トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ350号目次

雪山登山・燕岳
藤岡 弘之

山行日 2016年1月9日~11日
メンバー (L)小芝、内藤、藤岡、他1名

 今年最初の山行であるが、いきなりの北アルプスである。例年に比べて雪は少ないとの事前情報であったが、今シーズン初めての雪山であること、そして、ロングコースということで、少しの緊張を感じつつ、一方で楽しい山行への期待が入り混じっての参加になった。

【1月8日】22時 新宿駅出発
 新宿スバルビルの前は、スキーやスノーボードへ行く車が多く駐車している。実にこの時期らしい風景の中を小芝さんの車に乗り込み、マキさん(小芝さんの奥さん)と簡単に挨拶をして、新宿を後にした。長野へ向かう高速道路は、混雑するほどではないが、思ったよりも車の台数は多く、三連休前夜を感じさせる。順調に進み、諏訪湖SAで休息するが、思ったほどの寒さはなく、むしろ暖かいようにも感じられ、少しホッとした。
 安曇野松川にある道の駅「寄って停まつかわ」で仮眠しようということになり、建物の裏手で幕営しようとするが・・・ 近くに、ローマで有名な"真実の口"を模倣した占い機があって、時々、不気味に笑い声が上がり、さらに、少し離れたところには、アンパンマンの曲が流れるジュース販売機があり、2台の合唱になると、まるで夜の遊園地のようだ。早々に撤退して、駐車場で幕営することにするが、エンジンを掛けたままの車の横で、なかなか寝付くことができなかった。

【1月9日】宮城ゲート~合戦小屋
 テントをたたみ、冬季の登り出しポイントになる宮城ゲートへ向かう。しかし現地に到着すると、登山者向けと明記された駐車場はなく、空き地に車を停めて登山の準備をしている方がいるので尋ねてみると、いつもここに自己責任で置いていくとのことで、私達もその方に倣うことにした。
 準備を整えて出発する。ここまでの路面に雪はなかったが、宮城ゲートを越えると、少しずつ雪が出始め、最初に休憩した"8.0km"標識の辺りでは、しっかりと路面を覆うようになっていた。もっと退屈な林道歩きになるかと思っていたが、雪景色を見ながら、そしてみんなで話しながら歩けば、それほど苦にはならない。

玉垂トンネル(まだ林道の半分にも達していない)雪のない中房温泉ロータリー

 発電所手前のスノーシェイド付近では凍結した滝を見ることができ、長い林道歩きにアクセントを加えてくれる。合戦小屋のゴンドラ荷揚げ小屋付近から始まる長い直線の坂を登れば、中房温泉はもうすぐそこだ。ロータリーが見えてくると、驚いたことに雪が全くない! 道路上だけかと思ったが、付近の駐車場などにも雪はなく、温泉の影響なのだろうか。
 それに、このときは日も出ていてとても暖かく、春山にいるように錯覚した。ちなみに、ガイドブックや燕山荘の説明では登山口まで13kmと書かれていたが、林道の終点までは行かないため、実際には12kmほどのようだ。いずれにしても長い林道歩きに変わりはない。それに標高差も700mほど登ることになる。
 昼食をとってから入山した。さすがに、中房温泉から少し登るとちゃんとした雪道になるが、トレースはしっかり付いている。
 第3ベンチでアイゼンを装着するが、この頃になると荷物の重さが徐々に気になりだし、体に疲れを感じた。ちなみに、北アルプス三大急登の合戦尾根で、傾斜的に一番きついのは、ここから富士見ベンチまでの標高差約300mだ。体の重さを感じつつも、ここを登り切れば合戦小屋は近いという思いで登り、何とかペースを落とさずに富士見ベンチへ着くことができた。

富士見ベンチを目指す大天井岳方面の山並みに日が沈む

 富士見ベンチからは、その名の通りに富士山を拝むことができた。この後は時間的にお楽しみのサンセットタイムになるのだが、大天井、常念方面を綺麗に見渡せる場所が数か所あり、山並みに沈む夕日に向けて、夢中でシャッターを切った。
合戦小屋前にて幕営  そして、綺麗な風景は疲れを軽減してくれることを実感しつつ、本日の目的地・合戦小屋へ到着した。ここは展望が開けており、高瀬川を谷として、反対側の美ヶ原などが含まれる中央高地帯と言われる山並みが、美しく夕焼けに染まっていた。
 今夜は、私たちを含め、3パーティーが合戦小屋にテントを張った。
 まずは、水を作り始めるが、とにかく小芝さんの手際が良く、あっという間にバーナーヘッドなどをセッティングし、雪を溶かし始める。ビールで乾杯し、内藤さんより提供された海外のチョコレートとチーズなども楽しみながら、話に花が咲いた。私は、愛用しているメグミルクの"切れてるチーズ"を持参するも、とても出すことができなかった。そして今夜の夕食、内藤さんの豚汁へそのまま突入して、夜が更けていった(と言っても20時頃なのだが・・・)。

