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岩登り・太刀岡山左岩稜
澤野 穣

山行日 2016年10月30日
メンバー (L)小芝、青木、澤野、古屋、佐藤、渡辺(靖)

 太刀岡山獅子岩。5.8前後のフェイスにボルトバッチリ。楽しそう。エントリーした。あれ...獅子岩は子持山だった。太刀岡山は左岸稜でしかも嫌いなクラックがある。勘違いしていた。出発の数日前に気付いた。多分...なんとかなるだろう。

 10月29日お茶ノ水にて会長の車に6人乗り、日付が変わる頃に某所にてテントを張り、コンビニへ買い出しに行って戻るとちゃぶ台にカセットコンロでおでんがぐつぐつ。明さんの差し入れで豪華な前夜祭となる。ほっとくといつまで飲んでるか分からない雰囲気だったが翌日に備え床に就く。

【10月30日(日)】
 7時頃に目的地の駐車場に着き、装備を整え20分も歩くと壁の基部。誰もいない。生憎の曇り空で薄暗く少し雨が降るが、特に問題はない。予報は好天を伝えている。
 始めの3ピッチのクラックは慣れていないと厳しいとのことで小芝リーダーがリードし以下のチームはトップロープ状態でクラックの疑似リードをすることになった。
 有難い。以降、小芝・青木、澤野・古屋、佐藤・渡辺の3チーム、このオーダーで行動する。

1P 5.9 20m
 小芝リーダー危なげなくあっさりと抜け、青木さんがそれに続く。次は私の番。5.9だからと甘く見てしっぺ返しを食らう。トップロープだから良かったものの、ちゃんとリードするとしたらカムを30個位突っ込んでやりたい。
 嫌な汗をかいてビレーポイントに着き古屋君を確保するのと入れ替わりで小芝チームが2ピッチ目に取り掛かる。
 古屋君は下で「あー」とか「うー」とか呻いている。上がってくると苦笑いして汗をかいている。難しいよね。2ピッチ目の準備をしていると下から明さんの声がする。「あー」とか「うー」とか言っている。楽しそうだ。

2P 5.7 20m
 少し易しくなる。あまり苦労しなかったせいか、よく憶えていない。

3P 5.8 20m
 噂のスクイーズチムニー擁するピッチ。小芝リーダー曰く「芋虫になって5cmずつずり上がる」そうだ。
 チムニー内部は人が擦ったせいだろうか、角が取れてすべすべになっている。空身になり体全体を捻じり突っ張り越えていく。体の大きい人は窮屈に感じるのかもしれない。
 取り付いてみると個人的にはここが下部3ピッチの中では一番面白かった。

4P 5.5 20m
 ここで古屋君とトップを交代する。ふと奥に視線を向けると芝ちゃんが気持ちよさそうにロープを伸ばしている。三峰パーティー以外にクライマーはいないので時間を気にせず動ける。このピッチは簡単過ぎてすぐに終了点。このあたりから頭上に空が広がり出す。

5P 5.8 20m
 出だしクラック。離陸に少し手間取る。あとで聞くと古屋君もやっちゃんも簡単だったとか。
 ここから一気に景色が変わり素晴らしい高度感に思わず唸る。技術的には特に厳しいところはなく、ホールドも裏切らない。

6P 5.6 40m
 ここまでほとんどリードさせてもらっている。余りにも快適なのでこれをリードしないのはもったいないと思い古屋君にトップを勧めてみると、彼はニヤッと笑いギアを受け取るとぐんぐん登っていき見えなくなると「ヒャッホ~」と快哉を叫びロープはヘビのように伸びていく。下からは明さんのヒャッホ~も聞こえる。「ロープ半分!!」と威勢よく叫んだつもりがコールでかすれた喉から出た声が裏返って一人恥ずかしい。聞かれただろうか?振り返るとやっちゃんがリードで上がってくる。逞しい。

7P 5.6 45m
 古屋君リード。よく写真で見るナイフリッジ。右も左もスッパリ切れ落ちている。景色は目まぐるしく変わっていく。気が付くと普段より呼吸が深くなっている。頭がすっきりしてとても落ち着いた気持ちで登っている。恐怖心は全くなく自分の思った通りに体が動くことが心地よい。

8P 5.6 30m
 終わりがみえてきた。鋏岩にはロープがセットしてあり芝ちゃんと青木さんが笑っているのが見える。ロープのいらないような岩稜を少し歩くと鋏岩の基部で実質の終了点。  そういえばここまで何も口にせず行動してきた。ゆっくり昼食でもと思い時計を見ると、なんと!もう3時を回っている。完全に時間の感覚が消え去っていた。

9P 5.8 15m
 鋏岩基部に着いた者から順番にトップロープで鋏岩に取り付く。
 古屋君をビレイしていたとき、ふと下を見ると明さんのクライミングシューズのかかとが茶色く見える。何気なく「それ血ですか?まさかそんな訳ないですよね。」と聞くと「いや~、ずっと足が痛くてね。下ろし立ての靴はやっぱり駄目だね。多分靴擦れで出血してるかも。」との返事。それを聞いてそれこそ血の気が引いた。血が厚いクライミングシューズの革にしみ出す程の傷は引っ掻き傷どころではない。きっと足はグチャグチャだ...。それほどのダメージを負いながら笑っている。これが本物の山屋か...。ビレー中の私は靴紐を解く明さんを見ることができない。うーうー言っていた明さんが言った。
「あれ」
 チラッと見る。
 きれいな足。血出てない。まっしろ。一同大爆笑。
 完全に一杯食わされてしまった。
 ほっとして辺り見渡すと茅ヶ岳へ続くパノラマに西日が見事な陰影を描いている。緊張感から解放されたせいか、それとも小春日和の悪戯のせいだろうか、今度は少しだけ時間がゆっくり流れている気がした。
 荷物をまとめ足早に下るとものの20分で駐車場に戻れた。
 このルートは慣れた人少数で登ればあっという間に終わってしまうだろう。今回は幸運にも時間を気にせず大人数で登ったので賑やかに楽しむことができた。
 幕営具なしでロープと食べ物だけザックに詰め込んで気軽にトライできるグレードと地理的条件ながら中身は予想を上回り、ぽっかり空いた一日を使うにはもってこいの内容だと思う。クラックの練習をする気になった。
 面白いルートを紹介してくれたリーダーありがとう。


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