日】晴れ
 来年の目標ルートは「見張り塔からずっと」である。このルートは北沢の途中から取付き、錫杖岳山頂へ直接抜ける極めて魅力的なルートだ。しかしながら山頂からの下降ルートで迷い、下山が夜中になったりビバークしたりという記録が散見されるため今日は下見を兼ねて錫杖沢~牧南沢~錫杖岳山頂のルートを往復。踏み跡はところどころ不明瞭になるが、概して思ったよりもしっかりしている。下山時は南尾根から牧南沢への下降点がポイントか?

錫杖岳山頂にて

 今日も秋晴れの素晴らしい天気の中、来年の目標を胸に意気揚々と下山した。

〈コースタイム〉
【10月3日】 注文の多い料理店
登り・・・約3時間
【10月4日】 錫杖岳山頂(錫杖沢出合より)
登り・・・約2時間半
下り・・・約2時間

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