【1月10日】合戦小屋より燕岳往復
 朝食は、マキさんのチーズリゾットを食べる。簡単に作れるのに、食べていてとてもホッコリ幸せになれる味で、出発前の緊張を解してくれた。6:30頃に外へ出ると、まだ薄暗く、ヘッデンを点けながら出発準備を行い、7時にワカンで出発した。最初は合戦沢ノ頭(2,488m)を目指すが、この区間がこれまでの間で一番雪が多く、それでもくるぶし上くらいだ。ここで圧巻だったのが、赤の小旗をロビン・フッドのように背負った小芝さんが、朝焼けの中を先行するパーティーへ一気に追いつき、これまでのラッセル宜しく、一気に追い抜かしていった。フル装備の先行パーティーに対し、私たちは空身なので早く行動できるのだが、とても小芝さんのスピードには付いていけない。このときの情景は、山岳マンガに出てくる主人公"岳"のようで、本当にカッコ良かった。合戦沢ノ頭を越えると、完全に樹林帯から抜けて、一気にアルプスらしくなる。頭から少し歩いたところでアイゼンに履き替えたが、これは小芝さんの好判断で、この先で風が急に強くなり、また傾斜の緩むところもないため、燕山荘までの間で最後の切り替えポイントであった。薄曇りで、太陽の光線がやんわりと届く幻想的な風景の中、合戦尾根最後の直線部分を登り終え、燕山荘に到着した。
幻想的な雰囲気の合戦尾根上部を登る  山荘の陰に隠れてテルモスのお茶を飲み、行動食を食べた。小芝さんが山荘の冬季利用できる部分を見学したところ、ベッドが並んでいて、とても綺麗だったとのこと。これから行かれる方は、燕山荘に宿泊するという選択肢も検討いただきたい。
 山頂へ向けて出発するが、やはり風が強く、さすがはアルプスの稜線である。強風で飛ばされるためか雪は少なく、締まっている。夏道であれば快適に大展望を楽しみながら歩くところであるが、今はそんな余裕はなく、前を歩くマキさんの体が何度か宙に浮くところを見た。今回私は、メガネをコンタクトに変えたことに加え、ファン付きのゴーグルを初めて実戦投入し、良好な視界を確保でき、安心して前進することができた。やはり、冬山では視界の確保が生命線であることを強く感じた。
 燕山荘を出発して40分ほどで山頂(2,763m)へ到着。このときばかりは、お互いの健闘を称えあって笑顔になった。雪は少ないが、厳冬期に北アルプスの一座へ登頂できた喜びは大きい。しかし、長居はできずに写真を撮ってすぐに下山を開始した。
燕岳山頂にて  ここでトラブル発生! 写真を撮る時に、ゴーグルを頭に上げたのだが、その時に汗が凍結して一気に視界が悪くなってしまった。手で落とすが、完全には取り去れないため、残った氷が種になってすぐに曇りが発生してしまい、使い物にならない。堪らずにサングラスへ掛け替えたが、今回の教訓として今後に生かしたい。燕山荘まで戻ると、先ほどに比べ強くなった風を感じた。これから山頂へ向かうグループは、行動の判断に迷う状況であり、私たちも休息をあまり取らずに、下降することにした。やっとホッとできたのは、合戦尾根を少し下ったところに風を遮ることができる窪地があり、そこで休憩したときだった。お茶を飲んで行動食を食べると、稜線上に居たときの緊張が和らいだ。後は、写真を撮りながら楽しく下るが、あっという間に合戦小屋へ到着する。時間は11:30前で、今日中に下山するか迷うが、途中で日が暮れそうなため、下山は明日にして、今日はここでのんびりしようということになった。
 そして、水を作りつつ、長~い飲みが始まった^^ 今日の水づくりは、2日目ということもあるが、全員の息がピッタリ合って、実に気持ち良い。まるで餅つきをしているようで、お互いがあうんの呼吸で動くことができる。水づくりが終わると、居酒屋合戦小屋の正式開店になった。1カ月以上経ってから原稿を書いている今となっては、話した内容をよく覚えていないのだが、登頂できた達成感と無事にここまで戻ってこられた安心感などが相まって、実に楽しい時間が過ぎた。気持ちが高揚していたためか、かなりおしゃべりになってしまい(普段からかもしれないが・・・)、マキさんには居酒屋藤岡と言われ、笑ってしまった。後半戦では、具材持ち寄りのキムチ鍋が、一層、居酒屋度を高めていて、ここが北アルプスの山中であることを思い出すのは、キジ打ちへ行くときぐらいであった。

