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日韓交流山行【その2】・仁寿峰~シュイナードB
小芝 泰規

山行日 2016年11月12日
メンバー (L)小芝、佐藤、軽部、宮本

 今年で7回目となる日韓交流山行は韓国で開催された。今回はハイキングとクライミングを選択できるプランを立てていただき、結局私を含めた4名の日本隊がクライミングに行くことになった。ルートは明さんの提案でシュイナードBというパタゴニアの創設者が初登したというルートに決定したのだが、トポによるとグレードは5.8で、スラブとクラックらしい。数字にはとても親近感が持てるのだが、スラブとクラックというのが気になる。彼らはグレード以上に意地が悪いことが多く、今まで高を括って近づいたために手痛い仕打ちを受けたことが何度もある。海外のグレーディングもよく分からないし万全を期して行こうとメンバー同士で誓い合い、出発前にスラブとクラックの練習に打ち込んで本番に臨んだ。
 当日の朝はソウル市内からタクシーでトソンサ登山口まで行くことにし、ホテルのロビーでハイキング組と別れた。フロントでタクシーを手配し、「トソンサ登山口まで行きたい」という韓国語のメモを書いてもらった。まもなくタクシーが到着し、荷物を積んでいざ出発。この時期にしては気温が高くて天気も良い。出だし好調で楽しいクライミングになりそうだと車内でおおいに盛り上がっていたが、ふとタクシーの運ちゃんを見ると、首をかしげながらしきりにナビをいじっている。もう10分近く走っているのにまだ目的地を設定できてないっぽく、急に進路が不安になってきた。トソンサ...OK?片言の英語でやり取りしてみると、どうやらトソンサという地名が見つからないらしい。トポの概念図などを運ちゃんに見せてみるが、埒が明かない。取り付き敗退は多少覚悟しているが、それがソウル市内はマズい。それぞれのメンバーが焦りとともに手持の情報をぶつけてみるが、ピンと来ていない様子。そもそも登山口までの行き方は問題にもしていなかったのでろくに情報収集しておらず、情報提供もすぐに玉切れとなって沈黙が訪れた。冗談抜きで登山口までたどりつけないかもしれない。そう思ったとき、明さんが権さんからもらった山行マップ(地名などは小さくて読めない)を持参していることを思い出し、トランクに入れてあったザックを引っ張り出して運ちゃんに見せると「ソンサ!ソンサ!」と運ちゃんの表情がパッと明るくなり、車内に歓声が巻き起こった。どうやら、トソンサの「ト」は発音しなくていいらしいのだが、それだけでこんなにあたふたする羽目にあうとは...。
 その後はナビをセットすることもなく目的地まで連れて行ってくれ、現地のパトロールに登山口の場所を聞いて教えてくれた。韓国のタクシーは財布にやさしい。かなりの距離を乗ったが3,000円もかからず、印象では日本の1/4以下の値段だと思った。

トソンサ登山口インスボン東面

 さて、登山口ですでに達成感を感じてしまっているがここからがアプローチ。登山道はよく整備されていて歩きやすく、20分ほど歩くと突如として滑らかな曲線を描くインスボンの岩山が眼前に広がった。
 その後少し歩くとトイレの案内表示とパトロール小屋があり、素直に登山道を進んでパトロール小屋の横を通る道が一般登山道。今回はトポ通り一般登山道を通って白雲山荘まで登ったが、トイレの案内表示から右手にそれてインスボンまでまっすぐアプローチできる道がある。山荘に寄らず直接岩場にいくならこちらの方が断然早いことが下山時に分かった。
 白雲山荘で一休みし取付きまでの行き方を訪ねると、丁寧な日本語で教えてくれた。一旦踏み跡を登り、インスボンの基部に沿って下降していくと、途中たくさんのルートがあった。垂直に近いスラブもあり、どうやって登るのかと首をかしげるような難ルートもいくつかあった。
 山荘からは30分ほどで取付きに到着する。岩の基部を下降途中、インターネットに載っていた、取付きからルートを見上げた写真とよく似た場所があり、そこで取付きそうになったがそこは間違いで、シュイナードBの取付きは岩の基部をいったん底まで下ってさらに登り返したところにある。このあたりは傾斜が緩くて岩の幅が広く、シングルピッチも楽しめそうなので時間に余裕があるときはここで一日遊ぶのも楽しいかもしれない。

