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岩登り・屏風岩雲稜ルート&前穂高4峰正面壁松高ルー
小芝 泰規
軽部 剛

山行日 2016年8月11日~14日
メンバー (L)小芝、軽部

 昨年の夏に企画した屏風岩雲稜ルートでは、取付きのT4まで行って翌日一番のスタートを狙い気合をいれてビバークをしたものの、夜から降り出した雨が翌朝は土砂降りとなり敗退。そのまま帰るのはもったいないと信州健康ランドで一夜を明かし、胃もたれ状態で帰京してしまった。それはそれで夏の思い出としては楽しかったが、今年は雲稜ルートに登りたい。また4日の日程で1本だけというのはもったいないので、絶景の奥又白に行ったことのない軽部さんのことも意識して奥又白からのルートも1本加えたプランとした。

【8月11日 晴れ】記録:小芝
雲稜ルートの取付き、快適なT4テラス  今日は上高地から雲稜ルートの取付きT4への移動日。沢渡から妙に警察官が多いと思っていたら、初めての山の日ということで上高地で行われる記念行事に皇太子ご一家が参加されるらしい。上高地は相変わらず観光客でにぎわっていた。
 今日の目的地「T4」ではツェルトビバークするので、不要な道具や食材を中畠新道とパノラマコースの分岐にデポした。最近は山に入っていないどころかトレーニングもろくにしていなかったので、久々の重荷が体にこたえた。T4には17時頃到着。T4の広さは約2.5帖ほどで、2人用ツエルトを1張はって、周りに人が通れる程度のスペース。山の日ということもあり他にもビバーク組が入っていそうな気がしていたが、幸いにもテラスを貸切りで使うことができた。
 19時半ごろ、真っ暗なT3方向から3名のクライマーがトラバースしてきた。話を聞くと、東壁ルンゼ下部を登ってきたようで、これからT4尾根基部の岩小屋まで下ってビバークするとのことだった。

【8月12日 晴れ】記録:小芝
 今日は雲稜ルートを登り、屏風の頭からパノラマコースを下り、デポした荷物を回収し、更に中畠新道で奥又白まで入るちょっとハードそうなルートだが、ときおり爽やかな風が吹き抜ける雲一つない晴天にテンションが上がった。6時ちょうどにスタート。トップは水と食料飲み背負い、残りの荷物はセカンドが背負う作戦をとった。
1P目、凹角を登る。途中2か所の小ハングがあるが、思い切って乗り越えるとしっかりしたホールドがある。ピナクルテラスまで50mロープいっぱいになる。
2P目、出だしの垂壁が若干悪いが支点あり。
3P目、扇テラスからの垂壁でルートの核心。扇テラスは高さ2mほどの扇状の岩が岩壁から張り出しており、岩壁との間が小テラスになっている。高度感がなく大人2人が横になれる広さがあり快適にビバークできそうだった。このピッチはフリー化はされているが、グレードは5.11。フリーでトライしてみようとは思えず、リングボルトにアブミを掛けた。途中、支点に掛かる頼りない細引きにアブミをかけ、胆を冷やしたところもあったが、ところどころにフリークライミング用のペツルが打ってあるので安心できた。しかし、ペツルのアンカーボルト部分が腐食しているものがあるので落下には耐えられないかもしれない。
不慣れな人工登攀がやっと終わる! 4P目、大きく突き出たフレークを乗越すが、たたくと軽い浮いた音がして気持ち悪い、フレークの根元を掴んでバンドに上がり一旦右上するとビレイしやすい草付きのテラスに上がる。ロープの流れを考えてここでビレイしたが、次のピッチの終了点までロープがギリギリなので、次のピッチは更に10mほど左上したテラスから始めたほうが良い。
5P目、ルンゼ状のスラブを登る。
6P目、傾斜のゆるい草付きのルンゼでホールドは豊富だが支点は少ない。上部で1か所悪いところがあるが支点がなくA0ができないので注意。
7P目、最終ピッチは泥混じりの草付きルンゼなので、アプローチシューズに履き替えて登り終了点到着が正午ちょうど。6時間かかった。1P目からずっと直射日光に照らされて暑かったが、終了点のテラスは日陰で涼しい風が吹いていて気持ちよかった。
 これで今日の行程は7割は終わったと余裕で大休止をとっていたが、すぐに考えが甘かったことに気づかされた。終了点から屏風の頭まで藪漕ぎで1時間以上登り、更に屏風のコルまで登りと下りを繰り返して中畠新道のデポ地に着いたのが16時半。荷物をまとめ終わった17時には二人ともクタクタで、これから中畠新道の急登を登らなければいけないと思うと深い溜息が出た。とにかくゆっくりできるだけ楽に登ろうということで、ゆっくりと登り始めた。日没後、時折後ろを振り返ると、軽部さんが無言でヘッデンもつけずに四つん這いで迫ってくる。二人ともかなり疲れていて会話もない。そんな状況でどうにかこうにか奥又白にたどり着いたのが20時過ぎ。疲労困憊で体力的にギリギリといった感じだったが、登りながら集めた薪で火をおこし、焚火を見ながら軽部さんが作ってくれたごちそうを食べると何とも言えない充実感がこみ上げてきた。翌日は3時半にテントを出るつもりだったが、二人とも疲労していたので出発を6時に変更して23時過ぎにシュラフに潜った。

