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雪上訓練・茂倉岳
千葉 朋子
山行日 2015年12月12日~13日
メンバー (L)内田、(SL)小芝、永岡、山蔦、小幡、大田、峯川、古屋、津田、和田、宮本、渡辺(靖)、飯塚、有馬、小松、澤野、千葉、網谷

 2015年12月中旬、委員会主催の雪上訓練が実施された。参加者は総勢18名。車は5台で、金曜の夜22時頃各車ごと出発し、登山口近くでそろって仮眠を取る。翌朝土樽から茂倉新道のおよそ1,200mの高低差を4時間程度かけてハイクアップし、避難小屋手前でビバーク。テントはジャンボテントを3張する予定だ。気温は高く、初日は曇り、2日目は下り坂、午後からは雨の予報だ。
 「谷川連峰は群馬・新潟の県境にあり、本州脊髄山脈の一部である。」「標高2,000m前後の山々だが、日本有数の豪雪地帯であり、氷河期には氷河も存在した。豊富な降雪によって谷は深くえぐられ、巨大な断崖絶壁を有する。」(2015年版『山と高原地図(谷川岳・苗場山・武尊山)』より)とのことだが、今シーズンは甲信越のスキー場が雪不足で揃ってオープンを延期するほどの暖冬だ。翌朝、朝陽のなかの谷川連峰は遠目に黒く、近づくほどに雪がないことが確かになる。
登山口の駐車場にて出発の準備をする  雪不足は、すなわち山で水を作れないことを意味する。急遽、水を買い出し、一人500mlの飲料水を2本積んだ。大勢についていけるかとても心配だった私は、雪がないことがわかり、少しでも体力を温存したくて、せっかく借りたワカンを車に置いていくことにした。正月に鹿島槍ヶ岳アタックを控えたメンバーは歩荷訓練のために持って行くという。試しにみんなのザックを持ち上げさせてもらうと本当に重い。特にロープやテントを積んだ男性陣のザックは塊という感じで、その場で背負うだけで精一杯だった。
 茂倉岳の西稜である茂倉新道は始めから急登だ。雪が全くない道は、粘土質の白い土で滑りやすい。ブナの根っこが急な階段になり、ところどころロープが張ってあって捕まえて登らないと上がれない。リーダーの内田さんが先頭を勧めてくれて、途中からトップを歩いた。パーティーを遅らせる訳には行かないと頑張った私は足取りも軽くサクサク登っていったが、無意識のうちに緊張していたのか足を滑らせ、きれいにびたーんと大の字に転び、割と新しかった白いズボンを派手に汚してしまった。雪上訓練で泥まみれになるとは想定外の展開だ。ちなみに帰宅後、この泥はなかなか取れず「せっくん(雪上訓練)」の記憶とともに残っている。
 矢場ノ頭に出るまでに3回くらい小休止を取った。細い尾根は眺望が良く、右手には万太郎山やそこから谷川岳に伸びる稜線が見渡せた。休憩を取る我々の頭上には、解け出した氷が枝の先で無数の水の玉となり太陽にきらきらして思わず見惚れてしまった。