1P目:右上へ大きく弧を描いたフレークを手掛かりにスラブを登る。2P目のビレイ点まで60m程あるので、登れるところまで登ってからスタートした方が良い。

2P目:小さいフレークとわずかな窪みを手掛かりにスラブをトラバース気味に右上する。取付きから見上げると岩の傾斜が緩いので、手を使わないで登れそうだと余裕をかましていたのだが、実際登ってみると今にもずり落ちそうで怖い。支点間がやや離れているので、落ちたら大根おろし状態になりそうでスラブ慣れしていない私は手に汗をかいた。
2P目 フリクションは効くが怖い

3P目:クラックというか、フレークというのか、チムニー状の岩の裂け目を登る。岩の起伏が大きくホールド・スタンスとも豊富。

4P目:左側から巨大な板状の岩が張り出し、岩との間にハンドからフィストサイズの岩溝が形成されている。レイバックぎみに10mほど登ると右側からも同様に岩が張り出してきて、左右の岩の板に挟まれた幅50cmほどのチムニー状になる。岩溝にはジャミングを使えるが、溝は岩に向かって左右にあり、体がチムニーにはまった状態なのでなんとも登りにくい。左手は左側の溝、右手は右側の溝、下半身はオフウゥイズスっぽい体勢で登った気がする。  それと、上部が緩やかに左上するので、カムは右側の溝にセットしないとロープがスタックする恐れあり。

5P目: 左側のワイドクラックに上半身を突っ込み、背中と足でずり上がる。次第にクラックが細くなり快適になってくる。クラック左に抜けると10人くらい立てるテラスに出ると高度感抜群の終了点にたどり着く。
フレーク?クラック?  到着後間もなく別のルートから韓国人の3人組パーティが上がってきた。1人の方が日本語を話せたので話をしてみると、シュイナードBは大人気ルートでシーズンは数珠繋ぎ状態らしい。11月は寒いので人が少なくなるようだが、他のルートには人が入っていたので、今回ほぼ貸し切り状態で登れたことは幸運だったかもしれない。
 岩全体の印象としては、すっきりとした岩肌はフリクションが良く効き、見通しが良くて高度感も楽しめる好ルートでした。ビレイ点はケミカルアンカーで、チェーン付のしっかりした支点が2セットずつセットあり、よく整備が行き届いていると感じた。

〈その後〉
 当初の予定ではブッカンサンに登ったハイキング組と頂上で手を振りあおうという話になっていたので、終了点からさらに数ピッチ登り頂上を目指すことにした。終了点後のスラブは凄まじい高度感だった。途中までリードで登ったがどうしても足のフリクションに自信が持てないのでクライムダウンして軽部さんにリードを託した。その後も軽部さんのリードでもう1ピッチ進めたところでハイキング組から下山開始の連絡が入ったため、頂上を断念して懸垂下降を開始。4ピッチで取付きまで戻り下山した。
 下山ルートはパトロール小屋近くにダイレクトに降りる登山道を使ったら、25分ぐらいでトイレの案内表示がある登山道まで降りられた。その後、ハイキング組と合流して楽しい宴会に突入した。
 出発直後からハプニングがありましたが、みんなで乗り越えたことが楽しい思い出になっています。韓国の岩を無事に登ってこられてメンバーに大感謝です。また遠征しましょう!

〈コースタイム〉
登山口(8:00) → 取付(9:20~9:50) → 終了点(13:30~14:00)


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