【1月11日】合戦小屋~宮城ゲート
 朝食のラーメンを食べて出発する。今朝は、昨夜降った雪でトレースが分からない。少し下ったところでルートに迷うが、すぐに気付いてコースへ戻り、その後は順調に第3ベンチまで下りた。この道中で、自分のザックがどうしても左に傾いてしまうという話をしたところ、休憩時間に皆さんにザックを見てもらえることになった。小芝さんの話では、以前に、知り合いのザックでも傾きがあり、店で見てもらったところ製造的な欠陥があり、それを直したところ傾きが直ったとのことであった。私のザックは20年ほど前に購入したICIのエルキャピタンというものであるが、一度、店へ持ち込んで見てもらうと良いとのことである。よしよし、もし欠陥が見つかれば、この20年近くをどうしてくれるのかとクレームを付け、使い込んだザックを現在販売している最新のものに変えてもらおうと、名付けて"ザック新品化計画"を考えていたところ、内藤さんより「背面長が合ってないんじゃないの?」という声が上がった。以前、一度トライして諦めていたのだが、内藤さんと一緒によく調べてみると背面長を変えられることが判り、顏を赤くした。少し長く設定して背負ってみると、何と背負い易いことか!そして傾きも大幅に改善した!! これが"20年目の真実"として皆さんに大爆笑されたのは言うまでもなく、道具をいい加減に使っている自分を反省した。ちなみに、この山行が終わってその足で新宿のICIへ行き、ザックを見てもらったのだが、傾きを修正するポイントは2点で、1つは背面長、そしてもう1つは、ザックを背負う時に、最初に肩を入れる方のストラップはどうしても伸びてしまうそうで(特に重い荷物を背負う大型ザックでは)、その調整を適時行えば、傾きの多くは解消するとのこと、困っている方は参考にしていただきたい。
 話が逸れてしまったが、第3ベンチから中房温泉までは、ルートも分かり易く、快適に下ることができた。ここからは、また長い林道歩きが始まるのだが、行きと違って荷物は軽く、また、下りであるので、それほど苦にはならない。それに、皆さんと話しながら下ったので、むしろ楽しい時間になった。
 帰りの林道で最大のアトラクションになったのは、初めて見る野生の"猿団子"であった。寒さをしのぐため、サル達が木の上で身を寄せ合う姿は、何とも微笑ましく、私達にも温かい気持ち分けてくれる。じっとしているので写真も撮りやすく、かわいいので何枚も撮ってしまった。

こころも温まる猿団子

 小芝さんが、三峰ホームページ"最近の山行"に掲載する山行写真に良いかもしれないと話し、"燕岳登頂"がサルに負けたと、みんなで大爆笑した。申年の年初でもあり、ホームページ的には打って付けなのだが・・・ またお土産が1つ増えて宮城ゲートへ到着し、今回の山行に幕が下りた。

〈コースタイム〉
【1月9日】 宮城駐車場(7:50) → 林道8km標識(9:05~9:20) → 発電所(10:20~10:35) → 中房温泉(12:00~12:20) → 第2ベンチ(13:40~13:55) → 第3ベンチ(14:35~14:55) → 富士見ベンチ(15:30~15:40) → 合戦小屋(16:20)幕営
【1月10日】 合戦小屋(7:05) → 合戦沢ノ頭(7:30) → ワカンからアイゼンに履き替える(7:45~8:00) → 燕山荘(8:35~8:50) → 燕岳頂上(9:30~9:35) → 燕山荘(10:15~10:25) → 合戦尾根上部(10:35~10:50) → 合戦小屋(11:20)幕営
【1月11日】 合戦小屋(7:25) → 第3ベンチ(8:20~8:50) → 中房温泉(9:45~10:15) → 発電所(11:20~11:35) → 宮城ゲート(13:15)

トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ350号目次