眺望が開けたところで小休止を取った矢場ノ頭にて小休止

 高度を稼ぐうちに足元は冬に近づき、落ち葉が凍ってお菓子のミルフィーユの上を歩くようにパリパリした。矢場ノ頭に出る頃には樹林帯を抜け、辺りは雪に覆われてそれなりに雪山の風情になった。矢場ノ頭からは360°の絶景が広がった。翌日仕事だという小松さんはここからピストンで下山した。
茂倉避難小屋までが長く感じた  例年では頭を過ぎたあたりにテントを張ってビバークするそうだが、今年は雪が少なくて尾根にはそんなスペースはない。1時間ほどある避難小屋まで山行を続けることになった。目を凝らすと目前の茂倉岳の肩に小屋らしき黒い物体が見える。ここまで自分なりに頑張って来た私は稜線歩きを前にげっそりしはじめ、小屋に辿り着く前にすっかりバテてしまい、とぼとぼと歩調を緩めながら歩いた。
 小屋には14時前に全員到着した。今回の目的は雪上訓練だ。滑落停止、スタンディングアックスビレイの練習、ビーコン操作、埋没体験、弱層テストなどのメニューが予定されていた。ところがそれほどの雪がないので、内田さんの雪崩講習の後、小屋の周りでビーコンを埋めて探したり、プローブを組み立てて雪面に突き刺したりして練習した。ビーコンに触ったことがなかった私には、それでも貴重な経験になった。訓練の後は水作りだ。ショベルを組み立て、雪袋と呼ばれるビニール袋に雪を詰める。雪をお鍋で温めて水にする。茶漉しで濾過してやっとお水が出来上がる。お鍋の中の雪はなんとも不思議な食べ物に見えた。
内田リーダーの雪崩講習  避難小屋は18名でほぼ満員で三峰のみんなの体温で暖かかった。ちゃぶ台を3つ長く並べてその上に鍋をセットするとさながら居酒屋だ。食事はテントごとで用意していたので、それぞれテントのメンバーで固まって座り賑やかに夕食が始まった。私は峯川さんのごま豆乳鍋班。峯川さんが食材を沢山用意してくれて、他の班にも肉団子やほうれん草を回したりした。その他、美味しいものも美味しくなさそうなものも色んなものを廻したり廻って来たりしてお酒もまわり、小幡さんが雪山賛歌を歌ったりして、雪山にいるのも忘れて夜が更けた。トイレに行くのにそっと小屋の外に出ると山は静かで、見上げた夜空には冬の天の川が広がっていた。誰か男性もひとりで空を眺めていて星がきれいですねとか、どんな山をやってきたかとか何か話したのだが、暗くて誰かわからなかった。
賑やかな夕食  翌朝は4時半に起床した。朝食は渡辺さんのリゾットで、柔らかいごはんに胃と体が温まった。6時半に小屋を出発した。気温は0°くらいか。今日はアイゼンを装着しピッケルを携えて歩く。30分で茂倉岳の頂上に到達。曇天で風があったが360°の展望だ。一ノ倉沢や谷川岳のトマノ耳、オキノ耳が見えた。ここから蓬峠方面へ北上するルートを取り、ゆるやかな下りの稜線コースを行く。クマザサが見えていたので積雪40cm程度だったが、昨シーズンぶりにアイゼンを履いて歩くのは楽しかった。
 2時間程で本日二つ目のピーク、武能岳を踏む。さらにそこから1時間程で広いササ原に建つ蓬ヒュッテに到着。冬季は無人だが開放されていて、ついでに内部を見学した。ヒュッテは最近改築されてきれいになっていて実に居心地が良さそうだった。
 ヒュッテの左手から蓬新道を下り、山道をアップダウンした後、つづら折れの急降下になる。トラバース気味に蓬沢沿いを注意深く降りて行く。東俣谷で沢を渡渉した。途中から夏道に戻り、アイゼンを外す。谷底が見えてくると、長い下りも終わりに近づく。天気は最後まで持ち、13時半頃登山口の駐車場に辿り着いた。

稜線は一面のササ原冬季は避難小屋として開放されている蓬ヒュッテ

 近くの温泉に寄って3日分の汗を流した後、お蕎麦屋さんに電話すると仕舞いかけだったというのに我々を待っていてくれるという。急いで駆けつけ、地元の山菜のてんぷらや、カジキというなんとも不気味な形相の川魚とお蕎麦などを勧められるがままに注文し、料理が出来上がると飢えた猛獣のような先輩達に急かされるように、店の女将さんより先に宮本さんらが厨房から皿を運び込み、競い合うように頬張って、最後まで賑やかな山行となった。

蓬沢の支流を何度も渡る
〈コースタイム〉
【12月12日】 土樽(8:00) → 矢場ノ頭(11:30) → 茂倉避難小屋(13:30)
【12月13日】 茂倉避難小屋(6:30) → 茂倉岳(7:00) → 武能岳(9:00) → 蓬ヒュッテ(10:00) → 東俣沢出合 → 土樽(13:30)

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