【8月13日 晴れ】記録:軽部
 前日の雲稜ルートで疲れてしまったので遅めの起床。取付きへは5・6のコルへ行く道から途中のルンゼを左上して奥又白谷に出て、雪渓を右上してC沢へ入る。ルンゼを詰めていくと「T1」(北条・新村ルートの取付き)まで上がってしまったので懸垂で取付きまで降りた。
1P目、周囲を見てもルートがよく分からないので、それらしいところを登っていくとまたしても「T1」へ出てしまい、セカンドの小芝さんに1P目の終了点へ上がってもらい、自分は右へトラバースして戻った。ここまでに時間がかかってしまい10時過ぎ。
2P目、左上後、右上する。
3P目、もろい凹状を越えた後ルート取りに迷ったので左へ出て切る。ロープスケール15mほど。
4P目、草付きフェースを登り、松高ハング下まで。
5P目、出だしのハングが悪い。少しホールドを探った後、残念ながらA0で越える。その上は小さ目のカムが決まり快適に松高テラスまで。
6P目、出だしの2、3手が厳しい。垂壁から右へ出る。
7P目、気持ちよく登り、握手をして終了。
5・6のコルでようやく一息  下降は5・6のコル経由で奥又白へ降りるので、4峰の先へ出るように右上して北尾根へ出た。4峰からの下りで涸沢側へ寄りすぎて踏み跡を見失ってしまい、25mほど懸垂した後、涸沢と反対側へと右に回りこむとしっかりした踏み跡が見つかり、そこを少し下った所からしっかりした支点で懸垂。岩が不安定で気疲れする下降で5・6のコルでやっと一息つけた。
 ここから奥又白までは登山道なのでスタスタ歩けるかと思っていたが、所々ザレやガレ場があり、奥又白谷近くのブッシュ帯に入るまで気が抜けなかった。どうにか日が暮れる前に幕場へ着き、涼しい水場で疲れを癒した。
 全日気持ち良い天気の中、良いパートナーと登れて充実した山行となりました。

〈コースタイム〉
【8月11日】 上高地(8:10) → 中畠新道への分岐(11:30) → 横尾(12:45~13:20) → T4尾根取付(15:00) → T4(17:00)
【8月12日】 T4(6:00) → 終了点(12:00~12:45) → 屏風の頭(14:00) → 屏風のコル(15:30) → 中畠新道への分岐(16:30~17:00) → 奥又白(20:10)
【8月13日】 奥又白(6:00) → 奥又白谷(7:20) → 松高ルート取付き(9:20) → 終了点(14:00) → 北尾根(15:00) → 5・6のコル(17:00) → 奥又白(18:00)

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